テンプレの三段落ち
ここから1人称の文が多くなります。
章の完結まではこの書き方で進みます
「えっ?ここどこ??」
人間、本当にビックリしたときは自然と独り言が出るって何かで見た気がするな…
周りを見渡すと、真っ白な柱が並んでて、足元は真っ白、頭上は星空、星ってこんなにきれいにみえたっけ?足元もなんかフワフワして、羽毛布団の上に立ってるみたいだ。
「え?なに?ドッキリ?」
落ち着け落ち着け、こういう時は素数を数えれば落ち着くって偉い人が言ってた。
「0、1、1、2、3、5、8、13、21…、ってフィボナッチ数じゃねーか、初項の0で素数じゃないって気づけよ!!」
うむ、セルフつっこみは上々、いつもの調子が戻ってきた気がするぞ。
とりあえず、落ち着くために自分のことを再確認しようか、まずは名前から。
烏丸九郎そういや長男なのに何で九郎なのか親父に聞いたことがあったな…あのときは『カラスが家名に入っているからな、カラス=クロウでちょうどいいだろう?』とかぬかしやがったっけ…なんだか思い出したら腹が立ってきたぞ。
まぁとりあえずこのむかつきはそのうち発散するとして、次だ、次。
18歳・高2、帰宅部。容姿は普通だな、可も不可もなく、あえて特徴をあげるなら肩まで伸ばした長さの後ろ髪をゴムで縛っている事ぐらいか。
趣味は読書とゲーム、ラノベ読んでオンラインゲームして…
あれ?今の状況、オンラインゲーム中ならラノベのテンプレ状態じゃね?思い出せ俺!これがテンプレならハーレムでウハウハモードのフラグ来るぞ!カモンハーレム!!ウハウハでGO!!!
…
……
………
思い出した、思い出したよ…
俺はいつものようにコンビニで買い物を済ませて、歩きスマホしながら、ウィキでゲームの情報を集めていた。
いつも通学に使っている道だし、画面見ながら鼻歌交じりで検索していたんだっけ。
いつもと違うのは、スケボーに乗った子供が道に飛び出してきたことと、それにジャストミートするタイミングでトラックが走ってきてたことぐらいだな。
「あぶない!!」
思わず体が動いて、子供を突き飛ばしたんだけど、そうするとその先には当然トラックがいるわけで。
俺、ジャストミート一直線。
「これは死んだかな。親父、お袋、先に逝ってゴメン」
と思った瞬間、予想とは違うベクトルが体にかかって…
ゴツ、ヒュン!!
飛び込んだ先にはマンホールが口を開けて待っていましたとさ、まる。
「テンプレの斜め上きたぁぁー!」
で、見事落下した俺は途中で姿勢を整えて、五点着地法で無事に着地と。
説明しよう!五点着地法とは空挺団などが使う着地法で、爪先・脛・太腿・背中・肩の五点を連続して受け身をとることで衝撃を分散させ、着地の際に足だけで衝撃を受け止めるのではなく、全身で落下の衝撃を吸収し、やわらげる方法なのだ!
「やっべ、死ぬかと思った。漫画に載っていたのを見て、試してみたことがあったのが幸いするとは、人生何があるかわからないな。って誰に説明してんだ俺は」
一息ついて、体に異常がないことを確認した俺は、頭をかいてから、マンホール内のハシゴを上っていく。
「しっかし、トラックに轢かれそうになるのも、縦穴落下も、ラノベなら異世界転移のテンプレだけど、実際に自分の身に起きてみるとろくでもないな。死にそうな思いもしたし、二度とこんな状況になりたくないわ」
…ィーン
「まったく、現実は非常ですなぁ…さて、この服の汚れどうすっかな、ってか、あのガ…お子様はご無事だったんでしょうねぇ?死にかけといてあの子までケガしていたら割に合わないぞ、コレ」
フィーン
「ん?何だこの音??」
マンホールから身を乗り出した俺に向かってくるのは一台の電気自動車。
俺、ジャストミート一直線再び。
「三段落ちかよぉーーー!!!」
吹き飛ばされた瞬間に飛び出した、俺の最後の言葉は、後悔ではなく、つっこみだった…
自分の最後を思い出して、恥ずかしさに悶えて一通りゴロゴロ転がった後、思わず頭を抱える俺、思い出したはいいけど、死に方が三段落ちってのは、恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
気を取り直したところで…さっきから柱の陰にチラチラ見えてる何かが居るんだけど、あれも突っ込まないとだめなのか?だめなんだろうなぁ…
「あのー、そろそろ一人漫才も飽きてきたところなんで、出てきてもらってもいいっすかね?」
俺がそういうと柱の陰から、白いひげと長髪、眉毛が目を覆い隠している『This Is God!』って感じのおじいさんが現れる。
「おや、もう自分の状況を把握したのかの?なかなか受け入れられずに物に八つ当たりしたり、いつまでたっても自分の世界から戻ってこない魂もおるというのに、さすがに適性のある地域の若い者はちがうのう、ほっほっほ」
「もしかして神様っすかね?土下座したほうがいいっすか?あと、ものすごく眩しいんで光量落としてもらえると嬉しいんですが」
そう、おじいさん神(仮)が柱の陰から出てきた瞬間から、辺りが真っ白な光で包まれてしまい、自分が立っているのかどうかすら判らなくなっていたのだ。
とりあえずは正座した方がいいのだろうと、ゆっくり地面を確かめながら正座しようとしていると、不意に明かりが和らいだ。
「おうおう、これは失敗したのう、ほれ、これでどうじゃ?」
「あ、どうもありがとうございます。とりあえず神様?でいいんですかね?」
「ふむ、まあ色々呼ばれておるが、おぬしの認識するところの神様ということで間違いないのう」
「んで、適性とかおっしゃっていましたけれど、どういうことですかね?自慢じゃないですが、これといった特技もないですし、信仰心も高いわけじゃないんですけど…」
正座していると、足元の周りの雲がテーブルの形になっていく、そして、その上にはいつの間にか湯呑みに注がれたお茶が用意されていた。
「まぁ、そう慌てんでも疑問には後から答えるでの、お茶でも飲んでゆっくりしなさい」
「はぁ、それじゃ遠慮なく」
お茶を飲むと、ある程度落ち着いた。それを見計らったかのように、神様が切り出す。
「君には、これから違う次元の世界へ行ってほしいのじゃ」
「あ、そうですか」
自分でも意外なほどあっさりと、その言葉を受け止められる。
「ちなみに断ることって出来ます?」
「もちろん、断って地球の輪廻に戻ることも可能じゃが…もう少し話を聞いてもらえるかの?」
「あ、はいどうぞ」
情報はできるだけ集めとかないとな、おいしい話なのか、何か裏があるのか…
「まずは君の疑問の信仰心についてじゃが…これは無い方がいいんじゃ」
「??信仰心がない方がいいんですか??」
神様と信仰なんて切っても切れないと思うんだが…
「厳密にいえば、『今の地球人類が信仰しておる宗教に対しての信仰心がない方がいい』ということじゃの。たとえばキリスト教徒なんかは死後の世界は地獄と天国に分かれていて、永遠の安らぎがあると信じておるから、死んで異世界に転移するというのが理解してもらえん。イスラム教も同様じゃな」
「なるほど、偶像崇拝禁止とかもありますもんねー」
「そういうことじゃ、その点、おぬしの住んでいた日本は丁度良い。宗教に寛容で、教育が行き届いており、異世界転移に忌避感がない」
なるほど、そういえばいろんな神様や悪魔達を合体させるゲームとかもやってたもんな…最終ボスは唯一神だし、確かにあれは日本じゃなきゃ出てこない発想だわ。
んで、それに加えて最近のラノベやらなんやらで異世界に対するハードルが下がっていると…そう考えれば日本って転移者を選ぶには丁度いい国なんだな、納得。
「お話はわかりました。そのうえで、もし断った場合のことを教えていただきたいのですが?」
「おぬしの来世はタラバガニじゃ」
「全力で異世界に行かせていただきます!!」
渾身の前宙からのジャンピング土下座で、俺は異世界に行くことを決めたのだった…
チートの話にたどりつけなかった… ><