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約束…2061年のハレー彗星

作者: jima

 中3の夏、私がいつも何を考えていたかというと、基本好きな女の子のことばかり妄想してました。


 でも可愛いミチコさんのことは直接関係ないので省略。


 「未来」というものは目に見えるのものじゃないですよね。だから15歳の私には尚更何も見えない。


 受験のこと、進学のこと、そしてさらに先の将来のこと、当然考えないではいられない。

 無論周囲からいろいろな圧力はあるのですけれど。

 それでも私にはボンヤリとしか捉えることができなかった。要するに私は怠惰でした。


 多分自分の未来を真正面から考えるのが怖かったのでしょう。


 だからミステリーを徹夜で読んだり、お気に入りのロックスターを追いかけたり、はたまたイケない妄想にどっぷり浸かったり、そういうことに多くの時間を使う、つまり逃避活動に情熱を燃やすダメダメの毎日でした。


 でも、これは自己弁護と言われてもいいけれど、その頃の逃避行動…いろいろな余分なことを、うなされるように貪るように蓄えた毎日が今の自分の基本を作ったとも考えています。


 


 そんな私が進路相談において、担任で若くて美人のハセガワ先生に何を話したかというと…


「2061年にですね、シベリアに行きたいのです。北海道から船で何とかロシアに渡るのです。ウラジオストックの駅からシベリア鉄道に乗って、いい感じの平原で降ります。この鉄道はフラッグストップといって、旗を振ると何だか好きなところで降ろしてくれるらしいのです。多分2~3日で360度の地平線が見られる場所に行けるはずです。ムフフ」


 ムフフとか言ってる中学3年の冬です。馬鹿みたいです。いや、馬鹿です。


 私はそこで何をしたかったのか。彗星を見たかったのです。ハレー彗星です。イラストでは巨大な尾っぽをバッッシャーと靡かせて夜空を魔王のように流れていく姿に描かれ、これはシベリアの大平原で見たらすごいだろう…と私は妄想を膨らませたのです。


 親友で私と同じくらいアホのフジイ君に相談すると、彼も大変喜んでくれました。


「よかろう、jimaくん。僕もそこに同道してあげようじゃないか」


 そうだったのです。同じくらいのアホが何人揃っても、止める役割の人は現れないのですね。


 私は真顔で担任の可愛いハセガワ先生に力説します。

「その大平原でですね。夜に寝転がって空を見上げるのです。ハレー彗星がこのように(イラストを見せながら)ブワアアアアッッと尾っぽを盛大に伸ばして、夜空を駆けてくるわけですよ。いやこれはロマンですよ。僕はそんなロマンを追及する旅人となるのが将来の目標なのですね。ムハハ」


 ムハハとか言ってる中学3年の冬です。馬鹿の国から馬鹿を広めに来た馬鹿の王様です。

 

 ハセガワ先生は若くて美人であるため、私の将来の展望について否定をしないでくれました。むしろ愉快そうに笑ってくれたのです。

「jimaちゃん、本当に面白いねぇ。フジイくんと二人と言わず、私も連れてってよ」





 8年後、私はとある街で普通に就職し、アホだったはずのフジイくんは横浜で行政書士になりました。


 あの時笑って話を聞いてくれた美しいハセガワ先生も結婚されて東京に越し、みんな違う空の下で星を見上げることとなりました。


 この季節、私はこの冬のことを思い出します。もうすっかり若くない、くたびれた私です。


 でもスーパーマンを夢見るのは遅いとしても、空を飛ぶのをあきらめるのは早すぎる。


 2061年、やってくる彗星を大平原で見る夢を私はまだ捨てていません。

 その時私は明らかにヨボヨボの老人となっているでしょう。

 だから何だ、と私は思うのです。


 …大丈夫、誰が呆れて笑おうとも、ハレー彗星は笑ったりしません。


 書いてみて、ちょっと恥ずかしかったです。何かやっぱり、ちょっとイタい感じもします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いたいなんてとんでもないです。 素敵な夢ですよ。 まるで文芸書籍の一場面のようなエッセイでした。 未来のシベリアで彗星を眺めるなんて、夢がありますね〜! ちょっぴり実現しそうな雰囲気がある…
[良い点]  素敵な話じゃないですか!  壮大な夢も中学生っぽくていいし、乗ってくれたフジイくんとの関係もいい!  ハセガワ先生も素晴らしい! 明らかに学校の意図に反した答えを出してきたjima …
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