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1、最終決戦 vs「魔王」

「うおおおおお! 行くぞ魔王マクガフィン!」


「来い! 勇者フランツ……ッ!」

 

大陸の北の果て、魔族の中の王、魔王が鎮座する魔王城。


その最上階、最期の間にて世界をかけた戦いが始まった。


 人か、魔が生きるか。その

  

 剣を交わすこと7、8回。戦いは当代の勇者、フランツが優勢であった。



「ククク……人の身にしてはなかなかやりおるな。さすがは我が暗黒四天王を打ち倒してきた人間だ。──だが。」


 瞬間、魔王は天高く飛び上がる。


「第三禁断魔法! 宙よ、我が意に従え!(オド・シュート!)


「負けるか! 防御魔法万物を守るもの!(グレート・シールド!)


魔王が放った無数の光弾はフランツの首を狙う、が。その一つたりとも、彼に傷を負わせるものはない。すべて彼の皮膚に触れる間際、シャボンのように消えていく。


「クク、魔法ですら互角……いやそれ以上か! フランツよ、齢27にしてよくぞそこまで磨き上げた!」


「悪いが、魔王。お前の企みもここで終わりだ、聖剣よ! ここに!」


 それは勇者の得意技。一気に間を詰め、一刀のもとに敵を切り伏せる。一息のうちに敵は胴と頭の別れを知ることになる。


 「グ、ヌオオオオオッ!」


 それに追いついてくるとは。やはり魔王と言うべきか。


 住んでのところで、魔力で編んだ剣を生成、これの軌道をそらそうとする。


 ──だが、魔王最大の誤算は、これに打ち合おうという考えであった。


 筋力ならば押し返すことができたかもしれない。魔力の刃であれば出力を上回ることさえできただろう。


 しかし、これは聖剣。魔を断つモノ、他が敵うことなき絶剣。


 それはあらゆるものを切り裂く剣。それは──


「な、に?」


 魔王の急ごしらえの剣では決して釣り合うはずもない、名剣だったのだ。


「うおおおおおおおッ!」


 そのまま勇者フランツは力任せに横へ一薙ぎする。


 まるで太陽を直視したようなまばゆい光が、魔王の剣を折り、またその胴を完全に真っ二つにした。


「馬鹿なアアアアアア!」


「じゃあな……魔王」


 断末魔とともに、激しい爆発が魔王を弾けさせる。悪しきものを打つ聖剣、その伝説が証明され、今日この時世界を支配線とする邪悪な計画は──魔王は人に敗れたのだ。


「魔王マクガフィン。その命ももはや数分も持たない、遺言だけは聞いてやろう」


そう、もはや魂さえ霧散しようとする哀れな肉体に問う。


「いや、何もない。素晴らしい成果だ、人間。……ただ、言っておこうか」


「なんだ?」


「人間が過ちを繰り返すたび、また我々は現れる。せいぜい、我らの権限を遅らせることに執心するのだな……」


「いや、人間は二度と間違えないよ、魔王マクガフィン」


その声を聞いたか、届かなかったのかわからないまま。魔王の残存した肉体は朽ちた。



「さてと。」


 戦いに身を投じた七年だった。魔王を倒すための七年だった。


 思えば、魔王を刺し違えても殺すと決めていたが──。


 あいにく、生き残った後のことにはまったく考えていなかったので──。


「帰るか。」

 

 とりあえず、帰路につくことにした。



————————んで。



 王国に帰ってからはもうすごい歓迎だった。


 1か月ほどはパレードやらいろいろな祝祭の出席やらで忙しかったし、楽しかったけど……一生分の酒とお褒めの言葉というのを頂いて疲れた。


 あと、自分の顔が付いた貨幣の発行案の話が出てきたけど、全力でやめてもらった。平謝りした。今思うとなんで謝ったんだろ俺。


 いや、まあともかく。このような面倒ごとは一生分味わったので。



「俺、引退します。」


「ええっ!?」 


 王様に、勇者引退届を出した。……なんだそれ、とは思うが決まりらしいので仕方ない。


思い重い荷物も背負い終わった、辺境の地で、できるだけ静かに、なおかつちょっと贅沢をしながら……ゆっくり暮らそう。

 

 俺はそう決めたのだった。

 

「い、いや~、困るよ~。「うちが勇者を倒しました!」のカードで他国に対して外交的優位に立とうと今後一年は君のスケジュール埋めちゃったんだけど……」


 何勝手なことしてくれてんだこのじじい!?


 いや、失礼。王様だった。自分が七年も故郷に帰っていない間に王様が代替わりしていた。なので、この人は自分がよく知らないおっさんくらいにしか思えない。


 自分がよくしてもらってたのも前の王様だし。


「つーっても、これ以上俺が前線に立っても意味ないっていうか……ほら? 魔王倒して世界も平和になりましたし、老兵はただ去り行くのみってことで。」


 「君27じゃん! それにまだ未婚だし……あ、そうだ! うちの姫とかどう!?」


「いや、姫様だってこんな平民の出が急に、夫です。なんて言われても困るじゃないですか」


 あと、宮廷政治とかに踏み込みたくないし。という言葉は飲み込んだ。


「うーん……ま、仕方ないかぁ。君にその気がないんだったら引き留められないしねぇ。──物理的に」


 話が分かるじゃないか! おっさ……王様ッ! ……最後の方はよく聞き取れなかったけど。


 「んじゃ、あと二週間だけ頑張ってくれる? それが終わったら一段落するから。その後、君にはとりあえず金貨200枚と名誉騎士の称号と……辺境だけど地主とかの地位もあげちゃおうか? 子爵……ゆくゆくは準伯爵の称号も付けよう!」


「本当ですか!?」


 金貨二百枚と言えば、人間一人がどれだけ人生で豪勢に使っても使いきれない額だ。さっすが王様ふとっぱら!


「はは。いーの、いーの。その代わり……」


「はい?」


「ウチの家系(いえ)さあ……なんか宰相に転覆狙われてるかもしんないんだよねぇ……もしもの時が来たらその時は、()?」


 手で首を斬るポーズ。


 …………政治家だなぁ……。


 ちなみに帰り道で()()宰相に出会い、金貨400枚を「何も言わないで受け取ってくれ」、と言われながら強引に握らされた。

 

 絶対偶然じゃない。なんでキッチリ二倍渡してきたんだ──? 王様、たぶんあんた諜報能力で負けてるよ。



 王宮政治ってスゴイ、改めてそう思った。



 そのあと、もう少し位の低い貴族たちは俺と顔を合わせる度にこぞって自分の娘を長々と褒めちぎり、必ず最後にこう付け加えた、「ちなみに娘は未婚なんですよ」と。


 みんな親バカなのかな?




 二週間経過。


 結局、俺は貴族のパーティーというものに慣れることがないまま、自分が治めることになる土地へ向かった。



「うーん、これまで戦いばっかりの人生だったからなぁ……」


天候良好、空は青空、空気は澄んで、朝日は美しい。

 

「急ぐぞ、ダミアン。どうやら引き継ぎの処理だとかなんだとかで、昼までには現地についていていけないとだめらしい。」

 

「ヒヒィーンッ!」

 

元勇者フランツは白い愛馬、ダミアンとともに──少しばかりの食糧と水、そして衣服も一緒に──与えられた地クルムステルへの短い旅が始まった。


「待ってくださーい!」


……始まろうとしていたのだが。


 「はぁ、はぁっ……はっ!」


 声の主は16、7くらいの女の子。桃色の髪をしたツインテールの子だが……。


「やっと追いつきました! 長らくお待たせしましたが、私、約束を果たしに来ました!」


「多分人違いだよ?」


「え゛!?」



 誰? え、こんな子知らないんだけど!?


「あ、あの! 覚えてないですか!? 私です! 私!」


「すまない、まったくわからない……私私詐欺は初めて聞いたな」


「聞こえてますよ!? え、ほんとに覚えてないの!? あの、ソプラノ村で、貴方に助けてもらった……!」


 ソプラノ村。旅の途中立ち寄った村だが──あ。


 「もしかして君、あの時モンスターに襲われてた……」


「そうです! セレナです! 将来大きくなったら魔王討伐に協力するって約束しました!」



 あー、思い出してきた。以前立ち寄った村で救った少女だ。


「セレナはですね! 今日という日に備えて拳術を学んできたのです!」


「そ、そうなのか。頑張ったんだな!」


「フランツさん……いえ、勇者フランツ様。今日この時より、我が拳は貴方のもの。貴方の命は私の命。──どうか、魔王討伐という大任に私を加えてはいただけないでしょうか」


 セレナはその場で片膝をつき、たぶん練習してきたのであろう口上を告げる。


 その気迫が、見ただけでわかる熟練具合が、彼女が並大抵の特訓をしてきたのではないのだということを、何よりも雄弁に語っていた。


 少なくともランクⅣ程度のモンスターであれば、彼女は一撃で討ち果たすだろう。


 だが──


「ごめん、もう倒した。」


「え?」


「あの、その……魔王倒しちゃった。」


「えええええええええええええッ!?」

 

少女の絶叫はきっと遠く離れた彼女の故郷まで聞こえただろう。……それほどの音響だった。うん。


 ともかくそのまま倒れ伏し、気絶した彼女を放っては置けないし──。


 ──刻限は近いし。


 とにかくセレナをダミアンの背中に乗せ、フランツは領地へと向かったのだった。

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