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「メェッ!」
「メェメェッ!」
「メェェェ~」
その後も俺達は隣町への買い出しをしながら時たま港町へ新鮮な魚介類を仕入れに行っていた。運が良かったのか出産の時期に重なり、子羊が産まれたといくつもの村から連絡があり、子羊を貰いにいくつかの農村にも向かった。
そこでは最初の子羊のようにクイーン達狼を恐がらない子もいたが、半分くらいは恐がってしまったので貰うことは出来なかった。しかし、年老いた羊は何匹か恐がらなかったのでそちらは貰うことが出来た。
子羊達に恐がられて子狼達は少し落ち込む時期もあったが気にしない子羊達と遊ぶとすっかり元気になっていた。
結局子羊は五匹、年老いた羊も五匹程が新たな牧場の仲間になった。もちろん羊達は狼をみても驚かなかったのでビッグコッコやミルホーン、コボルト達を見ても気にせず元気に暮らせるようだった。
「メ、メェェェ!」
羊を飼い始めてから数ヶ月、牧場にいる年老いた羊が突然叫び声をあげ苦しみだした。彼らには毎日、とまではいかないが出来る限り回復魔法をかけてあげていたので元気一杯とはいかないが普通に暮らす分には問題ない程度には元気だったはずなのに……。
「おい、いったいどうしたんだ?」
「おにいちゃん、ひつじさんくるしそうだよ……」
「大丈夫……?」
クルスくんや妹ちゃん、サクヤちゃんも心配そうに見つめている。
羊を譲ってくれた村人も老い先短いかもと言っていたのでもう寿命なのかもしれないがこんなに苦しむものなのだろうか?
俺は苦しみが少しでも消えるように魔法を使い続けた。魔力を流し続けると少しずつ羊は落ち着いてきたのだが、モンスターでないのはずなのに魔核があるかのように凄い勢いで魔力が吸いとられていった。以前にも似たような事があったなぁ~と思いながら魔力が無くなってきたので周囲から魔力を集めて羊に流していく。すると魔力が羊の中で一ヶ所に集まる感じがし始めたと思ったら
「メェェェェェェェェェ!」
と大声をあげて倒れてしまった。
「おい! 死んじゃったのか!?」
「ひつじさん!」
突然の大声に様子を見ていたクルスくん達も大慌て。しかし、出来ることが無いので羊の回りをクルクル歩き回っている。
「メェ~」
すると羊が何事も無かったかのように起き出しムシャムシャと草を食べ始めた。
「なぁ、シュウ、羊は生き返ったのか?」
「……さぁ? わかんない」
正直生き返ったようにしか見えないが、死んではいなかったはずなので魔法が効いて元気になったと考えるべきか?
「なんじゃ、新しい従魔か?」
するとおじいさんがやって来て聞き捨てなら無い言葉を言った。
「「「「「従魔……?」」」」」
「違うのか? そこの羊は従魔じゃろ?」
そう言って指し示すのは先ほどまで苦しんで元気になった年老いた羊。となるともしかして羊が従魔になった? いや、動物って従魔って言えるのか?
俺はじーっと羊を見ていると『鑑定』が勝手に発動した。すると羊がいつの間にか『スリープシープ』という種族に変わっているのに気がついた。
「もしかして、モンスターになった……?」
「じゃから、さっきからそう言っておるじゃろ。あれだけ魔力を流せば魔核も出来る」
ん~、つまり、俺のせいでモンスターになったってことか?
「いや、もともとなりかけておったのが早まっただけじゃろ」
おじいさんの推測になるが羊は龍王山、竜の森からそれほど遠くないところに住んでいた。長い間過ごして魔力を溜め込んでいたのでモンスターになりやすかったのだろうと。そして、竜の森で暮らし始めてモンスターになりかけたところに俺が魔力を流してとどめをさした。と言うことらしい。
確かにモンスターは動物が魔力を浴びてなるとは聞いていたが俺が魔力を流してもなるものなのか?
当の本人は呑気に草をムシャムシャ食べているのだが……。
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