隠れオタクの佐藤くんと、クールなふりの琴子さん。
同じクラスの琴子さんはかなりの美少女だ。
他のイケている女子は、みんなそろってふわふわした茶髪。
ショートボブが流行らしい。
けど、あいつらは全然わかっちゃいない。
俺は黒髪が好きだ。
艶があって、サラサラしていて、天使の輪っかがあって、長さは肩より少し長いぐらいがベスト。
それでいて、色白だとすごくいい。
だからって日本人形はいやだ。
目がほどほどに大きくて、中の瞳が澄んでいて、唇は小さくて桜色。
手足が細めで華奢で、背は平均身長な俺に対して自然と上目遣いになるぐらいがいい。
――何が言いたいのかって?
琴子さんが俺の好みすぎるのだ。
今日も、教室の後ろから、窓際の一番前の席に座っている琴子さんをぬすみ見る。
線の細い髪の毛は、窓から入るわずかな風でも、ふわっとなびく。
ちょっと眠たいのか、小さく猫のようにあくびをする彼女の可愛さといったらプライスレス。
そんなラノベの中にしか存在しないと思ってた俺の理想を、見事なまでに具現してみせる琴子さんだが、
俺は恋愛的な意味で、彼女のことは好きじゃないと断言できる。
第一に、俺は彼女のことをよく知らない。
クラス替えから3ヶ月経つが、俺はまだ彼女と3言しか交わしたことがない。
「上野。先生が面談早めに来てほしいって」
「わかった。ありがとう」
「あ、いや、……こちらこそありがとう」
何がこちらこそありがとうだ俺、クッソ。
琴子さん自体、あまりしゃべる人ではない。
幼馴染らしい、あかりちゃん(この子もけっこー可愛い)とは良く話しているのを見かけるが、他に特定の仲のいい子はいないようだ。
休み時間は、よく難しいタイトルの小説を読んでいて(この目を伏せているときの角度がさいこう)
クラスの男子からはクールビューティだと称されている。
(いや、でも俺に言わせてもらえば、彼女は可愛いところのほうが多いからクールビューティではない。サンドイッチ両手で食べちゃうとことか、授業中当てられて間違えると実はほんのり恥ずかしそうにしているとことか、大きな音がすると思わずぎゅっと目をつむっちゃうとことか)
まぁ要するに。
いくら見た目が好みだといっても、話したことがほとんどなくて、性格もよくわからない子を、好きになったりはしない。
そして第二に。
認めてしまおう。正直、彼女とつりあえる気がしないのだ。
俺はすごく普通の人間だ。
顔は普通だし、得意なスポーツとかないし、実はギター弾けちゃうんだぜとかもない。
強いていうなら勉強はそこそこできるけど、それもこの進学校全体から見たら、自慢できるほどではない。
いわゆるオタクって人種で、しかもそれを開けっ広げにする勇気もない小心者だ。
学年1のイケメンと噂される、サッカー部エースの一之瀬も。
チャらいが、やたらとコミュ力の高いバンドマン池上も。
秀才で全国模試ランキング常連の黒田も。
みーんな琴子さんに告白したが、尽く振られたらしい。
そんな彼女におれが告白するだって?
アタックする勇気すらないわ、ばかやろう。
以上①②から、数学的帰納法もへったくれもなく、おれは琴子さんのことは恋愛的な意味で好きではない。
でもほんとに何度も言うけど、見た目が好みすぎるので、こっそり眺めるのは許してほしい。
**
同じクラスの佐藤くんは、私のことをよく見ている。
本人はばれていないと思っているらしい。
私が彼のほうを見ると、さっと目線をそらすのだ。
それで私がためしに注意を他に向けてみると、またこっちを見る。しかも口元をゆるめて。
私の趣味は人間観察だ。
特技でもある。
幼馴染のあかりには、見た目を裏切りすぎだし、的確すぎて怖いとよく言われる。
佐藤くんという人間もそれなりに知っている。
身長は平均よりちょっとだけ高いけど、ひょろっとしていて。
顔は整ってはないけど、ちょっと愛嬌がある感じだ。
性格は、なんていうか、一言で言うと日本人らしい。
押しに弱い。
強い者には逆らえない。
クラスの派手な人たちが集まっているグループが苦手のようだ。
そして、謙虚を通りこして、ネガティブだ。
ある種の自意識過剰だ。
スポーツテストで、皆に見られながら走る機会があったが、全力で憂鬱そうにしていた。
そんなの気にするほど、皆は彼に注目してはいない。
あとは、オタクだということを、隠しているようだ。
隠すようなことなのか。私にはわからない。
堂々としていればいいのに。
突出した特技はなくて、人より気弱で、目立たない人だ。
けれど、そんな彼の良いところも、私は知っている。
彼は人の悪口を言わない。
友達を大事にする。
だるいと言いつつも、一度引き受けた仕事は最後までやり通す。
ありがとう、と言われるとひどく照れくさそうに笑って、さらにお礼しかえす。
少なくとも。
爽やかなふりして、自慢にならない彼女はいらないと言っていた一之瀬くんよりは。
すぐに人のことを格下だと馬鹿にしたがる池上くんよりは。
参考書を読んでいる振りして、おばあさんに席を譲らない黒田くんよりは。
見所があるやつだと思っている。
だから、今日も私は実は佐藤くんを観察し返している。
席の関係で、授業中はできないのが悔やまれる。
今度話しかけてみようかな。
そうしてみたときの、彼の反応がひどく気になるのだ。
断じて私が話しかけてみたいだけではない。
これは、単なる観察対象への興味だ。
じれったいわ、くっ付けバカヤロー!な話が突然書きたくなって、こうなりました(笑)
気が向いたら連載にしたいと思ってます。
琴子さんのモデルにした同じクラスだった子がかわいすぎてツライです。
たぶんこの小説みせて、あなたがモデルだよ!って言ったらどんびかれるに違いない。