次元管理者のお仕事
管理者サイドの地の分は3人称の予定です…
『世界No17505、崩壊を確認。原因は魔力枯渇による生命体の滅亡』
『世界No3000450、核反応による破壊を確認』
『世界No10032、空間接続子の集中を確認、世界No24599から物質転移を行う模様』
無数のパネルが並ぶ真っ白な空間に机が一つ、そこに無機質な音声が響き、報告があったパネルが一人の女性の手元にスライドし拡大される。
眼鏡をかけ、スーツに身を包んだ女性の姿は、どこから見てもやり手の女秘書にも見えるが、身にまとう輝きは彼女が超越的な存在であることを示していた。
「崩壊した世界はデータを消去して再構築。
No17505は空間作用比率を魔力65:物理35に変更。
No3000450の初期値は前回のまま、世界サイズを半分に縮小。
No10032と24599は、しばらく様子を見たいわ、そのまま拡大しておいて」
指示された2枚のパネルがそれぞれの位置に戻り、再び明滅を繰り返し始める。
手元に残ったパネルは拡大され、報告された世界から、大陸、地域、接続箇所とズームアップされていく。
パネルの中では、きらびやかな衣装を身にまとった少女が、必死に何やら詠唱を続けていた。
「ふーん、能力過多個体による世界の一元化と、それに対抗するための存在を召喚するための世界間転移ねぇ…まぁ、テンプレといえばそれまでだけど、あの世界も世界間転移が出来るようになるまで成長したかー、感慨深いわねー」
そう言って、我が子の成長を喜ぶように慈愛の微笑みを浮かべる女性。
パネルの様子を観察していた女性のもとに、再び無機質な音声でメッセージの到着が告げられた。
『《平行次元イシュバース》管理者よりメッセージ、《平行次元イシュバース》と《平行次元アムリタ》とのバイパス接続を希望しています』
「おっけーおっけー、バイパス接続だけなら手間賃だけ請求しといてー」
無限に広がる平行次元群
平行次元それぞれが完全に独立しているわけではなく、多くの次元は別の平行次元とのリンクを保持している。
そんな中で、ハブ空港のようにとりわけ多くの次元とリンクしている次元があった。
『緊急報告、《平行次元地球》からのメッセージです』
「…またあそこか、いつものやつ?」
『イツモノヤツデス』
「はぁ…本人に直接来るように返信しといて」
『了解です』
しばらく後、突然白い空間に扉が出現したかとおもうと、ゆっくりとその扉が開かれた。
「やっほー、ワシじゃよー」
白髪と髭を地面まで伸ばし、白い眉毛が目を覆っている老人が手を振りながら現れる。
そんな老人のテンションに思わず机に突っ伏す女性。
「軽っ、いつものことながら軽いですねー、一応次元管理者なんだから、もう少し威厳持たせたらどうです?」
「えー、だってワシ自分の世界に直接手を出すこと滅多にないしー、同じ次元管理者に威厳もへったくれもなかろ?」
「まぁそうなんですけど…んで今回は何の用ですか?」
「むむ、ちょっと扱いがぞんざいじゃないかの?」
「ソチラノ所ノ依頼、最近多スギルト思ワナイデスカ?」
そう言って女性は半眼で老人を睨み付ける。
「ほっほっほっ、そんなこと言わずに…ほれ」
そう言って老人が虚空に手を伸ばすと、その手元に一つの紙袋が現れた。
「最近うちの所で流行っておるスイーツなんじゃが」
老人の手が右に動く
チラッ
左に動く
チラチラッ
「話聞いてくれたらあげてもいいんじゃが…」
シュバッ!
目視できないスピードで紙袋がひったくられる
「それでお話とは何でしょう?」
「お土産の方から目を離してお話してくれんかね?
実は人間を一人、《平行次元オース》に転送したいんじゃ」
「自分でやればいいじゃないですか」
「いや、対象の人間がチートを要求しおってな」
「またですか、ほんっとーに最近多いですね?」
「うむ、それでいつものごとくおぬしに頼みに来たというわけじゃ」
いつの間にか現れた座布団に座って、ちゃぶ台の上のお茶を飲み始める二人
「いいですけど…自分でやらないのは…」
「忙しいからじゃ」
「さっき自分で直接手を出さないっていってたくせに」
「ふぉふぉふぉ、そんなこと言ったかの?」
「はいはい、《平行次元オース》でしたっけ?一番パラメータが近い世界は…」
女性の手元にパネルが現れたかと思うと、すさまじい勢いでスクロールしていく。
ほんの一瞬の間に、彼女の管理する全世界の情報が検索され、最適な世界がピックアップされた。
「世界No21399ですね、空間作用比率が魔術70:物理30、文明発展度は地球でいう中世…
また魔術因子のトレードですか、まぁ地球は空間作用比率が物理100のレアな次元ですから、魔術因子は有り余ってるでしょうね」
「そういうことじゃ、ちなみに魔術要素もあるぞ?古きものとか…」
「そんな一人の作家が構築した神話を魔術要素とか言わないでください」
「いやいや、一人ではないぞ、あれは複数の…
話が長くなりそうな老人を放っておいて、お土産のスイーツを食べ始める女性。
一つを口に入れた後、目にもとまらぬ速さですべて食べつくす。
「あー、わしの分がー」
「お土産なんだから、私が食べていいんですー、報酬はここのスイーツ50袋で」
「安っ、そんなに気に入ったのかの?」
「あと、こちらの次元にいる間は対象から放出される因子はこちらでもらい受けます」
「ふむ、まぁそんなところかの、しっかしおぬしの次元の《多次元連結路》は反則級の便利さじゃのう、管理する世界も桁違いに多いしの」
「《多次元連結路》なんて言い方、ほかの管理者は使ってないじゃないですか、素直に《平行次元チュートリアル》って言えばいいんですよ」
このお話は、次元管理者たちから《平行次元チュートリアル》と呼ばれる次元とその管理者、そして異次元転送される様々な者たちのお話である