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ニッコリと笑うと理解出来ないのかぽかんとした表情が返ってくる。
「ちょっと違いますわね。訂正致しますわ。国が出来ましたので承認してくださいませ」
「…………気でも触れたか?」
ねえこいつ本当に失礼じゃない?
シルヴィアってなんでこんなやつの婚約者してたのかしら。いや、シルヴィアが一目惚れしたからだって分かってるけど!
でもいくら顔が良くてもこんなんじゃダメよ!
「レディーに対する言葉遣いではありませんわね」
「もうそういう話の次元じゃないだろう!そもそも、こんな日陰者ばかり集めて一体何を考えているんだ」
あー、なんかピンと来たわ。
これはあれね。反乱を起こす気だと思われているのだわ。いざとなれば籠城するという流れね。まぁ、籠城することになった時点で失敗だけれど。
思わず私は眉を顰める。
「失礼ですわね。私達は夜行性の亜人。単に陽の光が苦手なだけですわ」
「陽の光が苦手なだけでダンジョンに住むのか」
「殿下も知っての通り、私たち日陰者は夜行性の亜人に生まれただけで町を歩くことすら出来ません。ダンジョンでもなんでも、安心して過ごせるならばどこでも良いのです」
買い物することや仕事をすることはおろか、人と話すことさえままならなくなる。
「そもそも、何故夜行性の亜人はこんなにも嫌われるのでしょうか。殿下もおかしいとは思いませんか?」
人は自分達と違うものを排除しようとする。
ならば常人種と亜人種の間でいざこざが起きてもおかしくは無いのに、夜行性の亜人種……それも一部の亜人にだけそれが向けられるのはどうしてなのか。
同じ夜行性でもライオンの亜人などは侮蔑の対象にはならない。
神話にいくつかの夜行性の亜人種が災厄の象徴として出てくる。けど、結局それって黒猫は不吉だとかそういう話とそう変わりないように思うのよね。現代から来た私にはどうも理解できない。
しかしその考えがわからないのか、ルドガーは理解出来ないといった表情で肩を竦めた。
「それで、結局お前達は何が望みだ?」
「私達の望みはたった一つです。安心して住まう家が欲しい。ただそれだけのことです」
「とはいってもだ。さっきも見たがダンジョンをあんな風に住処にしては冒険者達がだって困るだろう」
「そうだよお嬢さん。俺たちはここでモンスターを狩ったりドロップしたものを売って生活している。それがなくなっては多くのものが路頭に迷うことになるだろう」
今まで黙って話の行く末を見守っていた隊のリーダーが指摘すると他の者も頷いた。
「あぁ、それでしたら問題ありませんわ」
パチンと私が指を鳴らすと小さな地鳴りが起きる。
「な、なんだ?!」
「何をしたんだ!」
「ご安心ください。ただの移動です」
「い、移動?」
ほら、とその場からは動かずに魔法で扉を開ける。するとさっきまであった廊下は影も形もなく、ただの暗闇が広がっていた。
もう一度扉を開閉すると今度は地底湖のような場所に出る。
「おいおいすげぇなこりゃ」
「動く城ってこと?」
「どっちかっつーと動く部屋だな」
皆部屋の外を覗き込んで驚いている。
そりゃあね、普通見れるものじゃないからね。初めて見せた時のリタ達もはしゃぎようが凄かったわぁ。中でも一番はしゃいでいたのは色んなモンスターに会えると喜んでいたテオかもしれない。
アイツ気をつけないと本当にモンスター観察会をするとか何とか言って出て行くのよね。今はドッちゃんワッちゃんがいるから大丈夫だろうけれど。
今後もリタにさり気なく見張りするよう頼んでおかなくちゃ。
「この部屋だけでなくあちこち動きますから。普段はあなた方の邪魔にならないよう居住区域などは別に致しますわ。勿論、ダンジョン内に入る分には入国料もいりません。居住区域等に入る際は頂きますけれどね」
専用の入口を用意するとか、合図があった時に入口をその場所に作るとか、まだきちんとしたことは決めていないけどそんな風にしてダンジョンとの棲み分けが出来たら良いと思っている。
「代わりにここでの食事や商品を購入出来ます。
ダンジョン内で安全地帯が約束されていて、更には食事も買えてしまう。悪くない話でしょう?」
私の提案を聞いて、リーダーを中心とした冒険者組はヒソヒソと話し合いを始めた。
勿論最初はいろいろ思うところがあるだろうけど、本当に悪くない話だと思う。
ダンジョンなんて、下手したら食糧不足や怪我によってパーティ全滅も普通に有り得るのだから。
しかしルドガーの方はあまりにも今までのシルヴィアと違いすぎると思ったのか、疑いの眼差しを向けている。
「お前、本当にシルヴィアなのか」
今度は本人確認が始まったわ。
頭の硬いお役所仕事じゃないんだから見ればわかるでしょうよ。
「当たり前ですわ。そんなに私が偽物かどうか心配なら、証明の為に殿下の昔話でも致しましょうか?」
「え」
なんかルドガー見てたら色々思い出してちょっと腹立ったし、少し遊んでやりましょ。
「七歳の頃、乗れると見栄を張って無理やり乗った馬が暴れて泥に突っ込んだ話とかー」
「な……っ!急に何を言い出す!」
シルヴィアは五歳の頃からルドガーに会ってるからね!
弱みの一つや二つ、三つや四つ知ってて当たり前なのよ。
「あまり昔過ぎてもあれですわねぇ。あぁ、十歳の頃、狩猟大会の前日に散々怖がらされたせいで飛び出してきた小動物に驚いて失神した話はどうですか?」
「やめろ!」
子供の頃って想像力豊かなのが裏目に出ることってあるわよね。
この時のルドガーもまさにそれだったわ。
夜もあまり眠れていない状態だったのか、真っ青な顔でビクビクしている所に大きな兎が飛び出して来たものだからびっくりした拍子に気絶してしまったのだ。
あれにはシルヴィア本人も驚いていたわ。
「うーん、もう少し二人だけが知っている話の方がいいですわね。ユリアーナ様に貰ったハンカチの匂いをひたすら嗅いでいた所に私が出くわした話とか」
「な!違うだろう!ちょっと嗅いだだけだ!ちょっと!」
「うわー……」
思わず、といった風にマルクが呟く。
ルドガーは自分の発言が墓穴を掘っているということに気づいていない。
「まだまだありますけどどうします?」
「もう分かった!分かったからやめてくれ!!」
あははは!
冒険者達からの生暖かい視線が辛かろう!
「何なんだお前は」
いえ、嫌がらせしたくてつい。
だって勿論色々やらかした私も悪いんですよ?
でもよく良く考えれば婚約者がいながらユリアーナ嬢と二人きりで過ごしたり、ドレスを送ったり、あまつさえキスしたりってなかなか火遊びしてません?
アバンチュールってやつですの?
いやいや普通に浮気じゃん!
浮かれてんじゃないわよ!ってなるシルヴィアの気持ちも察して欲しいわけ。
あれ、でも待って。
シルヴィアの記憶を見てて思ったんだけど、ユリアーナっていつも困った顔してたり泣きそうな顔してる。
シルヴィアは頭に血が上って分からないみたいだったけど、映画を眺める気分の私には、恋人同士というには違和感ありまくりのその表情が気になって仕方なかった。
そういえば夢で出てきた最後の日の夜でも、ユリアーナは真っ青な顔をしていた。
もしかして――。
「殿下、一つお聞きしても良いですか?」
「今度はなんだ!」
「ユリアーナ嬢とはいかがですか?」
「お前!またユリアーナになにかする気か!」
「とんでもありませんわ。ただお二人のその後が気になっただけです」
「ユリアーナは私の婚約者だぞ。そりゃあ幸せに毎日過ごしているに決まっている」
……いやいや、あんたの婚約者になるのとユリアーナがどう過ごしているかは別でしょ!
「そうでは無くて。体調を崩されたりとかはしていませんこと?最近日照りも多いようですし」
「穴蔵暮らしのお前から日照りの心配が出るとはな。心配いらん!ユリアーナは寒がりだからな!むしろ暖かくて良かっただろう!」
ユリアーナが寒がり?そんな設定あったっけ?
むしろちょこまかと元気に走り回っているイメージがあるんだけど。
「そうなんですの?」
「あぁ!私と会う時はいつも寒くて震えているからな!顔色も青いしもう少し栄養をつけるべきだな!」
……いやいやいや!それ絶対怖がってるんじゃん!
何こいつ!まさか怖がってるのも分からず自分の恋人だとか抜かしてるわけ?!
よくよく考えてみれば相手は王太子で、ユリアーナは貴族とはいえ末端の男爵令嬢。王族に何か言われて断れる立場じゃない。
ゲームの中では攻略するのが当たり前だったから全く気にならなかったけど、ここではユリアーナだって一人の人間だ。
もしも彼のことが好きでもなんでもなくてただの王太子としてみているのだとしたらとんでもないことよ。
こいつ、王太子なのをいいことにパワハラとセクハラのダブルコンボかましてるってこと?
それも無意識に何年も?
そんな子にシルヴィアは嫌がらせしまくってたのかと思うと頭が痛い。思わず額を手で押えてしまった。
横で話を聞いていた冒険者達もドン引きしている。マルクなんて「それって嫌がって……」まで言いかけて両脇の先輩冒険者から顔ごと押さえ付けられていた。そりゃあそうだ。下手したら不敬罪で殺される。
幸いルドガーの耳には届いていないらしい。
マルクの首と胴がおさらばしなくて良かったわ。
それに今はユリアーナのことも気にかかるけれど、私にもやらなくてはいけないことがある。
「殿下」
「なんだ!」
「それを国王様にお渡しくださいませ」
ほい、と軽々しく封筒を渡す。
封はしてあるけれど見られたって構わない。
寧ろ見たことで急を要すると理解してくれれば尚良い。
「内容は?」
「見ても構いませんが他言無用です」
中に書かれていたのはブロムベルク王国が密かに準備していた魔石と火薬の買い付け記録と、魔術師らに作らせた大量のポーション在庫管理の記録だ。
要するに開戦の為の準備記録の写しである。
これは南東の国『カジャル王国』唯一の攻略キャラであるアシュラフ王子を攻略する際に出てくる極秘事項だ。
アシュラフは留学してきていたので学園でも見たことがある。南の国らしく浅黒の肌に黒の髪と緑の瞳がエキゾチックな雰囲気の方で女性方から大人気だった。
シルヴィアも多少親睦があったようだけど、そもそもシルヴィア自身がルドガーばかり追いかけていたのであまり記憶に残っていない残念なキャラでもある。
とにかく、アシュラフルートでは王の企みを知ったルドガーが父に加担し、カジャル王国に戦いを挑もうとする。ようはブロムベルク王国が悪役となるのだ。
ユリアーナはルドガールートを歩んでいるので本来ならカジャル王国がユリアーナ欲しさに戦いを挑んでくる筈なのだけど何故かブロムベルク王国が開戦の準備をしている。
さっきまではどうしてなのか分からなかったけど、そもそもユリアーナはルドガーを愛しているわけじゃない。なんなら怖がっているのだ。
私も好き勝手しているしストーリー自体が変わってしまったのかもしれないわ。
話がズレたわね。今重要なのはブロムベルクが悪役だという話だったわ。
そしてそれを事前に阻止する為、ヒロイン達はこの資料を探し出し三大国会議で断罪するというのがシナリオなのだ。その為にヒロイン達はあちこち奔走するのだけど、予め場所を知っている私は蝙蝠を忍ばせ悠々と記録したというわけ。
いやー本当、元ネタを知ってるって有難いわ。
硬い表情のままのルドガーと目が合ったのでニコリと笑みを返す。
乙女ゲームの男達って基本そのルートを進んでいる時は優しくて善良なイケメンって感じだけど、別ルートを選ぶと途端にヴィラン側へ転じてしまうキャラも多い。
ルドガーやアシュラフもまさにそんなキャラクターだ。
ルドガールートの時はアシュラフが悪役になるし、アシュラフルートの時はルドガーが悪役になる。
その設定自体は無くならなかったおかげでこうして交渉まで漕ぎ着けられたのだから有難い。
さて、この交渉を断ればこれを他国にばら撒くとも取れる脅しをしたわけだけどルドガーはどう動くかしら?
「……二人だけで話がしたい」
「分かったわ。皆様、お食事は続けて頂いて構いません。少しお待ちくださいませ」
手をかざし、奥に部屋を作るとそこへ移動することにした。
扉を閉めると同時にルドガーが動いたのを気配で感じたが、振り返る前に突進される。
それと同時に腹部が火傷しそうな程熱くなる。
あぁ、刺されたのね。
自覚したことでじわじわと痛みが広がっていく。
ルドガーのことだから公爵家を盾にして逆に脅してくると思ったのに。
思ったより切羽詰まっているわね。
ならあれを使うまでだわ。
「うわ……っ!なんだこれは……っ!」
傷口に意識を集中すると、刺された場所から次々と小さな蝙蝠が生まれ、あっという間にシルヴィアの身体は小さな蝙蝠の集団に成り代わった。
明るいところから突然暗いところへ移ったからかルドガーには何か生き物が沢山いるということしか認識出来なかったらしい。
抵抗感が無くなったせいでたたらを踏むルドガーを見下ろしながら、蝙蝠の集団は少し離れたところに再び集まりシルヴィアを形成する。
一連の流れを信じられないものを見る目で見やるルドガーが面白くて思わず吹き出してしまった。
「殿下ったら、お忘れですのね。私は蝙蝠の亜人ですのよ」
蝙蝠の亜人の特徴は『分身』の他にもうひとつある。
その能力は『復活』だ。
つまり、目の前にいる私を倒しても、予めどこかに分身が残っていればそちらを媒体にして復活出来る。
今の場合は一時的に分身を作って場所を移動した後で、復活によって腹部の傷口を治した。本来生死を操るのは神だけと言われているにも関わらず、蝙蝠は不死身ではないが不死身に限りなく近い存在。
これこそが蝙蝠の亜人が忌み嫌われる要因の一つだ。現に死神は蝙蝠の亜人の姿で描かれることが多い。復活の象徴ならもう少し良い意味合いで書いてくれても良いでしょうに。
「まぁ、今のは私達だけの秘密にして差し上げますわ。さっき殿下の秘密も散々バラしてしまった事ですし」
その代わり、先程の手紙を必ずお渡しくださいね、と念を押すとルドガーが後ろへ一歩下がった。
「う、うちだけ了承しても仕方ないのだぞ。国として認められる為には三大国からの承認が必要であって……」
「ご心配なく。既に他二カ国からは承認を得ていますわ」
北のシュトルツァ帝国と、南から東に伸びるカジャル王国。そして西のブロムベルク王国が世界三大国家と言われている大国だ。
シュトルツァ帝国は一番大きな敷地面積を有しているけれど、その殆どが氷に閉ざされている。
何とか住める南側にだけ人が住んでいるような国だ。
しかしその分個々の能力が高く、少数精鋭の最強軍団を有しているとも言われている。
ダンジョン同士繋がってしまった二つがその大国だったのだ。しかも繋がったのは最下層に近いダンジョンばかりで危険度が高い。すぐに閉ざせたら良かったのだが、繋がった理由もよく分からない為閉ざすことも難しい。
みんなの安全を考慮した結果、私が突破してダンジョンマスターになることになったというわけだ。
場所が変わればモンスターも変わるので、蝙蝠を飛ばしまくってあちこち確認してはモンスターの種類を解析して戦う日々。おかげで色々鍛えられたけど結構大変だったわ。
でも、別の国へ行って見えてきたこともある。
北のシュトルツァ帝国はあまり日陰者への偏見が強くない。
そもそもが過酷な場所で魔力も強い者が多いのであまり私達と変わりがないからかもしれない。
ダンジョンの異変に気づくのもシュトルツァが一番早かった。
調査隊が来てくれたおかげでそのまま交渉まで漕ぎ着けたのは大きいけれど。
交渉に使ったのはこのダンジョンでも作っている作物の育て方だった。
これは魔力を注いで作っているけど全体に注いでもあまり大きくならない。最初のうちは種全体に注ぎ、芽が出てきたら今度は葉を中心に注いでいく。そしてある程度大きくなったら今度は根っこを中心に魔力を注ぐことで大きくなるのだ。
普通なら一列育てるのがやっとだろうけど、シュトルツァの人々は私達と同じくらいの魔力量を有しているので大きな畑でもこの方法で植物を育てることが出来る。
ダンジョンの外で育つのは想定していなかったので種の方はまだ改良中だけど、何世代かは魔力野菜として育ってくれる。ちなみにその後は普通の野菜に戻ってしまうので太陽光が必要だ。
とはいえ、そのおかげで定期的な交易が出来ているのは大変ありがたい。
こっちもお金や物は入り用なのだ。
何より、有益と分かればシュトルツァの人々は日陰者にも友好的だった。
空腹ってそれだけで耐え難いもんね。
そんな訳で以外にもシュトルツァにはすんなり国として認められることとなった。
この時点でシュトルツァに移住することも考えた。
お産を控えた妊婦などで向こうに渡った仲間も実際にいる。
けれど大多数の子達が人混みで暮らすことを怖がっている。
今まで人権を無視した扱いも沢山されてきた子供たちがすぐに人を信じることは難しい。
じゃあシュトルツァの辺鄙な所でみんなで暮らす?
シュトルツァなら快く場所を提供してくれるかもしれない。
でもダンジョン同士が繋がってしまっている問題もある。結局の所今は私が統括するしかないので私はここを離れられない。
でもそうすると皆一緒にいると言って聞かないのだ。
そうなるとここを国として認めてもらう方が手っ取り早い。
もっといい方法が見つかれば変えるかもしれないけどね。
アシュラフ王子が住むカジャル王国は、シュトルツァと違って暖かく人材も作物も豊富にある国だ。しかしここは三カ国の中で一番人が多い代わりに国民の魔力量はそう多くない。
なんなら魔力のない人間も多く住む国だ。
その為か、人々は魔石を媒介にした魔工具を使って生活している。そんな国なのでシュトルツァの時のように魔力があること前提の作物は渡せない。
そこで私達は、魔力そのものを提供することにした。
魔工具は魔力のないものでも簡単に動かすことが出来るが、中の魔力を使い切ればまた魔力を溜め込まなくてはならない。
溜め込むには二つの方法がある。一つは魔石を魔素の多いダンジョンのような場所に置き、自然に溜まるのを待つ。
もう一つは魔力のある者が魔法で周りの魔素を集める事だ。
ダンジョン内は魔素が安定しているし、うちには魔力の扱いに長けた者達が揃っている。
魔素を吸収させてカジャル王国へと送り出すのは容易い事だ。
ただ、勿論元々はカジャル王国の領域なので下手したら追い出されかねない。
なのでまずはカジャル王国の中でも国民と根強い関係を持っている商会と手を組むことにした。
魔石と同じ仕組みを持つ小さなビー玉の様なものを作り出し、それに魔水晶と名付け売り出した。
そして先程の魔素の取引を商会と行い、商会はカジャル王国内にそれを普及させた。
国内でそれが当たり前になった頃、王国と直接取引することにしたのだ。
その際アシュラフからはかなり胡乱げな視線を寄越されたけど、シルヴィアのしてきたことを考えれば仕方ない。
国王の方は国益になるならばといった感じだついでにカジャルの貴族位まで寄越してきた。枷になるか蜘蛛の糸になるかは国王次第かもしれないが、後ろ盾の少ないうちとしては有難く頂いた。
そうして二つ目の大国からもお墨付きを頂き、今に至る。
そんな訳なのでルドガーの心配は杞憂にすぎない。
なんなら私を殺せば他二大国から確実に非難されるぞ。まだまだ基盤が安定してないから私がいないと崩壊する。
シルヴィアは悪役令嬢だし、性格悪いし、ダンジョンマスターになってヒロイン達を襲ってくるラスボス級だけど、今のシルヴィアには大切な人達がいる。
だから手加減なんてしない。ここでは悪役らしく振る舞わせて頂くわ。
「ルドガー。お時間はまだまだたっぷりありますわ。ゆっくり話し合いましょう」
シルヴィア渾身の妖艶な微笑みを返すと、ルドガーは引きつった笑いを返してきた。
覚悟しなさい。言う通りにするって言うまであんた達絶対返さないわよ。
* * *
いやー、良かった良かった。
いきなりきた時はどうしようかと思ったけど、ルドガー達はひとまず大人しく帰っていったわ。
散々脅したしとりあえず手紙を持って行ってはくれるでしょう。
ここから先は国との交渉になりそうね。
他ニ大国より差別の強いこの国で承認がもらえるかどうか。結構大変そうだわ。
ブロムベルクならダンジョンごと壊しかねない。今のうちに対策をしておかないと。
じゃないと次はルドガーの恥ずかし話だけで乗り切るのは無理だろうしね。
部屋の中であれこれ先のことについて思案していると、扉が開いてリタが駆け寄ってきた。
「ヴィア様ぁー……って、えぇ!大丈夫?」
「ええ、もうお帰りになったわよ……ん、何が?」
心配されるのは想定済みだけど、リタの様子がおかしい。こころなしか顔が赤くなっていく。
え、なになに可愛いんだけど!
「ヴィア様……前」
前?再生した時に全部戻ったはずだから血もでてないだろうになんの事だろうかと自身を見る。
「あー、」
確かに血はみんな元に戻るけど服は再生できてなくてドレスの腹部に穴が空いていた。思いっきり刺されたからか、思ったよりも破けて胸下からおへそが丸見えになっている。
成程、これを見たのか。
ルドガーの剣大きいからなぁ。大きければ良いってもんじゃないのに、カッコイイからって大剣にも近い剣を使っているから私がこんなことになるのよ。
「せっかくエリアス達がつくってくれたドレスなのに……もう少し虐めておけば良かったわ」
渾身の出来だと言って去年被服製作組の皆がの誕生日にプレゼントしてくれた服だった。
嬉しくて、何かこうやって大きなことがある時はこの服を着ていた。
それだけで何だか心強かったから。
リタに大丈夫だとひらひらと手を振りつつ、後ろを向く。
ダメになったものは仕方ない。この服どうにかしないとエリアス達にも大騒ぎされちゃうな、なんて考えていると後ろから腕を掴まれた。
振り返った先には存外真剣な瞳をしたリタがいて、思わず目を見開く。
「ホントに怪我、してないの?」
「えぇ、大丈夫よ」
「ヴィア様が強いの、分かってる。でも心配なの。私達は家族でしょう?何かあったらちゃんと言って欲しい」
少しだけ拗ねるように唇を尖らせているのが可愛い。もう!これだから美少女って!!
「ありがとうリタぁー!!いつも頼りにしているわよぉー!!」
わしわしとその頭を両手で撫でまくる。
何だかんだ下の子たちの面倒見が良いリタ。テオの事もよく見てくれているので必要な時にブレーキ役を買ってくれている。勿論逆の時もあるけれど。
長い爪は武器としては一流だけれど、普段使いにはちょっと難しい。
それでも諦めずに色んなことに挑戦しようとするリタ。
そんな彼女に私もみんなも救われている。
そもそも皆その日暮らしていくことも難しく苦しんでいた子達ばかりだ。
安心して暮らしていける場所を作りたい。
皆の為にも、絶対にここを国として認めさせるわ。