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千姫
季節は夏になって、打ち沈んでいた結姫も随分元気になったようだった
華やかな金糸の入った紫の襟や、前で結んだ豪奢な帯は変わらずだが、ぱっと目を引く明るさが戻っている
暖かさのせいか、頬にも血色が戻り、笑顔も見せるようになった
「私、どうやら太陽がないとだめみたいですわ」
恥ずかしげに結姫は月子に言い、月子は「人はみなそうですわ」と頷いた
千姫はそんな結姫の変貌を不思議そうに眺めていたが、月子が見ているのに気付くと、にっこりと微笑んだ
千姫は気取らないふりを装っているが、着物はいつも総刺繍で、凛とした立ち姿は指示を仰ぎたくなる強さがある
そして千姫は月子からすると一番大人びていて、一番視座が高い
だから今も、月子の考えもつかないことを分かっているのじゃないかと思った
けれど千姫はけして、それを口にしない
何かに気付いても、必要じゃないと思えば不用意に口にしたりしない
月子はそんな千姫に憧れていたが、そうはなれないだろうとも思っていた