表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/34

2章3話 豊華はベルゼと過ごす


 とんでもない話だけど、成り行きでソロモンさんの家にベルゼと過ごすこととなった。

 

 動揺し、納得しきれないアタシにソロモンさんはこう続けた。

 

 「元々各地に家が沢山あってね。この家を任せられる人を探していたんだよ。ほら、魔力の研究なんてしているだろう?だから、信用のできる人に任せたかったのさ。」

 

 「そんなこと急に言われても……」

 

 「納得できないようでしたら、ハウスキーパーというのはどうですか?それなら私たちは豊華さんに家を預けられますし、お仕事にもなりますし。」

 

 「ちょちょっと!!勝手に進めないでください!」

 

 「まあまあいいじゃないか。学園に問い合わせしたら、君は進路に迷っていたそうじゃないか。」

 

 「いや、そうだけど!というか、なんで知っているんですか!……それに、バイト!バイトはどうするんですか!急に辞めれませんよ!」

 

 「ご安心を。掛け持ちされているアルバイト先にも全てご連絡してあります。」

 

 「はああああっ!?何勝手に……!!」

 

 「では、そういうことで!明日からよろしく頼むよ!」

 

 半ば強引に家の外へ連れ出されるアタシとベルゼ。

 

 ニコニコしたままバルバトスさんは門の扉を閉じた。

 

 一体何なのよ。

 

 突然の事で、まだ整理がつかない。

 

 どうしたものか。

 

 なんだか、どっと疲れた。強引にも程がある。

 

 もうここに就職するしかないじゃない。

 

 まるで、これが目的だったかのような流れだ。

 

 

 

 「やっぱり迷惑……?」

 

 肩を落とすアタシに申し訳なさそうに顔を覗き込むベルゼ。

 

 いつまでも項垂れていても仕方ない。この子を守ると誓ったのはアタシだ。切り替えよう。

 

 「ううん。勢いがすごくて混乱してただけ。とりあえず、うち行こうか。」

 

 「うん!」

 

 アタシはベルゼの手を取り、ソロモンさんの豪邸を後にした。

 

 本当に長い1日だった。

 

 帰宅中、一通りバイト先に連絡したが、軒並みお祝いの対応をされた。

 

 いくら加護持ちの大金持ちだとしても、情報漏らしすぎでは?

 

 就活中だったとはいえ、学校側が漏らしたとも考えにくい。

 

 

 そもそも会って1日でここまでできるものか疑問だ。

 

 最初から全て知っていたような手際の良さを感じる。

 

 まったく、何がどうなっているのやら。

 

 ーーーーーーー。

 

 「ついたよ。ここがアタシの家。妹と二人で住んでるんだ〜」

 

 アタシはマンションの一室を指さす。ベルゼは帰宅中も見るもの全てが新鮮な様子だった。

 

 今も家を不思議そうに見つめる。

 

 「二人にしては大きい家だね。」

 

 「ああ、違う違う。このおっきい家のひとつの部屋に住んでるんだよ。」

 

 「そうなの?」

 

 「そうそう。さっき居たソロモンさんの家は別格なのよ。」

 

 「そうなんだ」

 

 「さ、行きましょ。」

 

 「うん!」

 

 アタシはベルゼの手を取り、エレベーターに乗り自室へ向かう。

 

 「おおおおお。転移装置?」

 

 2階につき、扉が開い開くとベルゼは瞳を丸くしている。

 

 「まあ間違ってないのかな?これはエレベーター。高い建物の各階層を移動するためのものだよ。」

 

 「えれべーたー?」

 

 「そうそう。鉄のカゴをロープで吊り下げてワイヤーであげたり下ろしたりするの。まあ簡単に言うとね。アタシも専門家じゃないから、詳しくって言われると、分かってないんだけどね。」

 

 「そうなんだ!これなら移動楽だね!」

 

 「そうだね。」

 

 この子は本当に何も知らない様子だ。まるで異世界から迷い込んできたみたいな反応だ。

 

 

 さて。ここからが、問題だ。ベルゼを連れていくことは恵実に連絡してある。

 

 だが、ここまでの話をどう説明したらいいかというところだ。

 

 恵実は神力を得てから、悪魔や魔力について人一倍過剰に反応する。

 

 自分の役割だと強く認識しているからだ。立派なことだし、恵実の責任感の強さがある証拠なのだが、今回に至っては反感を買いそうで困る。

 

 本当か嘘か分からないけど、バルバトスさんは自分のことを悪魔だと話した。

 

 それにソロモンさんは魔力の研究をしていた。

 

 そしてこの子、ベルゼは本の中から出てきたと話した。

 

 恵実は加護持ちとして力に誇りと自信を持っている。こんな話を聞いたら、教会の人間として調査すると言いかねない。

 

 どうしたものか。

 

 

 「ただいま〜」

 

 躊躇いつつも、一先ずアタシは扉を開けた。

 

 扉を開けると、外の寒気と中の温かさですっかり気が緩む。帰ってきたという感じがする。

 

 春が近づいてきたといえ、夜はやはり冷えるからね。家が1番だ。今日みたいに大変な一日は特に。

 

 「おかえり、お姉ちゃん!」

 

 温かさにほっこりしていると、恵実が出迎えてくれる。

 

 エプロンをつけて桃色の髪を1本縛りしている。料理中だろうか。

 

 「へえ……その子が言ってた子?」

 

 「そそ、とりあえず上げてもいいかな?」

 

 「もちろん!いいよ〜!初めまして。妹の恵実です。ささ、上がって上がって。」

 

 恵実はにこやかに微笑むと、ベルゼに目線を合わせて挨拶する。

 

 ベルゼは怯えるように、アタシの後ろに隠れながら頭を下げている。

 

 「ベルゼ・バアル……です。お世話……になります。」

 

 「あはは……嫌われちゃったかな」

 

 「はは、大丈夫だよ。ベルゼ。ほら、入ろ?」

 

 「う、うん。」

 

 どうやら、ベルゼは人見知りをするようだ。優しく頭を撫でてあげると、警戒しながら入室する。

 

 「昔からお姉ちゃんばっかりに、懐くよね。子供も動物もさ。」

 

 「そうだっけ?」

 

 「でもまさか、ついに子供まで拾ってくるとは思わなかったけどね。さすがお姉ちゃん。」

 

 「それは……褒めてるの?」

 

 「もっちろん。」

 

 話しながら恵実はキッチンへ戻り、料理を再開させる。

 

 アタシはベルゼをリビングに案内し、ソファに座らせる。

 

 「ご飯はすぐできそう?」

 

 「いや、今始めたばっかだよ。」

 

 「少し調べたいことあるから、部屋行ってるね。何も無いと思うけど、 ベルゼの相手よろしく。」

 

 「はーい。」

 

 「ベルゼもそれでいいかな?」

 

 「う、うん。何してればいい?」

 

 「ゆっくりしてていいよ。テレビもあるし、漫画もあるよ。」

 

 「テレビ?漫画?」

 

 キョトンとした表情で、こちらを見つめるベルゼ。どうやら、漫画やテレビにも馴染みがないようだ。

 

 「これが漫画。物語を絵で表現している本だよ。こうやって読んでいくんだよ。こっちがセリフでこれは効果音とかね。」

 

 アタシは漫画をベルゼに手渡し指さしながら、読み方を教える。

 

 「すごい。絵が動いてるみたい。」

 

 瞳を輝かせて漫画にのめり込むベルゼ。どうやら文字は読めているようだ。

 

 「これはテレビのリモコンね。この画面に映像が映し出されるの。同じ時間帯の遠くの景色だったり事前に撮影した物語や景色だったりを見れるの。魔力や神力でやる投影に近いかな。アタシはどっちも使えないからテレビ派だけどね。」

 

 流れでテレビも説明してみせる。ベルゼは感心したようにテレビを眺めている。

 

 「凄いね。この箱は神力や魔力を使わないで遠くの景色を映し出せるんだね。」

 

 「生活用品や娯楽のものは、力が使えなくても済むものばかりになってきたね。」

 

 「トラスト家が神力を加工して誰でも使える装置をいくつも作ってるからね。教会じゃ異端者扱いだけど、私は結構好きだよ。」

 

 ただの雑談のつもりだったが、恵実から興味深い話が聞こえる。

 

 どこかで聞いたことのある名前だと思ったが、そういうことだったのか。

 

 アタシはポケットからスマホを取りだし手早く検索をかける。

 

 

 『トラスト財団』。スマホでも簡単に出てくる名家の財団だ。

 

 何世代にも渡って加護持ちを排出する家系。

 

 特に技術革新に大きな影響を与え、魔力・神力を人間の技術に落とし込んだとされている。

 

 近年の物の殆どに財団の影響があるとされている。

 

 

 アタシは恵実の話を聞きながら、スマホで検索した内容を流し読みしていく。

 

 なるほど。これなら、学校側がアタシの話を漏らしてもおかしくは無いわけか。

 

 ソロモンさんはあたしの事情に詳しかった。恐らくバルバトスさんの力だろう。

 

 それを仮定とするなら、アタシに助けてもらった、トラスト財団に迎えたい、と話を持ちかければ外堀を埋めることができる訳だ。

 

 そこからアタシのバイト先も特定することが出来る。

 

 そこからはいくらでもやりようはあるということか。

 

 うん。我ながら、想像に硬くない。

 

 色々納得したアタシはスマホをポケットにしまい込む。

 

 「じゃあ暇は潰せそうかな?」

 

 「うん、ありがとう。」

 

 ベルゼはニコッと微笑み漫画を読み始めた。

 

 恵実も料理はまだ終わりそうにない。

 

 アタシはそのまま、自分の机に着く。

 

 技術革新を起こした名家が魔力の研究か。

 

 とんでもないことを知ってしまったと今更ながらに感じる。

 

 調べたかったのは『エリス』『バルバトス』。このふたつだ。

 

 それに『天羽アリス』。ソロモンさんはその人のために研究をしていると言っていた。

 

 バルバトスという悪魔の目撃例があったのも、『天羽家』という話も出ている。少なからず、関係はあるだろう。

 

 ひとまずはバルバトスという悪魔について再確認しよう。

 

 スマホで検索してみたが、欲しい情報は見当たらなかった。逸話や悪魔についての話ばかりだ。本当なのか疑うような話ばかり。

 

 信用できそうな内容としては、史実として伝わっている魔力を強く持った者、通称『悪魔』を『神の加護を受けしアマハネの一族』が封印したという記録のみ。

 

 これは有名な話だから、特に参考にはならない。この話があるからこそ、加護持ちは優遇され、魔力を強く持つものは冷遇される世の中になっているのだから。

 

 調べたいのは昔に目撃された悪魔の話なのだが、どうも情報が統制されているのか調べられない。

 

 人伝にしか残っていないのかな。確かに授業でそんな話を聞いたんだけど。

 

 うーん。掲示板が何件か立てられているけど、信憑性には欠ける。どれも曖昧だ。目撃している人は多いけど、写真なんかはない。ニュースや新聞には全く記載は見られない。そこから発展して、陰謀論めいた話に繋げられている。

 

 仕方ない。参考になるかは分からないけど、授業のノートを探してみよう。

 

 確か悪魔学の授業で軽く触れたはず。

 

 アタシは古い記憶を頼りにノートのページをめくっていく。

 

 数枚めくったところで記憶と一致する箇所を見つける。

 

 「あった……たしかこの辺だ」

 

 黙読しながら、指でなぞっていく。

 

 50年前。天羽エリスの結婚式に、悪魔『バルバトス』を名乗る男が襲撃。黒髪と白髪の紳士服を身に纏う青年。黒き翼と圧倒的な魔力を見せつけて行った。幸いにも怪我人は居なく、悪魔はただ天羽エリスにだけ近づいたという。天羽家、もといアマハネの一族を警戒してのことだろうか。『貴様の魔力は全てこの俺が頂いた!せいぜい幸せに暮らすがいい!』と言い残し、消えたと言う。

 

 

 「なんだこれ」

 

 一通り読み終えたアタシから出たのはそんな言葉だった。

 

 少なくとも今日あったバルバトスさんはこんな感じの話し方はしない。どちらかと言うと、ソロモンさんの方がこういうことをしそうなぐらいだ。

 

 それに悪魔が白髪って。天使の加護持ちじゃないんだし、おかしな話だ。

 

 でも『天羽エリス』か。確かバルバトスさんもそう言っていた気がする。契約をしたとかなんとか。

 

 ソロモンさんが助けたいと言っている少女『天羽アリス』と同じ姓。そして、一緒に魔力の研究をしたという『エリス』という人物と同じ名前。

 

 これはさすがに偶然とは言い難いだろう。

 

 何らかの形で事実が隠蔽、改竄されたと考えるのが妥当だ。

 

 もう少し調べてみるか。

 

 「ああ、その話ね。有名だよね。授業でもやるんだ?」

 

 刹那。集中していたからか恵実の声掛けにすこし驚く。

 

 どうやら、アタシのノートを覗いていたみたいだ。

 

 「これ有名な話なの?」

 

 「うん、教会だと有名かな。それに何かと天羽の家は注目されるからね。」

 

 「アマハネの血縁だから?」

 

 「まあ、それもあるけど。最近はアリスちゃんが有名かな。」

 

 「知ってるの?」

 

 「うん、クラスメイトだからね。ほら、私の入学式の時お姉ちゃん助けた子いたじゃん。あの子だよ。」

 

 「あ〜……そんなこともあったね。」

 

 言われて思い出す。確かに助けた。助けたと言うより、転びそうになったところを支えただけなんだけど。

 

 もうすぐ1年経つから、記憶は曖昧だ。

 

 まさかあの子が『天羽アリス』だったなんて。

 

 か弱いのにどこか負けん気を感じた記憶がある。

 

 「すっごく可愛くてね!いい子なんだよ!……ただ、魔力が強いみたいで色々よく思われてなくてさ。わたしが守ってあげなきゃって!」

 

 「そうなんだ。友達になれるといいね。」

 

 「うん!……あっ!ご飯できたよ!」

 

 「あいよ。」

 

 ーーーーーー。

 

 調べ物をしていたから少し疲れた。

 

 恵実の手料理を食べて、癒されようっと。あとベルゼのことや仕事のこともちゃんと話さないとな。

 

 アタシは重い腰を上げて、ソファに座るベルゼにも声をかける。

 

 「ベルゼ、お待たせ。食べよう。」

 

 そう声をかけるが、返答はない。

 

 よく様子を見ると、漫画を読んだまま眠っている。片手には飲みかけのオレンジジュースが握られており、今にもこぼれそうだ。

 

 「あら、寝ちゃったか。」

 

 アタシはそのままベルゼの手からオレンジジュースを取り、ソファに横たわらせる。

 

 「ごめんお姉ちゃん。気持ちよさそうに寝てたから、起こせなかったんだよね。」

 

 「うん。大丈夫だよ。色々あったからね。」

 

 「そうなんだ。ご飯食べながら、詳しく聞かせてよ。」

 

 「分かってるよ。いやー、もうお腹ぺこぺこ!」

 

 アタシはそう言うと、食卓に着く。

 

 恵実も食卓に付き、二人で手を合わせ「いただきます」と言った。

 

 肉とピーマンを甘辛く炒めた料理に白米、味噌汁。最高だ。

 

 アタシが夢中でご飯にがっつく中、恵実は肘をついてこちらをじっと見つめる。

 

 「……食べないの?」

 

 「ねえ、お姉ちゃん」

 

 「ん?」

 

 「その子、悪魔だよ」

 

 「え?」

 

 「殺しちゃって……いいよね?」

 

 「いや、何言って……」

 

 恵実はそう言い放つと、バン!と、テーブルを叩き立ち上がる、

 

 そのまま眠っているベルゼの本へ向かい、詠唱を開始する。

 

 「ちょちょっと!!!」

 

 アタシは食事を中断し立ち上がるが、見えない壁に阻まれ恵実に近づけない。

 

 「な、なにこれ!?」

 

 「あーそれ結界ね。加護持ちじゃないお姉ちゃんには無理だから座って食べててよ。よかったよ、まだ契約してないみたいで。契約してたら、お姉ちゃん殺さないといけないところだった。」

 

 「ちょっと恵実!!!!なんのつもり!?」

 

 「大丈夫。知らなかったんだよね。この子が悪魔だって。お姉ちゃんはさ、悪魔に騙されちゃってるんだよ。酷いよね。正義感あるお姉ちゃんに弱者のフリして近づくなんてさ。」

 

 何が起こってるの?目の前で起きていることの整理がつかない。

 

 ベルゼが悪魔?

 

 「おっかしいよね。化けの皮剥がそうと思って、ジュース飲ませたら普通に飲むんだもん!睡眠薬いれてんのにさ!悪魔なら断ると思ったのにさ!」

 

 頭の整理なんてしている場合じゃない。

 

 加護持ちである恵実がベルゼを悪魔だと言うのなら、本当なんだろう。

 

 肝心なのはどうしたいかだ。

 

 このまま放っておいて本当に殺されたら、アタシがどう思うかだ。

 

 アタシは、ベルゼを守ると約束した。

 

 なら、やることはひとつだ。

 

 「はぁああああああっ!!!」

 

 「えっ!?な、何してんの!?」

 

 アタシは見えない壁に触れ、無理やり見えない壁をこじ開けるように触れてみる。

 

 「あぁあああああっ!?」

 

 反動でものすごい神力が跳ね返ってきて、全身を電流が駆け巡る。

 

 蒼白い光がまばゆく点滅し、カミナリに撃たれているような感覚だ。

 

 「だあああああっ!!!」

 

 「う、うそ!?結界が……!?」

 

 呆気に取られつつも、懐から短剣を取り出す恵実。

 

 そのまま、ベルゼの首目掛けて、突き立てる。

 

 だが、アタシは全力で恵実の腕を掴み、そのままひねらせる。

 

 「あがっ!?」

 

 短剣を落としたがブツブツと詠唱を唱え始めたので、背負い投げをし床に体をぶつける。

 

 「ぐっ!!!どうして止めるの!!!お姉ちゃん!!お姉ちゃんなら、強いお姉ちゃんなら分かるでしょ!!この子は悪魔!殺さないといけないの!」

 

 投げの状態から動きをとめているが、恵実はすごい力で抵抗してくる。

 

 「ベルゼが悪魔とか関係ないよ。アタシがこの子を守る。そう決めたの。それに悪魔だからって悪いって決め付けるのはなんか違うかなって。」

 

 「認めない!!!悪魔は悪なの!私にはそれを止める力があるの!!!現に魔獣に襲われてる人はこの世界に沢山いるんだよ!みんな認めてくれる!分かってくれる!これは私がするべきことなの!お姉ちゃんならこうする!!お姉ちゃんなら、正義のために力を使うの!!!」

 

 「アタシは強い力なんて持ってないよ。恵実は立派なんだと思う。それでも、アタシは弱さを知ってるから。この子を守るって決めたの。ちゃんと認めて貰えるように頑張るね。間違っていた時はお姉ちゃんを助けて。」

 

 「くっ!!!!!」

 

 アタシが少し力を弱めると、恵実は抜け出し顔を真っ赤にして、出ていった。

 

 やってしまった。

 

 なんとなく、こうなる気がしていたんだ。

 

 

 恵実は神力に目覚めてから自分の役割について強迫的になった。

 

 とくに魔獣や悪魔といった事柄には強く反応する。

 

 分かっていたのに、上手くやれないものだ。

 

 でもまさか、ベルゼが悪魔だったなんて。

 

 上手く事情話すどころじゃなかったな。これは。

 

 恵実にとっての地雷を家に連れてきてしまったのだから。

 

 「良かったの?僕を助けて。」

 

 背後を振り返ると、ベルゼが冷たい眼差しでアタシを見る。

 

 「彼女の言うとおり、僕は悪魔だよ。」

 

 「起きてたの?」

 

 「眠くなる成分入ってたから寝たふりしてた。僕には効かないよ。」

 

 「ならなんで、逃げなかったの?」

 

 「殺されるなら、それでいいやって。あの人、僕が家にはいってきたときから、殺意向けてたから。」

 

 「いってよ〜、もう!あと死んでもいいなんて言わないこと!」

 

 「……まさか守ってくれるとは思わなかった。」

 

 「約束したでしょ、守るって。またご飯作るってさ。」

 

 「……そう、だったね。」

 

 同居初日から大変な出来事が起きた。

 

 本当にやっていけるのだろうか。

 

 不安がいっぱいで、分からないことも沢山。

 

 それでもアタシは自分の考えを貫こうと思う。

 

 アタシは精一杯の笑顔をベルゼに向けた。

 

 ーーーーーーー。

 

 暗闇の中。姉に拒絶された恵実は涙を流しながら走っていた。

 

 ずっと昔から姉に憧れていた。

 

 姉のように強く気高くありたいと。

 

 だが、結局自分は姉の理想の姿作り出し、無理やり模倣していたことを思い知る。

 

 誰かの特別になりたかった。

 

 何者でもない特別な存在に自分はなれたと思っていた。

 

 その結果がこれである。

 

 涙が止まらなかった。

 

 「こんな夜に1人は危ないよ。春が近づいてきたとはいえ、冷えるからね。」

 

 気がつくと、公園のベンチにいた恵実。

 

 彼女に優しく上衣を貸してくれたのは、少年だろうか少女だろうか。

 

 そんなことどうでも良くなるぐらい、とにかく美しいと感じた。

 

 月夜に照らされた金色の髪の毛。美しい水色の瞳。綺麗な白き翼。

 

 「悩み事があるなら、聞くよ。ボクでよければだけど。」

 

 「あなたは……?」

 

 「ああ、羽根が気になるかい?ボク天使なんだ。」

 

 「天使……様?」

 

 「うん、ミカエルっていうんだ。今とある悪魔を探しててね。」

 

 「悪魔……?」

 

 「そう、『バアル』っていうんだ。知ってるかな?」

 

 「はい。よく……。」

 

 「ほんと?じゃあ聞かせてよ。君の話を。バアルはね、ボクのお兄ちゃんを殺した最悪の悪魔なんだ。」

 

 「私の知ってるバアルも、私のお姉ちゃんを殺そうとする悪い悪魔です。」

 

 運命なのか必然なのか。

 

 兄弟・姉妹を巡る物語の歯車は回り始めた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ