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動悸

 ……ずくん。

 それはそんな奇妙な拍動から始まった。

 痛みか何かあった訳ではない。ただ何か違和感を覚えただけだった。

 絶叫系のアトラクションに乗った時のような、すうっと胸に寒気が走るような、そんな奇妙な感触が心臓に走ったのだ。

 ……ずくん。

 今度は明らかな不快感があった。寒いわけでもないのに、ぞわっと皮膚が粟立ち始める。

 ……何かおかしい。

 ようやく俺は体の異変を明確に自覚した。

 人間は何か体に異変が生じた時、反射的にその患部に手を当てるという。実際、患部に手を当てることで疼痛が治まったり炎症が改善したりという効果が見られるらしい。手当てと言う言葉の語源はそこから来ているとかいないとか。

 とにかく、俺はシャツの上から胸を押さえた。もちろんそんな事を考えた上でのことではない。単なる反射だ。だが、手当ての語源たる行為を行っても違和感は全く改善しなかった。むしろどちらかと言えば悪化しつつある。

 ガシャーン!

 派手な音がダイニングルームに響き渡った。母が盛り付けてくれたサラダを皿ごと押し倒しながら、俺は食卓の上に倒れ込んでしまった。

我意(がい)っ!」「お()ぃ!」「ほえ?」

 和やかだった伊吹(いぶき)家の晩餐は、そこで終わりを告げた。

 体に力が入らない。姿勢を保っていられない。椅子からずり落ちそうになる。すぐ隣の席にいた妹のくるみが咄嗟に手を差し出してくれたが間に合わない。

 どすん、という強い衝撃が尾てい骨から入り全身を貫く。だが、不思議なことに痛みを感じない。衝撃だけが意識に上る。

「お母さんッ! 救急車ッ!」

 すぐさま救急車と言う判断を下したくるみは立派だった。もしも、ここで時間を取られていたら間違いなく俺は死んでいただろう。

 そして意識が急速に不鮮明になっていく。

 ずくん…………ずくん…………。

 ただ、そんな異様に遅い心音と、切り裂くような救急車のサイレンだけが強く印象に残った。

 次に気が付いたのは病院の処置室だった。

「……先生、おかしいです!」

「どうしました!」

 耳元で響く怒鳴り声で俺は目を覚ました。

「反応がありません! エピネフリンが全く効いていませんッ!」

「本当ですか!? ひょっとしたら内部で出血しているかもしれません!」

 ぼんやり目を開けると、クリーム色をした天井が見えた。背中には何か硬い感触。どうやら硬質な台の上に寝かされているらしい。

 俺は反射的に体を起こそうとして失敗した。

 体が鉛のように重い。指先と瞳くらいは動かす事ができるが、それだけだった。

「あ、目開いた!」

「大丈夫か、我意ッ!」

「我意っ!」

 だが、俺が目を開けただけでも、ずっと傍に付き添っていた家族にとっては嬉しい事だったらしい。視界の中にみんなの顔が現れる。心配そうな表情が、俺の無事を確認して泣き笑いのような顔になる。普段はおちゃらけて弛緩しっぱなしの親父の顔でさえ、今日は緊張に引き締まっていた。

 俺は何か安心させる言葉を発しようと口を開いた。

「ご、ごぼぉッ!」

 だが、口から吐き出されたのは胃液と晩御飯のなれの果てだった。

「嘔吐ですッ! 早く、何か受け止めるものを!」

 医師が俺の体を横向きにして窒息を防ぐ。一通り胃の中のものを吐き出すと再び寒気が襲ってきた。

 とにかく寒い。体の震えが止まらない。医師の鋭い指示が頭上を飛び、体に毛布がかけられた。また少し気持ちが悪くなってきたので俺は吐き気に耐えるべく目を閉じる。

「血圧八十の四十。酸素飽和度は七十五。心拍二十!」

「駄目です、低すぎます! もっとノルアドを!」

「二ミリ追加! ……駄目です! 反応有りません!」

「先生ッ! 息子を、我意を、助けてやってくださいッ! お願いしますッ!」

「お母さん、息子さんに何か持病のようなものは?」

「何も……これと言っては何もありません!」

「お兄ぃを助けてッ! やだ、こんなのやだよう」

 意識が再び遠のいていく。その時、小さな手が俺の胸に縋り付くのが分かった。くるみだろうか。その部分だけカイロでもあてられたかのように温かい。泣きじゃくる妹の声。こんな状況だというのに、何故かその声が懐かしい。

 そうだ。昔からあいつは泣いてばかりだ。いつでもお兄ぃ、お兄ぃって俺の後ろを付いてきた――。

 頭の中に浮かんだのは、小学生の頃、家族みんなでキャンプに行った時の光景だった。

 きらめく川のせせらぎ。目に痛いほど眩しい夏の日差し。普段はぐうたらしている親父も、その日ばかりは、父親らしく張りきってテントを張ったりして――。

『置いていかないでよ、お兄ぃ! うぇーん』

 俺は振り返る。妹は俺を追いかけようとして川の浅瀬で転んでしまったらしい。足元はおろか、水玉のスカートも桃色の肌着も、うさぎのように二つに分けたお下げ髪までも水に濡れてしまっていた。

『こらこら、我意。ダメでしょ。お兄ちゃんなんだから、妹には優しくしてあげないと』

 それを川原から母さんが優しくたしなめる。白のワンピースが涼しい風にたなびき、長い髪が揺れている。その様子はまるで一枚の絵画のようだった。

『おいおい、どうしたどうしたぁ?』

 くるみの泣き声に、テントの中で何やら作業をしていた父も出てきた。よれよれのティーシャツと薄くなった頭髪はいつも通り情けなかったが、美しい木々と清浄なこの空気の中では二割増しに見えた。

 俺は心の中で詫びた。

 ごめんな、くるみ。お前にはもう少し優しくしてやればよかった。お前のおかげで、家の中はいつも明るく温かだったよ。ありがとう、くるみ。

 そして、川辺に佇む両親へと目を向ける。

 清楚で優しい母さん。産んでくれてありがとう。俺は母さんの息子で幸せだった。次に生まれて来る時も、あなたの息子でありたい。ありがとう、母さん。

 そして親父。……なんというか……うん、ありがとう、親父!

 ごく自然に感謝の言葉が浮かんでくる。冷たく凍えていた体が、浮かんできた心象風景に解され温かくなっていく。

 これが――死か――。

 そんな思いが頭をよぎった。ならばそれほど悪いものでもない。そんなことを心の片隅で考えている自分がいた。

 だが、悔いがないと言えば嘘になる。長いようで短かった十七年間。まだやりたい事は山ほどあった。この終わり方はあまりに早すぎる気がした。

 だが、誰もが自分の思う通りに生きられるわけではない。思うように死ねるわけではない。

 俺は死と生の狭間で何かを悟る。

 つまり――それが人生なのだ。

 だとすれば、これが俺の人生だった。

「我意ッ!」

 薄く開いた瞼の隙間から、涙で顔を濡らした母の顔がおぼろげに見えた。

 俺は頬の筋肉を動かす。微笑んだつもりだった。母に見せる最後の顔が、苦痛に歪んだものであって欲しくない。皆の記憶に残る最後の自分の顔は、笑顔であって欲しい。

 意識が吸い込まれるように遠のいていく。それは眠りに落ちて行く感覚に似ていた。

 その感触に俺は安堵する。

 死はもっと辛くて苦しいものだと思っていた。耐えがたいものだと考えていた。

 だが、実際の死は……こんなにも優しい。

 みんなが俺の名前を呼んでいる。みんなが死にゆく俺を悲しんでくれている。

 これまで俺は、映画やドラマでよくある、死に瀕した患者に家族が最後まで声をかけ続けるシーンを醒めた目で見てきた。死にゆく者に声をかけても無駄だと思っていた。

 どうせ聞こえないのだから。その声は届かないのだから。

 だが、違った。

 声は届いていたのだ。こうして、今俺の心に届いているのが何よりの証拠だ。

 そして、家族からのその声こそが、俺の新しい旅のはなむけになるのだ。

 ああ……。

 俺は深い満足感とともに一度深く息を吸い込んだ。

 その次の呼吸はない。何故かそう確信した。

 ――みんな、ありがとう。

 それが、俺の思う最後の言葉だった。

 

 ……ぶぅううう!


 だが、俺の眠りはそんな場違いに軽薄な音で妨げられた。

 ぴっぴっぴっぴっ。

 それまで慌ただしく動いていた現場も、どうやらその音で固まってしまったようだ。無機質な医療機器の電子音だけがこだまする。

 なんだ……今の音は?

 そんな言葉が脳裏をよぎった途端、

「……出ちゃった」

 どこか照れたような親父の声が耳に届いた。

「……ごめんごめん」

 ぴっぴっぴっぴ。

 出ちゃった――その言葉の意味するところが何なのか。半死半生で夢幻の海に揺蕩う俺にはまだ理解できない。

「こんな時に……どうして……?」

 肌を刺すような沈黙とは、このようなことを言うのだろう。恐ろしいほど凝固した空気の中に、無表情な母の声が響いた。

「うむぅ……どうしてって言われても……生理現象だし……」

 どうやらそれは生理現象らしい。

 俺の頭が微風に揺れる風車のように弱々しく回転を始める。

 生理現象で、放出されるもので、ぶぅううという滑稽な音を奏でるもの……。

 いや……そんな馬鹿な。

 最初はそう否定した。だが、否定してみたものの他に答えが見つからない。

 だが、本当は考えるまでもなかった。小学生でも分かる。答えはそれしかない。だが、それをこの場で――そんなことができるのか。そんなことをしていいのか!

 しかしその時、俺の鼻腔を凄まじい悪臭が襲った。粘膜にへばりつくような、腐った卵の如き悪臭。

 もはや逃れられなかった。それで、答えが完全に一つに収束してしまった。

「どうして……どうしてこんな時に……お兄ぃが危ないのよ。お兄ぃが死んじゃうかもしれないのよ――」

 くるみの声が静かに響く。

「どうしてこんな時におならができるのよッ!」

 そして――その声が答えを代弁してくれた。

 そう、それは屁であった。

 ……もう一度言おう。

 それは屁であった。


 ズキュゥゥゥンッ!


 ガソリンを注入されたかのように、強烈な怒りが体に満たされていく。

 屁、屁だと? 俺が死にかけているのに屁をこいただと?

 と、同時にドクン、ドクンと俺の内部から打ち始めたものがあった。だが、俺の意識はそこに気づかない。

「ん……どうした、いったい何が起きた? なんだこの波形は!」

 周りが騒がしくなり始めたが、そんなことはどうでもよかった。人の臨終に臨んで屁をこく馬鹿野郎に怒りが収まらない。神聖なる黄泉比良坂(よもつひらさか)への旅路が屁によって遮られたのだ。どうして許すことができようか。

「血圧百五の七十、正常ですッ!」

「心拍数五十八、なおも上昇中! 洞調律ッ。正常です……」

 陽光に照らされて霧散していく朝もやのように、意識が急速にクリアになっていく。そこでようやく俺は自身の変化に気が付いた。内部から俺を打つのは心臓。心臓だ。心拍が再開している。そして体をめぐる熱湯のように熱いこの液体は――血液。

「……これは……一体……」

 混乱の極みに達したような声が医師の口から発せられた。それと時を同じくして、俺は目を開けた。

「親父……親父はどこだァアッ!」

 そして目を開けざまに叫んだ。ばね仕掛けのように身を起こす。先程までの体の重さはどこにもない。

「おおっ、息子よッ! 無事だったか!」

 親父は飛び起きた俺を見て何を勘違いしたのか喜色満面で近寄ってきた。

 そのにやけ面に――滾る滾る。筋肉が滾る。先ほどまでの死にかけていたとは思えないほど、握りしめたこぶしに力が入る。

 俺は近寄って来た父の鳩尾に問答無用で拳をめり込ませた。

「ぶ、ぐもぉおおおっ」

 父は屠殺される豚のような声を出してがっくりと床に沈んだ。

「…………」

 俺は無言のまま倒れた父を見下ろす。

「お兄ぃ……」

「我意ッ!」

 すると沈んだ父の後方から母と妹が現れた。着の身着のまま救急車に同乗してくれたのだろう、母はまだ食器洗いの際に使うエプロンを付けたままの恰好だった。前髪が汗で額に張り付いている。

 くるみの格好も似たようなものだった。部屋着として愛用している桃色の甚平という出で立ちで、いつもは二つに分けて可愛くお下げにしている髪も、片方のゴム紐が外れ乱れていた。

「母さん、くるみ……」

 わぁっと声を上げて、二人はそのまま俺にしがみついてきた。もちろん邪魔な父は母の足で押しのけられている。当然の報いである。

「お兄ぃ……お兄ぃっ!」

「我意っ、よく戻ってきたわね……!」

 母とくるみの感極まった声が耳朶を打つ。つられて俺まで涙ぐみそうになったが、下腹部にぐっと力を込めて耐えた。

 感傷から気を紛らわすために俺はわざと二人から視線を外し、あらぬ方向を見た。ついでに自分のいる部屋の様子を探る。

 どうやらここは救急外来のようだった。おそらく近くの大学病院だろう。なんとなく診察室に見覚えがあった。近くには金属製の棚が二つ置かれており、アンプルやバイアルが小分けされている。俺の腕には点滴が突き刺さっており、近くの点滴台から今もぽたぽたと薬液が流れ込んでいた。

「大丈夫ですか? ……ええ、と、我意君」

 そこへマスクをつけた白衣の男が、俺の手首に巻かれているネームバンドを確認しつつ声をかけてきた。おそらく彼が先ほどから俺の治療にあたってくれていた医師だろう。どことなくハリネズミを髣髴とさせるのはチクチクとした短髪のせいだ。歳の頃は四十前後か。聴診器を下げて、まだ針がついたままの注射器を手にしている。それを俺に注射するつもりだったに違いない。

「……ああ。大丈夫と言っていいのか分からないが……気分は先よりずっと良い」

 俺はいつも通りの口調で言った。ともすれば尊大に取られかねないが、普段から敬語を使うという習慣がないので仕方がない。敬語で話そうにも使い慣れていないのでうっかり丁寧に話そうとするとおかしな日本語になってしまう。

 医師は、それは良かったと呟いて、手にした注射器をそのまま赤いハザードボックスに捨てた。次いで顔に付けていたマスクも取る。すると、思っていたより若々しい顔が現れた。ひょっとするとまだ三十代なのかもしれない。

「少し質問しても良いですか?」

「どうぞ」

 医師はふう、と息を吐くと傍にあったアームチェアーに腰をかけて言った。

「先ほどお母様にもお聞きしましたが、今までにこういう発作を起こしたことはありませんか?」

 俺はちらりと医師の胸に提げられたネームカードを見る。循環器内科、橋本(はしもと) (とおる)と書かれていた。

「ああ、先ほど母が言った通りだ。そういうことは一度もない」

 俺がそういうと橋本は顎に手をやって、ふぅむ、そうですかと呻いた。

「……何か問題が?」

 俺は、胸にしがみついている母と妹の背中をぽんぽんと叩いて退かせると、台から降りた。橋本は眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。

「現時点では何ともいう事ができません。突発的な徐脈性不整脈による失神だとは思いますが……なにか御親族の方に同じような症状を起こした方がみえますか」

 俺は母の方に視線を向けた。親族のことまではあまり知らない。

「私の家の方ではこのような病気の人はおりません。両親はまだ健在ですし、祖父母はがんと脳卒中でした」

 母はまだ少し鼻声ながらもしっかりした受け答えで返した。医師は頷き、次いで倒れ伏した父を見た。どうやら父方の親類に関しても既往歴を聞きたいらしい。傍に立っていたくるみが膝をつき、ぽんぽんと父の肩を叩いた。父が呻き声を上げながら目を覚ます。

「いたたたた。まったく我意ったら、いつまでたっても腕白小僧なんだから……」

 まるで見当違いな言葉を吐き出しながら父がやれやれと立ちあがる。記憶にある限り俺が腕白小僧であった事はない。俺は物静かで、読書好きな少年だったはずだ。

「話はちゃんと聞いていたぞ。大丈夫だ。私の方にもそういう人間はいない。私の方は両親どころか爺婆もまだ生きておるわ。ぬははは」

「そうですか……」

 意図不明な高笑いを響かせる父をスルーして、橋本は顎に手を添えたまま考え込んだ。

「少し……変なことをお伝えしてもいいですか」

 そして急に顔を上げてそんな事を口にした。何か言い淀んでいるようにも見える。

「どうぞ」

「私にはお父さんの放屁が、我意君の回復の契機になったように見えました……」

「は?」

 その言葉に思わず呆れたような声が出た。屁が俺を回復させただと? そんな馬鹿なことがあるはずがないではないか。俺はこの医師に対する信頼が急激に揺らぐのを感じた。 

「えっ、私の屁がですか?」

 だが、その言葉に父が反応した。なんだか嬉しそうにしている。大方、先ほど場違いに噴出した屁を褒められたとでも思っているのであろう。一度は鎮火した怒りの炎が再びくすぶり出すのを感じる。

「そんな不思議な事があるんですか?」

 橋本の言に母が真剣な顔で尋ねた。あるわけないだろ、と口を挟もうとしたが橋本に先を越される。

「私の知る限りおならが致死的な不整脈を改善したという報告はありません。しかし、私が知らないからと言って、無いという事にはなりません」

「いや、無いだろ」

 堪らず今度こそ横やりを入れる。

「先入観は身を滅ぼしますよ。どんなに馬鹿げた話でも常に情報の門戸は開いておくべきなのです。偉大なる発見というのは往々にしてそのような馬鹿げた事柄から見つかるものです」

 橋本はそう言って軽やかな微笑を浮かべた。

「とは申し上げても私も本当におならが治療薬だなんて思っていませんよ。とにかく、あらゆる可能性を考えて、一度精密検査をしてみましょう。そういうことです」

「なあんだ、そういうことですか。驚かせないで下さいよ」

 と、母。

 あはは、うふふ、はっはっはっ、と温かな笑いが病院の一画に満ちる。そりゃあそうだ。いくらなんでも屁で治るなんてそんな馬鹿な話があるはずがない。

 俺達はそれを冗談だと解釈した。当然冗談だと思った。なかなかユーモアのある医師だと橋本を褒めさえもした。

 だが、俺達は知らなかった。

 あったのだ。そんな馬鹿な話が。

 そんな馬鹿な。

 その後、何度そう口にしたか分からない。

 そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。

 そんなバナナ。

 この、クールな俺の口からそんな駄洒落が出てしまうほど、その病は常軌を逸していた。

 こうして舞台は幕を上げた。

 チャップリンも真っ青になって逃げ出すほどの喜劇が始まった。

 俺は平成の喜劇王として後世に名を残すであろう。

 これはそんな物語である。


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