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5-9




 突然の行為にぎょっとして身体が固まる。途端に嫌な汗がどっと噴き出る。

 動いたら引きちぎられるかもしれない。いや、あんなにやさしい言葉をかけてくれる人がそんな非道なことはしないだろうけど、髪の毛を掴まれるということは引きずりまわされる合図のようなもので、身体が勝手に怯えて震えてしてしまうのは条件反射に近かった。 


 私の異常さに気づいたのか、フェリノスは慌てて髪の毛から手を離した。

 


「すまない。あまりにも綺麗だから、つい。気安く触れていいものじゃなかったな。本当に悪かった」

「い、いえ。その、随分とくすんでしまったから、そんなにきれいな物じゃ……」

「そんなことはない。夜に映える良い色をしている」

「……」


 

 そんな風に言ってもらえたのはフェリノスが初めてだ。なんだかくすぐったい気持ちになって、私は視線を下げた。


 身体の震えは自然と止まっていた。代わりに、じんわりとあたたかい何かが心の中に流れ込んでくるような感覚がして、気持ちが楽になる。

 この人の言葉は人を包み込む力がある気がする。これも魔法なのかしら?

 そういうのがあるのかな。



「……フェリノスにはとても感謝してるわ。私を助けてくれてありがとう」

「なんだ、突然」

「ちゃんと言えてなかったなと思って」

「そうか。じゃあ、受け取っておこう」


 

 2秒後に消える柔らかい微笑み。一瞬で表情が変わる現象がちょっと面白くなってきた。

 

 そうして湯浴みを先に終わらせて、鉄格子の向こうで待っててくれたフェリノスを呼び戻す。カーテンで仕切られているから見られることはないが、それでも気になるだろうからと自ら出てくれたのだ。

 配慮が行き届いていてとてもありがたい。

 湯殿に消えていったフェリノスの背中を見送って、私はベッドに腰掛けた。

 自分の風魔法で髪の毛を乾かす。魔法がどれだけ便利であるかを身をもって体験出来る日がくるだなんて。毎日が新鮮だ。


 私のあとにフェリノスも湯浴みを終えて、いつもなら軽装に着替えて出てくるのに、今日はなぜか上半身を晒して出てきたものだから大慌ててで布団に突っ伏した。



「ちょっと……! なんで上、上の服、着てないの!?」

「気になるか?」

「気にならない人いる!?」

「人によるかもな」


 

 人による? 人によるものなの? そんな感じなの?

 今まで異性の身体とは無縁の生活を送ってきたから、一緒の空間で過ごすだけでも精一杯なのに、裸体だなんて刺激が強すぎて目のやり場に困ってしまうのだけれど。


 ちらっとだけ見えた腹筋もかなりたくましく、ほどよく割れていて、その一瞬だけでもフェリノスの男らしさを感じてしまって戸惑いが隠せない。


 家族の言いなりになってフローラの代わりに妻になろうとしたけれど、今はもうそういう状況ではないし、だからこそ余計にどうしていいかわからない。


(あれ? でもこの人、私に求婚してきたような気がする……)


 もしかして、本気だったんだろうか……?だから私の前で裸体を……?

 答えのでない思考がぐるぐると頭の中を渦巻いていく。

 ちょうど突っ伏した頭の近くにフェリノスが座ったようで、ベッドのスプリングがぎしりと傾いた。




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