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背にしていた窓から漂ってくる冷気を首筋に感じて、私――アリアストラ・ヴィレオンは窓の外を見上げた。
ヴィレオン大公領の森にはうっすらと雪の白さが目立ち、どんよりとした曇天が覆う冬の始まりの日。
この日は私にとっては特別であり、そして地獄でもある日だった。
「フローラちゃん、お誕生日おめでとう!」
「18歳の誕生日、おめでとう、フローラ。お前もやっと成人だな」
「ありがとう! お母様、お父様!」
〝家族〟の声がリビングに響き渡る。
ご馳走がいっぱい並ぶテーブル。真ん中にはバースデーケーキ。
祝われているのは、私の〝双子の妹〟、フローラ・ヴィレオンだ。
「ところでフローラ。今日の『5大公家次期当主議会』はどうだったんだ?」
「婚姻の相手も発表されたんでしょう? 誰だったの?」
「全然楽しくなかった。びっくりするぐらい面白くないし。しかも婚姻相手は〝氷の鉄仮面〟なのよ!? 本当に最悪なんだけど」
「氷の鉄仮面と言えば……フェリノスのことか! あいつは具現化魔法を扱えるぐらい優秀な魔法使いだ。すごいじゃないか、フローラ! フェリノスと釣り合えるってことは、お前も相当優秀な魔法使いだと認められたってことだぞ!」
5大公家のうちの一つ、北部に領地を持っている氷の鉄仮面こと、氷の大魔法使い、フェリノス・ノア・エルヴノール。
確かに、5大公家の中で1,2を争うほどの魔力を持つ彼と結婚できる相手はフローラしかいないだろう。
だけどフローラは不機嫌な態度を隠そうともせずに叫んだ。
「そうかもしれないけど、私、フェリノスとは絶対に結婚したくないわ!」
フローラの絶叫で、喜び勇んでいた父親がぴたりと動きを止める。
その横で母親が「結婚したくないって……」と呆然と呟いた。
「フローラ、この婚姻制度は王命だ。魔力のレベルが同等の者同士を結婚させ、子孫繁栄を促し、魔力の均等を図る重要な制度なんだ」
「そうよ、フローラちゃん。命の危険がある場合にのみ拒否が許される仕組みなの。エルヴノール家との婚姻は、これ以上ないぐらいの良縁よ」
両親が猫撫で声でフローラを説得しにかかる。
でも私はフローラがなんて答えるのかわかりきっていた。
「私、寒いのだけは大っ嫌いなのよ!」
今回ばかりは両親もフローラの我儘に難色を示した。そりゃそうだろう。『寒いのが苦手』という理由だけで婚姻を拒否なんてできるわけがない。
珍しく困った顔の両親を尻目に、フローラはバースデーケーキにフォークを突き立てて、そのまま口へ運んだ。大公令嬢とは思えないぐらいのマナーの悪さだ。
思わず目を細めてフローラの方へ視線をやると、ばちりと黄金の瞳と目があった。
その瞬間、フローラが不敵な笑みを私に向ける。
「そうだわ。お姉さまに嫁いでもらいましょう」




