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2章6話 ベルゼは後悔する


 豊華と過ごして1ヶ月が過ぎた。

 

 豊華は学園を卒業し、本格的に仕事を行うようになった。

 

 僕も一緒に仕事を覚え、豊華とともに過ごす生活に安らぎを感じていた。

 

 もうこれでいいのかもしれない。

 

 そんな、逃避にも似た感情だ。

 

 だが、それを叱責するように悪夢は毎日僕を苦しめていた。

 

 あの日の記憶。

 

 罪の意識と今の生活。

 

 理想と現実のギャップで吐き気がする。

 

 それなのに、空腹感は収まらず食べることはやめられない。

 

 「ベルゼ……?どうかした?」

 

 「あ、いや……ちょっとぼーっとしてた。」

 

 「疲れたかな。休憩しようか。」

 「……うん。」

 

 考え事をしていると、豊華に声をかけられる。

 

 どうやら、集中出来ていなかったらしい。

 

 いつもより早く掃除を切り上げ、休憩することとなった。

 

 「来客は来週だし、そんなに気張らなくていいよ。ゆっくりやっていこう?」

 

 豊華は相変わらず、優しく微笑む。

 

 僕はその笑顔に助けられ、また甘えてしまう。

 

 「これ、こないだ頂いた羊羹。食べちゃおうか。」

 

 「……いいの?」

 

 「うん。疲れた時は甘いものだよ。」

 

 皿の上に乗せられた黒い和菓子。

 

 箱の中に入っていたのは黒い大きい物体だった。それを切り分けて、皿に乗せたのだろう。

 

 よく見ると、断面はうすく透き通っており、綺麗だ。

 

 フォークを差し出され、豊華と手を合わせて食べる。

 

 軽くフォークで切り分け、口へ運ぶ。

 

 舌の上で転がし、ゆっくり咀嚼する。

 

 小豆の甘さが口いっぱいに広がり、幸福感で満たされる。

 

 口の中に残り続ける甘さを暖かい緑茶で潤すと、程よい苦味が拡がっていく。

 

 そしてまた、羊羹が欲しくなる。

 

 「ん、おいしい……」

 

 「だよね。ふふ、少しは疲れにきいた?」

 

 「うん。とっても。」

 

 「良かった。やっぱり甘党だね」

 

 あたたかい笑顔を向けてくれる豊華。僕の心は満たされていく。今日見た悪夢を忘れるほどに。

 

 こんな風にだれかと食卓を囲み、平穏に暮らす。

 

 僕が夢見ていたことだ。

 

 そんなふうに魔界を変えられたらと、そうなると疑わなかった。

 

 だが、今は僕だけがこんな幸せを噛み締めている。

 

 僕はなんて卑怯なのだろう。

 

 こんな風に安らかに暮らしていきたい。

 

 豊華と何も気にせずに。

 

 そんなこと、許されるはずは無いのに。

 

 

 心は満たされ、幸せだ。

 

 だが、同時に罪悪感は消えることは無い。

 

 むしろ、強くなっていくばかりだ。

 

 それをいつも見ないようにして、豊華に甘えている。

 

 これでいいんだと、居心地のいい豊華に逃げているんだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 羊羹を食べ終え、少しくつろぐ。

 

 基本的には来客に合わせて、スケジュールを組む。

 

 今月は来週に3回来客と、再来週に大事な取引がある。または荷物の受け取りやソロモンへの直接の連絡も任されている。

 

 人の往来が思ったより激しく掃除があまり進まないのが現状だ。

 

 豊華はソツなくこなしている。

 

 まるでかつてこの仕事をやったことがあるかのように、スムーズに仕事を進めている。

 

 どうやら豊華は環境に適応するのが早いようだ。

 

 その仕事ぶりはかつての仲間を彷彿とさせる。

 

 僕も彼女の才能を見出したくなる。

  僕ならもっと彼女を上手く使える。

 

 奥に秘めた能力を発揮させられる。

 

 そんなふうにふと考えてしまった時、かつての己と今の自分が酷くかさなって辛くなった。

 

 今さらなにを思って、王のツラをしているのだろう。

 

 僕は愚かだ。

 

 大切な仲間を、優秀な彼らを殺したのは誰だ。

 

 醜い暴食の悪魔は誰だ。

 

 豊華を食らうつもりか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日はもう休みなよ。ベルゼ。」

 

 「……え?」

 

 刹那。両頬を豊華のあたたかい手が触れる。

 

 その温もりに意識が戻る。

 

 「今日ずっと、というか最近ずっとそんな調子だよ。」

 

 「……ごめん」

 

 「いいんだよ。ほら、休んでていいから。」

 

 「……何も、聞かないの?」

 

 「教えてくれるの?」

 

 「言いたく……ない。……嫌われちゃうから。」

 

 「そっか。なら聞かないよ。」

 

 「……え?」

 

 「アタシだって、ベルゼに話してないこと沢山あるよ。……だから、無理しなくていいんだよ。」

 

 「……わかった。」

 

 「でも、君のこと知りたいっていうのはあるよ。守りたいし、もっとお話ししたい。ゆっくりやっていこうよ。」

 

 「……うん。」

 

 やはりいつも流されてしまう。

 

 彼女の言葉はあたたかくて、心地いい。

 

 いっその事、全てをさらけ出して拒絶された方が良かったのかもしれない。

 

 そんなことを思いつつも、ボクは言われるがまま自室で眠りについた。

 

 ーーーーーーー。

 

 赤い月が世界を真紅に染める。

 

 僕の体を染めていく。

 

 僕は食らうことを辞められない。

 

 

 そして、それを一番見られたくない人に見られた。

 

 「……ベルゼ…?なに、してるの?」

 

 恐怖に怯える豊華の顔。

 

 やめてくれ。

 

 僕を、僕を、僕を。

 

 「見るなあああああっ!!!!」

 

 ーーーーーーーー。

 

 叫ぶように勢いよく、身体を起こす。

 

 「はあ、はあっ!?」

 

 全身から吹き出す汗。

 

 どうやら、眠っていたらしい。

 

 最悪な夢だった。

 

 きっと、僕は豊華にかつての話なんて絶対にできないだろう。

 

 受け入れてもらえる自信がない。

 

 夢のようになるのは当たり前だ。

 

 だって、間違えているのは僕なんだから。

 

 今以上を求めるのは、きっと地獄に行くよりも業が深い。

 

 ーーーーーーー。

 

 結局あれから眠れなかったので、リビングに出て仕事を再開する。

 

 1時間ほどしか眠れていない。

 

 だが、酷い違和感を覚えた。

 

 豊華の気配がまるでしない。

 

 なぜだか胸騒ぎがした。

 

 ーーーーーー。

 

 家のどこを探しても豊華の姿は見当たらない。

 

 「……豊華?……どこ、いったの。」

 

 声を出してみるが、返事は返ってこない。

 

 「ちょうど良かったじゃないか。」

 

 「なっ……」

 

 聞き覚えのある声が背後から聞こえてくる。

 

 僕は振り返ることなく歯を食いしばる。

 

 「豊華は……どこ。君がさらったの?」

 

 「おいおい。24000年ぶりにあった半身に、随分なご挨拶だな。」

 

 「豊華を……どこにやった!!!」

 

 僕は感情のままに魔力を解放させる。

 

 「俺とやろうってのか?」

 

 「君が……その気なら」

 

 僕は振り返り、その姿を視界に入れる。

 

 僕と瓜二つな少年がそこにはいた。

 

 違うところといえば、金の刺繍の入った服と灰色髪だろう。

 

 そして威圧的な魔力。

 

 「ずいぶんご執心なんだな。あの人間によ。」

 

 「君には分からないだろうね。彼女のあたたかさが。」

 

 「知りたくもねえ。人間なんぞの温もりなんてよ。だが、貴様にはお似合いだな。人間の真似事をするような悪魔にはよ。」

 

 「ぐっ!!!!」

 

 僕は勢いのまま彼の襟を掴む。彼は動じることなく不敵に微笑む。

 

 「おいおい。そんなにいきり立つなよ。俺は楽しんでるだけだ。知ってるだろ。」

 

 「豊華の場所を知ってるんだろ。話せよ。」

 

 「行ってどうする?まさか助けるなんて言わないよな。」

 

 「君には関係ない。」

 

 「相手が相手だ。関係あるね。」

 

 「……相手?」

 

 「大天使ミカエルだよ。お前を狙ってる。」

 

 「どうでもいい。自力で探す。」

 

 その名前には聞き覚えがあった。ルシフェルの妹だ。だが、今はそんなことはどうでもいい。

 

 僕は手を離し、神力のする方へと体を向ける。誰か分かれば、見つけるのは容易い。

 

 「なぜ助ける。お前はあの人間から離れたがっていたはずだ。うっとうしい下等種族に何故そこまでする。……また食らうつもりなのか?」

 

 「恩を返すだけだ。……その後は消えるよ。」

 

 「……山の奥に加護持ちが集まる教会がある。そこに女はいる。」

 

 「どういうつもり?」

 

 「……気まぐれだ。もう少し楽しみたくなった。」

 

 「礼は言わない。」

 

 「好きにしろよ。」

 

 相変わらず理解はできない。だが、そんなことはどうでもいい。

 

 僕は豊華の元へと急いだ。

 

 ーーーーーー。

 

 山の奥。辺りはすっかり暗く。道しるぺは月光のみ。

 

 星々がやさしく照らすが、か細い。

 

 月は嫌いだ。

 

 夜も嫌いだ。

 

 奥へ進む事に、神力の香りが強くなっていく。

 

 そして特段濃いこの香り。

 

 覚えがある。

 

 似てる。

 

 ルシフェルに。

 

 目の前には不気味に佇む教会があった。

 

 扉を開けると、月明かりがガラスを通して入り込む。

 

 十字架に縛り付けられた豊華が真っ先に視界に入り、僕は迷うことなく走り出す。

 

 「豊華っ!!!!」

 

 「ベル……ゼ、来ちゃ……だめ」

 

 か細い声で何かをつぶやく。

 

 僕は何も考えられず、体が勝手に動いていた。

 

 刹那。耳をさくような不快な音が教会に響き渡る。

 

 不規則で不気味な音階。

 

 ピアノだろうか。

 

 激しく演奏されるその音に意識を持っていかれる。

 

 そして。

 

 放たれた閃光をその身に受ける。

 

 「ぐあああああっ!?」

 

 豊華に必死で手を伸ばすが、届くことは無い。

 

 今、何をされた。

 

 

 

 わけも分からず立ち上がるが、再び閃光を受け全身が痺れていく。

 

 次第に閃光はひかりの粒となって、全身に巻き付き拘束される。

 

 「あああああっ!?」

 

 これは神力?

 

 いったい何が起こってる?

 

 「来るとは思わなかったよ。ベルゼ。」

 

 視界を声のする方へ合わせる。

 

 ようやく姿を現したのは恵実。

 

 豊華の妹だ。

 

 「な、なんでこんなこと……僕だけをねらえばいいはずだ……」

 

 彼女が僕を狙うのは分かる。彼女は悪魔を明確に敵視していたからだ。

 

 でも、豊華に酷いことをするような人間では無いことも確かだ。

 

 「お姉ちゃんは悪魔と1ヶ月も過ごしたんだよ?浄化が必要なんだよ。」

 

 瞳には影がうつろう。

 

 妄信的な何かを感じさせる。

 

 「君のせいなんだよ。私だってこんなことしたくなかった。でもお姉ちゃんは君に騙された。キミを守った。だから、こうするしか無かったんだよ。そう、つまり君のせいってことなんだよ。」

 

 早口で言葉を紡ぐ。どうやら、僕を探していたらしい。

 

 そして、豊華が僕を庇って隠したのだろう。

 

 あの家には強い結界があった。僕の魔力も悟られない程の。

 

 また豊華に守られた訳か。

 

 「本当にこの人間が大切なんだね。バアル。」

 

 拍手が聞こえてきて、視線を送る。

 

 よく見ると、豊華の近くには天使がいた。

 

 ルシフェルによく似ている。

 

 あれがミカエルか。

 

 「恵実はボクに協力してくれたんだ。キミへの憎しみで1ヶ月間も訓練したんだよ。詠唱無しで力を使えるほどにね。報われるべきだと思わない?」

 

 「僕は好きにして構わない。豊華を解放して。」

 

 「へえ、抵抗しないんだ。なんでボクに恨まれてるか分かってるつもりなの?」

 

 高圧的な物言いだ。彼女は僕を相当嫌っているらしい。

 

 「天使の考えなんてどうでもいい。後にも先にもルシフェル以外友達はいなかった。」

 

 「くっ!!!!貴様ごときが!!!お兄ちゃんの名前を口にするなあっ!!!!」

 

 突如激昂するミカエル。僕の頭を掴むと、必要以上に地面に叩きつけられる。

 

  痛みは慣れている。

 

 仲間を食らう痛みに比べれば、どうということは無い。

 

 「ミカエル……様?」

 

 来んわしたように声をかける恵実。二人は一体どういう関係なんだ。

 

 「ああ、ごめんごめん。やっていいよ、恵実。ボクたち天使は悪魔を殺しちゃいけないっていうルールがあるんだ。そのために君がいる。ボクの代わりに復讐を果たしてくれよ。」

 

 「分かりました。」

 

 視界が霞む。

 

 意識が遠のく。どうやら終わりが近いらしい。

 

 でも伝えなくちゃ。

 

 これだけは。

 

 「豊華……ありがとう…」

 

 ボクは真っ直ぐ、視界に豊華だけを収めてそう呟いた。

 

 「ベルゼ……ベルゼ、ベルゼ!!!!!」

 

 豊華はとても悲しい顔をしている。そんな顔、させたくなかったな。

 

 刹那、眩い閃光が包む。

 

 ああ、やっと。

 

 死ねる。

 

 

 

 

 

 

 「……え?」

 

 「ばか……死ぬなんて、ダメだって、言ったじゃん。アタシが絶対守るって、やくそく……忘れた…?」

 

 目の前に立つ豊華。既に怪我をしてボロボロだったのに、恵実が放った神力をその身に受けていた。

 

 「な、んで……」

 

 僕はそれしか口にできなかった。

 

 「アタシ、馬鹿だから……いっぱい勉強したけど、わかんなかった。キミが悪い悪魔だなんて、信じられなかったんだよ……もっと、笑って欲しかったんだよ。」

 

 倒れた豊華の声は遠かった。

 

 どこまでも遠く。

 

 耳をすまさないと聞こえない。

 

 それでも、僕にはしっかり聞こえていた。

 

 「お姉ちゃん!?お姉ちゃん!!!!なんで、なんで、なんで、どうして!?どうして!?なんでお前が生きてんだよ!!!!なんでだよ!!」

 

 泣きじゃくりながら、豊華を抱き抱える恵実。

 

 僕は簡単に体を押しのけられ、唖然とする。

 

 生命を感じない。豊華から命を感じない。

 

 今何が起きているのか分からない。

 

 

 「ミカエル様!!!!ミカエル様!!!どうか、どうか!!!お姉ちゃんを!!!お姉ちゃんを助けてよ!!!」

 

 「あは!ごめん、むり!アッハッハ!!」

 

 「え?」

 

 「多分、流れる神力と魔力を平均に保てるんだね。この子は。ちゃーんと、拘束してたんだけどなあ。そこはちょっと予想外。」

 

 「いいから、早く!!!死んじゃう!!」

 

 「もう死んでるよ、その子。」

 

 「そ、んな……」

 

 「キミが殺したんだ。恵実。」

 

 「あ、ああっ…?」

 

 ミカエルは嬉しそうに微笑む。

 

 悪魔のようなその笑顔。

 

 僕は全身が震えた。

 

 ミカエルは最初から豊華を殺すつもりだった。

 

  そう感じてしまった。

 

 ミカエルの言葉に心を壊した恵実。

 

 全身から魔力が溢れ出ている。

 

 「うんうん。素敵な魔力だ。やっぱり大切な人が死んじゃうと悲しいよね。君は扱いやすくて助かるよ。」

 

 「だました……の?」

 

 「騙した?言いがかりはやめてくれよ。豊華の事は君が殺した。ボクには彼女を助ける義理はない。ま、元々殺すつもりだったしね。」

 

 「どう、して……」

 

 「だって、バアルはボクのお兄ちゃん殺したんだよ?なら、奪われないと公平じゃない。それにさ、君簡単に『堕天』しそうだったから。それにも利用できそうだなって。」

 

 「な、なにこの力……?」

 

 困惑するように自分の魔力を見つめる恵実。どうやら、意図したものでは無いらしい。

 

 「あれ、今更気がついたの?キミ、堕天してるよ。おめでとう、これで君は大嫌いな悪魔の仲間入りだね。」

 

 「いや、いや!!!いやああああ!!!」

 

 闇に飲み込まれる恵実。苦痛の表情に満ち、魔力に飲まれていく。

 

 ミカエルは楽しそうに指を鳴らすと、召喚の門が開く。

 

 魔法陣が形成され、恵実を触媒として扉はひらかれる。

 

 悪魔召喚だ。

 

 「いやいや、順調だなあ。ありがとね、恵実。君の魔力で悪魔を召喚するね。ボクのために悪魔の供物になってよ。」

 

 「あああああああっ!!!」

 

 目の前の光景に理解が追いつかない。ミカエルは何をしようとしているんだ。

 

 なんで、豊華は死ななきゃいけなかった。

 

 恵実は騙されたのか?

 

 僕はどうしてここまでミカエルに恨まれている。

 

 思考が追いつかない。

 

 「顕現せよ、『強欲・マーモイン』」

 

 詠唱を終え、恵実の魔力を対価に悪魔が顕現する。

 

 黒き翼に深紅の瞳。蛇のようなしっぽに、漆黒の髪の毛。研ぎ澄まされた爪。間違いなく悪魔だ。

 

 「天使様がオレに何の用だ。」

 

 「好き放題この世界の人間を殺して欲しいんだ。悪くない話だろ?ボクは止めないからさ。暴れてよ。」

 

 「なんでお前ら天使の命令を聞く必要がある。帰らせろ。俺はアンリマユさまの命令以外聞かないんだよ。」

 

 「そのアンリマユの調査をボクたちは依頼されていてね。守らなくていいのかな。この世界に反応あったみたいなんだ。ま、君がいいならボクたちが封印するだけだけど。」

 

 「……目的を話せ。」

 

 「そこに倒れている悪魔はボクにとっては仇でね。殺したいんだよ。だからその間天使の目を欺ける役目が必要なんだ。」

 

 召喚された悪魔は辺りを見渡す。

 

 「お前、そのためにここまでやったのか?」

 

 「そうだよ。」

 

 「悪魔より、悪魔だな。お前。」

 

 ニヤリと悪魔は微笑むと、姿を消す。

 

 どうやら、命令に従うらしい。

 

 「これで整ったよ。存分に君を殺せる!!!!」

 

 ミカエルは剣を形成し、振り下ろす。あれは何体もの悪魔を殺してきたミカエルの剣。これで貫かれた悪魔はひとたまりもないと言う。悪魔を殺すための剣。

 

 明確な殺意。ミカエルは僕に憎悪を向ける。

 

 優しかった兄を堕天させた僕を許せないんだろう。

 

 天使だった彼を殺し悪魔にしたのは僕だから。

 

 ああ、そうか。

 

 今ようやく理解した。

 

 豊華は僕のせいで殺されたんだ。

 

 恵実も利用され、豊華も殺され。

 

 何も変わっていないじゃないか。

 

 こんなにもうらまれて。

 

 やっぱり豊華から離れるべきだったんだ。

 

 僕はまた間違えたんだ。

 

 かつて、大事な仲間たちを裏切ったように。

 

 僕は間違えたんだ。

 

 ならもういっそ、楽にしてくれ。

 

 「そいつは困るな。」

 

 刹那。剣を弾く金属音が鳴り響く。

 

 「……なんだい、君は。」

 

 「俺はベオル・バアル。お前の殺したがってるそいつの半身だよ。」

 

 「そうか!!!お前もか!!!」

 

 「こいつが死ぬと、俺が困るんでな。」

 

 「ならお望み通り、先にお前から殺してやる!!!!」

 

 ベオルが僕を守った?

 

 どうして?

 

 何度も振り下ろされる剣。だが、すべて弾き返している。

 

 「お前、腐るのも大概にしろよ。」

 

 「……え?」

 

 ベオルは俯く僕に鋭い眼光を向けてくる。

 

 「お前は、仲間の命も、豊華の犠牲も無駄にする気かって、聞いてんだ。」

 

 「何を言って……」

 

 「少なくとも、俺が見てきた人間でここまでまともなバカは、豊華だけだと思うぜ。……一緒にいたいんじゃないのか?もう後悔したくないんじゃないのか。」

 

 向き合うのが怖かったもう1人の自分。だけど、今は心を見透かしたように言葉を投げてくる。

 

 だが、同時に僕の中で苛立ちがわいてくる。そんなこといわれなくても、分かっている。切り捨てた半身のくせに、余計なお世話だ。

 

 「でも豊華はもう死んだんだ!!何もかも遅いんだよ!!!」

 

 「まだ間に合う!!!!」

 

 「……え?」

 

 僕の返しを予期していように返される言葉。まだ希望があるのなら、掴みたいと願ってしまう。

 

 

 

 

 「契約しろ、豊華と。」

 

 「契約……?」

 

 「それが豊華を救う唯一の方法だ。」

 

 

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