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3章7話 終焉のトリガー

挿絵(By みてみん)


 

 血が止まらない。

 

 これはダメなやつだ。

 

 意識が途絶える。

 

 そう思った刹那、急激に体が軽くなる。

 

 瞳を開けると、桃色髪の天使が微笑む。

 

 「もう、大丈夫だよ。お姉ちゃんとベルゼも助けてくるね。」

 

 天使はニコッと微笑むと、ベルゼと豊華を治療する。

 

 光が豊華を包むと、ベルゼにも青白い光が包む。

 

 2人とも、何事も無かったかのように起き上がる。

 

 

 「そうだ……私、ミカエルに胸を貫かれて……」

 

 自分の胸を触るが、どこにも異常は見られない。

 

 どうやら、先程の天使に治療を施されたらしい。

 

 「私悪魔なのに、天使に治されちゃった……」

 

 「私は癒しの天使ラファエルだからね。どんな傷も死と寿命以外なら回復できるよ。」

 

 「ら、ラファエル……?こないだのクマさん?」

 

 「そうだよ。今は恵実と融合してるから半々ってとこかな」

 

 人間と天使の契約……。聞いた事も無い。

 

 いやそんなことより、ミカエルは!?

 

 私が慌てて周囲を見渡すと、ラファエルがそっと頭上を指さす。

 

 そのまま視線を向けると、ミカエルと見覚えのある青年が翼を生やして飛んでいた。

 

 「あれって……」

 

 「明星清直。正確には大天使で、堕天使で3代目魔王ルシフェルだけどね。」

 

 「清直が……ルシフェル……?」

 

 状況に理解が追いつかず、混乱する。

 

 あれが清直だって言うの?

 

 

 黄金の長髪に赤い瞳。黒い翼と白い翼を三対羽ばたかせて、冷酷に微笑んでいる。

 

 見たこともない白い衣に、黒のズボン。

 

 まるで本当に絵の中の天使だ。

 

 

 

 「お兄ちゃん……お兄ちゃんだよね?ボクだよ……?わかる……?ミカエルだよ!!」

 

 ミカエルは子供のように嬉しそうに微笑む。

 

 邪悪な堕天使が浮かべる表情とは到底思えなかった。

 

 兄を慕うただの妹だった。

 

 瞳には大粒の涙を溜めて、嬉しそうに清直に抱きつく。

 

 「ああ、わかっているよ。苦労をかけたね。」

 

 清直は優しくミカエルの頭を撫でる。

 

 それだけで、美しい絵画のようだった。

 

 

 

 「えっへへ!苦労なんてそんな!!!ボクはもう、お兄ちゃんに会えただけで満足だよ!!!」

 

 

 「そう……なら、もう眠れ。」

 

 「……え?」

 

 

 

 私は思わず目を逸らした。

 

 清直の腕がミカエルの腹部を貫いたからだ。

 

 困惑したまま、吐血するミカエル。

 

 

 「な……なんで……」

 

 ミカエルは訳も分からないまま、そのまま落ちていく。

 

 「……愚かな妹だ」

 

 清直はミカエルに背を向けると、指を鳴らす。

 

  その刹那、跡形もなくミカエルは消失する。

 

 

 

 二人の事情は分からない。

 

 それでも、私は黙っていられなかった。

 

 

 

 降り立った清直に私はビンタをする。

 

  「どうして!!!!家族だったんじゃないの!?」

 

 

 「……だれ?君。気安く僕に触れるなよ。泥人形風情が。」

 

 清直から飛んできた言葉だとは思えなかった。

 

 呆気にとられているうちに右手で喉元を掴まれる。

 

 「やはり何年経っても人間は不愉快だな。……滅ぼすか。」

 

 「あぐっ……!!き、清直!!!」

 

 清直はまるで、私に興味がなさそうに左腕を振り下ろす。

 

 殺される……!!!

 

 「その手を離してあげて。その子は君のために言ってくれたんだよ。ルシフェル。」

 

 ラファエルが清直の振り上げた左腕を掴み、攻撃を辞めさせる。

 

 

 「お前……ラファエルか。読めたぞ。ミカエルの記憶を消したのはお前か。」

 

 「……そうだよ。私にはそれしか出来なかったから。……彼女は君とサタンを殺した罪悪感で天使ではいられなくなった。そして、自害した。助けても、何度も何度も。見かねた神様に記憶を消すように命令されたのさ。」

 

 

 「だろうね。……だから、殺してやったんだ。」

 

 「……これからどうするつもりだい?」

 

 「決まってる。神と天使と人間を殺す。」

 

 

 「何万年も経って、またサタンと同じ轍を踏む気?」

 

 ラファエルが話していると、割って入るようにベルゼが近づいてくる。

 

 清直はまだ手を離してくれない。

 

 息が苦しい……

 

 

 「君は……バアルか……封印が解けたのか」

 

 気が緩んだのか、清直は私から手を離す。

 

 「げほっ……げほっ!!!」

 

 咳き込む私を無視して、清直はベルゼに近づく。

 

 不意に涙がこぼれてくる。

 

 もう清直はいないの……?

 

 

 「君も来い。ともに世界を変えようじゃないか。」

 

 爽やかな笑顔を浮かべる清直。

 

 ベルゼは差し出された手を弾く。

 

 

 「遠慮するよ。僕は君が調べてこいって言った『愛』で変わったからね。」

 

 

 「まさか……君、人間と契約している……?」

 

 恐れるように後退すると、清直はベルゼをウイルスのように避ける。

 

 

 「あれだけ人間の醜い部分を見て、精神を犯されて、なんでそんなことが言える!!!!!」

 

 「全員がそうという訳でもない。君なら、わかるはずだよ。」

 

 

 「分からない……わかりたくもない。」

 

 「……目を逸らすな」

 

 刹那。ラファエルから神力が溢れ出し、恵実とラファエルに分離する。

 

 そして、真剣な眼差しでラファエルは言葉を紡ぐ。

 

 「君のその姿が何よりの証拠じゃないか。美しい女性の姿で人間を救済し、争いが起きた。だから、男の姿になったんでしょ?」

 

 「それは確かにそうだ。だが、こんな惨めな俺を恵実は助けてくれた。……あの時のことは俺たち天使が間違えていたんだよ。……お前はもう、人間の温かさを知っているはずだ。」

 

 ラファエルは不意に私の方を指さす。

 

 「なんだ……?さっきの人間がどうかしたのか」

 

 「今日まで人間として、見てきたこの世界を思い出してみるといい。君の目はそんなに曇っていないよ。」

 

 ベルゼが優しく微笑むと、清直の肩を叩き、私の前へ押し出す。

 

 

 「……ほんとに変わったんだね。バアル。……そこの契約者がきっかけか。」

 

 清直は優しくて微笑むと、豊華の方を一瞬見つめる。

 

 そして、しゃがみこみ、私に視線を合わせる。

 

 

 

 「……どうせ長い命だ。一度だけ、チャンスをあげるよ。この僕を満足させる結果を見せてみろ。」

 

 「……え?」

 

 「この体を元の人間に返すと言っているのさ。……失望させるなよ」

 

 

 「家族を大切にできないあなたなんかより、清直は世界のことよくわかってるよ。」

 

 「……それは楽しみだ。」

 

 

 刹那。眩いひかりが清直を包み、見慣れた清直が目の前に現れる。

 

 

 「……あれ……ナーヴァ……?」

 

 「よかった!!!!清直だ!!!」

 

 私は思わず抱きついてしまう。

 

 

 やっぱり、清直といるのが一番落ち着く。

 

 

 「……ナーヴァ、一つだけ俺の願い事を聞いて欲しい。」

 

 わたしが強く清直を抱きしめると、清直は真剣な声色でそう言った。

 

 だから、私は一旦離れて、話を聞いた。

 

 

 「君の復讐を、最後まで見届けさせて欲しい。……俺も一緒にいさせてくれ。」

 

 「……いいの?また傷ついちゃうかもしれないよ?怖いことも沢山あるよ?……清直が無理に私に付き合う必要なんて、ないんだよ?」

 

 

 「……それでも、君のそばにいたい。」

 

 

 「……わかった。わたしは清直とまだ一緒にいれて、嬉しいよ。」

 

 「俺もだ。」

 

 

 ーーーーーーーーー。

 

 

 気を取り直して、アリスの家に向かうこととなった。

 

 ようやくソロモンの屋敷の敷地内を抜けて住宅地だ。人目に付くところでの戦闘じゃなくて、良かった。

 

 新たに清直、恵実、ラファエルを加えて向かう。

 

 すこし大所帯になったけど、このメンバーなら安心だろう。

 

 ミカエルのことは少し残念だったけど、もうわたしが首を突っ込む次元ではない気がした。

 

 清直とルシフェルは完全に別人だった。

 

 だから気にしないことにした。

 

 それからもうひとつ、おもしろいことがわかった。

 

 全然わからなかったけど、豊華と恵実は姉妹だったみたい。

 

 ベルゼとも色々あったみたいで、三人は後ろの方で話し込んでいた。

 

 

 「良かったの?僕のことを助けて。」

 

 「アンタはお姉ちゃんと契約してる。今更殺そうなんて、思わないよ。……それに約束したでしょ?お姉ちゃんを守るって。」

 

 「ああ、そうだったね。悪魔は約束は守る。安心していい。」

 

 「恵実、ちょっと変わったね。」

 

 「そ、そう?」

 

 「良い友達でもできた?」

 

 「アリスの家に行けばわかるよ。超めんどい悪魔がいるからさ。」

 

 「そうなんだ?楽しみだね。」

 

 なにやら楽しそうな笑い声が聞こえる。どうやら、蟠りは少し消えたみたい。

 

 ーーーーーーーー。

 

 

 意外とあっさり目的のお屋敷に着いた。

 

 ソロモンの家と同じぐらいの屋敷がそびえ立つ。

 

 立派な鉄格子が立ち、綺麗な花の咲く庭。

 

 その奥に洋風なお城のような建物が立っていた。

 

 これが天羽家。

 

 

 ベルを鳴らすと、使用人のような銀髪の女性が出迎えてくれる。

 

 鉄格子が自動で開く。

 

 「お待ちしておりました。ソロモン財団の皆様。」

 

  綺麗なお辞儀を披露すると、後方から青いドレスを着た金髪の美少女と傍らに黒髪の紳士服をまとう青年が現れる。

 

 この男の人……どこかで見たことあるような……。

 

 「ようこそ。天羽家へ。私は天羽アリス。この度は商談、よろしくお願い致します。」

 

 妖精の国のお姫様かと錯覚するような美少女。

 

 美しく、スカートをつまみお辞儀をする。

 

 挨拶も早々に男の執事が前に出てくる。それと同時に豊華も前に出る。

 

 「到着に手間取り、申し訳ありません。……アタシは真昼豊華。トラスト財団の者です。当主、ソロモン・トラストの使いで参りました。」

 

 「いえいえ。お気になさらず。ですが、予定よりかなり人数が増えましたね。……一応、そちらの当主からご連絡は頂いていますが、念の為身元を確認したく思います。真昼豊華さん。」

 

 豊華とベルゼが、黒髪の男の人と話し込む。

 

 

 「トラスト財団の人って……豊華さんだったんだね。というか……なんで、恵実も一緒にいるの?」

 

 ひょこっと顔をのぞかせるアリス。どうやら、恵実と面識があるようで話しかけにくる。

 

 あれ…この子もどこかで見たことあるような……

 

 そんなことを思っていると、アリスと恵実が楽しそうに話し始める。

 

 隣にいるラファエルは居心地が悪そうだ。

 

 

 「私はまあ、教会の監視係的なモノと思ってもらっていいよ。ごめんね。ほんとに色々あってさ。」

 

 「そうなんだ?大変だったんだね。こちらこそ、ごめんね。アモンと一色さん、警戒してて。」

 

 「こんな大所帯ならそうなるよ。」

 

 「……ところで、恵実?隣にいる男の人は同じ教会の人?」

 

 「え、うん。そうだよ?」

 

 「へえ〜」

 

 「な、なによ!」

 

 「べっつに〜」

 

 「そういうのじゃないってば!」

 

 はにかむように笑う少女。

 

 何故か、この子から目を離せない。

 

 まるで周囲の会話が耳に入らない。

 

 銀髪の女性は周りを監視するように目を光らせている。

 

 私と清直は知り合いがいないので、余っている状況だ。

 

 「なんか、余っちゃったね。」

 

 「……。」

 

 清直が私になにか話しかけているが、まるで耳に入らない。

 

 この感覚は、よくない気がした。

 

 よくないとわかっているのに、私は少女から目を離せない。

 

 

 「……ナーヴァ?」

 

 金色の髪に、緑の瞳。


 


 揺れる長髪は長く揺れ、少女のような体。


 

 

 どうしてだろう。

 

 なんで、こんなに見覚えがあるんだろう。

 

 

 「恵実、また俺と融合しろ。ナーヴァを止めるぞ。」

 

 「……えっ」

 

 私の異変に気がついたのか、ラファエルが恵実と融合し、戦闘態勢となる。

 

 私もこれはまずいやつだって、わかってる。でも、アリスから目が離せない。

 

 

 「豊華、離れてて。ちょっとまずそうだ。アモン、キミも力を貸せ。」

 

 「なにか、とてつもない嫌な予感がしますね。一色、お嬢様を」

 

 「わかってますよ。」

 

 「えっ……なに?」

 

 ベルゼも状況を察したようで、戦闘態勢に入る。男の執事も戦うようだ。

 

 「……ベルゼ。ナーヴァちゃんを止めてあげて。」

 

 「やるだけ……やってみるよ。」

 

 豊華は一言、ベルゼにそう告げると、逃げていく。

 

 銀髪の女性はアリスを連れて離れた場所に逃げ始める。

 

 逃がす訳にはいかない。

 

 

 

 「お、おい!ナーヴァだめだ!それはダメだ!!!」

 

 ドクンドクンと、意識が覚醒していく。

 

 この世界からの意識が途切れて、記憶が蘇る。

 

 


 『私たちの力……全部、全部。あげるから……』


 『強く、強く、……生き…るんだぞ。』


 



 脳裏にいくつもの映像が流れ込んでくる。

 

 パパとママがあんな目に遭った元凶。

 

 天羽アリスはアンリマユだ。

 

 「…アンリマユ!!!……こんな所にいたなんて!!!!」

 

 意識がはっきりする。すべて思い出した。

 

 わたしはナーヴァ。

 

 堕天使ヴァラキエルと魔人マモルの娘。

 

 パパとママはこの世界で暮らしていた。

 

 だから、その力を受け継いだ私が間球に来た時に、24000年が経過した。

 

 でも好都合だった。アンリマユに復讐できるから。

 

 

 

 私の目的はひとつ。

 

 目の前にいるアンリマユを殺すこと。

 

 パパとママの仇を討つこと。

 

 「ナーヴァ!!!」

 

 魔力を溢れさせる私を清直が止めに入る。

 

 「どいて。わたしは全部、思い出した。そこの女がアンリマユ。わたしのパパとママを殺した魔王!!!」

 

 「な、何馬鹿なこと言ってるんだ!あの子は天羽アリス!指輪を渡さないといけない子だ!」

 

 「うるさい!!!!」

 

 私の魔力に清直は吹っ飛ぶ。

 

 

 「止めるぞ!アモン!ラファエル!」

 

 ベルゼ、黒髪の男、恵実と融合したラファエルが突撃してくる。

 

 私にはアンリマユしか見えない。

 

 

 「落ち着きなよ!ナーヴァ!!!」

 

 「邪魔だ!どけ!!!」

 

 ベルゼが魔王でも関係ない。

 

 邪魔をするなら、殺す。

 

 「なにっ!?」

 

 私はベルゼの腕を掴むと地面に叩きつける。

 

 「がはっ!?(さっきより強い!!?この魔力量は普通じゃない!)」

 

 

 「復讐は何も生まない!君なら、ミカエルの最期を見た君なら、わかるはずだ!!!」

 

 「どいてろ!天使!!!私には家族が全てなんだ!!!!」

 

 飛んでくるラファエルに蹴りを食らわせる。

 

 「ぐっ!?」

 

 そのまま膝をつき、ラファエルは倒れる。

 

 「暴走……という訳ではなさそうですね。」

 

 「……アモン……様ですよね。行かせてください。」

 

  記憶は戻った。この人は魔王アモン。わたしが憧れた人だ。

 

 でも今はそんなの関係ない。

 

 「……行かせる訳にはいきません。アリスお嬢様はワタクシの大切な主ですから。」

 

 「だったら、お前も殺す!!!」

 

 

 「なっ……!?」

 

 私は剣を形成し、アモンを切りつけた。

 

 力が溢れてくる。

 

 無限に力が湧いてくる。

 

 「……恐ろしいものですね……これが、復讐心で増幅した魔力……」

 

 アモンは吐血し、そのまま倒れる。

 

 

 「あ、アモン……アモン……?」

 

 「次はお前だ。アンリマユ。」

 

 絶対に許さない。殺してやる。

 

 「いや……いや…いや………いやあああああああああ!!!!!」

 

 

 狂ったように泣き叫ぶアンリマユ。

 

 何を泣いている。私から全てを奪ったくせに。

 

 アンリマユの全身から泥のような魔力が溢れ出し、包んでいく。

 

 

 膨張し、泥の肉片が巨大化する。

 

 

 「クックックッ………!!!この時を待っていたんだよ。アリスがこの世界に絶望する時を。………ああ、なんて甘美な魔力なんだ!!!」

 

 「ようやく、姿を現したか!!!アンリマユ!!!!」

 

 

 泥に包まれたアンリマユはみるみるうちに大きく膨れ上がっていく。

 

 溢れ出る魔力は化け物だ。だが、そんなの今はどうでもいい。私は復讐を果たすだけだ。

 

 

 「アンリマユ……マリス……それはかつての名だ。今の僕は……『アリスマリス』。世界に終焉をもたらすものさ。」

 

 

 「パパとママの仇………!!!!」

 

 

 「フフ、もう、そういう次元じゃないんだよ。」

 

 

 私の攻撃なんて、通じなかった。

 

 それどころか、世界全てが闇に包まれるのを感じた。

 

 目の前を闇が遮り、飲み込まれる。

 

 

 終焉の世界。

 

 

 醜い魔力が世界に広がり、自分の意識なんて簡単に飲み込まれた。

 

 


 世界は闇に飲まれた。

 

 

 抗うことなんてできなかった。

 

 私の視界に最後に映ったのは、泥から人の姿へと変化したアンリマユ。

 

 黒く染った肌に、赤い瞳。嫌な記憶を想起させる金色の髪。

 

 最後まであいつは私を嘲笑っていた。

 

 忘れもしない。あの日のままの狂気を帯びた笑顔で。

 

 

 

 パパ、ママ。ごめん。

 

 仇とれなかったよ。

 

 こんな形で復讐が終わるなんて。

 

 清直に合わせる顔……ないや。

 

 せっかくついてきてくれたのに。

 

 最期になってようやく気づく。

 

 私にはもう、何も残っていない。

 

 私は間違えたんだ。

 

 

 

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