憧れの騎士様が解釈違いを起こして求婚してくる、最悪だ
「やっぱり麗しいわね、白騎士様たち…!」
「家柄も十分、白騎士様の嫁なんて自慢できるもの!」
「ええ、ぜひお近づきになりたいわ!」
騎士の公開演習には、いつものように令嬢がわんさか集まっている。
私、ヴェルナ・ゲルベルトも、令嬢たちの間に入って、ドキドキしながら見つめていた。
近衛騎士の制服は真っ白で、令嬢の間では白騎士と呼ばれている。
白騎士は、能力の他に身分と見目も大事だからこそ、令嬢たちはこぞって結婚相手にしたいと色めき立っている。
白がいれば、黒もいる。
黒い制服の騎士は、実力さえあれば平民でも騎士になれる、実戦部隊だ。
黒騎士たちは野蛮だからと、令嬢たちは目もくれないが。
黒い制服が、彼の勇ましさを引き立てているのよ…!
私の目に映っているのは、黒騎士のチェイス様だけだ。
今日もかっこいいわ、チェイス様…!
身分だけなら、チェイス様も白騎士でもおかしくないが、自ら黒騎士に志願したそうだ。
顔つきがいかつくて王女殿下に泣かれたという噂もあるが、あの顔がいいんじゃないの!
一度でいいから、あの鋭い目に睨まれてみたいものだわ…!
チェイス様の眼光でならず者も腰を抜かすらしい、素敵〜!
「ちょっと、黒騎士が1人こっちに来ますわよ」
「最悪ね、お呼びじゃないですわ」
「ねえ、逃げましょうよ」
令嬢たちがひそひそしている中、真っ直ぐにこちらに向かってくるチェイス様に釘付けだった。
チェイス様が、こっちに来ている…!
こんなに近くで見られるなんて、今日は運がいいわ!
「ゲルベルト嬢、俺と付き合ってくれないか?」
そして、なぜかチェイス様は、私の前で跪いたのだった。
「ど、どういうことでしょうか!?」
あまりの注目に逃げるようにチェイス様と移動してきたが、本当にどういうつもりだろう?
というか、チェイス様って私のこと知っていたの?
「あなたは、ヴェルナ・ゲルベルト嬢ではなかったか?」
「それは合っていますけど!」
「あなたは、俺と一緒にいても泣かないんだな」
「そりゃあ、対面するだけでは泣きませんが」
「やはり、あなたしかいない。俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「は」
思考が停止して、動きが止まり、言葉も止まって、ついでに時間も止まった気がした。
………あのチェイス様が、私に、結婚を前提の、交際申し込み???
「…………」
「公開演習にやってくる令嬢は、結婚相手を探していると聞いた」
「…………」
「同僚曰く、あなたはいつも俺を見ているらしい。俺は伯爵家の次男で、大した地位はあげられないが、俺と一緒にいても嫌な顔をしないのは、あなたくらいしか知らない。だから、よかったら──」
「…です」
「すまない、聞こえなかった。もう一度」
「解釈違いです〜〜〜!!!!!」
「は」
怖い顔がきょとんとしているのは可愛いが、そんなの困る!!!
「無理!無理です!チェイス様が、私に求婚とか、解釈違いです!嫌です!」
「…あなたは、俺のことが好きなのでは」
「好きです!だから、無理です!孤高の騎士様がこんなしょぼい令嬢に告白とか、そんなつまらない展開望んでませんっ!!!」
「言っている意味が…」
「あああ、厄日だわ、とんでもないわ…!私、何も聞いていませんから!失礼しますわ!」
逃げ足だけは自信があったけれど、さすがに騎士であるチェイス様にはすぐに追いつかれた。
うっ、私を追いかけるチェイス様なんて、もうやだ…!
「待ってくれ」
「もう勘弁してください…」
「好きなのに無理だという意味がわからないから、説明してくれ」
「…ですから、私のお慕いしているチェイス様は、黒騎士のチェイス様なんです」
「それは、俺じゃないのか?」
がっしりした手に腕を掴まれて請われるのは、令嬢の夢かもしれないが、私の夢はそれじゃない…!
「黒騎士様たちは、わざわざ令嬢を娶ったりされませんよね?」
「相手にされないからな」
「だから、安心して見ていられたのに…!」
「俺に、興味ないのか?」
「ありますよ!ありまくりですよ!私だって、行く末を見守っていたかったですよ!」
「だったら…!」
「最前線に立たされる時に、『生きて帰ってくるから、待っててくれ』とか言って、一途に思っている幼馴染に求婚する姿とか見たかったですよ〜〜!!」
「俺に女の幼馴染などいないが」
「チェイス様は、私には不釣り合いです!」
「それを決めるのは、君じゃなくて俺だと思うのだが」
うっ、その言い方はいい…!
それは、解釈一致かもしれない…!
いやいやっ、チェイス様に私の存在なんて知られたくなかった!
遠くから見ているのが最高だったのに…!
もう泣きそうだ…。
「…私なんかに求婚してほしくなかった」
涙声の私に、チェイス様は顔を引き攣らせて、手を離した。
その手が離れていって、ホッとする。
私を捕まえるチェイス様は、こう、違うのだ…!
とにかく、早く私のことは忘れてもらいたい!
「結局、あなたも泣かせてしまったな…」
眉を八の字にして苦笑いしているチェイス様に、思わずきゅ〜〜〜〜んとしてしまった。
それは、可愛いわ。
チェイス様の悲しそうな顔は、はじめて見たけど、とってもいいです!!!
「…ちなみに、あなたに求婚していいのは、どんな相手なんだ?」
「え?そうですね、どこかの貴族の後妻か、平民の息子あたりが妥当なのでは?」
「後妻は難しいが…、そうか」
「チェイス様?」
「では、俺が騎士でなくなったら、結婚に応じてくれるのか?」
「は」
チェイス様が騎士を辞める…?
こんな強い騎士がいなくなるなんて国の損害だし、私の楽しみがなくなってしまう。
私が応援したいチェイス様が、いなくなる…。
「そんなのもっと無理ですっっっ!黒騎士じゃないチェイス様なんていやだあああ〜〜〜!!!!」
私が喚くと、チェイス様は髪をガシガシ掻き乱して、ため息をついた。
「じゃあ、どうしろっていうんだ!俺はあなたがいいのに、俺が好きなら俺でいいじゃねえか!」
ギロリと、あの目で迫力満点に睨まれた。
それが、信じられないくらい、胸がギュッとなった。
チェイス様に、睨まれた…。
「………い」
私が震える声を出すと、チェイス様はしまったと顔を顰めた。
でも、怖い顔は仕舞えていなかった。
不器用さすら、隠せていない。
「わ、悪かった、ゲルベルト嬢!俺は目つきが悪いから、睨まないようにと同僚にも怒られていたんだが…!」
「…かっこいい」
「は」
「かっこいいです、チェイス様!私、チェイス様に睨まれるのが夢だったんです!」
両手を組んで、これ以上ないくらい喜んだ。
「こんなに鋭い睨みをきかせて、皆さんを怯えさせているのですか!?最高ですねっ!」
「…………俺は、あなたという人がどんどんわからなくなっていく」
「はああっ、黒い制服のチェイス様の怖い顔が拝めて、幸せです!」
「…では、やっぱり俺と付き合ってくれ」
「だから、それはっ」
「俺と付き合えば、この制服の俺が見放題だぞ」
「う」
「それにゲルベルト嬢は、俺に睨まれたいんだろう?だったら、俺は取り繕うことなく、あなたのそばにいればいいだけだ」
「それは…」
「お前にとっても、それは魅力的な誘いなんだろう?」
どうやら言葉遣いも取り繕わなくなったらしく、荒っぽい言い方が、ますますきゅんとした。
くらくらしてきた。
こんな色香たっぷりのチェイス様、知らない。
「俺にしとけ、ヴェルナ」
それは死ぬほど、かっこいいけど…!
「ぐうっ、うまいこと攻略してこないでくださいっ…!」
顔を真っ赤にして断るのが、私には精一杯だった。
──あんな大勢の前で告白されたものだから、父からも騎士団からも外堀を埋められていくことになるなんて、この時の私は知り得なかったのだった…。
了
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