4章10話 この世全ての意味
目的地であるアンリマユ本体に全員で近づく。
出来れば本拠地を作って、回復しながら戦いたいところだが、作戦が作戦だけにそうもいかない。
現場に着くと、想像以上の魔人、堕天使、魔獣が人々や建物を傷つけている。
「ぐっ……」
ベルゼに抱き抱えられている豊華が険しい顔を見せる。
ラファエルに抱えられている恵実も表情を強ばらせる。
人間にはキツイ状況だ。
悪魔のワタクシでさえ、気持ちの悪い光景だ。
欲望も美学も何も無く、ただ破壊と世界を飲み込むことだけを目的に動いている。
悪意の成れの果て。
世界の終焉。
気持ちの悪い光景だ。
「さあて、行くわよ!!!」
アスタロトは号令とともに、ドラゴンの姿に変わり、巨大な火球を放つ。
辺り一帯にいた魔獣や堕天使、魔獣は一瞬のうちに消し飛ぶ。
だが、予想通りアンリマユは無傷だ。
魔獣たちが消し飛んだ隙をついて、豊華たちがアンリマユに接触する。
光のバリアが展開され、加護持ちにより守護が展開される。
豊華はアンリマユに触れ続け、アンリマユの悪意を受け止める。
黒い瘴気に包まれるが、指輪の光が拮抗するように働く。
ピタリとアンリマユは動きを止める。
よし。今のところ予定通りだ。
ワタクシは状況を観察、豊華が入口を開くまで待機だ。
刹那。泥から再び魔獣、魔人、堕天使が溢れ出す。
「豊華ちゃんを守るのよ!」
「言われなくても!」
「守るに決まってんだろ!!!」
「がるるるる!!!」
アスタロトは悪魔の姿に堕天使や魔人と戦闘開始。
ドラゴンの姿では豊華達を巻き込むからだ。
ベルゼとべオル、ケルベロスは1番数の多い魔獣たちと戦闘開始。
状況的には予定通りだ。
「ぐっ……」
「お姉ちゃん頑張って!」
「厄介ですね……これは……」
「長くは持たないぞ!」
ラファエルがバリアの維持と豊華の回復。
恵実と一色が交代しながら戦闘。
ベルゼたちが豊華達を守っているものの、数が多すぎる。
ワタクシも降り立ち、守りを突破してくる奴らの相手をする。
飛びかかってくる魔獣、魔力を左右から放つ堕天使、肉弾戦をしかかけてくる魔人。
「ぐっ!?」
ワタクシは魔力を解き放ち、魔獣を焼き払い、飛んでくる魔力を受け止める。
そこを目掛けて魔人が拳を叩き込んで来るが、頭突きで対応。
頭を掴み地面に押し付ける。
次に天使たちが剣を形成し、挟み撃ちをしてくるが、飛び上がり魔力を吸い尽くす。
元の人間に戻った堕天使たちは地面に転がる。
これはワタクシが無限の魔力を持っているからできるだけで、ほかの悪魔たちはかなり苦戦しているようだ。
「ちっ……!!次から次へと!!!」
「大勢の戦いは向かないね、僕たち。」
背中合わせで戦うべオルとベルゼ。彼らの権能は認識の外からの攻撃にめっぽう弱い。
二つに分かれ、そして、契約をしている豊華の状態もかなり悪い。
ふたりには辛い戦闘だろう。
なるべく魔獣に近づかれないように魔力を解き放っているが、アスタロトの対処が追いつかなかった堕天使や魔人の攻撃を直に受けている。
「そろそろ、きついわね……」
戦闘馬鹿のアスタロトも、ついに膝をついてしまった。
「ぐっ……がっ……まだ、まだああああああああ!!!」
豊華の頑張りの成果か、少しずつ入口が開き始める。
「っ!?危ない!!!!」
入口が開き始めたことでアンリマユの逆鱗に触れたのか、泥が触手のように生え、豊華目掛けて飛んでくる。
ワタクシはその大きな触手を受け止めるが、長くは持ちそうにない。
触れているだけで体に奴の泥が侵食してくる。
「くっ……そうか、入口を開こうとすると、アンリマユを止めるのが遅れるのか……」
「ま、まずいわね。頼みの綱のアモンちゃんが動けなくなったわ。」
誰もが諦めかけたその刹那。
「おいおい。誰かを忘れてるだろ?」
神力と魔力が解き放たれ、ワタクシを押しつぶそうとしていた触手が消失する。
「……?」
上空に浮かぶ銀と黒の髪を靡かせる青年がそこにはいた。
「「バルバトス!!!!」」
ベルゼとべオルが嬉しそうに呟く。
バルバトス?あれが?ワタクシの知っている姿と大きく異なる。だが、面影はある……ような気がする。
「生きてたんですか……ソロモンさん」
「勝手に殺すなよ。まだ行けそうか?」
「やれるだけやってみます。」
「あなたは……ソロモン・トラスト」
「おお。エリスのところの使用人か!元気してたか!」
「え、ええ。」
「それより、お前さんここは恵実とラファエルに任せてアスモデウスの力解放しろよ。じゃないと、詰むぞ。」
「なっ……何故それを!」
「エリスの友人だから。割となんでも知ってる。」
「食えない人ですね」
「よく言われるよ。」
なんだ?戦況が一気に好転していく。
「ソロモン!!!!また貴様かああああ!!!!」
おぞましい声で苛立つアンリマユ。ここまで取り乱すのは初めて見た。
「エリスを殺したお前を生かす訳にはいかない。」
「ハッハハハ!!!幸せそうに年老いたじゃないか!!!自分の最愛の孫の呪いに、取り憑かれているとも知らずに!!!」
気味の悪い笑い声を響かせるアンリマユ。
「そうか……全部あなたのせいで……お嬢様は!!!!」
一色は濃厚の神力を溢れさせると、みるみるうちに魔力に変換していく。
ワタクシが眠らせたはずのアスモデウスが───────今、覚醒める。
「アリス……を守る!!!!」
一気に魔力を解き放ち、全ての魔獣を一撃で仕留める。
堕天使の背後に回ると、ワタクシと同じように魔力を吸収する。
さらに次は魔人の肩に触れていくと、今度は魔人同士が争いを始める。
一色に触れられた魔人は目の色を変えたように、魔人同士で争い始める。
「こ、これが色欲の権能か……」
「さてと、俺も戦うかな。」
ニヤリと微笑むバルバトス。ベルゼとべオルに加勢する。
「だらしないぞ。お前たち。」
「ジジイに言われたくねーわ。」
「ホントにね」
「お前らも年齢的にはジジイだろ。」
「「それもそうだ」」
二人はバルバトスに回復され、状況を立て直す。
「次から次へと!!邪魔をするなよ!?」
再び、攻撃を仕掛けてくるアンリマユ。
ワタクシ目掛けて大きな触手が追いかけてくる。
ワタクシは翼を羽ばたかせて、華麗に避けていく。
「あなたも次々と泥出すのやめてくださいよ!」
避けながらも、魔力を放ち交戦するが、まるで効いていない。
「ちっ……」
「ほらほら!!何も出来ないんだからさあ!黙って飲まれろよ!!!」
次々と襲いかかってくる無数の手。
「こんな動かれたら……ぐっ……」
どうやら、動きすぎたようで豊華が膝をついている。せっかく開きかけた入口が閉じていく。
「お姉ちゃん!!!」
「魔獣たちは任せよう!きっとなんとかなる!!!」
「わかった!!!」
恵実とラファエルは顔を見合わせると、手を繋ぎ、融合する。
どうやら、豊華の回復に全力を回すようだ。
桃色髪の天使が現れ、豊華の体力を回復させる。
「ちっ……仕切り直し、ですか」
せめて、何とかやつの動きを止められれば入口を開けるはずなのに。
刹那、思考を巡らせていると、アンリマユの触手に掴まれる。
「しまった!?」
「アモンちゃん!!!!」
───────「今度は助ける!!!!」
刹那。触手は光の剣で切り裂かれ、触手の拘束から逃れる。
「な、ナーヴァちゃん!?」
豊華が声を声を上げる。視線の向こうに目をやると、ナーヴァと清直が立っていた。
「アンリマユの動きは眷属を倒せば止まる。」
「その間のアンリマユとは私たちが戦う!」
「無茶よ!!どれだけ無謀を重ねる気?」
「アンリマユを復活させたのは私の責任。アリスちゃんを傷つけたから。大切な人を傷つけちゃったから。一番その気持ちがわかってたはずなのに。……許して欲しいなんて言わない。ただ、私は償いたいの!」
「アスタロトさん。僕を信じてください。ナーヴァと僕なら、大丈夫です!!!」
「……はあ、わかったわよ。そんな顔見せられたら、ワタシも頑張るしかないわね!」
アスタロトはふたりに触発されるように、ドラゴンの姿になる。
「守りは任せるわよ!ラファエルちゃん、恵実ちゃん」
「わかってる!!!」
まさかあいつ!!!ここで全力の一撃を放つつもりか!?
「皆さん退避してください!豊華さんは入口をこじ開けて!!!!」
「はい!!!!」
豊華の返事を聞くと、全員退避する。ラファエルと融合した恵実だけが残り、豊華を守る。
「させるかああああ!!!」
アンリマユの一撃が飛んでくるが、清直が受け止める。
「いい加減、諦めろよ。俺たちハザマの方が強い!!!!!」
清直は巨大なアンリマユの拳を受け止め、押し返す。
それをナーヴァが切りつける。
「があああああああ!!!」
刹那。アスタロトの全力の一撃が周囲を巻き込みながら、放たれる。
「今よ!豊華ちゃん!」
「ぐっあああああああ!!!」
だが、豊華の力は尽きてしまう。
あまりにも長い間精神を集中させ続けた代償が今になってやってくる。
「お姉ちゃん!!!」
「「豊華!!!!!」」
刹那。
豊華の背後に美しい天使が舞い降りる。
光り輝く金の髪の毛。
美しい白い翼。
「諦めるなんて、君らしくないじゃないか。」
「……ミカエル?」
「ほら、行くよ。」
「うん!!!!」
「「だああああああああああ!!!」」
ミカエルの力によって回復した豊華は意識を取り戻し、全力で力を放つ。
その刹那、入口が大きく開く。
「行ってください!アモンさん!」
「待ってますから!お嬢様とのお帰りを!」
「ガウガウ!!!」
「ええ、悪魔の名のもとに!!!お嬢様を必ず連れ戻します!!!」
ワタクシは豊華からソロモンの指輪を受け取り、アンリマユの中に入っていく。
さあ!最終決戦と行きましょう!!!!