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自分から求めておきながら、次第に濡れていくアリアストラの目が官能的で参った。細くて薄い腰を掴むと、それだけでアリアストラの身体がびくりと跳ねる。
そのまま抱き上げて布団に引きずり込もうかと思ったが、タイミング悪くノックの音が鳴り響いた。
「失礼します。お食事をお持ちいたしいいえええああ!? ししししっししつ失礼いたしました母の腹の中から出直してきます!!!」
「出直し過ぎだ。落ち着けリナリア」
パニックに陥ったリナリアが、ワゴンと自分の身をありとあらゆるところにぶつけながら、一生懸命部屋を出ていこうとしている。
ガンゴンと不吉な音が鳴って痛々しい。
猛獣をなだめるように声を掛けて、取り乱したリナリアがいったん身体の動きを止めた。
そしてぶわっと泣き始める。
ぎょっとしたのはアリアストラも同じだったようだ。
「い、いやなところを見せてごめんなさい!」
いやなところってなんだ。
リナリアから、上体を起こしたアリアストラに視線を移す。俺の視線の意味に気が付いたのか、彼女は「あっ」と言って、ぱっと口元を手で隠した。
「ちが、違うんです、私がいやだったんじゃなくて……!」
「いやじゃなかったなら、いい」
アリアストラの上から退いて、座り直す彼女を支えた。
リナリアが控えめに「よ、よがっだあ」とうめいた。
「私、奥様がいなくなってしまうのかと思って、本当に本当に心配していたんですぅ」
「リナリア……私はあなたを泣かせてばかりね」
「奥様ぁ」
涙と鼻水で顔面をずるずるにしながら、アリアストラに抱き着くリナリアにそっとハンカチを手渡した。
そういえば、フローラがこの部屋に訪れたごたごたに、リナリアがいた気がする。
話を全部聞かれていたはずだ。
ちょうどいい。
「リナリアには全部話すが、問題無いか?」
「……ええ、そうね。いずれお話はしないとと思っていました」
リナリアをソファに座らせて、俺はかみ砕いて一連の出来事を話して聞かせた。
「――そんなわけで、アリアは本来の俺の妻ではないが、魔物討伐会で王命を白紙に戻してもらう予定だから、リナリアは今までと変わらず俺の妻としてアリアを手助けしてやってくれ」
「事情はわかりました。精一杯、務めさせていただきます! オルティス大公様に言ってやりたいことはたくさんありますが、呑み込む代わりに私が奥様を守り抜いて見せます!」
「俺の役目を取らないでくれないか」
全く。元気が良すぎても困る。
俺たちのやり取りの何が面白いのか、アリアストラはくすりと肩を揺らした。
「エルヴノール城のみんなは団結力が高いと聞いていましたけれど、なんとなくその理由が今わかりました。仲良しなのですね」
「はい! 私たちは皆、ご主人様が大好きなので!」
リナリアの屈託のない笑顔で言い切った言葉に、面食らって身体が固まる。
「奥様が来られてから、ご主人様が活き活きしはじめてきたねと、皆で喜んでいるのです。お二方が魔法陣で移動されてから、私、気が気でなかったのですが……ハル様が「アリアストラ様は、フェリノス様が長年想ってきた方を妻にできると浮足立っていたのだから、何事もなく帰ってくる」と私を慰めてくださって……!」
「あいつ…………」
後でしめる。
妻にできると、俺の心情をかいつまんでぽろっとこぼしてしまったのは確かだが、何も言いふらすことないだろう。
じんわりと赤らむ頬を誤魔化すように、脳内でハルの頬を思いっきりビンタした。
アリアストラがじっとこちらを見上げているのがわかったが、必死に平常心を取り繕う。言ってることは別に間違ってないのだから。それが周知事実になってしまっただけのことで。
リナリアの口はまだ止まらない。
「先ほど、ご主人様が奥様に跨っておられるのを見て、私は本当に嬉しかったのです。ご主人様にも、ようやく血が通ったのだと……!」
「言い方どうにかならんか?」
跨るとか、血が通っただとか、主人に対しておおよそ言っていい言葉ではないだろうに。なかなか度胸のある侍女だ。
アリアストラ、声を出して笑うな。……可愛いからいいけど。
「氷の鉄仮面と社交界ではそう呼ばれているのは存じておりました。ですが今は……その氷は溶けたようですね。お二人を心から祝福いたします」
「ありがとう。君をアリアの侍女に選んだのは正解だった。これからも彼女の良き理解者になってくれ」
「私からも、ありがとう、リナリア。私のために泣いてくれるのはあなただけよ」
「奥様~!」
部下と妻が仲が良いのはいいことだ。
しかしいつまでも抱き合っている必要はないだろう。
アリアストラの腰を掴んで、べりっと引きはがす。
「夕飯を持ってきてくれたのだろう。俺の分もあるのか?」
「ええ、もちろんでございます! 準備いたしますね」
「頼む」
目の前でせわしなく準備を始めるリナリアを視界の端に入れながら、俺はしっかりとアリアストラの肩を抱いた。
「……この状態でお食事をなさるおつもりですか?」
「知ってるか、アリア。俺は両利きなんだ」
「もう……」
顔を赤らめて俯いてしまったアリアストラの頭に一つキスを落として、リナリアの準備が終わるのを待った。
時折小さく「尊い……」という唸り声が聞こえてきたのは無視しておこう。
雰囲気がえtt
非情に妖艶で心の健康に良いですね。
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