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4章5話 豊華の新たな日々


 いつからだろう。この世界に、既視感を感じるようになったのは。

 

 

 ベルゼと出会った時。

 

 恵実に拒絶された日。

 

 命を失った日。

 

 そして───────契約した日。

 

 

 最近、そういった人生の分岐点に既視感があった。

 

 『まるで、同じ出来事が前にもあったような、懐かしい感覚。』

 

 

 でもマリスを倒したあの日、明確に『違和感』を感じた。

 

 

 ーーーーーーー。

 

「消え去れ!『マリス』!!今度は封印ではなく、完全に消し去ってやる!」


 目の前に突然現れた青年。

 

 ベルゼ、恵実、ベオルの話を整理するなら、バルバトスさんと融合したソロモンさんらしい。

 

 青年はマリスの体を貫くように拳を放つと、ドロは跡形もなく光の中へと消えていく。


 


 「今回は見逃してやるよ……だが、必ず殺してやるぞ!ハッハッハッハ!!!」


 

 不快な笑い声が響く。


 魔力は全て指輪に集まり、マリスの瘴気だけが辺りに充満する。


 「やったの……?」


 全員が息を飲む中、辺りは静寂に包まれている。


 その刹那。青年は光と闇に包まれる。


 気がつくとソロモンさんとバルバトスさんが、見慣れた姿でそこに立っていた。


「たくさん迷惑をかけたな。みんな。」


 相変わらずこの人は。何事もなかったようにケロッとしてる。そんな変わらない様子に思わず笑ってしまう。


 「当主がすみません。このやり方しかいい方法がなくてですね。巻き込んでしまいすみません。」


 全員苦笑いで返すしか無かった。


 だが、ふたりに助けられたのも事実だ。


  最後まで手のひらの上で、おどらされていたみたいで気に入らないけど。


 それにマリスの中で見た誰かの記憶。あれはきっとソロモンさんの記憶なんだろう。


 多分、二人は悪い人じゃないんだと思う。


 本当に世界のために動こうとしていた。


 ベルゼとべオルを本当の意味で、守れたのは2人のおかげだ。


 「結局あんまりよくわかってないですけど、ふたりに助けられたのは分かります。ありがとうございます。指輪の件、絶対叶えましょう。アリスちゃんだけでなく、世界中の人たちのために。……そして、エリスさんのために。」

 

 エリスさんとソロモンが目指した理想。それは、魔力に苦しむ人達の解放。

 

 そのうちの一つが、アリスちゃんを助けること。

 

 アタシはその意志を受け継ぐことにした。

 

 やっと見つけたアタシがするべきこと。

 

  ベルゼと出会えたからこそ、見つけられた。


 


 「君なら、そう言ってくれると信じてたよ。……これからも引き続き、協力してくれると嬉しいよ。世界がより良くなるために、頼む。」



 「アタシとベルゼで良ければ。」


 「僕は豊華のやりたいことを応援するよ。」


 「ありがとう、ふたりとも。」


 ソロモンさんは安心したように微笑む。


 


 「べオルさんと恵実さんはどうします?」



 間を開けて、バルバトスさんがベオルと恵実に話を振った。

 

 

 ベオルは面倒くさそうに頭の後ろで、腕を組み答えた。

 

 

 「元々俺は半身がどうなったのか見に来ただけだ。面倒事も求めちゃいねえ。⋯⋯だが、お前らを見てるのは、退屈しのぎにはなる。もう少しだけ楽しませてもらうぜ。」

 

 「まったく君は⋯⋯素直じゃないね。」

 

 呆れたように呟くベルゼ。でもなんだか、嬉しそうだ。

 

 つまり、べオルとはもう少しだけ、関わることが出来るというわけだ。

 

 

 「私は行くよ。お姉ちゃんには悪いけど、その子達のことまだ私は受け入れられないから。……でも、だからって何もしないから。……いってもお姉ちゃんは聞かないしね。」


 「恵実……」


 寂しそうに呟く恵実。まだ彼女には時間が必要なんだと思う。


 「それから、ごめん。お姉ちゃんのことや悪魔のことになると周りが見えなくなるからさ。少し自分を見つめ直すよ。」


 「待ってるよ。アタシは。」


 


 「うん。……あ、そこの胡散臭い二人、お姉ちゃんに変なことさせたり、やらせたら許さないからね。」


 「しませんよ。」


 「しないとも。トラスト財団の一員として迎えるつもりさ。」


 

 「それならいいけど。……ベルゼ・バアル。お姉ちゃんをお願いね。色々無茶する人だから。」


 「わかった。今度は一緒にご飯食べよう。」


 

 「……悪魔とご飯か。……それもいいね。」

 

 少しだけ恵実が笑った気がした。


 

 

 「おい、そこの妹。俺には何もねーのか?そこの人間を喰らうかもしれねーぜ?」

 

 意地悪な笑みを浮かべるベオル。

 

 ベルゼはやれやれと言うように、頭を抱えている。

 

 恵実は挑発を返すように、微笑む。

 

 「ふっ。アンタみたいな奴の方が私は信用できるよ。ミカエルに襲われた時、アンタ必死にお姉ちゃんやベルゼのこと守ってたじゃない。」

 

 「なっ⋯⋯そんなんじゃねえ。あれは、元のクソッタレな魔王に戻りたくなかっただけだ!勘違いするな!メンヘラ女!」

 

 「はいはい。お邪魔しました。」


 恵実は複雑な表情でその場を後にした。



 きっと、大丈夫。恵実もベルゼやベオルと分かり合える日がくる。

 

 

 

 

 「くそが!なんであいつ知ってるんだ!」

 

 「ラファエルが供物になっている間の記憶も復元したんでしょ。恥ずかしいところ見られたね。」

 

 「うっせえ!!!!」

 

 ベオルは恵実に私たちを助けた姿を見られていたのが、恥ずかしかったのか怒りながら屋敷へと入っていった。

 

 ベルゼはその様子を楽しむように、見つめる。

 

 そして、アタシに手を差し伸べる。

 

 「いこう。豊華。」

 「そうだね。マリスに家荒らされたから、色んな片付けないとね。」

 

 「おお!私も手伝おう!」

 「私も手伝いますよ。」

 

 「はい!お願いします!」

 

 続くようにソロモンさんとバルバトスさんが着いてくる。

 

 色々あったけど、ふたりが無事でほっとしている。

 

 

 「ベオル、キミも手伝って。」

 

 「知るかよ、俺が荒らしたわけじゃねえんだ。昼寝する。」

 

 

 「あはは。自由だねえ」

 

 ベルゼがべオルを呼びに行くが、ベオルは屋根の上で寝転がり眠る。

 

 まだまだベオルとは距離があるけど、きっと大丈夫だろう。

 

 彼のこともこれから、知っていけばいい。

 

 

 そして、新しい日々が始まる。

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

 アタシとベルゼは正式にトラスト財団へと迎え入れられ、日々を忙しなく過ごしている。


 小さい頃からの夢だった正義のヒーロー。


 こんな形で叶えられるとは夢にも思っていなかった。


 今は充実感でいっぱいだ。

 

 ベオルは、と言うと、特にアタシたちに干渉することなくグータラと過ごしている。

 

 彼は怠惰の悪魔『ベオル・バアル』だから、当然と言えば当然なんだけど。

 

 それでも、あたしの作ったご飯は食べてくれている。

 

 まあ、ベルゼはベオルが働かないのにご飯は食べるから、怒るけど。

 

 

 3人でのリビングで食事をとるのが日課になっていた。眠っていることが多いベオルだが、ご飯の時は必ず来てくれる。

 

 「おい、ベオル。キミも働きなよ。」

 

 「俺思うんだ。働いたら、負けだよな。」

 

 「働かざるもの、食うべからず。っていうか、悪魔なんだからご飯いらないでしょ。」

 

 ベルゼはベオルから食器を取り上げる。

 

 「それを言うなら、お前もだろ」

 

 ベオルは何事も無かったかのように、ベルゼの食器を取り上げベルゼの分の食事を食べ始める。

 

 「僕は魔力補填だよ。封印されてるうちにそういう体になったんだよ。それに豊華の料理は美味しいし。」

 

 ベルゼは観念したように取り上げたベオルの食事を食べ始める。

 

 「⋯⋯面倒な体になったもんだな。⋯⋯まあ、飯がうまいのは認めてやるよ。おい、もっと作れ。」

 

 「うん、ありがとう二人とも。」

 

 2人とも、ご飯気に入ってくれたみたい。良かった。

 

 「言い方!言い方あるでしょ!べオル!豊華も怒っていいんだよ!」

 

 「え?」

 

 ベルゼがべオルの物言いに怒ったが、アタシはキョトンとしていた。

 

 「はあ。お人好しだね。豊華からも言ってやってよ、働けって。」

 

 「いやあ、別に。だって、アタシとベルゼで、何とかなってるし。」

 

 「だとよ。」

 

 「はあ。まあ、豊華がいいならいいけど。食べたお菓子の処理と、出したものは元に戻す。これは守って。」

 

 「俺思うんだ。」

 

 「なに?」

 

 「働いたら負けだよなって。」

 

 「それぐらいはやって。それに、片付けは仕事じゃない。」

 

 「なら、何かお前たちに貢献したら、俺は片付けなくていいのか?」

 

 「内容にもよるけど。」

 

 「なら、ボディガードだな。それでいいだろ。」

 

 「どれだけ片付けしたくないんだよ。」

 

 「まあ、いいじゃない。ありがとね。ベオル。」

 

 「⋯ふん。」

 

 どうやら、べオルも少しだけアタシたちに協力してくれるようだ。

 

 ーーーーーー。

 

 

 食後。ひとりで書類の整理をしていると、ベオルが現れた。

 

 「ん?ベオル?」

 

 「少し話せるか」

 

 「うん。いいけど?」

 

 「ベルゼはお前と契約したことで弱くなった。」

 

 「どういうこと?」

 

 「本来なら、人間側が悪魔に魔力を献上するのが普通の契約だ。だが、お前じゃその代償を支払えない。」

 

 「普通じゃない契約をしたってこと?」

 

 「そういうことだ。むしろ、ベルゼがお前に魔力を支払う契約だ。」

 

 「そうなんだ。でもなんで、教えてくれたの?」

 

 「あいつはこういうことはお前に話さないと思ったからだ。」

 

 「うん。そうだね。⋯⋯教えてくれてありがとう。」

 

 確かにその通りな気がした。

 

 ベルゼは優しいから。

 

 アタシの弱い心を知っているから。

 

 

 自由なベルゼをアタシが縛り付けている。

 

 そんな気分になってしまう。

 

 ベルゼはそういう風に思って欲しくないんだろう。

 

 あの日。

 

 契約を結んだ時、アタシたちは家族になったんだから。

 

 「もし、アタシとベルゼがどうしようもなくピンチになった時、ベオルは助けてくれる?」

 

 「⋯⋯美味しい飯のお返しぐらいなら、考えてやってもいい。」

 

 「それは頼もしいね。」

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

 それからしばらくして。

 

 ようやくアリスちゃんに指輪を渡す手はずが整った。

 

 マリスの件があったことで、向こう側に不信感を与えたらしくずいぶん時間がかかってしまった。

 

 これでようやく指輪の効果を試すことが出来るわけだ。

 

 今日は二件予定が入っている。

 

 ひとつは恵実が連れてきたラファエルさんの記憶の治療。

 

 もうひとつは明星清直さんの知人の記憶の治療。

 

 同じ日に記憶喪失の人が来るなんて、不思議な依頼もあるものだ。

 

 

 

 それにしても、トラスト財団の技術には驚かされる。

 

 

 記憶を回復させる装置もあるとは。働いているアタシが言うのもあれだが、もはや、なんでもありだ。

 

 ラファエルさんは、今別室で治療を受けている最中だ。

 

 ラファエルさんには縁がある。

 

 前に恵実を回復してくれた人だ。

 

 天使でも記憶を失うほどのダメージを受けるなんて驚きだ。

 

 前にあった時はそんな感じはしていなかったが、ここ最近で記憶を失ったのだろうか。

 

 心配だ。

 

 

 べオルは相変わらずで、今日も留守番。なかなか考えていることはわからないけど、なんとか一緒に暮らしている。

 

 ご飯だけは食べてくれるんだよな。

 

 なんだか、餌付けしているような感覚だ。

 

 

 「いよいよだね。大きなお仕事。」

 

 「そうだね。でもその前に明星さんの依頼だよね。」

 

 「だね。」

 

 ベルゼがアタシの肩に触れる。本当に、いよいよというところだろう。

 

 大きなプロジェクトの第一歩が今日動き出すんだ。

 

 「対応は私にお任せ下さい。本当なら、べオルさんが護衛についてくれれば、もう指輪を渡しに行けるのですがね。」

 

 バルバトスさんが呆れたようにベオルに言い放つ。

 

 「⋯⋯気分じゃねえ。面倒事は御免だって言っただろ。」

 

 ベオルはなにも気にすることなく、リビングに寝転がり顔を伏せる。確かにそう言っていた。アタシとベルゼを見ているのが退屈しのぎになるから、ここにいてくれている。彼はずっとそのスタンスだ。

 

 「まあ、いいだろう。天羽の使用人とやり取りしていたのは私なのだし。諸々の事情を知っている私やバルバトスが行った方がいい。」

 

 ソロモンさんが間に入って、話を進める。

 

 実際アタシもソロモンさん達が居てくれた方が仕事としてはやりやすい。

 

 アタシは影の魔獣を引き寄せないために必要らしい。

 

 ベルゼとは契約してるから、あまり離れるのも良くないし。

 

 

 とまあ、色んな段取りを決めていると、インターフォンがなった。

 

 

 どうやら、明星さんたちが着いたようだ。

 

 これが終わったら、いよいよアリスちゃんの元へ指輪を届けに行く。

 

 アタシは少しだけ高揚しながら、今の仕事に専念することにした。

 

 きっと、大丈夫。

 

 隣にはベルゼがいて、アタシにはアタシにしか出来ないことがある。

 

 着実に一歩を踏み出していく。

 

 

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