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1章1話 アリスはノーマルライフを求める

挿絵(By みてみん)


 むかしむかし。あるところに、ひとりの悪いニンゲンがおりました。

 

 悪いニンゲンの傍には、なんでも願いを叶えるアクマがおりました。

 

 たいへん立派なアクマで容姿にも優れ、なによりお優しく主であるニンゲンに付き従っています。

 

 対するニンゲンはなんでも自分の思うとおりにならないと怒ります。

 

 お金がほしい、いい女が欲しい、おいしいものを食べたい、周りよりもえらくなりたい、王様になりたい。

 

 欲はつきません。それなのに、だらだらと動くことをしません。怠けているのです。

 

 次第に仕事のできるアクマの方が評価されていきました。

 

 もちろん、ニンゲンは嫉妬しました。

 

 そして悪いニンゲンは考えました。

 

 アクマに悪いことを全てやらせよう。

 

 そうすれば、自分はもっと楽になり、偉くなれる。

 

 アクマは願いを叶えました。

 

 王様を殺し、町中から娘をさらい、宝物を盗む。

 

 逆らうものは殺して、殺して、殺して、殺して、殺して。

 

 そうして、ニンゲンは地位も権力も何も苦労することなく手に入れたのです。

 

 そして、悪いことは何もしていない。悪いことは全てアクマがやった。

 

 そう口にしたのです。

 

 アクマは最後、炎の中で息絶えました。

 

 ニンゲンを恨みながら、死んで行ったのです。

 

 もちろん、その後悪いニンゲンも悪事が露見し、死んだそうです。

 

 

 

 それはアクマの呪いか、ニンゲンの行いの悪さが招いた出来事なのか定かではありません。



 

 ただ、つまりは悪魔を使役するもの、それに付随する絶対的な力を持つ悪魔、その糧となる魔力、それら全て悪だとこの本では伝えています。

 

 でも、ほんとうにそうなのでしょうか。

 

 ーーーーーーー。

 

 幼い私におばあちゃんはこの本を読んでくれた。

 

 というより、私が色んな本を読んで欲しいとお願いしていたのかもしれません。

 

 私にとって、お話を聞いたり、遊んでくれたりする身内はおばあちゃんだけだったから。

 

 本を読み終わると、いつもおまじないのように呟く言葉は決まっていた。

 

 『悪魔を悪魔たらしみるのは人間の汚い心さ。いいかい、アリス。悪い心に支配されてはいけないよ。もちろん、良い心に支配されるのもいけない。ハザマにこそ、己の心があるものだ。』

 

 どこか悟ったような言葉。

 

 遠くを見つめるその視線。おばあちゃんはあの時何を考え、見ていたのだろう。

 

 亡くなった今、それを知る術はない。

 

 だからこそ、あんなことをしてしまったのかもしれない。

 

 6歳のあの日。

 

 私は悪魔『強欲のアモン』を呼び出してしまったのだ。

 

 『契約に従いましょう、我が主。天羽(あもう)アリスお嬢様。』

 

 黒髪、赤い瞳、黒の紳士服に身を包む長身の男性。

 

 どこからどう見たって人間と何も変わらない。

 

 それでも、尖った耳と細長いシッポ、尖った黒い爪は異質そのものだった。

 

 私はあの日何をお願いしたのだろう。

 

 そしていつから彼のことを意識するようになったのだろう。

 

 ーーーーーーー。

 

 「おはようございます。お嬢様。」

 

 朝、瞳を開けると綺麗な色白の肌と吸い込まれそうな赤い瞳が視界に入る。

 

 相変わらず綺麗な顔……って違う!!

 

 「おは……ようっ!?」

 

 私は一瞬何が起きたのか分からず、慌てるようにベッドから落ちる。

 

 「あらあら大丈夫ですか。お嬢様。お怪我はされていませんか?」

 

 「あああああっ!!!無理無理こっち来ないで!バカ!!!」

 

 爽やかスマイルで近づいてくるアモン。相変わらず子供扱いしてくる。

 

 「あらあら、またお言葉遣いが悪くなってしまわれて……コレが反抗期……シクシク」

 

 どこから取り出したか分からないハンカチで、嘘泣きをしてみせるアモン。

 

 「ちがっ……朝起こしに来るのは一色(いっしき)さんにお願いしてるでしょ!!」

 

 「一色?はてさて、誰のことでしょうか。あ〜ぁっ!さては、変態牛のことですか?あいつなら、寝ているお嬢様の顔をヨダレ垂らしながら眺めていたので成敗しておきましたよ?」

 

 「は!?は!?一色さんがそんなことするわけ……いや、あるのか。」

 

 「ええ、あるんです。だから、今日はワタクシがお着替えと汗ふきを……」

 

 「やめい!!くるな!!自分でやる!!!」

 

 言いながら私のパジャマを脱がしていくアモン。

 

 私は逃げるように部屋を後にする。

 

 「はあはあ。油断も隙もないな、あいつ。」

 

 全然意識されず、お世話されている。私だけがドギマギして恥ずかしい。まあ、悪魔だしそういうのないのかも。

 

 あれから10年。未だにアモンは私に仕えてくれています。

 

 どうして長年仕えてくれているのか、私は10年前何を願ったのかそれは今も分かりません。

 

 ただ、分かることは悪魔は絵本の通り、そんなに悪い存在ではないということ。

 

 悪魔にも悪魔のルールがあり、私は何故かそれを呼び寄せてしまった、それだけなんです。

 

 この先彼との関係はどうなるのか分かりません。それでもひとまず昔からよく私のお世話をしてくれているのは事実です。

 

 とりあえず、色々恥ずかしくなってきたので、着替えはひとりでやろうと思います。

 

 ーーーーー。

 

 浴室に行くと、一色さんが着替えの下着と制服を持って待機してくれている。

 

 相変わらず綺麗な銀髪にグラマラスな肉体、落ち着くブルーの瞳。

 

 でも、ちょっと変な人なんだよなあ。

 

 わたしが赤ちゃんの時からお世話してくれている人だから、感謝はしてるんだけどね。

 

 「おはようございます。お嬢様。アモンさん……アホと朝から大変でしたね。」

 

 「あんたのせいじゃない。」

 

 すまし顔で朝の一件を語る一色さん。どこまでが本気か分からない。

 

 「明日から着替えとか朝起きるのとか一人でやるから」

 

 「はい、それがよろしいかと。……でもちょっと嬉しかったのでは無いですか?アモンに襲われて!」

 

 年甲斐もなくキャッキャッしてみせる一色さん。

 

 「やめてください、そういうのじゃないですから。」

 

 「そうですか、そうですか。つまらないですね。」

 

 私は話しながらパジャマを脱いでいく。汚れ物をカゴに入れて、一色さんに渡し、大浴場へと足を運ぶ。

 

 「制服、かけておきますからね。」

 

 「はーい。」

 

 制服をラックにかけられ、別のかごに新しい下着を入れてくれる。

 

 一色さんはほかの家事があるのかその場を後にする。

 

 私は横目で洗面所の鏡を見やる。

 

 金の長髪。緑色の瞳。悪魔と契約しているのに私の髪の毛は黒くならない。

 

 それに魔力を対価としてアモンに与えているのに、溢れ出る魔力。指輪してないと大変なことになるレベルだ。

 

 そして、成長の遅いこの体。私の魔力の影響を受けて成長を阻害してしまっているらしい。

 

 幼く発育が遅い小さい体。

 

 魔力を過剰分泌してしまう体らしい。

 

 耐性のない人間は病気になったり、精神汚染をされるという。

 

 実際にお父様やお母様、辞めていった多くの使用人はそうだった。

 

 右手の人差し指を見ると黄金の指輪がはめてある。

 

 ソロモンの指輪のレプリカらしい。14歳の頃から身につけている。魔力を抑える代物だ。それでも私の魔力に耐えきれず、1ヶ月に1度壊れてしまう。

 

 72個あった指輪も24個壊れてしまった。残り48個、もって四年と言ったところ。

 

 でも、悪いことばかりじゃない。この指輪のおかげで、ようやく学校に行くことを認めてもらった。危険性がないとお父様とお母様に許しを得られたのだ。

 

 つまりは残りの4年間は、自由に暮らしていいということ。

 

 自由な時間は短いけど、1歩前進したのも事実。

 

 お友達を作ったり、恋人を作ったりしたい。

 

 青春というものを楽しみたい。

 

  そして、こんな隔離されるような生活からおさらばしたい。

 

 脱・ひきこもり!脱・非リア充!

 

 私はそんなことを思いながら、お風呂に浸かった。

 

 目標は大きく、お年寄りになっても普通に暮らせること。

 

 この4年で青春を満喫しつつ、魔力を抑える方法を探す。

 

 そして、最初の関門は魔力を使えることを隠し通すこと。

 

 頑張るんだ。もぎ取るんだ。素敵な生活を!!

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