3-9
かくして私とフェリノスの、一対一の特訓が始まったのである。
彼の教え方はかなり抽象的だった。
「魔法と言うのはだいたいが感覚だ。体内に巡る魔力の流れをまず感知するところから始めよう」
そう言って教えられたのは正しい姿勢、呼吸法。魔力の感じ方は人それぞれと言うが、私が感じたのは金属のようなきらきらとした細かな鉱物が体内を流れるイメージだった。細かな鉱物の流れる量を調節することで、体外に放出するやり方を学び、やがて完璧とは言えないが魔力を体内に循環させる術を身に着けることができた。必要な時に魔力を開放し、不要な時は体内に押しとどめておく方法だ。
次に魔法の扱い方だが、風を操るのは比較的早く習得することができた。
「これは血筋によるものが大きいだろう。なんにしても、君の呑み込みが早くて心底感心したよ」
褒められるのは純粋に嬉しい。照れ笑いで誤魔化し、次に教わったのは具現化魔法のやり方だった。
「え、具現化魔法って、上級レベルの大魔法使いでないと扱えない魔法だよね?」
「…………君はさあ」
眉間に深くシワを寄せてジト目で睨まれ、思わずこちらも眉をひそめた。私がそんな高度な魔法を扱えるわけがないのに、なぜわざわざ教えようとするのだろう。
教えられたとおりにしないと折檻が飛んでくることを考えたら、無謀な挑戦はあまりやりたくない。
痛いのは嫌いだ。
「言われたとおりにできる自信がないから、あまりやりたくない……」
「……大丈夫。何に怖がっているのかは知らないけど、とにかく君はやったことがあるんだからできるんだよ」
「やったことがある、って?」
「鎧の翼竜を倒した時、君の手に何本の剣があった?」
「二本……。…………あ」
やっと思い出したね、と、フェリノスが呆れた溜息をもらす。そうだ。あの時はただ翼竜を倒さなきゃと必死で、自分がロングソードをコピーして錬成した記憶がすっぽり抜けていた。
「あの時は同じものを錬成していたけれど、今日はいきなり応用魔法を教えることにするから。頑張って」
「う……。はい」
難しそうなことを言っている。
フェリノスが指示したのは、石の材質を魔法で感知して構築し直して武器を作れというものだった。石でできた武器と言えば投げものだろうか。
昔こっそりと実家の書庫に入り込んで読んだ歴史書の中に、東洋の武器を紹介していたページがあった。形さえ応用できれば、あとは強度の問題だから…………。
体内を流れる鉱物を手のひらの上で固めて石の材質を作り、形を整えて手のひらの上でクナイを具現化した。
表面がごつごつしていて、とてもじゃないが投げものとしては役に立たなさそうだ。
フェリノスが手に取って、それを壁に向かって投げた。微妙な質量の差でまっすぐ飛ばず、おまけに耐久性も低く、殺傷能力もそこまで高くはなさそうだ。
「君の得意な金属じゃないからね。でも、初回でここまでできたら上出来だ」
散らばった破片を摘み上げて、満足そうに呟く。
よくわかってない私が返答に困っていると、近づいてきたフェリノスがぽんぽんと私の肩を軽く叩いた。
「具現化魔法はそういう風に使うことが多いものだから、感覚は覚えておいた方が良いね。液体も一緒だよ。君ならすぐ使いこなせるはずだ」