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そんな私の状況を察したのか、フェリノスは私を部屋の真ん中に立つように指示を出した。
大人しく真ん中と思われる場所に立って、フェリノスの方に身体を向ける。
「単刀直入に言うと、この部屋は魔力抑制室だ。魔力が暴走した時に使用されることが多い。基本的にエルヴノール城にしか結界を張っていないんだが、昨日の君のように、魔力を垂れ流されてしまうと強敵が結界を割って入ってきてしまうこともある。領主として、アーランディア王国を鎮守する一族の当主として、部下も民も危険にさらすわけにはいかない」
言っていることはごもっともだ。私が迂闊なことをしなければ防げた事態だ。一瞬とはいえ、皆の命を危険にさらした事実はなかったことにはならない。
両手をぐっと握り締めて、はたと気付く。自分の身体から魔力が放出されてない。魔力抑制室の効果だろうか……?
「君にはしばらくここにこもってもらって、魔力を制御するやり方を学んでもらう」
「でも……今、体外に放出されてない状態で、どうやって制御したと自覚すればいいの?」
「体外に放出しているというところに目を向けるんじゃなく、体外に放出された時の魔力の量と、制御した状態の魔力量を感覚で掴むんだ」
「感覚……だけ?」
「だけ」
断言されて、それ以上の言葉が見つからなくて思わず黙ってしまった。そんなざっくりとした説明でちゃんと理解できるか不安だ。
もしかしてフェリノスは感覚で魔法を操る人なのかな……?
ドキドキが募る。でも、とにかくやってみるしかない。
制御できなければ私に待っているのは死罪一択なのだから。
「わかった。制御できるように頑張るから、教えてください」
腰を折って頭を下げる。
フェリノスはすぐに私の肩を掴んで上体を起こさせた。
「じゃあ、今日から頑張ろう」
にこりとも笑わないが、声は弾んでいる。初めて会ったときからなんとなく思っていたが、フェリノスはあまり表情が動かないタイプの人間なのかもしれない。
(氷の鉄仮面と言われる訳ね)
彼の喜怒哀楽は声のトーンで判断するしかなさそうだ。
ともかく、言われたことをきちんと正しくその通りに身に付けないと、何が飛んでくるかわからない。
気を引き締めないと。