近づく真実と罪《カヨン視点》
「ふぅん、茶葉が大麻の隠語の一つだったとはねぇ」
大麻のことでジユを再びヒョンスの下に行かせたところ、彼女は思いもよらない情報を手土産に帰ってきた。
......茶葉がこの宮廷内にて、密かに使用されていた大麻の隠語の一つだという事実を。
言われてみれば確かに、母は大麻を大麻と呼ぶのを好んではおらず、隠語という形で呼ばせていたという話は聞いたことはある。
その大麻が今もなおチェ家によって生産され、この国の中で流通しているのなら....とんでもない醜聞になるに違いないだろう。
いや、むしろチェ家が母が権力を握っていた時から大麻を取り扱っていたのなら、色々と納得できる節がある。
犯人は恐らく、大麻に対して何かしらの深い恨みを抱いている。
故にヘウォンに大麻入りのお茶を盛り、廃人にまで追い込んだ。
全ては、チェ家の犯した罪のために。
とか何とかカッコつけてみたけど、やっぱりこういうのは柄じゃないわね。
「はい。ヒョンス先生自身がそう言っていたので、間違いはないかと」
大麻を売り捌いていた一族の娘が大麻に汚染され、そして廃人となる。
何とも皮肉めいた話なのだろうか。
ただまぁ....親の罪が因果として子に降りかかるという点では、私と似ているかもしれないけど。
それに、狐憑きの噂が大麻に関する闇に繋がるとはジユも思ってなかったようで、その顔には面倒臭そうにしている表情を浮かべてはいるが、ほんの少しだけの正義感を抱いているように見えた。
「これがもし本当なら、チェ家にとっては相当な醜聞になるわね」
「と言うよりかは、お家取り潰しもあり得ますね」
全ての元凶である父と母が亡き今、この国を混乱の渦へと堕とした原因の一つである大麻は規制され、使用したり売るだけでもお縄に付く程に危ない代物として知られている。
そんな物を今もなお生産し、売っているのだとしたら.....チェ家は相当な悪党ということになる。
ソングン兄様のことだから、このことを知ったらきっとチェ家の人々を全員処刑するに違いない。
けれども、犯人はそれを良しとはしなかった。
正確に言えば、犯人の心情がそれを許さなかったのだ。
犯人は、いわゆる一個人の想いというやつで衝動的にこの計画を実行したのかもしれない。
人間という存在は、例え理性があったとしても....何かしらのことでその制御が外れ、暴走してしまうのだから。
「ジユ、この一件は既に内命婦には伝わっているの?」
「えぇ、その可能性は高いと思います」
そう言うジユの顔には、今後の展開的に内命婦に所属する人々に、立場的には上の女官達に色々言われることを察知していたのか、面倒臭そうな表情を浮かべていた。
内命婦は主に王族・王妃・側室に使える侍女、そして女官達が所属する組織なのだが、厳しい階級制度があるがために権力争いも当然ながら存在する。
ただ、私という存在に仕えているジユ自身はその争いとは関係ないみたいだけど。
それでもなお、私に仕えているという理由で彼女に突っかかる侍女や女官と少なくない。
そのため、ジユは今回の一件で内命婦から茶々を入れるなと言われることを予感していたのだ。
「となると....内命婦経由でソングン兄様の耳に入って、狐憑きの調査が始まる可能性もあり得るってことね」
「ソングン様のことですから、きっと小さな異変ですら見逃さないと思いますよ」
あの真面目なソングン兄様のことだから、きっと今回の一件で大麻が使用されたことを知れば、より一層取り締まりを厳しくするかもしれない。
それこそ、場合によっては大麻を販売した者に対して極刑を言い渡す可能性だってある。
現にソングン兄様が王になって以降、大麻を使用することや販売すること、あるいは使用することは重罪に等しい扱いになったのだ。
ただ、この事件の犯人はそれ云々を差し引いてもチェ家に制裁を加えたかったのだろう。
わざわざ、お茶に大麻を混ぜてヘウォン様に飲ませるぐらいだから、その恨みは私が想像できない程のモノだとしてもおかしくはない。
だって、人間の憎悪は一度動き始めたら二度と止められないモノなのだから。
「仮にそうだったとしても....その後はどうなるのかしら?」
今回の事件は....いや、今回の事件の犯人はチェ家を裁くために狐憑きという種を蒔き、そしてそれが事件として芽吹く時を待っていた。
その結果、チェ家が迎えるのは王からの裁きと名門貴族の醜聞という名の末路。
今後下されるであろうこの二つの罰は、チェ家を失墜をさせるのには最適解なのは間違いない。
けれども、知らず知らずのうちに大麻を摂取し続けた末に廃人となり、もはや下級妃として意味を成さない状態となった彼女に待つのは、王の命によって果たされる安らかな眠りだけ。
実行犯はともかく、この一件の首謀者はそうなることを目論んだ上でヘウォン様に大麻を盛り、そうなるように仕向けたのだ。
こういう遠回りな方法は時間が掛かる反面、ゆっくりじっくりと効くことが多い。
要は、復讐という名の嫌がらせをするにはこういうやり方が一番効果的なのだ。
「つまり、狐憑きの一件の首謀者はチェ家の血筋を徹底的に潰すためにこんなことを?」
「そう考えるのが妥当ね」
勘の良い上に飲み込みの早いジユは、恐らくはこう考えたに違いない。
例え、チェ家の闇を告発したとしたとしても....その言葉は戯言として片付けられ、そして忘れ去られることを。
もし、首謀者がそのことを理解した上で狐憑きという事件を巻き起こしたのなら
「チェ家の闇は想像以上に深いってことかしら?」
いずれにしても、ソングン兄様が動いたとしても捕まるのはヘウォン様に大麻を盛り、廃人にまで追いやった実行犯だけ。
狐憑きという騒動を巻き起こした首謀者は、ヘウォン様の一件を皮切りに大麻に関わった貴族達を抹殺するつもりなのだろう。
あまり褒められたやり方ではないけど、このやり方ならば自身の手を汚すことなく、後宮内に蔓延っていた闇を暴ける。
ある意味では自分勝手ではあるものの、ある意味で賢い手段とも言える方法と言っても過言ではない。
「はてさて....この事件の行き着く先に何があるのやら」




