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黒い美学  作者: 千葉の古猫
第一章 聖夜の誓
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第3話 オンラインRPG「聖夜の誓」

第3話 オンラインRPG「聖夜の誓」


 上から下まで、鋲打びょううちの重ね厚皮製の戦闘服を着用した、タケルが答える。

「九〇だときびしいかな。このレザーヘルメットとボディスーツを売るといくら?」


「二つ合計で四五ゼニーになりますな。よって残金は一三五ゼニーでございまする」

 トミーの、場にふさわしい言葉遣いがタケルをその気にさせる。


「では売るか。一〇〇は残しておかねばならぬゆえ……三五ゼニーで、アラミドのアームス&レガースプロテクターを買えぬだろうかのう?」


「そのセットは五〇ゼニーですな。買い入れますには十五ゼニーの不足となりますが……

 只今、クリントのヒロシ殿がこのショップに見えたようです。彼に借金を申し込まれたらいかがでしょう?」


 再び響く、ドアのきしみ音と高い靴音。


「早いね」

 振り返ったタケルが、自分と同じ様なレザーの戦闘服を着た男に言った。


「タケル君だって」

 そう返事した男のレザーヘッドから、凛々(りり)しい少年の目がのぞいている。


「タケルって呼ぶなよ、しらけるから。ここでは俺はアントン。ヒロシはクリントだろ。

 ところでクリント、十五ゼニーほど貸してくれぬか。あのアラミドのアームス&レガースが欲しいのだが、所持金が少し足りないのだ」


「アントン、もうおぬしには四〇の貸しがあるではないか。おぬしに貸すと、ボクこのレザースーツで我慢しなくちゃならない」

 クリントことヒロシは、自分のキズがあるレザースーツを指差した。


 アントンことタケルは、自分のキズだらけのレザースーツと見比べて、クリントの防具はまだまだ使えるだろうと指摘し、ヒロシのことは守ってやるからさあと言った。


 クリントは首をすくめ、皮の銭袋を取り出した。

「しょうがないなあ。はい十五ゼニー。全部で五五の貸しだよ」


「サンキュ。その代わりショットガンを上げるよ」

 アントンは従者トミーよりショットガンを受け取ると、それをクリントに差し出した。


「え? いいの。これ欲しかったんだ。確か一〇〇ゼニーもする奴だよ」

 クリントはずしりと重いショットガンを受け取り、いとしそうに撫でた。


「五五ゼニー返して、四五ゼニーの貸しだね」

 アントンは、満足げな様子のクリントにそう言ってみた。


「買いは一〇〇だけど、売りは五〇にしかならないよ」

 クリントはさすがにしっかりしていた。アントンはちぇと言ってさらに交渉する。


「だったら五五ゼニーの借りをちゃらにして」


「それならOK」クリントヒロシは、にっと笑った。


「商談成立!」アントンタケルも親指を立てた。


「スタートは二時半にしない? ボク、ショットガンの練習してから行くから」

 ショットガンを撫でながら、ヒロシはそう言った。


「おう二時半に」


 そうタケルが答えると、ヒロシはショットガンを片手に、従者と共に防具ショップを出て行った。


「奴は冷やかしかい。おまえさんは買うつもりがあるのかね?」

 それまで黙っていた防具屋の店主が、タケルに声を掛けた。

 この店主もトミーと似たような、使い古した毛皮で作った古風な服装である。


「このレザーヘルメットとスーツ、それにアームス&レガースも売りたい」


「買取は、ヘルメットとスーツで四五ゼニー、アームス&レガースは十、全部で五五ゼニーだ。よろしいかね?」


 タケルは、アームスとレガースを取り外しカウンターの上に置いた。

 そして、ヘルメットとスーツを大儀そうに脱ぐと、その隣に並べた。

 店主はそれを確かめる。スーツを指差し、この大きなキズが無ければ、もう五ゼニーは高く買い取れたんだがのと言った。

 上下つなぎのアンダーウェア姿のまま、タケルはその大きなキズを見て舌打ちした。


「ちぇ、そのキズさえ無ければ、ヒロシからお金を借りなくても済んだのか……」


 タケルは手放したショットガンが少し惜しくなったが、長剣で敵を斬る快感を思い出した。

 それに前回見つけた光線剣もある。

 まあいいかと思い直したタケルは陳列棚を指差した。


「あの強化アラミドのヘルメットとボディスーツ、それにアームス&レガースが欲しい」


 店主は、指定された品物を棚から取って、丁寧にカウンターへ並べた。

 これは良い買い物だよと愛想笑いしながら、手早く石版で計算してみせる。


「全部で二〇〇だ……ひーふーみーよー、五十ゼニー金貨四枚で、二百ゼニー丁度ですな、毎度。 今ここで付けてみるかね?」

 タケルの差し出した金を受け取ると、店主はそれをしまいながらそう言った。


「付けてくれ」

 タケルは、先ほど防具を自分で外した時のしんどさを思い出して、そう答えた。


「こちらへどうぞ」

 店主がフィットネスルームへ案内する。

 二人の店員が、手馴てなれた調子でタケルに防具を着けて行く。

 鏡には若武者アントンの姿が映し出される。


 これが俺か? タケルは満足して言った。

「おお。ぴったり。いいね」


「近い内にさらに上物が入りますから、またご贔屓ひいきに」

 店主は機嫌良くそう言った。


 手を軽く振って、若武者は従者と共に店を出る。

 ぎぃと重々しい音を響かせて扉が閉じた。



 午後二時半、『星夜の誓』プレルーム……


「アントン待っていたよ」

 クリントヒロシは、鋲打ちのレザースーツにショットガンを抱えて待っていた。


「クリント、ショットガンの持ち方が様になってるじゃん」


 アントンタケルは、上から下まで新品の強化アラミドスーツで固めていた。

 背中には見た目重そうな、西洋の長刀を背負っている。


 クリントはショットガンをくるくると回してから構えた。

『ドカン!』


 プレルームのはるか前方にある人型の的は、上半身がぶっ飛んだ。

 火薬のきな臭い匂いがぷーんとして鼻が曲る。


「命中! やるなクリント」


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