ヤンデレ殺しの天然令嬢 ~誘拐犯を旦那様にしました~
目を覚ましたら、両手を縛られて広いベッドに寝かされていました。
目の前には、王宮魔導士長のシュバルツ・ゴートナイト様がいらっしゃって、何故か私をじーっと見つめています。
「ごきげんよう、シュバルツ様」
「えっ?あっ……ごきげんよう、ロベリア」
一応ご挨拶してみましたけど、ちゃんと返してくれたわ。
役職や立場もあるのに驕らず謙虚な方なのね。
「シュバルツ様、もしかして私のこと助けに来てくださったんですか?」
「……どうしてそう思うの?」
シュバルツ様は少し間を置いて、腕を組みながら聞いた。
「私、気づいたら縛られてベッドに寝かされてたんです。多分、誰かに攫われたんでしょうね。でも、そこにあなたがいらっしゃいました。ということは助けに来てくださったのですよね?」
ふふ、私ったら名探偵ですわね。
「君は……僕が君を誘拐したとは思わないの?」
「あぁっ!なるほど、そういう考え方もありますわね!」
「むしろ、そういう考え方しかないと思うんだけどね」
シュバルツ様は何故か頭を抱えながら俯いていた。
「頭が痛いのですか?この縄を解いてくれましたらハーブティーを淹れますわ」
「ありがとう助かるよ、それじゃ縄は解くね——とは、ならないでしょ!!」
シュバルツ様は大きな声で私に言った。
あら、とっても元気な方なのね。
あまり大きな声を出しているところを見たことないから意外だわ。
「でも、私の縄を解けば美味しいハーブティーが飲めるのですからお得ではありませんか?」
「君……危機感ないって言われない?」
「まぁ、酷い!ケーキとカゴがあれば勝手に捕まってそうとしか言われたことありませんわ」
「そっちの方がよっぽど酷いよ!!」
なんだか式典などでお見かけした時より、ハキハキと話されているわ。
新たな一面を発見しましたわね。
「フフッ、シュバルツ様って面白い方なのね」
「君ほどじゃないけどねっ!」
「まぁ、褒められてしまいましたわ」
「褒めてない褒めてない……」
「ところでシュバルツ様、私に何か御用ですか?」
やっぱり縄で縛られているのってちょっぴり不便ね。
私は膝と纏められた両手で体を支えながらなんとか起き上がる。
やっぱり寝たままお話しは落ち着かないわ。
「君も廊下で偶然会ったみたいなテンションでよく話せるね」
「まぁ人生、こんな日もありますわ」
「君は一体どんな人生を送ってきたんだ。……そんなことより、少しは怯えた方がいいよ?」
急にシュバルツ様は目つきが変わる。
そして、私のすぐ隣に腰掛けた。
「……そうなのですか?」
「僕は君が第二王子と婚約する前に、君を傷物にしようと思ってるんだ」
そう言って、シュバルツ様は私の頬に手を滑らせる。
「傷物……ですか?」
「危機感のない君でも少しは自分の危機を察した?」
「……」
危機……危機ねぇ。
ナイフを突きつけられたわけではなく、こんなに優しく触られてもあまり自覚が湧かないわ。
それにしても、シュバルツ様の手って大きくて暖かくて心地よいのね。
何よりこの触り方がポイントね、猫でも飼っていらっしゃるのかしら?
「ちょっ?!な、なんで僕の手に頬擦りしてるの??」
シュバルツ様は手を引っ込めてしまおうとする。
「あ、それやめないでっ!もう少し続けて!」
「えぇっ…………まぁ、君が良いなら」
シュバルツ様は嘘だろみたいな顔をしながらも私の頬を撫でてくれる。
「えっと、それで城下町のマカロンが美味しいってお話でしたっけ?」
「全然違う。君を傷物にするって話だよ」
「あぁ、そうでしたわね。でもシュバルツ様、私既に傷物ですのよ?」
「…………は?どういうこと?まさかアイツともう……」
あら、信じてないのかしら?
お見せした方が早そうね。
「シュバルツ様、私のスカートを少したくしあげて確かめて頂けませんか?」
「は?……はあぁぁぁ???」
思いのほか動揺したシュバルツ様は顔が真っ赤である。どうしてそんなお顔をされているのかしら?
「ほら、少しだけ……」
「な、何言ってるの??まさか、痴女なのか……」
そう言いつつも、シュバルツ様は私のスカートを恐る恐るたくし上げる。そして、ふくらはぎが出てきた辺りで、手を止める。
「あっほら、見てください、このふくらはぎの辺り、ほら、傷物でしょ?」
私の足には、昔木登りでできた小さな傷痕がある。
自業自得ですが、傷を両親が見た時はかなり怒られましたわね。
「……あぁ、そうか。君は傷物の意味も知らないのか」
シュバルツ様は傷痕を見てもなんでもないお顔、いえむしろほっとした顔をされている。
「よく箱入り娘と褒められますわ」
「馬鹿にされてるのだと思うよ」
「そうでしたの?王妃様がよく笑顔でそう仰るので褒め言葉だと思っておりましたわ」
「大丈夫かな、なんか心配になってきた」
そう言ってシュバルツ様はまた頭を抱えている。
やっぱり私のハーブティーを淹れて差し上げたいわ。
「それでシュバルツ様、傷物ってなんですの?手取り足取り教えて下さいます?」
「手取り足取り教えたら君は第二王子と絶対に結婚できなくなるんだけど??」
「そうなのですか?」
「傷物というのは、君の純潔を奪うということだからね」
「まぁ、大変!」
「まるで他人事のような驚き方だね」
あなたがどんなに能天気でも、結婚前に純潔を散らすのだけは絶対ダメと言ってたお母様に言われてましたのに。
でも、殿方目線で言えば、純潔を奪いたい相手=結婚したい相手ということなのでは?
「ということは、シュバルツ様は私と結婚されたいのですが?」
「え?」
「それとも、純潔を散らした私が誰にも見向きもされなくなるところを見るのがお望みかしら?」
「僕をみくびらないでくれっ!」
「よかったですわ。それじゃ、私がシュバルツ様を選ぶと、どのような良いことがありますの?」
「……え?」
「三つ、仰ってください」
「えっ?はぁ??えぇ?」
「制限時間は十分ですわよ!」
「嘘でしょ??!」
【十分後】
「さ、考えはまとまりましたか?」
「えっと、ロベリアが僕を選んでくれれば、まず、君だけを死ぬまで愛します。次に君の欲しいものは必ず手に入れます。最後に君を傷つけた奴は1人残らず排除します」
「シュバルツ様ってとっても情熱的なのですね」
「言っといて何だけど普通は引くところだよ?」
「そうですの?ロバート殿下が出した条件より魅力的でしたけど」
「第二王子にもやったの、これ?」
「ちなみにロバート様は、一つ、愛情がなくても構わない。二つ、愛人を作っても構わない。三つ、馬鹿でも顔良くて胸が大きければ構わない、ですわ」
ロバート様は、立場を盤石にする為の契約結婚をお望みらしいですからね。
そんなものなのかもしれません。
「最低だ、第二王子最低だ」
なのに、何故かシュバルツ様の方がショックを受けてるのは何故なのでしょう?
「とはいえ、少し抜けてる私が見た目だけで王子様との結婚なんて好機ですし、お父様も王家と繋がりが持てると喜んでおりましたので、そんなものかしらと結婚を決めましたの」
「そんな理由で……」
「だって、貴族の結婚は家の為のもの。我がビスコッティ侯爵家を盤石にする為ならば、私の気持ちなど捨て置くべきでしょう?」
「なっ……」
「私、貴族令嬢ですもの」
私も私の役割だけは忘れたことは無い。
愛は恋愛小説の中にだけ存在するものだ。
「そんな……」
「?」
「そんなの、駄目だ!君は家の繁栄の為の道具じゃないんだ!君は君自身が幸せにならないといけない!」
「シュバルツ様……」
「ロベリア、君は君を愛する人と……いや、僕と結婚すべきだ」
シュバルツ様の瞳が真っ直ぐ私を見ている。
あぁ、家ではなく彼は私を見ているのね。
「ですが……」
「王家程じゃないが、王宮魔導士長の嫁も、立場としては安泰。君の父上も喜ぶと思うよ?貴族令嬢の義務を果たし、愛もある。ほら、僕の方がお得だ!」
「……まぁ、ホントですわね」
「第二王子との婚約は僕がなんとかしてあげる。だから、結婚してくれる?」
「はい、シュバルツ様……」
「……ということがあって、シュバルツ様と結婚することになりましたの」
私は急の婚約に驚いて飛んできた親友のダリヤ様に今までの経緯を話した。
ちなみにケーキとカゴがあれば簡単に捕まりそうと私に言ったのは、彼女なのです。
ダリヤ様は持っていたティーカップをカタカタと振るわせながら何とかテーブルに戻し、大きくため息をついた。
「ふわふわしたロベリア様が変な方に捕まらないか心配してましたが、やっぱり変な人に捕まったんですね」
「もう、シュバルツ様は変な人じゃないわ。私を一番に考えて下さる良い方よ」
ダリヤ様は、いつも私を心配している過保護な方だが、私は愛のない結婚も、旦那に虐げられることもなく、幸せな結婚生活を送っている。
ゆえに何も問題はない。
「良い方があなたを拉致したり、傷物にしたりしないのよ」
「彼、情熱的なところがあるから」
「それだけですまされないのよ……」
ダリヤ様はそう言って、頭を抱えた。
シュヴァルツ様も良くそんな体制を取られてますけど、頭痛が流行っているのかしら。
「まぁ、そういうわけですから。私のことはあまり心配なさらないで」
「心配しかないのだけど。というか……妙にアクセサリーの数が多くありません?」
そう言ってダリヤ様が私の上から下までを眺めて言う。
「実は、シュバルツ様からのプレゼントなんですの。私の場所が分かる位置魔法のイヤリングと、危険なものが近づかないようにする防御魔法のブレスレット、あと、会話が聞こえる盗聴魔法の首飾りだそうですわ」
「ひぇ……」
ダリヤ様は急に小さく悲鳴を上げた。
「全く、君はわざわざそういうことを人に言わなくていいから」
次の瞬間、何もなかったはずのロベリアの背後に、音も無くシュバルツが現れた。
「まぁ、シュバルツ様っ!お仕事中なのでは?」
「今は昼休みだ。今日は君の友人が来ると聞いてたから挨拶にね」
そう言ったシュバルツと目が合ったダリヤは、ガタガタと震えながら、なんとか貴族令嬢らしく笑うのが精一杯だった。
僕は、朝起きた時、ロベリアが隣に眠っていることに幸せを感じずにはいられない。
あの日、婚約阻止のために攫って監禁しようと思っていた彼女と、正式に結婚し、夫婦になることができた。
まぁ、ロベリアに偏った貴族教育をした彼女の家と、彼女を侮った第二王子には少しだけ制裁を加えたが、それだけだ。
「ん……シュバルツ様……」
あぁ、君を傷つけずにすんで本当によかった。
彼女を拘束することも、洗脳することもなくきちんと夫婦になれるなんて、本当に奇跡みたいだ。
半年後には子供も生まれるし、そしたら三人でどんなことをしよう?
君にそっくりな女の子がいいなぁ。
あ、子供が産まれたらまたあの友達を呼びたいっていうかな?
大丈夫、あの子が君に余計なことを言わないうちは、僕も君の友人の出入りを許してあげるからね。




