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憧れの騎士様が解釈違いを起こして求婚してくる、最悪だ

作者: 有梨束
掲載日:2026/04/16

「やっぱり麗しいわね、白騎士様たち…!」

「家柄も十分、白騎士様の嫁なんて自慢できるもの!」

「ええ、ぜひお近づきになりたいわ!」

騎士の公開演習には、いつものように令嬢がわんさか集まっている。

私、ヴェルナ・ゲルベルトも、令嬢たちの間に入って、ドキドキしながら見つめていた。



近衛騎士の制服は真っ白で、令嬢の間では白騎士と呼ばれている。

白騎士は、能力の他に身分と見目も大事だからこそ、令嬢たちはこぞって結婚相手にしたいと色めき立っている。


白がいれば、黒もいる。

黒い制服の騎士は、実力さえあれば平民でも騎士になれる、実戦部隊だ。

黒騎士たちは野蛮だからと、令嬢たちは目もくれないが。


黒い制服が、彼の勇ましさを引き立てているのよ…!


私の目に映っているのは、黒騎士のチェイス様だけだ。

今日もかっこいいわ、チェイス様…!


身分だけなら、チェイス様も白騎士でもおかしくないが、自ら黒騎士に志願したそうだ。

顔つきがいかつくて王女殿下に泣かれたという噂もあるが、あの顔がいいんじゃないの!

一度でいいから、あの鋭い目に睨まれてみたいものだわ…!

チェイス様の眼光でならず者も腰を抜かすらしい、素敵〜!


「ちょっと、黒騎士が1人こっちに来ますわよ」

「最悪ね、お呼びじゃないですわ」

「ねえ、逃げましょうよ」

令嬢たちがひそひそしている中、真っ直ぐにこちらに向かってくるチェイス様に釘付けだった。


チェイス様が、こっちに来ている…!

こんなに近くで見られるなんて、今日は運がいいわ!


「ゲルベルト嬢、俺と付き合ってくれないか?」

そして、なぜかチェイス様は、私の前で跪いたのだった。





「ど、どういうことでしょうか!?」

あまりの注目に逃げるようにチェイス様と移動してきたが、本当にどういうつもりだろう?

というか、チェイス様って私のこと知っていたの?


「あなたは、ヴェルナ・ゲルベルト嬢ではなかったか?」

「それは合っていますけど!」

「あなたは、俺と一緒にいても泣かないんだな」

「そりゃあ、対面するだけでは泣きませんが」

「やはり、あなたしかいない。俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」

「は」


思考が停止して、動きが止まり、言葉も止まって、ついでに時間も止まった気がした。


………あのチェイス様が、私に、結婚を前提の、交際申し込み???


「…………」

「公開演習にやってくる令嬢は、結婚相手を探していると聞いた」

「…………」

「同僚曰く、あなたはいつも俺を見ているらしい。俺は伯爵家の次男で、大した地位はあげられないが、俺と一緒にいても嫌な顔をしないのは、あなたくらいしか知らない。だから、よかったら──」

「…です」

「すまない、聞こえなかった。もう一度」

「解釈違いです〜〜〜!!!!!」

「は」

怖い顔がきょとんとしているのは可愛いが、そんなの困る!!!


「無理!無理です!チェイス様が、私に求婚とか、解釈違いです!嫌です!」

「…あなたは、俺のことが好きなのでは」

「好きです!だから、無理です!孤高の騎士様がこんなしょぼい令嬢に告白とか、そんなつまらない展開望んでませんっ!!!」

「言っている意味が…」

「あああ、厄日だわ、とんでもないわ…!私、何も聞いていませんから!失礼しますわ!」

逃げ足だけは自信があったけれど、さすがに騎士であるチェイス様にはすぐに追いつかれた。


うっ、私を追いかけるチェイス様なんて、もうやだ…!


「待ってくれ」

「もう勘弁してください…」

「好きなのに無理だという意味がわからないから、説明してくれ」

「…ですから、私のお慕いしているチェイス様は、黒騎士のチェイス様なんです」

「それは、俺じゃないのか?」

がっしりした手に腕を掴まれて請われるのは、令嬢の夢かもしれないが、私の夢はそれじゃない…!


「黒騎士様たちは、わざわざ令嬢を娶ったりされませんよね?」

「相手にされないからな」

「だから、安心して見ていられたのに…!」

「俺に、興味ないのか?」

「ありますよ!ありまくりですよ!私だって、行く末を見守っていたかったですよ!」

「だったら…!」

「最前線に立たされる時に、『生きて帰ってくるから、待っててくれ』とか言って、一途に思っている幼馴染に求婚する姿とか見たかったですよ〜〜!!」

「俺に女の幼馴染などいないが」

「チェイス様は、私には不釣り合いです!」

「それを決めるのは、君じゃなくて俺だと思うのだが」


うっ、その言い方はいい…!

それは、解釈一致かもしれない…!


いやいやっ、チェイス様に私の存在なんて知られたくなかった!

遠くから見ているのが最高だったのに…!

もう泣きそうだ…。


「…私なんかに求婚してほしくなかった」

涙声の私に、チェイス様は顔を引き攣らせて、手を離した。

その手が離れていって、ホッとする。

私を捕まえるチェイス様は、こう、違うのだ…!

とにかく、早く私のことは忘れてもらいたい!


「結局、あなたも泣かせてしまったな…」

眉を八の字にして苦笑いしているチェイス様に、思わずきゅ〜〜〜〜んとしてしまった。


それは、可愛いわ。

チェイス様の悲しそうな顔は、はじめて見たけど、とってもいいです!!!


「…ちなみに、あなたに求婚していいのは、どんな相手なんだ?」

「え?そうですね、どこかの貴族の後妻か、平民の息子あたりが妥当なのでは?」

「後妻は難しいが…、そうか」

「チェイス様?」

「では、俺が騎士でなくなったら、結婚に応じてくれるのか?」

「は」


チェイス様が騎士を辞める…?

こんな強い騎士がいなくなるなんて国の損害だし、私の楽しみがなくなってしまう。

私が応援したいチェイス様が、いなくなる…。


「そんなのもっと無理ですっっっ!黒騎士じゃないチェイス様なんていやだあああ〜〜〜!!!!」

私が喚くと、チェイス様は髪をガシガシ掻き乱して、ため息をついた。


「じゃあ、どうしろっていうんだ!俺はあなたがいいのに、俺が好きなら俺でいいじゃねえか!」

ギロリと、あの目で迫力満点に睨まれた。

それが、信じられないくらい、胸がギュッとなった。


チェイス様に、睨まれた…。


「………い」

私が震える声を出すと、チェイス様はしまったと顔を顰めた。

でも、怖い顔は仕舞えていなかった。

不器用さすら、隠せていない。


「わ、悪かった、ゲルベルト嬢!俺は目つきが悪いから、睨まないようにと同僚にも怒られていたんだが…!」

「…かっこいい」

「は」

「かっこいいです、チェイス様!私、チェイス様に睨まれるのが夢だったんです!」

両手を組んで、これ以上ないくらい喜んだ。


「こんなに鋭い睨みをきかせて、皆さんを怯えさせているのですか!?最高ですねっ!」

「…………俺は、あなたという人がどんどんわからなくなっていく」

「はああっ、黒い制服のチェイス様の怖い顔が拝めて、幸せです!」

「…では、やっぱり俺と付き合ってくれ」

「だから、それはっ」

「俺と付き合えば、この制服の俺が見放題だぞ」

「う」

「それにゲルベルト嬢は、俺に睨まれたいんだろう?だったら、俺は取り繕うことなく、あなたのそばにいればいいだけだ」

「それは…」

「お前にとっても、それは魅力的な誘いなんだろう?」

どうやら言葉遣いも取り繕わなくなったらしく、荒っぽい言い方が、ますますきゅんとした。


くらくらしてきた。

こんな色香たっぷりのチェイス様、知らない。


「俺にしとけ、ヴェルナ」

それは死ぬほど、かっこいいけど…!


「ぐうっ、うまいこと攻略してこないでくださいっ…!」


顔を真っ赤にして断るのが、私には精一杯だった。




──あんな大勢の前で告白されたものだから、父からも騎士団からも外堀を埋められていくことになるなんて、この時の私は知り得なかったのだった…。





お読みくださりありがとうございます!  毎日投稿106日目。

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