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魔女、出会う

貴方は神を信じますか?

そう質問されたなら私は即、こう答える。

神様なんていない。

何故なら私、リタ・リーチッタは今絶賛絶体絶命の状態だから。


ただの平民農家に生まれて11歳までは畑仕事だったりなんだったり色々大変だったけれど何とか無事平穏に生きてこれた。

なのに12歳の誕生日を迎えたあの日、村は襲われた。

いつもより冬が長く続いたせいで山に居た熊や猪達がこぞって村に降りてきた。

畑は荒らされ、その年の収穫はゼロ。

領主様に納めるお金も収穫がない以上稼げない為、最終的に取られた手段が人身売買だった。

家は3人兄妹で末っ子が私の為に口減しとして労働力となる兄二人に変わり売られた。

しかも買い手の奴隷商は、お世辞にも丁寧な仕事をしているとは言えなかった。

荷馬車は汚れていて、中に居た他の売られたであろう子達もどこかやつれていた。

私もこんな風にやつれていって最後は変態に買われて好き勝手されてしまうのだろうかと思いながら馬車に揺られるや否や今度は盗賊に襲われた。

盗賊達は奴隷商を殺して金品を奪うと同時にそのまま私達も馬車ごと攫っていった。

奴隷ならまだしも盗賊となるとまともに生きて帰れないことは火を見るより明らか。

これから先どうなるのか不安に襲われ、泣いていると今度は盗賊達が襲撃された。

わずか一日で2回も襲われることがある?

余りにも惨すぎる、私の人生。


そうして今、横目で見ると盗賊達を殺した張本人が平然と荷車を漁っている。

「…ちょっとは高く売れる物があるかと思ったけど思ったより渋いな、無いよりはマシだけど」

銀色の長い髪を揺らしながら女性は呟いた。

ただその女性には普通とは大きく違う特徴があった。

頭の上にある三角帽子から出た獣のような耳、黒いローブから飛び出した尻尾。

今日一、最悪な相手と出会ってしまった。

間違いない、この人は魔女だ。

認識してしまったが最後、恐怖で体が震えて止まらなくなった。

死んだふりをしなければ。

もし生きているのがバレたら結末はただ一つ。

彼女のお腹の中だ。

それがわかっていても震えが止まらない。

盗賊達の血の匂いと、このまま動き続けたら破裂してしまいそうな程の心臓の鼓動からくる緊張で今にも吐いてしまいそう。

頭の中にさっきまで馬鹿騒ぎしていた盗賊達が一瞬でただの死体になった姿がフラッシュバックする。

お腹に不自然なくらい綺麗にぽっかりと丸い穴が空いたその姿。

私もあんな風に殺されるのかな。

いやだいやだいやだいやだいやだ!

「まぁこれだけ食べる物があれば、しばらくは困らないか」

助けて、誰か助けて!

「活きがいいのも居るみたいだし」

お願いします、もう神様のこと馬鹿にしないから!

「それじゃあいただきまーす」

魔女が私の腕を握り、そのすぐ後に私の腕に噛みついた。


緊張の糸が一気に解けてしまったせいか今まで体の中に押し込んでいたものが一気に外に溢れ出した。

「うわっ!?きたなっ!」

容赦無い罵倒が心にくるけど、上も下も止めたくても止まらない。

ゲロと尿が混ざりあった臭いは強烈で、私は余計に気持ち悪くなり体の中の物を全て外に吐き出してしまった。

「汚いし臭くて最悪…くふっ」

「くっ、アハハハハハ、お、面白すぎる!」

お、面白い?どこが?魔女ってやっぱりみんなイカれてるんだ!

「今までいろんな人間の苦痛とか恐怖に怯えた顔を見てきたけど君のその顔…め、滅茶苦茶笑える!」

な、なんて悪趣味なんだ。

…でもこれってチャンスでは?

今、魔女が私を馬鹿にして上機嫌になっているこの状況なら見逃してもらえるのでは?

こんな甘い考えが頭の中に浮かんだ瞬間に私は即行動してた。

「ま、魔女様おっおねがいします!こりょしゃないでください!」

呂律が回らず噛みかみの情けない命乞い。

土下座した時に自分が出した汚物が顔について気持ち悪い。

でもそんな事を気にしている場合じゃない。

今ここでどうにかしてこの状況を乗り切らないと死ぬ!


「はぁー、はぁー…ちょっと驚かせるだけのつもりだったけど、まさかこんな面白い物見れるなんて…」

お願いします、見逃してください。

「ふぅー…いいよ、殺さないであげる」

…?

「まぁ元々殺すつもりじゃなかったしね」

今殺さないって言った?

た、助かった?

「あ、ありがとうございます!」

「で君は何が出来る?」

「??」

…?どういうこと?

「…聞いてる?」

「ど、どういうことですか?」

「いや料理とか洗濯とか出来る事はあるのって…まさか何も出来ないの?」

「で、出来ます!家事は一通り出来ます!」

魔女が何を言っているかまるでわからない。

「そう、なら少しは楽出来そうだ」

「あ、あの私はこれからどうなるのでしょうか」

「えっ、私の旅のお供に連れていくに決まってるでしょ」

「え!?」

「いやさ、一人旅ってのも案外退屈でさ

仲間はともかく何か面白い物があればと思ってた矢先にこんな良い拾い物するとは、運がいいね我ながら」

助かったと思ってたけど…もしかして悪化してる?

「それに料理も洗濯も自分でやるの面倒で辟易してたから君が出来るみたいで良かった」

「は、はい」

人並みにしか出来ないけど、そんな事を言った瞬間に殺されそうでとてもじゃないけど言えない。

「というわけでこれからよろしく!えーっと…」

「リ、リタ・リーチッタです」

「よろしくリタ、私はエルルカ・シルベニア・クヴァル・エンドゥミオン」

「よろしくお願いします、エルルカ様」

もう私が生き残るにはひたすらこの魔女、エルルカに尽くして機嫌をとって生かしておく価値があるって思わせるしかない!

「と、ところでエルルカ様」

「一体どこを目指して旅を…?」

「あぁ、私が目指すのはね」

お願いだから、無茶な所を言わないで!

「理想郷、エンドゥミオンだ!」

…どこそこ?

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