172
「ぷっ、あははっ」
最初に動き出したのはイリヤちゃん。続けてクルスくんも正気に戻った。
「おいっ! どう見ても違うだろ!?」
クルスくんはクイーンに文句を言うが腰に毛玉を付けたままなのでいまいち迫力がない。クイーンも何が違うのか本気でわかっていないようだ。
「クイーン? えっと、クルスくんに抱きついてるのはコボルトだよ? それで、クルスくんは狼族。全然関係無いんだよ?」
「ワフッ!?」
クイーン、本気で驚いてるな……。詳しく聞いてみると、どうやらコボルト達に気がついて近づいたが、あまりに魔力が弱かったのでモンスターとは思わなかったそうだ。それに自分達の仲間とも違うのは感覚的にわかっていたらしい。だが、モンスターではないなら何者か? 野生の狼かと思ったものの二足歩行で走り出したのでクイーンはクルスくんの仲間だと思ったらしい。姿もまぁ似てるしね。
「というわけで、クイーン達はクルスくんに会わせるためにコボルト達をここへ誘導したみたいだよ。それで、コボルト達も一直線にクルスくんに抱きついたからクイーン達はますます勘違いしちゃったみたい」
クイーン達の話をクルスくん達に話したが皆首をかしげるばかりである。
「そもそもなんでこいつら俺にくっついてんだ?」
「それはやっぱり似てるからじゃない?」
「ちっちゃいくるすくん!」
うん、やっぱりクルスくんに似てるから何かと間違えてる可能性が高い。コボルト達に話を聞きたいが俺の従魔ではないので会話は出来ず、かといってなんとなくの会話が出来そうなクイーンは恐がられて近づくことも出来ない。どうするか皆で悩んでいると「キュルルルル~」という音が聞こえてきた。どうやらコボルト達はお腹が空いているようだ。
「じゃあ、ご飯でも食べようか。この子達もお腹空いてるみたいだし」
「そうね、お腹がいっぱいになれば少しは落ち着くでしょ」
「わ~い、ご飯だぁ~」
クルスくんは毛玉まみれで動けないので、他の皆でご飯の支度。クイーン達従魔には食料調達を。俺達三人は火の準備をした。
石でかまどを作り鍋でスープを作る。コボルト達が何を食べるかわからないが余ったら『アイテムボックス』にしまっておけばいい。
スープを準備しているとクイーン達が食べ物を持ってきてくれる。さすがに狩ってきた獲物は解体しなければいけないので少し離れた所で準備した。
ガツガツガツッ
コボルト達は勢いよく肉串を食べている。
解体を終わらせた俺は肉を串に刺し火で炙り始めた。肉を焼いてる間に薄切り肉やウッドモンキー達が採ってきた葉物野菜や木の実を入れて煮込んでおく。
肉の焼ける匂いに反応してコボルト達がクルスくんから意識を肉に向け始め鼻をピクピクさせていた。
「ほら、お前達も食べな」
俺は焼けた肉串をコボルト達に向けるがまだ恐がっているのか食べようとしない。
クイーンに目を向けると「仕方ないわね」といった様子で肉串を咥えコボルトに差し出してくれた。
「お前ら、クイーンが食べろってよ」
コボルト達に抱きつかれてるクルスくんがクイーンから肉串を受け取りコボルト達に差し出すと、戸惑いながらも肉串を食べ始めた。一度食べればその勢いは止まらず、俺が渡そうとした肉串や焼いている肉串を次から次へと食べていった。どうやら好き嫌いはないのかスープも美味しそうに飲んでいた。
コボルト達の食欲も落ち着き、俺達も食事を終えた頃にはコボルト達はクルスくんから離れてもクイーン達を恐がることはなく、いや、恐がってはいるが大丈夫になっていた。そして、コボルト達の事を相談しようとしていると新たな客がやって来たのだった。
『孤児院テイマー』好評発売中です。
宜しくお願いします。




