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「これ全部君達が作っているのかい?」
屋台に置いてある品物を見ながら熊の行商人は俺に質問してきた。
「基本的には自分達で採ってきた物か作った物しか置いてないですね」
俺の言葉を聞きまた商品を見定め始めた。
熊の行商人と会ってから二日後、熊の行商人が屋台にやって来て商談を始めることとなった。隣には商業ギルド証を持つ子が付き添っている。本当なら商人同士で話をしてもらいたいのだが、普段からこういう交渉は俺がしていたので不安だからと一緒にやることになった。
これがどこかの商会なんかだと取引量が多かったりするので大変だが、行商人なら練習としてちょうどいいかもしれない。
「珍しい模様ね」
「こっちの布もキレイ」
「森で見ない薬草ね」
「あっ、岩塩じゃない塩だ!」
「これは宝石か?」
こちらは孤児院の職人達。彼らが見ているのは熊の行商人が持ってきた商品達だ。彼は普段から歩いて行商しているらしくあまり量を持てないのだとか。その為種類を多く持ち注文を受けて売るスタイルだそうな。
ちなみに商品を覗いてる中に妹ちゃんとサクヤちゃんもいる。行商人が来ることを話したら「見てみたい」と孤児院にやって来たのだ。サクヤちゃんは昔に比べて活発になって良い変化なのかな?
そして、交渉が始まったのだが
「こっちのこれとこれが……」
「ならこれとこれで……」
「これはいくら?」
「これは買わないの?」
なぜか職人組が交渉に加わり収拾がつかなくなってしまった。仕方がないので俺が話をまとめ出すとなんとか交渉を終えることができた。職人組が加わったのは行商人の商品を買いたかったからのようだが、元々全部買う予定だったので彼等の努力は無駄骨になってしまった。
熊の行商人のほうも商品が全て売れたので代わりに乾燥した薬草類や魔法薬などを中心に揃えていた。一番喜んでいたのはシルクスパイダーの糸から作った布だろうか。これなら王都でも高く売れると息巻いていた。
「あっはっはっ、これは美味いのう」
「そうだろう、そうだろう、これは俺のとっておきだからな!」
所変わってここは孤児院の食堂。交渉が終わり良い時間だったので屋台も店仕舞いし晩御飯にしようとしたところ、取引の最中からずっとスープの香りに意識を引かれてたので熊の行商人も晩御飯に誘ったのである。
スープにお肉にパンといういつもの食事だったが熊の行商人は「美味い、美味い」と食べていた。そこへ普段一人でお酒を呑んでいるおじいさんが
「いける口じゃろ?」
「いただきます!」
と二人で呑み始めたのだ。冒険者組も成人してるといってもお酒は呑まないのでおじいさんは一人で呑むのが寂しかったのかな?
おじいさん達は最初はワインを呑んでいたのだが、気分を良くした熊の行商人が「これは売り物では無いんだが」と言って自分の荷物からお酒を取り出し、それを呑み始めたのだ。なんでも熊の行商人の奥さんが作ってくれたハチミツ酒らしい。
「むむむ、しかし本当に美味いのう。今まで呑んだハチミツ酒で一番かもしれんな」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるね」
「おぬし、これは売らんのか?」
「そう言ってくれるのはありがたいんだが、これは俺の嫁さんが作ったもんで量がないんだ」
「ならば、作ってもらうことは出来んのか?」
「まぁ、材料があればな。ただ、良いハチミツは高いからな、美味いハチミツ酒を呑みたければ良いハチミツを用意しないとな。ちなみにこのハチミツ酒はハニービーのハチミツだから高いんだぜ?」
「なるほど! ハニービーのハチミツか!」
なぜかおじいさんは呟きながら俺の方を見てきた。なにか、嫌な予感しかしないんだが……。
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コミカライズのほうも今月下旬には連載が始まるかと……。
楽しみだ~




