6-9
衣擦れの音が聞こえてしばらく経ったあと、フェリノスの手のひらがそっと私の頭を包み込むようにして乗せられる。大袈裟に肩が震えてしまって、顔をあげるタイミングを見失ってしまった。
「もう服を着たから、安心してほしい」
「……本当?」
「本当だ。ほら、手で触ってみたらいい」
「ひえ……」
フェリノスに右手をそっと握られて、彼の上半身に導くように引っ張られた。コットン素材の衣服を手のひらに押し付けられる。自分でも何度か感触を確かめてから、嘘は言ってないとわかってようやく顔をあげることができた。しっかりと目視で確認して、裸体ではないと認識する。
「……勘弁してください……」
握られた右手に力を入れて、フェリノスの手を握り返しながら言えたのはそれだけだった。
異性にたいして甲斐性がないと知る羽目になろうとは。
フェリノスはわかりやすく落ち込んだ顔をして「次からは気を付けよう」と言ったっきり、黙りこんでしまった。
(……な、何がしたかったんだろう……)
フェリノスがいまいち何を考えているのかわからないけれど、落ち込んでいるのを見るのはつらい。こういう時って、どうするものなんだろうか。
しょげた背中に影が落ちてるような気がして、どう声をかけるべきかと頭を働かせるも、最適な言葉が出てこない。
たぶんきっと、私の反応がよくなかったんだろうから、励ました方が良いわよね。…………裸体を見せられてどう反応するのが正解なのか、まったくもってわからないけれど。
フェリノスのうなじにしたたる水滴が目にはいって、なんとなく、自由になった右手をそっとかざしてみた。
ふわりとフェリノスの髪を風魔法で撫で上げる。それだけで滴るほどあった水分が一瞬で飛んで髪の毛がさらさらな状態になった。我ながら完璧な魔法だ。
目を丸くしたフェリノスと視線がかち合う。
彼は自分の雪色の髪の毛を触って状況を察したのか、こちらに向かって小さく会釈した。
「……ありがとう」
「いいえ」
そこから彼の機嫌は戻ったようで(本当になんだったんだろう)寝るまで暇つぶしで持ってきてもらったボードゲームをやったり、魔力制御の一環で駒を壊さずに魔力だけで移動させる練習をしたり、とにかく小さなことから大きなことまでなんでも利用して魔力の特訓を行った。
そして、もう一度彼の表情が歪む出来事が起きた。