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「身代わり婚で死罪確定」だったはずが、〝氷の鉄仮面〟に溺愛されてます。~虐げられてましたが反抗します~  作者: 鷹咲
10話:魔物討伐会とフローラの企み

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1-5


 魔物討伐会当日。 天気はあいにくの曇天。

 魔物が一番好む場所とされる山の渓谷に、5大公家当主、次期当主、各家ごとに小隊規模の騎士団が終結した。渓谷の入り口から離れた場所に宿営地を設置し、拠点の陣に家紋の旗を掲げる。

 王の名代である政務官の挨拶も終わり、いよいよ魔物討伐が始まる――


(気持ちが落ち着かない……)


 渓谷に向かって歩く足取りは決して軽いものではなかった。今日のために仕立ててくれた甲冑の装具が重いというのもあるのだろうが、それとは別の、明確な理由がある。



「君がフローラのお姉さん? 本当に双子なんだねぇ」


 そう言ったのは、穏やかな喋り方で温厚そうだが掴みどころがない『土』の次期当主――テラヴィ・バルドラ。



「見た感じ、フローラよりも魔力が強そう。さしずめ、ヴィレオン家の隠し玉ってとこかしら? オルティス大公もなかなか策士ね」


 中世的な顔と声をしているのに妖艶な雰囲気を醸し出している『木』の次期当主――リュシェル・シルヴァ。



「この年になるまで双子の存在を隠し通すとはなぁ!」


 地響きが起こりそうなほど豪快な笑い声を放つ、筋骨隆々で身体の周りに熱気を纏っている『火』の次期当主――フランヴェル・イグドラン。



「アリアストラは見世物じゃないぞ」


 私のことをじろじろと見られるのが気に食わないのだろう。肩を抱いて引き寄せてきたのは『水』の当主――フェリノス・ノア・エルヴノール。



「あらぁ~! 守られてばかりじゃ簡単に死んじゃうわよ、お姉さま」


 か弱い振りを辞めたのか、みんなの前で煽るように私の顔を覗き込んでくるのは『金』の次期当主――フローラ・ヴィレオン。



 今から魔物を倒しに行くというのに、なぜか盛り上がりを見せている5大公家の次期当主たちが、一堂に会しているからである。



 初対面だというのに、このわちゃわちゃに慣れていける自信がない。緊張で胸が張り裂けそうだ。

 皆は幼少期から常に顔を合わせているから、それぞれの性格も良く知っているし、魔法の特性なんかも把握している、気の知れた仲だろうが、私は違う。

 皆にとって私は、突然姿を現した〝フローラの姉〟なのである。



「フェリノスのところが婚姻を延期したって聞いて、やっぱりなと思ってたら、何がどうなってこうなったんだ? 姉に鞍替えか? お前もたいがい失礼なやつだな! あとそれ王命違反じゃね?」

「俺は最初からアリアストラしか見てなかったんだぞ。お前こそ失礼なことを言うな、フランヴェル」

「フェリノスは随分と感情を表に出すようになったんだねぇ。アリアちゃんのお陰かな?」

「ちゃん付で呼ぶな、テラヴィ」 

「あんたやってることマーキングみたいだよ!」



 リュシェルがけらけらと笑う。


(賑やかな人たちだな……)


 フェリノスの腕に閉じ込められたまま、頬が赤くなっていくのを感じる。こんなに注目されるようなことなんか今まで一度もなかったから、どういう返答をすればよいのかわからない。奇異の目で見られるのはしょうがないとして……。

 私は魔物を討伐しに来て、その力量を政務官に見せることで、王命を白紙に戻してもらうという目的があるのに。


 でも、慣れるかどうかは別として、こうして次期当主たちと交流を持てること自体は、心の底では嬉しいと感じてはいた。

 何せ私はずっと〝存在してはいけない〟人間だったのだ。フローラの陰に隠されて、表に出ることを許されなかった人生だった。

 本当は皆に会ってみたかったし、話してみたかった。だから今は、戸惑いの気持ちの方が大きいけれど、この輪の中に入ることで私もちゃんと、ヴィレオン家の人間だと振る舞うことができて誇らしく思う。


(何者にもなれなかったのが、何者かになれた事実が嬉しい)


 ひとり幸せな気分に浸っていると、ちょいちょいと肩をつつかれた。



「抱かれたまんまで歩きにくくない? アリアストラ。こっちにおいでよ」

「あ、はい」



 リュシェルが優しく私の腕を引いて、フェリノスの腕の中から引っ張り出される。フェリノスも察してくれたのか腕の力を抜いてくれて、少しだけ名残惜しそうに私に視線を投げてよこした。

 その視線にめざとく気付いたフランヴェルがニヤリと口角を上げる。



「執着系男子は好かれないぞ~!」



 彼の余計な一言で、フェリノスの纏う空気が氷点下まで下がった。

 テラヴィがやれやれと首を横に振る。



「君たちはほんとに……一瞬でも仲良くしようとは思えないのかな」

「しょうがないでしょ、テラヴィ。火と水は相性が悪いのよ」



 フローラが心底どうでも良さそうに、あきれ返るテラヴィの肩をぽんと叩いた。

 それもそうか、と、切り替え早くテラヴィが歩を進め、フローラと並んで先導を切った。



「……どう? 私ら、全然纏まりがなくて、ただ騒がしいだけでしょう」



 リュシェルの言葉に、苦笑しながら小さく頷く。



「でも、楽しい……です。こうやって皆と肩を並べて、王国の鎮守に貢献できる日がくるなんて思ってなかったから……。皆さんからしてみたら、私はぽっと出の存在でしょうけれど」

「そうだね。君、誰? って言われてもおかしくないぐらいの人間だものね、あなた。おまけに、姉妹で一人の男取り合ってるし」

「とっ、取り合う……!? 取り合ってません!」

「あはは! 冗談だよ。それと……あんたもヴィレオン家の人間なんだから、もっと気軽に話してごらんなさいな。誰も責めないよ」



 リュシェルが、自身のエメラルドグリーンのショートヘアをかきあげて柔らかく微笑んだ。

 その優しさがありがたくて、心が温かい気持ちに包まれる。


 皆からしてみたら私なんてただの異端の存在だろうに。同じ大魔法使いの家の生まれだからと、敬遠するでもなく、腫れ物に触るでもなく、最初から身内として認識してくれて、当然のように輪の中に入れてくれる。


 受け入れてくれている。――そう感じた。

 にやけてしまう表情を隠したくて、少しだけ俯いてひたすら歩を進めた。


 

 やがて開けた場所に辿り着き、一行は足を止める。先に到着していたフローラが「遅い!」と一言文句を垂れた。

 テラヴィが手を叩いて、皆の気を引いた。



「ここが合流地点だ。今からはそれぞれ四方に散って、思う存分、魔物を狩ってきてくれ」 

「久々の討伐で腕が鳴るぜ! 何体倒したか勝負するか? フェリノス!」

「しない」

「アリアストラはフェリノスについて、彼の動きを見ているといい。まぁ、君なら、最初からひとりでも問題はなさそうだけどね」



 テラヴィの、土色の瞳に緑やオレンジの虹彩が散りばめられた不思議な目に見つめられる。身体の奥深くまで見透かしてくるような目線で居心地が悪いのに、不思議と目が離せなかった。


 彼の言葉の意図がわからず、警戒心を強めてテラヴィの目を見つめ返す。




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