逸楽剣士
「ハァ……ハァ……お前……何者だ……?」
私は今、謎の剣士と戦っていた。
私は魔軍・王幹が一人シェラベラベロだと言うのに……何故……こんな辺境の小さな村を襲っただけで死にかけている……!?
それもこれも目の前にいる剣士のせいだ……。
「フハハ! いいぞ! お前は……私の愉悦を満たしてくれる強者のようだ……!」
こいつは……戦いを楽しんでいるのだ、それだけでも普通の人間の感性ではない……のにも関わらず動きも怪物級だ……この王幹に食らいつけるのは歴史上歴代の勇者達しかいないと言うのに……。
「だが……そろそろこの魔剣・バーヌヴェンタントの渇きを潤さなければ……! 終わりにしよう……!」
そうして謎の剣士はその魔剣を自身の心臓に突き刺す。
何度も、何度も、何度も。
「くっ……いいぞ……! この痛み! まさしく愉悦……我が魔剣の贄となれ!」
その剣士は心臓から剣を抜き、真っ赤に染まった切っ先をこちらに向け……!
「血着!」
朱き剣が激しく明滅し甲高い音が鳴り響くそれが私の眼前に超スピードで迫ってくる。
それを私は何とか盾で防御を間に合わせた……のに……!
「ぐぁぁぁぁぁ……!」
無駄だった。
防御したはずなのに、まるで私の盾が虚無同前のように、盾が粉砕し攻撃を受けたのだ。
そう、圧倒的攻撃力による防御不能の力。
それをこの剣士はただ自身の逸楽の為に振るっているのだ。
「ハァ……ハァ……くっ……くそっ! この私が負けるなんて……! お前は一体何者なんだ……」
膝をつき血が滴る状態へと追い込まれ生の終わりを実感した私は最後にこの剣士の正体が知りたいという好奇心だけが残っていたのだ。
「私か……? 私は愉悦を求める者……ただそれだけの存在だ」
そうして目の前の剣士は私に剣を振り……。
下ろさなかったのだ。
「な……な、なんの……つもり……だ……?」
剣士は笑みを浮かべこう告げる。
「お前ほどの強者を失うのは惜しい……この私ともっと戦いあおうではないか! 王幹としてのお前をここで死なせ人間にしてやる!」
「何をする……! やめっ!」
目の前の剣士は私に剣を今度こそ振り下ろし、私は目を瞑ったのだが……何故か痛みがない……それどころか自身の体から不可思議な感覚を覚える。
「目を開けるがいい」
そう言われ目を開けると……私の亡骸が目の前に倒れていた。
「これでお前はもはや魔軍・王幹のシェラベラベロではない……お前は人間、マジャスティと名乗れこれからは」
「な、何を言って……私が人間……?」
「そうだ、これを見るがいい……」
そうして湖まで引きずられ水面に映る自分の姿を確認すると……人間の女の姿になっていたのだ。
「お前……! これは一体どういう事だ……!」
「どういう事も何も人間になった……という事だ……さぁ! 私が鍛えてやろう! 思う存分死合おうではないか……!」
目の前の剣士は高笑いをしながら私に剣を投げ飛ばしてくる。
「……いいだろう……愉悦を求める剣士……! いや……逸楽剣士……! こうなれば思う存分死合おうではないか!」
こうして私達は思う存分、斬り合い、互いを理解し合った。
もちろん私が負けたのだが。
「はぁ……はぁ……そういえば逸楽剣士……名前は?」
「私か……? 私はサイシュウロ・ミルーランガーだ」
「そうか……サイシュウロ、お前は……これからどうするのだ?」
「私は旅に出ようと思う今宵のお前との戦い……得るものが大きかった……私はこの世界の強者と戦い私はさらなる愉悦を得る……!」
「そうか……」
それを聞いて私はこの剣士のことが更に知りたくなっていた事を思い出す、王幹だった頃、私は孤独だった、王幹最強が故に他の王幹にも部下にも恐れられていた。
魔王様にも警戒され常に監禁生活だったのだ。
そんな私は今、遂に私を打ち負かす存在と出会え王幹というしがらみをなくし、人間となった今……私はこの剣士と更に死合いたいと言う気持ちだけが残っていた。
「サイシュウロ、私もついて行こう……」
「ほう、それはいい! 道中は暇になりそうで困っていたところだ!」
「そうだな、私がいればお前も暇にならずにすむし人間の女になってしまった私は男であるお前のもとにいれば襲われずにすむ、つまり互いにメリットがあるという事だ」
「斬ればいいではないか襲う賊など」
そう言われて私は……何故か不満という感情が湧き出た。
「そういう、問題ではないのだ……全く……」
「そうか……よく分からんが……それでは征くとしよう……」
「そうだな……サイシュウロ」
こうして私達は強者と死合う旅を始めたのだった。




