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初日からどうなることかと思ったけれど、ひとまず受け入れてもらえはしただろう。明日は何をするのだろうか。婚儀の衣装合わせは絶対にするわよね。それから、段取りも確認しておく必要がある。二人で挙式を行うかどうかも決めなきゃ――。
「……お母様たちはどうせ来ないでしょうから」
フェリノスは幼いころに母親を亡くしており、つい最近先代である御父君を天国に送り出したところだ。どちらの葬式にも父母が参加していた。彼らにも人の心はあるようで、母親なんかは涙を隠そうともせず、父親に支えられながらでないと歩けなかったようだ。二人を移動魔法の陣まで見送ったのを覚えている。
そのため、エルヴノールの現当主はフェリノスである。
彼には親族はいないから、二人きりで行うほうが自然であろう。私もその方が都合が良い。
とはいえ家同士のつながり、そして王国の鎮守を担う一族としてのつながりがより強固になる婚姻だ。招待客について揉めるわけにはいかない。
――どんな決断であるにせよ、彼の意向には逆らわず、言うことを聞こう。
フローラのいやらしい笑みが脳裏を過る。
所詮私は使い勝手の良いヴィレオン家の駒でしかない。余計なことは考えずに、ただひたすら目の前の現実だけを見て、対処していくほかない。
偽物とはいえ、妻としての役割を果たさなければ。この家を追い出されるわけにはいかないから。
しばらくふかふかのソファに身を沈めたあと、湯殿へ赴いた。もたつきながらドレスを脱いで、生まれてこの方こんなに長い時間をかけたことがないくらいゆっくりと湯浴みを済ませた。
リナリアが用意してくれていた夕飯は、涙が出るほど美味しかった。こんなにまともな食事をとったのは18年生きてきて初めてだ。ワンプレートの軽食ではあったものの、腹も心も満たすにはじゅうぶんだった。
これもまたゆっくりと時間をかけて、味わいながら全てを平らげた。
一人寝にしては大きすぎる、天蓋付きのベッドに横たわる。肌触りの良いシーツと掛け布団が温かい。
食べてすぐ寝るのは身体に悪いと聞いたことがあるけれど、今日の初めての食事だったのだ。加えて思った以上に緊張していたのか、案外眠気はすぐに訪れた。
内扉の下の隙間から灯りが漏れていた。部屋の向こうとはいえ、隣に人がいることが新鮮で、なんだか落ち着かない。
(フェリノスはまだお仕事をしているのかしら?)
役立たずと言われた私だけど、フェリノスの役に立てるかな。
私の部屋も消灯しなきゃ。でももう、身体を起こすだけの体力がない。布団の柔らかさに包み込まれる至福をもっと享受していたい。動きたくない。
掛け布団を握り締め、私は抗うことなく夢の世界へ旅立っていった。
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