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――さぁ、もうちょっと頑張ってみようか。
フェリノスの声掛けで、私はいっそう集中してひたすら具現化魔法を極めていった。……といっても、そんな1日2日で習得できるほど簡単な魔法じゃない。
なぜかフェリノスはかなりの時間をかけて私に具現化魔法を叩きこんだ。固形がある程度できるようになったら、次は液体。
空気中に存在している元素を使って、雨粒程度の液体を抽出し、それを増大化させて、温めたり凍らせたり、あるいは粘度の高いものに変化させたりと、かなりの魔力を使う技術ばかりを教えようとする。
高度な魔法を特訓し始めて数日後、肩で息をしながらではあるが、教えられた通りの魔法を繰り出せるようになっていた。
――そうして完全に集中力が切れてしまい、せっかく集めた液体が霧散したタイミングで、フェリノスは勢いよく両手を合わせた。
「――よし、今日の特訓はここまでにしよう。お疲れ様」
「あ、ありがとう……」
息も絶え絶えに返事をする。腰を折り曲げて膝に手をつき、息を整えようとするが圧倒的に酸素が足りない。そんな私の背中をいたわるようにフェリノスが撫でてくれた。
途端に呼吸が楽になる。
上体を起こして胸に手を当て、ひとつ大きく息を吐く。
「……ありがとう、楽になったわ。フェリノスたちはこんな厳しい訓練を子供の時からやっていたの……? すごいのね……」
「大人になってから教わるのと、物心ついた時から教わるのとでは天と地ほどの差がある。子供の頃に教わったことは、大人になっても息をするように自然とできるが、大人になってからそれを習得しようとするとやっぱりきついものはあるだろう。そんな中でも君はよくやっているよ」
「…………あなた、褒め上手ね」
「君が頑張っているから、褒めたくなるんだ」
そう言って優しく微笑んだフェリノス。きっかり2秒後にはすんと表情が戻ってしまって、なんだか惜しい気持ちになってしまった。
褒められるのは素直に嬉しい。でも要領が悪いのは自覚しているから、フェリノスなりに私にやる気を出させるための声掛けなんだということを忘れないようにしないと。
そんなことを思いながら、束ねていた髪をおろした。白銀の長い髪が重力に従ってするりと下に落ちる。腰辺りでふわりとバウンドして毛先が揺れた。その様子をじっと見つめるフェリノスがぽつりと「綺麗だな」と呟いたのが聞こえて、思わず彼の顔を凝視してしまった。
何か言ったかと聞き返そうとして、同じ言葉が聞こえてきたらたまったものじゃないと思いいたって開けた口を閉じる。
幻聴ということにして視線を逸らした。
「……先に、湯浴みするわね」
「ああ」
そう返事をしながら、フェリノスの右手が私の髪を一束すくった。