第9話 プレイヤーキリング?
第9話 プレイヤーキリング?
強化アラミドスーツに、主要箇所をチタン合金製の、白いプロテクターで固めた完全武装の兵士……
兵士は恐る恐るという感じで、ドアを押し開けて出て来る。
大口径ライフルを構えながら、きょろきょろと左右を見渡す。
少し前に出た所で、兵士は崩れた仕切り壁右側に、二人の存在を見つけた。
はっと身を引いた途端、兵士は小さな瓦礫を、ブーツの踵で跳ね飛ばした。
『ガラッ!』
「誰だ?」
音に気付いたヒロシが、ショットガンを構える。
瞬間的に反応した兵士は、ライフルをヒロシに向けて発射した。
『パン!』
命中……ヒロシはショットガンをその場に落とし、両手で胸を押さえ、高い金属音の様な叫び声をビル空間に響かせ、ヒットポイントhp=0 となって、黒い塊になった。
タケルはポケットから、ベルトの付いた小さな棒を引き抜いた。
『ブーン!』うなりを上げて、棒の先に白い光が飛び出す。
光線剣の光を見た兵士は、恐怖におののき一歩後ずさった。
(光線剣で、目の前の敵を斬れ!)
誰かがタケルの頭の中で囁いた。
タケルは兵士に駆け寄る。
兵士はライフルを構えた。
タケルは怒りに任せ、遠間から光線剣を振り下ろす。
『パパン!』兵士はライフルを二発発射した。
タケルの光線剣が、勝手に反応して動く。
『ギギン!』二つの弾丸を、光線剣が跳ね飛ばした。
「どうして?」兵士は高い声を出した……若い女の声だった。
「くそぉ!」
タケルが再度光線剣を振り下ろすと、白いアームズプロテクターごと、スパッと切れた兵士の両腕が、ライフルと共にどすんとその場に落ちた。
全てを切り裂くような女の悲鳴が上がる。
兵士の目は、恐怖の色に染まり、肘から先の無い手を合わせるようにして、その場に立膝をついた。
「もうやめて……」
蚊の泣くような女の懇願は、間に合わなかった。
「セイ!」タケルの二刀目が振り下ろされ、兵士の頭はヘルメットごと、縦に真っ二つになった。
脳みそが切り口から飛び散る。
体験したことの無い、いやあな感触……
(これはCPUが作り出した敵キャラではない。ゲームプレイヤー、人間そのものだ。
ゲームではなく本物なのか?)
全身に残る感触が、そうタケルに教えていた……
「何なんだよ……」
ぷーんと立ち上がる生臭い匂い……
タケルは斬った相手から目が逸らせず、ぶるぶると全身を震わせながらも、頭の無くなった立膝の兵士の、背中側へと横歩きして回り込んだ。
真っ二つになって、両肩から首の皮一枚で、背中に逆さにぶら下がった顔……若い女……女子高生位か?……
スローモーションで、斬った瞬間がタケルの脳裏に蘇る。
光線剣がずぶっと兵士の頭に入って行き、手前に引き抜かれる。
真っ二つになったヘルメットが両側に飛び散る。
ゆっくりと女の顔が真ん中から二つに割れ、頭の天辺から徐々に左右に開き、脳みそが流れ始める。
半分になった顔が仰向くように両側に崩れ落ちて、両肩の向こう側へ消えて行く。
背中の裏側で『ゴン! ぐっちゃーん』と音がする……頭の右半分と左半分の頭蓋骨がぶつかった音と、脳組織が破壊された音だ。
その証拠として、立膝の兵士の裏側に、大量の脳みそがドロっと、床に流れ落ちるのが見えた。
タケルは声にならない叫び声を上げて、その場に光線剣を放り出した。
白い光線はシュンと音を立てて消え、小さな棒だけが床に転がった。
「トミー、ゲーム終了!」
声を振り絞ってタケルは叫んだ。
どこからともなく現れた従者トミーが「この地点でセーブして終了いたします」と答えた。
気が付くとタケルは、アフタールームに居た。
ヒロシもシンジもイチローも、皆タケルの帰りをそこで待っていた。
「俺、光線剣で女を斬り殺しちゃった……」
タケルはその場に、腰が抜けたようにしゃがみこんだ。まだ全身の震えは止まらない。
「あの兵士、女だったの?」
ライフルで撃たれて、即退場となったヒロシはびっくりした。
自分がショットガンを構えた方が早かった筈なのに、兵士のライフル射撃の方が早かったのだ。
「高校生位の女だった」
下を向いたタケルは、そう答えるのがやっとだった。
ただならぬ様子を感じて、シンジがアフタールームをロック状態にした。
「裏ボスかな?」イチローが問う。
「いや、あれはプレーヤーだよ」タケルは頭を起こした。
「プレーヤーか? じゃあ俺達がシュートミーをやっつけるのを待ってて、出し抜こうとしていたって訳か?」
シンジは腕組みをしてそう言った。
「どうかな? あいつ、あの場所に突然出てしまったって感じだったし、外に仲間も居なかった……」
タケルは、女兵士と出くわした時の情景を頭に浮かべた。
ヒロシもその意見に同意して そんな感じだったねと言った。
「でも小ボスでも裏ボスでもなく、あいつがただのプレーヤーだとしたら、やっぱりあのエリアはタケル達が制覇したってことになるな。
あいつらのチームは、シンジと俺のチーム同様、エリア攻略に失敗しただけさ」
イチローは、ゲームモードから抜けられないようだ。
「そうじゃない。俺、本当にあの子を殺しちゃったんだと思う」
タケルがそう言ってうずくまると、その勇気を知っている外の三人も黙り込んだ。