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夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  作者: キムラましゅろう


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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  鎧の姫 ⑥

ここのところ学園内である噂が出回っている。


それは鎧姫が聖女の愛らしさを妬み、陰で虐めているというものだ。


そして聖女とオリオルの第二王子の仲を引き裂こうとあれこれ画策していると……


この噂がいつ、誰によって囁かれ始めたのかは分からないがいつの間にか学園中に広がって行った。


噂は真実ではないだろうと判断する者、

真実であったとしても相手はプライドが高いであろう一国の王女、だからそういう事もするのかもしれないと思う者、

そしてどーでもいいと思う者と様々な生徒がいるが、

中でも噂は真実だ!聖女様を守らなくては!なんて聖騎士(パラディン)もビックリの正義を振り翳して直接チェルシーに苦言を呈する(言いがかり)を付けてくる生徒もいた。


特に男子生徒に多く………



「お、王女っ殿下!あ、あなたは今すぐ自分の行いを反省し改めるべきだっ……!せせせ聖女様を虐めるなんて卑劣な行為を、か、神は決してお許しにはならないぞっ……!」


自身に全く身に覚えのない事を、

全く覚えのない男子生徒に言われてチェルシーは不思議そうに首を傾げた。

ガチャリと音をたてながら。


「まぁ……ごめんなさい、一体何の事なのでしょう、わたしにはそのような事をした記憶が一ミリもなくて……でももしかしたら自分の気付かないうちに虐めるような行動を取っていたのなら、それは聖女様に謝罪をせねばなりません。わたしがどのような事をしてしまったのか、教えて頂けると助かりますわ」


そう答えたチェルシーに、文句を言って来た男子生徒はわなわなと震えながら言った。


「あ、貴女はシラをきるおつもりかっ……!僕は直接リリアンナ様からお聞きしたのですっ、貴女が彼女の教科書を破ったとか、上靴の中に画鋲を入れたりとか、雑巾を絞った後の汚れたバケツの水をリリアンナ様にかけたとかっ……!」


男子生徒のその言葉にチェルシーは驚愕の声をあげる。


「まぁぁっ!大変ですわっ!聖女様がそのような酷い目に遭われたのですかっ?お怪我はっ?お風邪を召されたりなさいませんでしたかっ?」


「な、何て太々しぃっ……それは全て貴女がやった事ではないのかっ!?」


「うーん……でもごめんなさい、本当に記憶にないんですの。自分の記憶にない時にやった事ならばもしかしてわたしったら夢遊病の気があるのかしらっ?」


「このっ…白々しい態度もその辺にしときたまえ…

「その辺にしておくのは貴方の方ですわそこの男子生徒A!」


男子生徒の言葉を遮り、チェルシーと共にいたチャザーレ公爵令嬢イヴェットがビシィッと言い放った。


「リリアンナ様ったら、学園で虐めの噂を広げて貶めようなどと……これまたテンプレなネタで来ましたわね。だけどそれらは全て事実無根っ、真っ赤な嘘のオンパレードですわっ!」


「な、何故、どうして嘘だと言い切れるんだっ!王女殿下がそれをやっていないという証拠はあるのかっ」


「証拠なんてありませんわ。でしたら貴方もチェルシー様がやったという証拠はありますの?」


「そ、そんなものはないがっ、聖女様がそのような事をされたと言われたのだっ!それで充分だろう!」


それを聞き、イヴェットは扇子はバッと広げて声高々と笑った。


「おーほっほっほっ!笑止っ!まったく…片腹痛いとはこの事ですわねっ!教科書が破られたのなら魔法で戻せば大した問題にもならない為、この世界での虐めのカテゴリーには入らないので置いておくとして、リリアンナ様が仰ったという他の虐めに対して私、物申させて頂きますわっ!」


公爵令嬢たるイヴェットの独特の圧に気圧された男子生徒Aはたじろぎながらも訊いてきた。


「な、な、何を物申すというのだっ……?」


「まず一つに雑巾を絞った後の汚れたバケツの水をかけたと仰いましたが、前世の世界ならともかくこの世界の学園の生徒はお掃除なんて致しませんのよ、それはもちろんこの学園の生徒である男子生徒Aさんもご存知でしょう?掃除は私達生徒が全員帰宅した後に清掃専門スタッフが行っているのです。そして掃除道具は全て彼らの管理の元に収納されます。王族も通う学園内に、バケツ一つ箒一つ置き忘れのないように徹底チェックがされていると聞きましたわ。なのでチェルシー様は例えバケツの水をあのバカ聖女にぶっ掛けたくても掛けられないのです、だってバケツがどこにも無いのですから。そして学校で行われる如何にも嫌な虐めのテンプレの上靴に画鋲インの件ですが、そもそも上靴なんてどこにございますのっ?この世界の学校は全て全校土足制、上靴がなければ靴箱もない、そんな物にどうやったら画鋲を入れられるのかお聞きしたいものですわっ!もし本当にそれが出来るなら私、ガビョーンとショックを受けて昏倒してしまいそうですわーーっ!おーっほっほっほっ!」


と、一切噛まずに一気に言いのけたイヴェットを見て、チェルシーはガシャガシャと拍手をした。


「す、凄いですわイヴェット様!こんなにもスラスラと滑舌よく語られるなんて!これはもう、イヴェット様が以前教えて下さった、前世の世界のご職業、“せーゆー”というものになれるのではありませんかっ?」


チェルシーのその言葉を聞き、イヴェットは広げた扇子で少し顔を隠しながら照れくさそうに答えた。


「いやですわチェルシー様ったら……私などが憧れの声優になれるわけがございませんわっ……でもうふふ、そんなにいい感じに喋れてまして?」


「ハイとっても!」


そんな二人の会話に男子生徒Aは声を荒げて割って入った。


「へ、屁理屈を言うなっ!そんなものっ、王族ならどうとでも出来るだろうっ!」


しかしその時、硬質的な声が聞こえた。


「……ほぅ、王族ならどうとでも出来ると?それならどうやってその「どうとでも出来る」とやらを行ったのか教えて貰おうか?」


「!?」


「まぁジオ様」


チェルシーが声の主の名を呼んだ。


オリオル王国第二王子ジオルドが、いつの間にかチェルシーに難癖を付けていた男子生徒Aの後ろに立っていたのだ。


「王族ならどう出来るというのか教えて貰おうか」


平均身長の男子生徒も見上げるほどの長身のジオルドに見下ろされ、男子生徒Aは狼狽えた。


「え?あ、あの、あ、あ、王子殿下っ……いやそのそれは言葉のあやでして…」


「君の言葉のあやとやらは本人が身に覚えが無いと言う、証拠も挙げられない虐めとやらの文句を王族相手にツラツラと言い放つ事を言うのか……?」


「いや、その、あのっ……そのっ…あわわっ」


抑揚のない口調だが、確かに怒りを含んだ圧に押されて男子生徒Aは怯え、挙動不審になっていた。


「君の事はしっかりと覚えておこう。二度と私の婚約者に近づくな。学園内での出来事だ、一度だけ見逃してやる。しかし次また同じような事をすれば不敬罪で捕らえる、分かったな?」


「ヒィッ、は、はいぃぃっ……!」


許してやると言いながらも、今にでも射殺さんとするようなジオルドの目つきに耐えられなくなった男子生徒Aは、這う這うの体でその場を逃げ出した。


「ったく……絵に描いたような小物でございましたわねっ」


イヴェットが扇子をピシッと閉じて手のひらを打ちながら言った。


ジオルドが心配そうな表情を浮かべてチェルシーに近づく。


「チェルシー、大丈夫だったか?何か酷い事を言われなかったか?」


「ジオ様、わたしは大丈夫ですわ。それよりイヴェット様がとても格好よくて、わたしウットリと見惚れてしまいましたの」


「何?イヴェット嬢が?それは妬けるな」


二人が徐に自分の方を見てそんな事を言うのでイヴェットは恥ずかしさで居た堪れなくなる。

そしてわざと話題を変えた。


「か、格好よくなんてありませんでしたわよっ!それよりリリアンナ様が裏で色々とし出かして下さっているようですわね。ジオルド殿下、如何されるおつもりなのですか?」


「聖女一人を片付けても意味がないからね、まぁ今はそれしか言いようがないかな」


「まぁ……ちょっと悪いお顔をされているジオルド殿下、レアですわ。腹黒王子スチル、頂きましたっ!」


南無南無とぶつぶつ手を合わせながら言うイヴェットを、チェルシーとジオルドは顔を見合わせて微笑んだ。


男子生徒Aとジオルドのやり取りを遠巻きに見ていた生徒達は、それ以上チェルシーに直接何かを言う事はなかった。


このまま放っておけば噂も無くなるか?と期待したが、噂話はエスカレートはしなくても下火になる事はなかった。



そんな中、事は起こった。



それはチェルシーが学園に通うにあたり是非体験してみたかったという写経同好会に次いで、体験入会を楽しみにしていた、〔プリンの角に頭をぶつけて死ねるのかを考察する同好会〕である。


この同好会は十数年前に在籍していた女子生徒が「プリンの角に頭をぶつけて死んでしまえ」と発言をし、それを側で聞いていた女子生徒の友人が“プリンの角で頭をぶつけて死ねる条件と確率”を物理学、動力学、統計学、魔法力学に基づきその考察を論じた事により発足したそうだ。


魔術の先生であるツェリシアからそんな面白い同好会があるらしいと聞いていたチェルシーが、是非自分の立てた考察を同好会のみんなに聞いて欲しいと、体験入会を希望したものであった。


その同好会の部室にエスコートを願い出たジオルドと共に向かう最中に、聖女リリアンナが取り巻き達と鳴り物入りで押し寄せて来た。


「えーんっジオルド殿下ぁぁ~!聞いて下さいぃぃ!チェルシー様ってどいひーなんですよぅ、いくらワタシが可愛いからって階段から突き落としたんですからぁ~」


聖女リリアンナはガタイのいい男子生徒に姫抱っこをされながらジオルドに涙ながらで訴えた。


何故かチェルシーの脳裏に「ハイお約束の階段落ちイベント来ましたわーー!蒲田行進曲じゃねぇんですからっ!」というイヴェットの声が浮かんだ。


(ジ)「……………」 (チ)「………?」


チェルシーは考えた。


はて?自分はいつそんな事をしたのだろう。


今日はまだ一度もリリアンナの顔を見ていなかったし、階段から突き落とした記憶もない。


「わたしが……リリアンナ様を?」


「そうですぅ!階段の一番高い所からワタシの事をエイッて突き落としたんですぅぅ!」


「まぁ!それは酷いですわね!」


「そうでしょうっ?」


「はい!リリアンナ様にお怪我が無くて幸いでしたわ……!」


「ワタシもそう思いますぅ~」


「………そこまでだ。リリアンナ嬢、君はチェルシーが階段から突き飛ばしたと言うんだね?」


「ハイ!ワタシはたしかにそこのチェルシー殿下に突き飛ばされたんですぅ」


「まぁ……わたしったらなんて酷い事を……」


「ちょっと待ってチェルシー」


胸を押さえてショックを受けるチェルシーをジオルドがそっと制した。


そしてリリアンナを一瞥する。


「誰かその現場を見た者はいるのか?」


「私が目撃いたしましたっ!」


リリアンナを姫抱っこしていたガタイのいい男子生徒が大きな声でそう答えた。


「君が?」


「はいっ!私は確かに王女殿下が聖女様を外階段の最上段から強い力で突き飛ばすのを見ておりました!」


「ふぅん……強い力でねぇ……」


「ね?どいひーでしょう?慰めてくださぁい、ジオルド殿下ぁぁ……」


瞳をウルウルさせてリリアンナはジオルドを見た。


ジオルドはそれを無視してガタイのいい男子生徒…ここはイヴェットに倣って男子生徒Bと呼ぶ事にする。


その男子生徒Bにジオルドは言った。


「そうか……では検証してみよう」


「け、検証……ですか?」


「ああ。君、リリアンナ嬢を下ろして少し離れて立ってみてくれ」


「……は?は、はい……」


訝しげにしながらも、王子からの指示を拒めるはずもなく男子生徒Bはリリアンナをその場に下ろし、少し離れた位置に立った。


そしてジオルドは次にチェルシーに言う。


「じゃあチェルシー、その男子生徒Bを軽く押してみて」


「え?押すの?」


「うん。遠慮は要らないよ。責任は私が取る」


そう言われ、チェルシーは男子生徒Bの後ろにまわり、「じゃあ……ごめんあそばせ?」と言いながらトンと軽く突き飛ばした。


すると……


「ギャーーーッ!!??」


悲鳴のような声を上げて男子生徒は吹っ飛ばされるように茂みの中へ突っ込んで行った。


「「「!?」」」


その様子を見て、リリアンナとその他の取り巻き令息達が息を呑んだ。


ジオルドがすっ……と片手を上げると、王子の護衛騎士二人が茂みの中から気絶した男子生徒Bを回収して医務室へと運んで行った。


それを無表情で見送り、ジオルドはリリアンナに向き直る。


「さて。今のを見て、私が何を言わんとしているかわかるかい?」


「えっ……な、何ですかぁ?」


ぶりっ子ポーズでぷりっとしてリリアンナは答えた。


それを氷点下の眼差しで見ながらジオルドは言う。


「君の言う事が本当なら、今頃君は生きてはいないと言う事だ。今のを見ただろう?チェルシーの腕力は魔術で強化されている、そんなチェルシーが強い力で階段から突き飛ばした……?もしそれが事実なら君は今そうやって五体満足でいる筈はなく、階段下でミンチになっているという事だよ」


「え゛………」


リリアンナはぎょっとしてチェルシーを見る。

チェルシーは「うふ」と小さく笑い、軽く肩を竦めて見せた。


「従って……君たちの発言は全て虚偽であり、イコリス王女を貶めんとする意図があったと判断せざるを得ないというわけだ。そしてこれはかなり、重い罪になると言う事だ」


ジオルドはそう言ってリリアンナをはじめとする皆を一瞥した。


「ヒッ」


「加えて、イコリス王女が聖女を虐めるという噂を故意に流した罪も一緒に問うからね」


「ヒィッ」


「あ、ちなみに後ろ盾である国教会に泣き付いても無駄だよ?君を色々と焚き付けていたであろう司教達は全員不正や横領、恐喝などの罪で捕縛済みだ」


「ヒィィッ!?」


「聖女が王女を貶めようとした事実が明るみに出たら国民はどう思うだろうね」


「ヒーンッ……ごめんなさぁぁいっ!!」


とうとうリリアンナが泣き出した。


「連れて行け」


ジオルドは医務室から戻ってきた護衛達にそう告げた。


そしてリリアンナや令息数名が連行されて行く。


後には呆気に取られているチェルシーとジオルドだけが残された。


チェルシーの脳裏にまた

「ハイ断罪イベント終了、聖女サマ乙~♪」というイヴェットの声が聞こえた気がした。


チェルシーはジオルドに尋ねた。


「ジオ様?いつの間に国教会の内情などお調べになられていたの?わたし、ビックリしましたわ」


「以前から彼らの良くない噂を色々と聞いていてね。どうしてくれようかと思っていたらそこにキミにまでちょっかいを……これはもう証拠を一部捏造してでもとっとと捕らえてやろう……っと……これはこちらの話だ気にしないで」


「?」



ジオルドはチェルシーの手を取る。


いつものように、宝物を扱うような優しさで。


「これでキミが学園生活を楽しむのを邪魔するやつらは消えた。心置きなく、卒業までの一年間を楽しんで」


そう言ってジオルドはチェルシーの鎧に纏われた指先にキスをした。


「キャッ、ジオ様ったら……」


チェルシーの鎧兜の内側から、もうもうと蒸気が上がっている。


どうやらチェルシーは照れているらしい……


ジオルドは心から愛おしげに婚約者を見つめていた。




その後、国教会の上層部は一新され、新たなる聖女の選定を行うと公表された。


現聖女は学園の卒業と共にお役ご免となるらしい。


しかしジオルドは後々に遺恨を残さない為にリリアンナに嫁ぎ先を見つけてやった。


王都から遠く離れた領地を治める伯爵家の次男との縁談である。


その伯爵家の次男はなかなかの美男子で、リリアンナは一目で相手を気に入った。


その次男坊は真面目で人当たりもよい好青年だ。


なぜそんな相手をリリアンナに?という疑問の声も上がりそうだが、その次男にはどうしようもない欠点がある事をジオルドは知っていた。


彼は閨では途端に嗜虐趣味となる性癖があるらしいのだ。


独占欲と執着心もかなり強いそうで、気の多いリリアンナをちゃんと縛り付けておくだろうとジオルドは踏んでいる。


もうすぐ()聖女となるリリアンナ。


案外彼女は伯爵家の次男坊と相性がよいのではないかと思う。


良縁が結ばれて何より。


ジオルドは一人、不敵な笑みを浮かべた。




      あともう少しつづくのだ




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