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「身代わり婚で死罪確定」だったはずが、〝氷の鉄仮面〟に溺愛されてます。~虐げられてましたが反抗します~  作者: 鷹咲
8話:【フェリノス視点】君を好きになった日

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3-5


 ヴィレオン家の馬車であることは、彼らの魔法の特徴が気配から滲み出ているのですぐにわかった。だが乗っているのはどうやらフローラではなさそうだ。

 彼女であるなら、そもそも馬車移動などしないだろう。魔法陣が使えるのだから移動魔法でこちらまで来るものだと思っていて、外の門には誰も待たせていない。

 慌ててトンネル状の膜を道中に張って、積雪の中でも馬車が円滑に通れるように魔法をかけた。


(アリアストラかもしれない)


 なんとなくそう思った。そうだとしたら大問題だが……そうだとしても、帰すつもりはなかった。

――同じ後悔を繰り返したくはない。

 エルヴノール城の門は、魔力のある者が触れば開くようにはなっている。とはいえ、俺の許可がないと物理的に入れはしないのだが。

 その門が、目の前でゆっくりと開いた。

 白銀の髪が風に揺れて、俺を見透かした黄金の瞳が、まっすぐにこちらを見つめる。


(アリアストラだ)


 やっぱりそうだった。駆け出しそうになって、はやる気持ちを押さえつける。門が開いたということは彼女にも魔力があるということだが――

 優雅な動作で挨拶をするアリアストラの身体には、あの妙な薄い煙がまだ揺蕩っていた。

 子供のころにはわからなかったが、ただ漏れ出しているわけじゃなさそうな、何か変な感じがして片眉を上げる。

 アリアストラはあの時と同じように、フローラの真似事をして、必死に取り繕っていた。無理もない。

 なんでもない風を装っているが、彼女だってこれがどういう意味を持つのかわかりきっているはずだ。


(これは立派な王命違反……)


 じわりと背中に汗が伝っていくのを感じた。どちらにしても、このまま帰すわけにはいかない。

 帰ってほしくない。



 俺はさっそく、アリアストラを正式に妻にできないかを探ることにした。あの漏れ出ている魔力をなんとか使えないか、王命が白紙になった前例はないか、情報を仕入れようと段取りを組んでいた矢先、オルティス大公から手紙が届いた。


 朝の魔法速達便で届いたそれの内容は「アリアストラが勝手にそっちに嫁いでいった」というもの。

 思わず「はあ?」と声が出た。側近のハルと朝食を持ってきてくれたリナリアが、何事かとこちらを全力で振り向いた気配を感じたが、そんなものはどうでもいい。

 あのアリアストラがそんな真似をするとは思えない。あの時もーー理由はわからないが、必死に正体を隠そうとしていたぐらいの健気な子なのに、大きなリスクをおかしてまで無茶をするはずがない。


 そう考えて、もしや俺に会いに……? と一瞬だけ阿呆な考えが過って、頭を振る。馬鹿か、俺は。


 役人にアリアストラを渡してしまえば、彼女は間違いなく死罪になるだろう。


(それだけはだめだ)


 なんとしてでも彼女を守らなくては。

 内扉の向こうは静かで物音はひとつもしない。

 不安だったのか、昨日は一晩中電気をつけて眠ってしまったようだった。

 ハルを下がらせて、内扉をノックしてみた。反応はない。そっと扉を開けて中の様子を窺うと、ベッドに横たわったアリアストラが苦悶の表情を浮かべてうなされているのが見えた。

 慌ててタオルを持ってベッドに近づく。汗を拭って、彼女の涙に気が付いた。



「お、とうさま……」



 悲しそうなのに、恨めしそうにつぶやいた一言に目を瞠る。 

 アリアストラの手が俺のシャツを握り締めた。なんとなくその手を離したくなくて、俺もそっとアリアストラの横に寝転んだ。

 汗で額にはりついた髪の毛を、起こさないようにそっとかきあげる。

 限界まで近づいて、彼女の身体に触れた。やっぱり、魔力を持っているのに、持っていないような錯覚を覚えるほどの何かを感じる。

 だけど確信を得た。


(アリアストラと婚姻を結べる可能性はゼロじゃない)


 今すぐつむじに口づけたいのをぐっとこらえて、本格的に泣き始めたアリアストラを起こして、求婚した。



「フェリノス……様……?」

「アリアストラ。君を正式に、俺の妻にする」

「い、い、今、私に求婚なさいましたか?」



――残念ながら、答えを得る前に役人の対応で離ればなれになってしまったわけだが。


 役人というのは王の代理みたいなものだから、俺の結界は簡単に突破されてしまうのだ。

 最初からアリアストラを罪人のような扱いをしようとする役人を帰すのに、かなり手こずった。書類仕事しかしない人間の頭はかたくてしかたがない。

 事実解明が先だから婚姻を延期にした。これなら別に王命違反でもなんでもないだろう、と、無理やりに納得させて帰らせた矢先に、エルヴノール城をまばゆい光が覆いつくしたのがわかった。

 これがなんなのかはすぐに理解した。



「アリアストラ!」



 彼女の魔力だ。騎士団の訓練場の方からあふれていたのが、だんだんと遠ざかっていく。遠ざかっていくのに、魔力は広がりを見せている。

 急いで騎士団を出動させて、魔力抑制ローブをひっつかんでから、俺も急いで支度をしてアリアストラの軌跡を追った。このままではアリアストラが魔物に殺されてしまう。



「とんでもないことになったぞ……」



 言葉とは裏腹に、俺の心は嬉しさで満たされていた。

――あの魔力量であれば、正式に俺の妻にできる。

 合流したアリアストラの剣捌きを見て、王命を確実に白紙に戻す方法を思いついたのだ。

 



――――――


 

 

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