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膝に乗せたままの、アリアストラの髪を撫でる。
彼女はくすんでしまったと言ったが、あの頃と変わらない、冬の夜の月明かりによく映える白銀の色だ。
「……パーティーで初めて会ったときから、わかっていたのね」
「最初から君を妻にしようと思ってたって、言っただろう?」
「その〝最初〟がいつの話なのかわからなかったの……。あのパーティーには、私は参加しない予定だったのよ。でもフローラに無理やり連れて行かれて、お父様もお母様も私の存在をなかったことにしたがっていたのは知っていたから、なるべく目立たないようにしたかったのに……」
「…………聞けば聞くほど、腹が立つ。没落させることもできるんだぞ」
「そうしたら、国の鎮守としてのバランスが崩れてしまうわ。それに、フローラもお父様もお母様も、魔法使いとして優れた人たちであることには間違いないもの」
「アリアストラ……」
君と言うやつは。
あんな風に虐げられて、家族なのに居場所がない状況で、どうしてそこまで寛大になれるんだろう。
常にひとりで寂しい思いをしていたに違いないのに。昔の自分を思い出して胸が苦しくなる。
「今まであなたと喋ったことも忘れていたのに、思い出せなくてごめんなさい」
「いや、いいんだ。君が生きるのに精一杯だったことが、さっきわかったから。俺のことを忘れていても無理はない」
「優しいのね」
「優しいのは君の方だ。あの時、俺の心は随分と救われたんだ。俺の気持ちを理解してくれる人がひとりでもいるんだとわかって、それだけで頑張ってこられたから。ありがとう、アリアストラ」
彼女の身体を引き寄せて、抱き締めた。遠慮がちに、でもしっかりと腕を回して抱き締め返してくれる。
それだけで心が爆発しそうだった。
「アリアストラ、好きだ。――君を愛してる」
みっともないぐらいかすれた声で、最大級の愛を伝える。
「大好きだった子を妻にできると思って嬉しかったんだから、俺から離れるとか言わないでくれ」
「……私を、裏切らない? 騙された腹いせに、私を安心させてから陥れるようなことはしない?」
「絶対にしない。神に誓ってしない。俺は最初から君しか見ていない」
アリアストラの身体がゆっくりと離れていく。
琥珀よりも深い金色の瞳が、涙で潤んで輝きを増していた。そのまなざしがとても綺麗で、手を伸ばして雫を掬い取る。
「私も、〝私〟を見てくれたあなたに惹かれてるの。あなたに裏切られたら耐えられないって思うぐらい。でも、依存してるみたいでちょっと嫌なの」
「どうして。依存してもいいじゃないか」
「それは嫌。あなたがいなくなっても、一人で立てるぐらい強い女になりたいの」
〝あなたがいなくなっても〟――アリアストラの言葉に、俺の口角が自然と上がっていくのを自覚した。
彼女の手を取って、指先に口づける。
「アリアストラ、ちゃんと言って」
「フェリノス……」
顔を真っ赤にさせたアリアストラの瞳が揺れる。
「アリア」
――君の本心が聞きたい。
俺の願いが届いたのか、アリアストラがゆっくりと口を開いた。
「フェリノス、あなたが好きよ」
アリアストラの髪が頬を掠めた。少しだけ震えている唇のぬくもりが、なぜか左頬に感じる。
抗議の目を向けるが、彼女はぷるぷると震えて、身体ごと俺から視線をそらした。
「…………アリア」
「……こっ、これが私の精一杯なの……っ!」
しまいには膝の上から逃げようとした彼女を捕まえて、そのままソファに押し倒す。
アリアストラの唇に噛みついて、思う存分、むさぼった。




