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「身代わり婚で死罪確定」だったはずが、〝氷の鉄仮面〟に溺愛されてます。~虐げられてましたが反抗します~  作者: 鷹咲
7話:初めての反抗

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3-5



 

「フェリノス、久方ぶりだな。うちの娘たちが君に多大な迷惑をかけてしまって済まなかった」

「オルティス大公。その件について、俺からもお話があります」

「ああ。わかった。さぁ、こちらへ。……お前、茶を人数分用意しろ」

「は、はい……」


 

 父の睨みつけるような視線に、びくりと肩を震わせる。つい癖で返事をしてしまった。長年にわたって沁みついた癖は、そう簡単に治るものではないようだ。

 だけど、もう私は、以前の私じゃない。

 私にだって意思はある。


 

「――いいえ、お父様。私はもう、給仕の真似事はいたしません」

「……なんだと?」


 

 震える身体を叱咤して、 真正面から父を見据えた。



「私はもう、お父様たちの言いなりにはなりません」


 

 言い終えて、鈍い音がリビングに響き渡った。一瞬だけ弾けた視界、左頬に感じる鈍痛。衝撃で床にたたきつけられた身体が、悲鳴を上げた。


 

「アリアストラ!」

「……っ」


 

 フェリノスが血相を変えて飛んでくる。殴られた頬に手を当てた。母親の折檻よりも痛いなと、見当違いな思考が頭の中を過っていく。


 

「オルティス大公! 何を……っ」

「フェリノスは知らないだろうが、()()は魔力を持たずして生まれてきた人間だ。ヴィレオン家にふさわしくない者が反抗などと、図々しいにもほどがある。挙句、王命違反を平気でやってのけるのだから、とんだ恥さらしだ」


 

 父の怒りが、声を震わせている。

 フローラの高笑いが響いた。

 遅れてやってきた母が状況を察して、フェリノスに「庇う必要はないのよ」と声を掛けている。

 この状況に彼は戸惑いながらも、父を見上げて意義を唱えた。


 

「アリアストラには魔力があります。オルティス大公も、一目見ておわかりになったのでは」

「……どうせ、君のはからいだろう? 王命違反を避けるために、魔力があるように見せかけて、婚姻を継続させようとしたんだな」

「見当違いです。アリアストラには最初から魔力がありました」

「はったりだ。この私が感知できなかったのだから」


 

 ないものはないんだよ。

 吐き捨てるように言った父の言葉に、私は弾かれたように顔をあげた。

 殴られたおかげで幾分か冷静になれた頭で、そうですか、と脳内で返事をする。


 

「……魔力が開花したと知ったら、お父様も私のことを少しは違う目でみてくださるかも、と、淡い期待を抱いてしまいました」

「…………っ」


 

 ゆらりと立ち上がった私の異様な様子に、父が後ずさりする。


 

「フローラがフェリノスの元へ本気で嫁ぐつもりであれば、私は妹の身代わりはもうやめて、ヴィレオン家の長子として国の鎮守に従事しようと、そう考えておりました」

「私が本気で嫁ぐと思ってるわけ!? あんなの演技に決まってるでしょ!」

「フローラちゃん!」


 

 母親にしては珍しく、妹に対して声を荒げて窘めた。世間体を気にする母だ。フローラが余計なことを言ったせいで、ヴィレオン家の格が落ちるのには耐えられないのだろう。父の背後できゃんきゃんわめくフローラをキッと睨みつける。

 それが気に入らなかったのか、フローラが叫んだ。


 

「そんなに偉そうに言うなら、魔力を全開放して、見せてみなさいよ! どうせしょうもない魔力量でしょうけど」


 

 彼女の提案に、父親が首を大きく盾に動かす。


 

「反抗できるだけの力があるとは思えないが」

「……してもいいけど、後悔するかもしれないわよ」


 

 なにせ、鎧の翼竜を呼び寄せた実績がある。次はどんな魔物を読んでしまうのか、皆目見当がつかない。けれど、本気で信じてもらうためには、私も相応の覚悟はしないと。

 ヴィレオン家の人間は、私が大口をたたいていると思い込んで、嘲笑で返した。


 

「やってみせろ」


 

 おおよそ親とは思えない返答だ。

 ちょっとでも見直してくれるかと期待した私がばかだった。

 心配そうな表情でこちらを覗き込んで来たフェリノスに、小さく微笑みかける。

 

 私はそっと目を閉じて、内側を循環している魔力の枷をすべて解いて、外側へ放出した。締め付けられていた何かから解放されるような感覚が心地良い。

 

 フェリノスが私の肩を抱いて引き寄せてくれた。なんとなく甘えたくなって、彼の首元に額を押し付ける形でそれに応える。

 私の身体からあふれ出た光の靄は、瞬く間に城一帯を包み込んだ。さらにそれ以上の広がりを見せ始め、家族の目が驚愕で見開かれていく。



「お前……!」

「あなた、止めさせて! 私達、魔物の餌食になってしまうわ!」

「嘘でしょ、お姉さま……ずっと私たちを騙していたの……!?」


 

 三者三様のリアクションに、見返してやったという気持ちよりも虚しさが勝ってしまった。

 気の済むまで解放しても良かったが、さすがに使用人たちに被害が及ぶのは望んでいない。虐げられる私を憐れんで、こっそりと面倒を見てくれた者もいるのだ。恩を仇で返すわけにはいかない。

 そう思って、魔力を内側にとどめようとして、うまくいかずに手こずった。


 

「……あれ」


 

 どうして。

 自分が思うより、家族の高圧的な態度に動揺していたようだ。焦る気持ちがどんどん感覚を鈍らせる。


 

「アリアストラ、落ち着いて」


 

 フェリノスの優しい声が、耳元からじんわりと心の中に浸食していく。

 優しく抱きしめられて、何度も背中を擦ってくれる。そのぬくもりがとてもあたたかくて、優しくて、少しくすぐったい。何度か深呼吸を繰り返して、次第に落ち着きを取り戻していった。

 彼が教えてくれたことをもう一度思い出して、ゆっくりと魔力を内側だけに循環させていく。

 部屋の中に降りた静寂を打ち破るように、私は声高に宣言した。


 

「お父様は認めてくださいませんが、私もヴィレオン家の人間です。王命違反を承知でフェリノスの元へ嫁いだのも、すべて代々王国の鎮守を担うヴィレオン家を守る為です。ですが、魔力が開花した今、死罪にならずにその使命が果たせそうで安心しました」

「何を言っている……?」


 

 城の外で、魔物出現の際に鳴る鐘の音と共に、騎士たちの「出たぞー!」という叫び声が聞こえてきた。ちらりと窓の外を見やる。森の奥深くから、巨大な黒塗りの〝ナニ〟かが列をなしてこちらへまっすぐ歩いてきているのが見えた。





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