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ヒューマンドラマ

まだ遅くない〜異世界に転生しすぎた末路〜

作者: 地野千塩
掲載日:2026/05/20

 日本という国は一度レールから外れると、戻りにくい。わたしのような子持ちの主婦もそうだね。出産、育児でもブランクがあると、急にその難易度爆上がり。


「介護や物流、ホテルなど人手不足の業界に転職をおすすめします。最近はAIの普及により、かえってブルーカラーが……」


 ハローワークの職員にそんなことも言われ、鬱。だから姉は必死になって薬剤師資格を取っていたのか。当時はぼーっと姉を見ていたけれど、将来を見据えたら真っ当だったじゃないの。なんで若い頃、そういう風に行動できなかったんだろう。姉もちょっとぐらいアドバイスしてくれても良かったのにな……。


「あー、人生やり直したい」


 ハローワークから出ると愚痴がこぼれてしまう。子供の写真も眺めながら、よそ見もしていたのだろう。


「え?」


 ドッカーン。


 トラックに轢かれて死んだらしい。意識も消えていく。もう遅い。


 ◇◇◇


 気づいたら異世界に転生していた。次の人生、公爵家のリーゼっていうお嬢様らしい。


「うわー。この子、美人だわ」


 鏡を見てうっとりする。いいじゃない、二度目の人生。やり直しできて嬉しい。まあ、子供に会えないのは悲しいけれど、夫や親戚もいるし、友達も多いし、わたしと違ってしっかりした子だからね。


「しかしこの異世界、ナーロッパ風だけあってご飯がまずいね。パサパサな硬いパンとか雑穀スープとか食べたくないんだけど」


 自室で一人、食事をしながらはっとした。だったら異世界で日本食を広めたらいいじゃない。そうだ、異世界ファンタジーでよくある人気設定だし、悪くない。


 ということで公爵家の材料や人脈、魔法を使いまくり、日本食を広めた。といってもわたし、ズボラ主婦だったし、和食の知識はあんまりない。ナポリタンとかカレーうどんとかハンバーグとか、メロンパンとかを広めた。


「リーゼ、すごい! おいしい」


 なんて異世界人に好評だったけど、なぜかすぐに飽きられてしまう。そもそも質素な食事をしていた異世界人には高カロリーすぎて体調を崩す人も続出した。


「なんで?」


 異世界ファンタジーではあんなに上手く行ってた勝ちパターンなのに、わたしがやったら大失敗。頭を抱える。しかも、悪魔のハイカロリー食を広めた異端として裁判にもかけられ、死刑が宣告された。あっけなく第二の人生も終わった。


 ◇◇◇


「まあ、一度殺されても、また転生すればいいのか?」


 リーゼとして人生を終えたわたしだったが、次はとある悪役令嬢に転生していた。名前はシャーロット。公爵家の令嬢だが、魔力もちを鼻にかけ、大層嫌われているらしい。ついには二年後、魔女裁判にかけられ殺される未来も知っていた。


「やばいわね。魔女裁判というバッドエンドを回避しないと」


 そんな異世界ファンタジー何度も読んだし、このパターン通りにやれば上手くいくはずだ。


 ということでシャーロットの友達、メイド、親、婚約者を味方につけ、着々と魔女裁判エンドを回避していたものだが。


 この異世界の未来も全部知っているわたし。正直、優越感もある。地震、災害、殺人事件の日付をぴたりと言い当て、予言者ごっこも楽しんでいた。時には予言漫画も描き、荒稼ぎし、承認欲求も満たしていたが。


 魔女裁判にかけられることになった。未来がこんなに予知できるのは魔女だという誤解から暴動にまでに発展し、わたしの命はあっけなく散る。


「ねえ、なんで未来を知っているのにこうなったの?」


 ◇◇◇


 目覚めたら、また異世界に転生していた。今度は勇者だった。本当は「魅了」の魔法が使える勇者だが、パーティから追放されるらしい。名前はレギオンというイケメン。


「これは新天地で追放ざまぁをするパターンんよね。勝ちパターンってやつ。わかってるわ」


 正直、異世界転生も三回目になってきたら飽きてきたが、仕方ない。レギオンとして追放ざまぁを楽しもうかと思ったが、どうも新天地では調子に乗ってしまい、魔法を使って女の子と遊びまくっていた。


 すぐにハーレム状態になり、毎日モテキを楽しんでいたが。


「レギオン、許さない! この浮気男!」


 遊んでいた女に刺された。あっけなくお亡くなりになった。


「レギオン、ざまぁ!」


 ◇◇◇


 気づくと数百回も異世界転生していた。命も使い捨て状態だったし、異世界に転生しすぎた。今は令和の日本が恋しくなってくるぐらいだ。


 確かに異世界転生して楽しかったが、最後は上手くはいかない。わたしの思った通りにいかないんだ。調子に乗ったり、欲張ったりして、失敗した。


 もしかしたら、わたしのこういう悪癖が令和日本でも異世界でも上手くいかない原因だった?


「そういうことですか、神様?」


 三百回目転生し、殺された後、次の転生の前に神様に聞いてみることにした。白っぽくて顔はよく見えないけれど答えてくれた。


「どこに転生したって同じだよ。あなたが変わらない限り」


 全くその通りでぐうの音も出ない。


「そうですね。やり直したい、日本が悪いってばっかり言っていた。安易な方法にも飛びついて、副業詐欺やマルチにも騙されていたし」

「これさえやってれば上手くいくっていう方法なんてないからね」

「ですね……。楽して生きようとしてたわたしが悪かったんだと思います」


 素直に負けを認めると、神様、令和の日本に返してくれるという。


「さあ、今度こそ、心を入れかえて人生をやり直しなさい」

「え、ええ……」

「大丈夫。失敗自体は悪いことじゃないんだから。まだ遅くない」


 良い神様だ。ちょっと厳しい気もしたが、令和の日本に帰ったら、今の命を大切にして生きていきたいと思う。子供にも早く会いたい。


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