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「身代わり婚で死罪確定」だったはずが、〝氷の鉄仮面〟に溺愛されてます。~虐げられてましたが反抗します~  作者: 鷹咲
10話:魔物討伐会とフローラの企み

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2-5


 そのうち彼はにこりと微笑むと、踵を返して森の中に消えて行ってしまった。



「……アリアストラ。大丈夫か?」

「ええ――」



 妙な雰囲気を持つ人だ。あの人には隠し事ができないような気がする。

 フェリノスの手が私の前髪をかきあげた。心配そうな表情でこちらを覗き込んでくるフェリノスの頬に手を当てる。



「何も無いわ、大丈夫よ」

「そうか。それならいい。それじゃ、行こうか」



 既に皆は散ってしまったようで、合流地点には私とフェリノスだけが残っている状況だった。


(足並みを乱してはだめよね)


 ぐっと腹に力を入れて、覚悟を決める。

 剣を鞘から抜いて、森の奥に入っていくフェリノスの後を追った。




――――――


(何か、おかしい)


 何がおかしいかと言うと、一太刀で倒せるような魔物が現れない。それどころか、中級レベルといえるような魔物の数があまりにも少ないような気がする。だたし、出会った魔物はどれも癖が強くて、フェリノスでさえ手こずっている状況だ。

 魔物討伐ってこんなものなの?



 「アリア!」



 フェリノスの呼び声で、切れかけていた集中力をなんとか取り戻して、目の前に迫ってきている板状の魔物を真正面から受け止めた。刃の方を向けて構えたおかげで、魔物の真ん中から真っ二つに裂けていったものの、姿を変形させて私の身体に巻き付こうと、裂けたものが四方から飛んでくる。


 身体に触れられる前に、膝を曲げて大きく真上へ跳躍した。風魔法を足の裏にたたきつけて空中に身を投げる。フェリノスが氷の円柱を足元に展開させたのが見えて、躊躇なくその上に降り立った。


 手のひらをかざして、構築した金属の杭を前方の魔物に適当に突き刺す。杭を経由して魔物の身体を探り、核の在処を突き止めた。

 殺されると察知したのか、魔物が空高く舞い上がって逃亡を図った。足元に次々に展開される氷円柱を踏みしめて、魔物めがけて走り込む。



(核がものすごくわかりにくい場所にある魔物ばかりだ。今まで倒してきたやつも皆逃げようとしてた。魔物の主食は人間の魔力のはずなのに――……)



 氷を蹴って、魔物の身体に飛び移った。黒と白の混沌としたまだら模様の身体に剣を突き刺して核を破壊する。

 魔物が塵となって消えた途端に、次の魔物が現れた。透明の状態から、いきなり姿を現した大きな口。構造は人間のそれと同じだが、顔じゃない。口そのものが大口を開けて、私の身体を飲み込もうとしている。

 鋭くとがった氷柱(つらら)が何本も、〝口〟を貫いたのが見えたと同時に、身体がぐんと下に引っ張られて思わず息を止めた。

 背中から地面に落下していくが、なぜか体勢を変えられない。


(え、なに、どうして!? 誰の魔法なの? このままじゃ受け身すら取れない……っ)


 ちらりと視線を下に移す。勢いは止まることなく、背中を打ち付けたのは地面――ではなく。



「アリア……!」

「っ! ……フェリノス……!?」

「良かった、間に合った」



 私を抱きとめたフェリノスが、私を横抱きにしたままその場に蹲った。息が荒い。ここまで走ってきてくれたんだろう。

 パニックになっていて思いつかなかったが、風魔法を緩衝代わりに展開すればよかったと気付いて、罪悪感で胸がいっぱいになった。


(無駄に走らせてしまった……!)



「ごっ、ごめんね、フェリノス。ありがとう」

「君が無事で良かったよ」



 ぎゅっと抱き締められる。

 相変わらず優しい人だ。フェリノスの首に腕を回して、私も抱き締め返した。



「いちゃいちゃするのはもっと後にしなよ」

「きゃっ!?」

「おわっ」



 フェリノスと引きはがされる形でふわりと身体が宙に浮く。今まで居た場所に、新たな魔物が地面から出現したのを認識して、ぞっとした。


(あのままあそこにいたら、私達、今頃――)


 ふわりと足から着地する。振り返るとテラヴィが両手をこちらにかざして、呆れた顔をしていた。



「ありがとう、テラヴィ。助かったわ。……これ、あなたの魔法?」

「うん、そうだよ。重力を操る魔法」

「なるほど」



 空中で私を引っ張って落下させたのも、地面に引き付ける魔法をテラヴィがかけたのだろう。

 魔物を逃がしたフェリノスが戻ってきて「何か変だ」と呟いた。その言葉に、テラヴィが言葉なく頷く。



「一筋縄ではいかない魔物が大半を占め過ぎている」

「それに、やられると分かったら逃げていくの」

「アリアストラの魔力に呼ばれてるんだろう」



 テラヴィがそう言い放った。



「アリアの……? どういうことだ?」

「うーん。うまくいえないんだけど、アリアストラの魔力が希少……? なんだと思う。だから希少な魔物が引き寄せられるんだ。なんにせよ逃げていくってことは、魔物討伐の意味をなさなくなる。困ったね」



 テラヴィの目が、意味ありげにこちらを見やる。

 にわかには信じられない言葉の羅列に、私は眉をひそめた。



「アリアストラの魔力が希少って、どういうことだ?」

「フランヴェル」

「盗み聞きじゃないぞ。()()()()を辿ってきたらお前らんとこにたどり着いただけだ。それで、希少って、なんだ?」



 フェリノスと一緒になって、テラヴィの説明を促すように目顔で訴える。



「希少っていうか、魔力の濃度がやたらと濃く感じるんだよね。僕らは生まれてからずっと魔力を少しずつ解放しながら生きているから、濃度も一定だけど……君は違うよね?」



 核心を突かれて、どきりと心臓が跳ねる。

 特に隠していたわけではなかったが、気づかれるとは思っていなかった。まさか魔力に濃度という概念があるだなんて。

 フェリノス曰く、私は最初から魔力を持っていたというし、魔力が使えなかった理由は、経絡が塞がっていて思うように体外へ排出されなかったためだ。だから後天性のものというわけではないし、何も悪いことではないと思っていたけれど、こんな弊害が生まれるとは思ってもみなかった。

 説明を求めるように、皆の視線が一斉に私とフェリノスに向いた。

ーーどこからどう説明するべきかしら。

 死罪を免れたくて剣を握ったら魔力が開花した、なんて言っても余計に混乱させるだけだろう。

 剣のグリップをぎゅっと握り締めて逡巡していると、テラヴィの後ろから見慣れた白銀の髪がゆらめいた。



「――ええ、そうよ。お姉さまの魔力はつい最近、開花したんですの」



 歪に口角をあげていやらしい笑みを作ったフローラが、茂みの奥から顔を出した。



「お姉さまの魔力が仮に私より高かったとしても、魔物が逃げていくんじゃ、王国の鎮守の役割を果たせませんわよね。魔力制御もまだ慣れていないようだし、魔力暴走を起こす危険性だって捨てきれませんでしょう?……〝私たち〟の輪を乱すような危険因子は、〝排除〟してしかるべきだと思うんですの」






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