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魔物が一直線に私に向かって突撃してくるのが見えて、咄嗟に風で壁を作った。魔物の輪郭が風に煽られて揺らいでいる。よく見たら実態を持っているわけではなさそうだった。
(瘴気がただ形を成しているだけ……? フローラの魔力で物理的な攻撃が可能になっているのかも)
そこまで考えて、魔物が風を割いて来ようとしていることに気が付き、魔法を解くと同時に上に真横へ身体を投げて激突を避ける。
「フローラ!」
「うるさいうるさい! あんたなんか最初っから鬱陶しかったのよ! さっさと消えてったら!」
「……っ!」
瘴気の衝撃波が繰り出されるのを、必死に転げまわって避ける。あれに当たったら確実に死ぬ。
呼吸がしにくい。手足が震えて、魔力を維持できなくなっている。
外側に展開している魔法にほころびが生じ始めているのもわかっていた。時間はあまりない。拳をぐっと握り締めて、ありったけの風魔法を身体の周りに展開させた。
(あれに実態が無いのだとしたら、風でなぎ倒して崩せばいい)
最後の力を振り絞って、そのまま魔物に突進する。
「アリア!!」
フェリノスの絶叫が聞こえる。
死を纏う存在に自ら突っ込んでいくのだから、悲痛な叫びが聞こえても仕方ない。
黒い質量に押し負かされそうになるのを踏ん張って、踏み込む足に力を入れた。霧散した魔物の身体を突っ切って、フローラに抱き着く。
魔力が一番漏れ出ていたへその下に手をあてて、衝撃破を送り込んだ。
「うぐっ……」
フローラの魔力が外に出ないように、無理やり蓋をする。荒療治だが、今自分にできることはこれぐらいしか思いつかない。気絶したフローラが地面に崩れ落ちるのを支えながら、私もその場に膝をついた。
魔力供給ができなくなった魔物が、瘴気を散らしながら空中に消える。同時に、魔法を維持できるだけの体力を失ってしまって、地面に倒れ込んだ。
風の壁がなくなって、いろんな足音がこちらに駆け寄ってくる音が聞こえる。
「アリア、君はなんて無茶を……っ」
フローラなんて見もせずに、いちばんに抱き起してくれたフェリノスの行動に思わず笑いがこみ上げた。
「本当に、私しか見てないのね」
「何度も言ってるだろう! 瘴気に当てられたんだな、ちょっと待ってろ、リュシェル」
「はいはい、わかってるよ! そこに寝かしてやんな。フェリノスは離れて。……邪魔!」
いつまでも私を離そうとしないフェリノスの額を、ベチンと叩いて一括したリュシェルが、私の頭上から胸のあたりに手をかざした。途端にじんわりと熱くなる身体。奥の方をくすぐられるような感覚に、身をよじった。
「じっとして」
すかさずリュシェルが窘める。
この感覚は一度経験したことがある。
(回復魔法だ……。でもフェリノスのとはちょっと違う感じがする)
もっと温かくて、生命力がみなぎってくるような、傷口だけじゃなく細胞のひとつひとつを蘇生していくような、そんな感覚。
心地が良くて、その温かさに身を預けている間に、私は意識を手放した。
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