プロローグ 2-2
城内に常駐している騎士団の武器庫の扉に体当たりする形で押し入る。見張りがいないから鍵でもかけているのかと思っていたけれどそうではないらしい。
抵抗なく開いた扉のせいでつんのめりそうになったがすんでのところで踏ん張って耐えた。膝に手をついて息を整える。極度に冷えた足が痛みを訴えたが、頭を振ってなんとか無視をする。
足が痛いからといって、ここで立ち止まっている場合ではないのだ。気温がマイナスを記録しても、上着の一つも着させてもらえず夜通し薪を割らされた過去のことを考えたら、こんな霜に噛まれるような痛みなんかどうってことない。
シュミーズで額の汗を拭って、あたりを見回した。明かりがひとつもない状態だ。普通に目を凝らしてみても何も見えないと気が付いた私は、追手の足音に気を配りながら目を閉じた。
未だに心臓の音が外に漏れ出てしまうんじゃないかと思うぐらい大きく跳ねている。落ち着かなきゃいけない。落ち着きたくても落ち着けない。じわりと滲んだ涙を手のひらで乱雑にぬぐい取る。何度か深呼吸を繰り返して、目を開けた。
「……よし、見える」
夜闇に眼を慣らした私は、様々な種類の長柄武器や刀剣が立ち並ぶ箇所に走り寄って適当なロングソードを手に取った。
剣の扱い方なんて知らない。だけど、我が一族が持つ騎士団の練習風景は見飽きるほど見てきた。なんとなく振りの形はわかる。あとはこれを使って身を守るだけだ。
殺されたくない。殺されてたまるか。
柄を握り締めて、剣先を目の前に掲げて剣を構える。鼻から息を吸って、ゆっくりと口から吐き出す。何度か繰り返して、〝気〟を全身に纏わせるイメージを頭の中で繰り返した。
騎士たちが集中力を高めるために毎日行っている呼吸法だ。私には魔力がない。魔力が無いからこそ腕っぷしだけで挑まねばならない。これから起こるだろう諍いに向けて、落ち着きを取り戻すために集中力を高めておこうと思ったのは自然なことだった。
それがまさか、〝魔力を解放する呼吸法〟だったなんて。
そんなことつゆほども知らなかった。
「――うっ……!?」
締め付けられるような痛みが一瞬だけ心臓を突き抜けた。全身が熱くなって、内側から光の靄が湧き出て辺り一帯を包み込む。
今まで体の中にしまい込まれていたものが強制的に体外に排出していく感覚に、剣を構えたまま蹲った。
大魔法使いの家に生まれたのだから、この光の靄の正体が何であるかは即座にわかった。
「……私……魔力あったんだ――……」
途端に冷や汗が全身に浮かび上がった。ここにいてはいけない。
一刻も早くここから離れないと。
取り返しのつかないことになる前に――……!