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父が何かを言いかけた気がしたが、確かめる間もなく、景色が一瞬でエルヴノール城の自室に早変わりした。
とつぜんの移動魔法で身体がふらつく。立っている気力がわかなくて、フェリノスに支えられながらその場に蹲った。
「……アリアストラ、君はずっとあんな扱いをされていたのか」
「見苦しいところを見せてしまってごめんなさい」
「まるで家族とも思っていないような態度だったぞ」
「5大公家の長子に生まれながら、魔力を持たない人間だったから。仕方ないと言えば仕方ありません」
「何を言っているんだ。君は最初から持っていたじゃないか! だのに……フローラの身代わりになった理由が、君を消すためだったなんて! そんな風に蔑ろにされて本当に何も思わなかったのか!? どうして君は」
「――どうして、ですって?」
突然、声を荒げ始めたフェリノスの態度に、私は首を傾げた。どうしてと問いたいのはこちらだ。
ずっと情けをかけ続けろとは言わない。だけど私を責めるのはお門違いである。
ふつふつと沸きあがる怒りを隠す気力もなく、私の肩を掴むフェリノスの手を払いのけた。
「誰も私が魔力を持ってるだなんて気づかなかったじゃない。私が黙って虐げられているとでも思ったの……? 甘んじてそれを受け入れているとでも? 魔物を討伐して国を守る重要な役目を持つ家なのに、こんな出来損ないを産み落としてしまったのだから、この扱いは仕方ないって……そう思って、……そうやって納得しないと潰れてしまいそうだったのに……っ」
怒りたいのか、泣きたいのか。 胸がすっとしたと思ったら、今度は胸が締め付けられている。心が苦しい。私が必死で生きてきた18年を否定しないでほしい。
フェリノスにだけは、ずっと味方でいてほしいと思ってしまった。責めないで、受け止めてほしい。
唯一、〝私〟を見てくれた人だから。
「あなたにだけは、裏切られたくない……」
ぼろぼろと流れる涙が止まらない。
フェリノスの求婚が、いずれ私を陥れるための罠だったとしたら、今度こそ私は耐えられないかもしれない。
この気持ちは依存に近い気がする。避けたかったことなのに。エルヴノールの環境に、慣れてはいけないと思っていたのに。気が付いたら、心の拠り所になってしまっていた。
「……ごめんなさい。私、面倒な存在よね。こんな厄介事を押し付けられて、いい迷惑よね――」
すぐでも出ていくわ。
そう言いたかったのに、それはかなわなかった。
視界いっぱいに広がるコバルトブルー。雪色の前髪が、私の白銀と混ざって揺れた。
触れあっている唇が熱い。
何が起きているのか理解するのに、数秒かかった。
(キス……されてる……?)
あまりにも衝撃的過ぎて、さっきまで感じていた怒りも悲しみもどこかへと吹き飛んで行ってしまった。
優しい手つきで涙を拭われて、思わず目を閉じる。触れ合うだけのキスを何度か繰り返して、力いっぱい抱き締めてきた。
フェリノスが私の肩口に顔を埋める。
「すまない。君を責めるつもりはなかった。ただ、あまりにも理不尽で……。君を消そうとするオルティス大公に腹が立って仕方がなかった」
「フェリノス……」
「俺は、君がきてくれて本当に嬉しかったんだ」
「え? ――きゃっ!?」
ぱっと顔をあげたフェリノスが、ふわりとほほ笑む。
私の身体を持ち上げて横抱きにすると、そのままソファへ腰を下ろした。
「アリアストラが俺の妻になったら良いのにと、ずっと思ってたから」
次回からフェリノスの過去話が明かされます。
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