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4章3話 アリスのこれまで


 

 思い出。記憶。

 

 私にとってそれは、ほんの少しの温かさと、残り全ては残酷なモノ。

 

 アモンと生活するようになるまでは、そうだったと思う。

 

 幼い頃の記憶。

 

 大抵は薄れて淡くなって、忘れゆくもの。

 

 それでも強烈に脳裏に刻まれた過去は、時折、私の胸を締め付ける。

 

 忘れてはいけない。

 

 私はそう思っているのかもしれない。

 

 きっと、忘れることはない。

 

 ーーーーーーー。

 

 

 私は加護持ちを多く輩出する家系『天羽家』に生まれた。

 

 天羽家は、大昔に悪魔を封印した一族『アマハネ』の末裔。

 

 そのためか、世界から魔力や悪魔、魔獣を無くすために行動し、飛躍してきた。

 

 今この世界が魔力を持つ者に差別的なのは、天羽家の働きかけが強い。

 

 私も当然、加護を持って生まれてくるだろうと期待されていた。

 

 それが天羽家における普通だから。

 

 

 

 

 それでも生まれてきたのは、私。

 

 生まれてすぐ強すぎる魔力に包まれ、体を弱らせた赤子。

 

 お母様は私が生まれてすぐ、発狂し嘔吐したらしい。

 

 『ああああああっ!!!!私、わた、しの体から悪魔……アクマが生まれた!!!!穢れてる!汚れた!汚された!!!わたしのからだぁああああああああ!!!!』

 

 そうやって、永遠に発狂するようになったという。

 

 

 

 

 私はと言うと、生まれてすぐは魔力に飲まれ、熱を出していた。

 

 お母様がそんな状況になっていることも知らず、寝込んでいた。

 

 私が生まれてから数年が経ち、魔力と体が安定してくると、寝込むことはなくなった。

 

 ただ、お母様には会ったことがなかった。

 

 お母様は本館から離れた家に住んでいた。隔離されたような生活を送っていたと言う。

 

 私は何度も会おうとしたけど、メイドたちに強く止められた。

 

 

 

 お父様も私と顔を合わせようとはしなかった。

 

 メイドも代わる代わる病気や怪我でやめていき、ずっとそばに居てくれたのは一色さんぐらいだった。 

 

 

 

 

 

 一度だけ、お母様にお会いしたことがある。

 

 隔離された部屋に痩せ細った老人のような女性がいた。

 

 私はお母様に会いたくて、つい声をかけてしまった。

 

 きっと、誰かからの愛情が欲しかったのだろう。

 

 

 『あら、可愛らしい女の子ね。どこの子かしら』

 

 周りの人が遠ざける意味がわからなかったから。なんで離れて暮らしているのかも想像していなかったから。

 

 お母様ならきっと、私のことをちゃんとみてくれる。そう期待していたのかもしれない。

 

 実際会いに行ったら、お母様は優しく微笑んでくれた。

 

 だから、嬉しくなって、抱きしめて欲しくなって。自分が娘であることを伝えた。

 

 『お母……様?』

 

 『え?……誰がだれのお母さんなの?』

 

 困惑するお母様。当然だった。お母様は赤子の頃の私しか知らない。

 

 『私。お母様。』

 

 私は自分とお母様を交互に指さした。

 

 『……え』

 

 それでも理解してくれないお母様に、わたしははっきり伝えた。

 

 『私だよ。私、アリス。お母様!逢いに来たんだよ!』

 

 『───────っ!?』

 

 刹那。

 

 お母様は顔を掻きむしり、声にならない悲鳴を上げベッドの上で暴れた。

 

 その行動が理解できなかった。

 

 想像していた行動とあまりにも違ったから。

 

 わたしを可愛い可愛いと抱きしめてくれると思っていたから。

 

 私はお母様のその異常な様子に絶句していた。

 

 

 

 その後、お母様の声を聞きつけたお父様にわたしは打たれた。

 

 

 『お前など娘ではない!!!その髪色が何よりの証拠ではないか!!!』

 

 『お父様……お母様……』

 

 わたしは泣きながら手を伸ばした。

 

 幼いながらにも理解したからだ。

 

 私のわがままが何かとてつもなく、悪いことだったと。

 

 私は為す術もなくメイドたちに連れていかれた。

 

 きっと、お父様とお母様とちゃんと顔を合わせたのは、それが最後だったと思う。

 

 ーーーーーーー。

 

 その後、機嫌取りのように、犬がうちにやってきた。

 

 お父様からのプレゼントだったらしい。

 

 後でわかったことだが、わたしがこれ以上、お母様に近づかないようメイドのひとりが打診したらしい。

 

 白いふさふさのワンチャンは、私にとっても懐いてくれた。

 

 名前はナイト。一色さんがつけてくれた。私を守ってくれる存在になるって、笑ってつけてくれた。

 

 ナイトはいつも私がひとりで遊んでいると、頬を舐めて、微笑んでくれた。

 

 ナイトと過ごしている時だけは寂しさから離れられる気がした。

 

 

 

 

 でも。

 

 次第にナイトの調子は悪くなっていった。

 

 メイドの話によると、私と遊んだ後、極端に調子が悪くなるという。

 

 わたしは幼いながらにナイトから離れることにした。

 

 

 私はどんどん不安に襲われて、焦るように役割を欲した。

 

 誰かに必要とされたいと強く思った。

 

 そうじゃないと、いつか本当に一人になる予感がしたからだ。

 

 切り捨てられる恐怖が常にあった。

 

 だから、メイドたちの仕事を手伝い始めた。

 

 

 洗濯に、片付けに、荷物運びに。なんでもやった。

 

 よそよそしかったメイドたちも、次第に笑顔を向けてくれるようになった。

 

 

 そんなある日だった。

 

 

 とあるメイドがお花への水やりを一緒にしよう、と声をかけてくれた。

 

 私は誰かに求められたのが嬉しくて、引き受けた。

 

 

 

 

 

 

 でも、事件は起きた。

 

 

 

 

 

 私が水やりをした花たちは、みるみるうちに枯れていったのだ。

 

 

 

 その時のメイドの顔は忘れられない。

 

 私のことを化け物のような目で、恐れて見つめていた。

 

 

 

 

 私はふと、ナイトのことが心配になった。

 

 幼い私でも薄々勘づいていた。

 

 お母様のことも、辞めていったメイドたちも、お花もナイトも、もしかしたら、私が原因なのではないかと。

 

 

 

 ナイトの部屋に行き、私は絶句した。

 

 痩せ細り、毛は抜け落ち、もう走ることも、ナイトは出来なくなっていた。

 

 

 それでもナイトは懸命に私の方へと歩いてきて───────最期に笑った。

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

 それから私は、部屋に引きこもるようになった。

 

 一色さんはどうすることも出来ず、いつもドアの前で立ち尽くしていたと言う。

 

 

 そして、途方に暮れた一色さんは、『おばあちゃん』を呼んだ。

 

 

 

 ドアを強引に開け、おばあちゃんは何も言わず抱きしめてくれた。

 

 生まれ初めての温もりだったかもしれない。

 

 感じたこともないぐらい、安心できた。

 

 綺麗な金髪に、緑の瞳。

 

 私を優しく包み込んでくれる祖母。

 

 私は身を委ねた。

 

 

 『おばあちゃんと一緒に遠くに行こうか。アリス。』

 

 『うん……連れて行って……』

 

 『お供します。アリスお嬢様。私もご一緒させてください。エリス様、お許しを。』

 

 『もちろん、連れていくつもりだよ。貴方は私が連れてきたんだ。アイツに文句は言わせないよ。』

 

 『ありがたき、お言葉。』

 

 

 『ずっと、放ったらかしにして、すまなかったね。アリス。……おじいちゃんも、オーリス、アリスのお父さんも中々私に冷たくてね。ここまで時間がかかってしまった。……でも、アリスが辛い目にあっていると聞いてね。もう悠長なことを言っている場合ではないなと、少し強引に来たよ。……面倒事は大人に任せて、アリスはただ着いてくればいい。』

 

 『おばあちゃんは……私のこと怖くない……?』

 

 今まで関わってきたどんな大人よりも頼もしかった。それだけにまた、拒絶されるのが怖くてそんなことを聞いた。

 

 おばあちゃんは、不安なんて微塵も感じさせないぐらい優しい笑顔で答えてくれた。

 

 『ああ。怖くないよ。大切な孫なんだから。……それに、おばあちゃんもほとんど同じだからね。……そんなおばあちゃんからアドバイスだよ。……大丈夫さ。いつか必ず『ずっとそばに居てくれる人』が現れるから』

 

 『おばあちゃんもそういう人に会えた?』

 

 

 『ああ。とっ〜ても情けない王子様とわっる〜い悪魔に会えたよ。』

 

 おばあちゃんは、その時だけ少女のような笑みを浮かべていた。

 

 ーーーーーーーー。

 

 

 それからの毎日は充実していた。

 

 怖がるメイドも、恐ろしい顔で睨むお父様も、わたしを拒絶するお母様もいない、ゆったりできる場所。

 

 優しいおばあちゃんに、一定の距離で関わってくれる一色さん。

 

 

 私は満たされていた。

 

 

 

 

 でも6歳になった、ある日。

 

 おばあちゃんは突然息を引き取った。

 

 眠るように突然亡くなったんだ。

 

 

 

 お葬式で泣きじゃくる私を一色さんはずっと、そばに居てくれた。

 

 

 でも親戚たちが、私に浴びせた言葉は私を責めたてる言葉ばかりだった。耳を塞ぎたくなるような、塞いでも聞こえてくる悪意のある言葉だった。

 

 『忌み子を引き取ってすぐに亡くなったらしいわよ。』

 

 『やはり、悪魔の子だわ。』

 

 『よくあのメイドも付き従うよな。主を殺されたようなもんなのに。』

 

 『恐ろしい。悪魔だ。』

 

 『人間のように振る舞い、動物も花も、親も恩人でさえも簡単に殺す。醜い悪魔だ。』

 

 『生命を弄ぶ化け物め。』

 

 『我が一族の恥だ!』

 

 

 

 

 みんな、そんな言葉を私に浴びせた。

 

 葬式会場に現れたお父様は、私に目もくれず素通りして行った。

 

 

 

 

 私はまた引きこもった。

 

 

 

 

 ーーーーーーーー。

 

 

 『お嬢様⋯⋯そろそろ何か召し上がられては……』

 

 『いらない!!!放っておいて!!!どうせあなたも、わたしがおばあちゃんを殺したと思ってるんでしょ!!!!』

 

 『そんな!……そんなことは思っておりません。』

 

 

 『なら、なんで!!どうして、助けてくれなかったの!!!一色さんはいつも何もしてくれない!!!!』

 

 『っ⋯⋯申し訳⋯ございません。』

 

 

 酷い言葉を言ったと思う。

 

 一色さんは涙を浮かべていた。

 

 

 それでも私は、自分にワガママになることでしか自分を守れなかった。

 

 

 

 やっとできた家族も、自分のせいで壊してしまった。

 

 

 だから、望んでしまった。

 

 どんな歪んだ方法でもいい。

 

 

 私の傍に、ずっと居てくれる人を、心の底から求めた。

 

 

 

 

 そして───────その求めに『アモン』は答えてくれたのかもしれない。

 

 

 

 ーーーーーーーー。

 

 

 目を覚ます。心地よい日差しが私を照らす。

 

 どうやら、長い夢を見ていたらしい。

 

 

 

 あれから11年。私は何とか立ち直り、今を生きている。

 

 召喚したアモンと、そばに居続けてくれる一色さんと。

 

 

 そして、今では恵実という友人もできた。

 

 さらには、番犬『ケルベロス』も飼っている。むかしの私では考えられないことだと思う。

 

 

 

 おばあちゃんが言っていた通り、こんな私にも大切な人達はできた。

 

 

 あとは、この魔力のことだけ。

 

 

 指輪も残りわずか。

 

 計算上、20歳になる頃には全ての指輪が尽きてしまう。

 

 残り三年。

 

 私の魔力のことについては、『マーモイン』が現れた時にアモンが調べてくれた。

 

 

 世界の魔力循環が狂ったことで、私の魔力は減少した。

 

 

 

 マーモイン。強欲の悪魔。

 

 私の魔力が減少したきっかけ。

 

 私はつい、あの日を思い出してしまった。今朝見た夢のせいだろうか。

 

 思考がネガティブだ。

 

 

 

 ーーーーーーー。

 

 新学期を控えたあの日。わたしの魔力は突然少なくなっていた。

 

 昔から際限なく増え続け、体を蝕んできた魔力。

 

 大切な人たちを苦しませてきた『呪いの力』。それが突然訳も分からず、少なくなって、私は怖くなった。

 

 

 魔力を少なくして、普通の暮らしを手に入れる。それが私の目標だった。

 

 それなのに、いざ少なくなると、いつまた突然呪いに襲われるのかという、予期不安に襲われた。

 

 当然だ。どうして突然、無くなったのか分からなかったから。

 

 むしろ、怖くなってしまった。

 

 私の悪い癖で、また引きこもる生活をして、アモンと一色さんに心配をかけた。

 

 それでも二人からの励ましとケルベロスのおかげで何とか、部屋から出てお庭を散歩するぐらいには回復した。

 

 

 でもそんなタイミングを見計らってあの悪魔───────マーモインは現れた。

 

 『お前求めてるだろ?認められたいんだろ?お父さんとお母さん、友達も欲しいだろ?俺の力があれば、叶えられる。どうだ?』

 

 マーモインは、私の心を黒く染めるように、言葉をかけてきた。

 

 私が求めて止まない欲望を見透かしたように。

 

 それでも私はアモンとの約束と、一色さんの想いから、その誘惑を断ち切った。

 

 『私が欲しいものはアモンがくれる。一色さんがそばにいてくれる。ケルベロスが癒しをくれる。欲しいものは全部持ってる!』


 『あ、アモン……?アモンだと!?』


 『富も名誉も全部、私が手に入れる。私の欲望は私が叶える!!!あなたなんかの力は必要ない!!!』


 

 だけど、私の決意をマーモインは笑って受け流し、今度は一色さんを堕天させようと試みた。

 

 人の心を弄ぶように。

 

 『お前がこの女の人生を狂わせるんだ。よく見ておけ!!!』

 

 『お嬢……様…に、にげて。だ、大丈夫……あなたにはあ、アモンが……いますよ。』


 『い、一色さん!!!一色さん!!!』


 わたしは必死に声をかけるが、その姿は魔力に飲み込まれていく。


 一色さんは苦しみながら、堕天し、前世の姿───────『色欲のアスモデウス』へと姿を変えた。

 

 

 我を失い、私に攻撃してくる一色さん。

 

 私は願った。

 

 ───────助けて、アモン。


 


 『はい。お嬢様。』


 『え……?』


 私は恐る恐る瞳を開ける。そこには一色さんの拳を受け止めるアモンの姿があった。


 『記憶取り戻すのはいいですが、一色の記憶忘れちゃ意味無いでしょう。』


 『ア……モン?』


 『もうあなたの知るアモンではありませんよ?』


 『なら……だれ?』


 『お嬢様の使用人アモンですよ。あなたと同じ、ね。』


 アモンは拳をそのまま勢いに任せて振りほどくと、体勢を崩した一色さんの頬にビンタを食らわせる。


 そのビンタがあまりにも強かったのか、一色さんは転がっていく。


 『一色さん!』


 『牛は打たれ強いですよ。』


 『で、でも!!!悪魔にされちゃって!!!!』


 アモンは混乱する私を子供のように撫でると、笑って背を向ける。


 『覚悟はいいな。低級悪魔。』


 『低級……?俺を舐めるなあ!!!!俺は強欲だぞ!!!!』


 『……それがどうした。』


 刹那。アモンはマーモインの腹部を貫いていた。


 『ワタクシの主を傷つけた罪、償ってもらおうか。』

 

 アモンの一撃を喰らい、倒れるマーモイン。

 

 『なっ……ばかなっ!!!!』

 

 マーモインは、何度も立ち上がろうとするが、身動きが取れなくなっていた。

 

 『どうやら、以前より強くなりすぎてしまったようですね。』

 

 『い、以前……?何の話だ……!』

 

 『低級には関係の無い話ですよ。あとそれから、堕天使たちは全て対処済みですので、淡い期待は抱かないでくださいね。』

 

 『ぐっ⋯⋯。』

 

 歯を食いしばりアモンを見つめるマーモイン。どうやら、勝てる術を持ち合わせていないようだった。

 

 『さてどうします?このまま逃げるのでしたら、止めませんよ。それとも、ワタクシに殺されアスタロトが支配する地獄にでも送りましょうか。』

 

 『い、いいだろう⋯⋯ここは引き返してやる。だが、貴様ごときでは我が主には勝てんぞ!!!!』

 

 『魔王アンリマユ⋯⋯ですか?』

 

 『なっ⋯⋯何故それを!!!』

 

 『24000年前に会ってますからね。主にお伝えください。今度は逃がさない、とね。』

 

 『クックックッ⋯⋯以前逃げたのは貴様の方だろう?また逃げるのがオチだな⋯⋯!!』

 

 『さあ、それはどうでしょうね。』

 

 マーモインは不敵な笑みを浮かべながら、闇の中へ消えていく。

 

 どうやら、危機は去ったようだ。

 

 逃がしてしまったが、今はそれよりも、一色さんとケルベロスの治療が先だ。

 

 

 ーーーーーーーー。

 

 

 あの時のアモンはいつもと少し様子が違った。

 

 いつもなら、私に危害を与える存在には容赦がなかった。

 

 私が止めるまで痛めつけるか、私が止める間もなく、殺してしまうかのどちらかかと思っていた。

 

 アモン曰く『彼のことを殺しても良かったのですが、何故かとある混じりものを思い出しましてね。アンリマユの監視にもなりますし、少し泳がせてみようかと思いましてね。大丈夫ですよ、悪さはさせませんので。』とのことだった。

 

 悪魔の考えることは分からないけど、きっとアモンなりになにかに使えると判断したのだろう。

 

 幸いあれから被害にあった人はいない。

 

 それなら、いいんじゃないかと私は思った。

 

 「お嬢様、ご飯の支度ができておりますよ。」

 

 一色さんが部屋のドア越しに伝えてくれる。

 

 「はーい!」

 

 私は用意を手短に済ませ、白い制服に袖を通した。

 

 変な夢を見たせいで、色々考え込んでしまった。

 

 ひとまず今はこの日々を楽しみつつ、魔力のことをもっと調べないと。

 

 ーーーーーー。

 

 「私思ったのですが、お嬢様の魔力のこと、恵実さんに相談してみてはいかがでしょう?」

 

 朝食を食べていると、一色さんが突然そんな提案をしてきた。

 

 「え?どうしてまた急に。」

 

 「彼女は学園の生徒会で、かつあの歳で教会の仕事を請け負っていますよね。神力関係のアプローチは得意なんじゃないかと。」

 

 「うーん。いくら信頼してる恵実でもちょっと怖いかなあ。」

 

 「大丈夫ではないですか?ワタクシが悪魔だと知っても、特に普通でしたし。監視をつけましたが、裏でなにかしていることも無さそうです。重度のシスコンというのがありますが、それ以外は問題なさそうです。」

 

 しれっと人のプライベートを漏らすアモン。コーヒーを片手に優雅に語っているが、悪魔だとバレたのはこいつのせいである。

 

 アモンは私が学園に入った時から『佐藤未来』として、変装をして潜入していた。

 

 だが、その姿は魔力でかたどったものであり、本当の姿を知っている人に本当の姿を見破られると元の姿に戻ってしまうらしい。

 

 要は、あの時恵実にアモンの正体がバレてしまったということ。

 

 恵実は一瞬驚いていたけど、知り合いに悪魔がいるらしく結構あっさりスルーした。

 

 『悪魔にも色々いるって最近知ったから、とりあえず見逃してあげる。未来のことは入学当初から知ってるしね。でも悪さしたら、容赦はしないからね。不審な行動は慎むように。あと、アリスも気をつけること!わかった!?』

 

 みたいな感じで、釘は刺されたけど。

 

 

 

 それでも少し勇気が持てない。魔力を持っていても偏見なく関わってくれる恵実だけど、あくまでそれは、アモンから魔力を吸われ、指輪で抑えている状態でのことだ。

 

 本当の魔力やこれまでのことを話したら、拒絶されるかもしれない。

 

 せっかくできた友達なのに。

 

 

 「そんなに心配でしたら、記憶を消すこともできます。……お嬢様、何もしなければ、何も変えられませんよ。」

 

 浮かない顔をする私にアモンはそう言葉をかけた。

 

 アモンの言う通りだった。

 

 私は一気に朝食を終わらせると、バンと机を叩き立ち上がる。

 

 「わかった!今日言ってみる!」

 

 「それでこそ、お嬢様です。」

 

 「では、週末。家に呼びましょう。私は少し調べたいことがあるので、アモンさん、もてなしはお任せいたしますよ。」

 

 「ああ、『あれ』のことですか。いいですよ。お任せ下さい。」

 

 「『あれ』って?」

 

 「少し、ワタクシと牛で調べていることがあるのですよ。お嬢様に害がないと判断したら、お伝えしますね。」

 

 「そうなんだ?」

 

 なんの事かは分からないけど、きっと2人も私のために動いてくれているんだ。

 

 私も頑張らないと!

 

 ひとまずは、恵実に相談だ!

 

 私は身支度を終えると、駆け出した。

 

 「行ってきます!」

 

 「「行ってらっしゃいませ」」

 「ウゥ〜ワン!」

 

 アモンと一色さん、ケルベロスに見送られ学園へ向かう。

 

 

 大変な日々だったけど、私は少しずつ前に進んでいく。

 

 そしていつか、自由を掴む。

 

 私は改めて、自分の胸に誓った。

 

 

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