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夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  作者: キムラましゅろう


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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  鎧の姫④ 呪い

「どうしてこんなっ……どうして、酷いっ……!」


今から十八年前、チェルシーの実母であるイコリス王妃ジュリエットはそう言ってその場で泣き崩れた。


ジュリエットは前王妃が亡くなって十年後に迎えられた、いわば後添えの妃である。


前王妃を愛していたイコリス王は最愛の妃を失って以来、新たな妃を迎える事もなく、長く王妃の座は不在であった。

しかし他国の夜会に出席した折に出会ったジュリエットに心を奪われ、是非妃にと望んだのだ。


そして猛アプローチの末、他国の第三王女であったジュリエットをイコリスの新しい王妃として迎え入れたのだった。


十歳の歳の差があったが二人は愛し合い、やがてジュリエットは懐妊した。


しかし来月にはいよいよ出産だというその時に、悲劇が起こる。


前王妃の筆頭侍女であり、前王妃亡き後もイコリス王家に仕えていた女がジュリエットに呪いをかけたのだ。


お腹の子がこの世に生まれ落ちた瞬間に死ぬ呪いを……


女は前王妃の侍女でありながら、前王妃存命の時より国王に懸想していた。


前王妃が亡くなった後も再婚しない王の近くで仕え続け、いつしか身勝手に思い込んだ歪んだ愛情を真のように信じるようになっていたのだ。


「陛下もきっと私の事を想ってらっしゃるのだわ、新たに妃を迎えないのがその証。本当は身分違いの私を妃に迎えたいのにそれが許されないから……でもお立場の為にその感情を表に出さずに秘めておられるのね。大丈夫です陛下……私は全て分かっております。私がいつまでも貴方様のお側におりますからね。言葉にせずともお互いこの愛を胸に秘め、共に大切に育んでまいりましょう」


国王も自分を愛しているのだと思い込んだ女が、新しく王妃として迎え入れられたジュリエットを妬み、憎み、挙げ句の果てに自らの命を媒介にしてまで異界の魔物を召喚して呪いを掛けたのだ。


生家の財を勝手に使って雇い入れた魔術師に大金を払っての所業であった。


自らの命を対価にしたその呪いはモグリであった魔術師の珍妙な術式、不安定な魔力量、そして妬心(としん)を最上の糧とする魔物の能力によって雁字搦めにこんがらがり、そして予期せぬ呪術へと変貌を遂げた。


偶然か必然か、不運な事にそれは最も性質(タチ)が悪く最も邪力の強い呪術となってジュリエットのお腹の子を襲ったのだった。


しかし呪い下附(かふ)の瞬間、その異様な魔力の波動を感じ、ある魔術師が転移して来た。


魔術師の名はアルト=ジ=コルベール。

西方大陸一の賢者、バルク=イグリードの世話係……じゃない、弟子である。


「異界の扉が開く気配を感じた。その直後に凄まじい呪怨を感じ、ここに来たのだが……まさかジュリエット様がおいでとは……」


突然現れたアルトに、ジュリエットと彼女と共にいた国王は驚いた。


王宮周辺、いやイコリスには国土全体に国土結界が張られている。


その結界をくぐり抜け、更に強力な結界の張られた王宮に難なく転移して来た事が信じられないと言わんばかりに驚愕の顔をアルトに向けている。


狼藉者か、と国王は直ぐ様剣の柄に手を掛けたが、ジュリエットの言葉で彼女の既知の者だと分かった。


「コルベール様っ……?あ…へ、陛下、この方は怪しい者ではありません。コルベール卿はイグリード様の弟子であられるお方です……が、一体どうなされたのですかっ?何故こちらへ?凄まじい呪怨とは……?」


それには直ぐに答えず、アルトはジュリエットに近づき、腹部には触れずに手をその付近にかざした。


「コルベール様?何を……」


「っ…ちっ」


アルトは思わず舌打ちをしてしまう。


懸念した通り、ジュリエットは既に呪いを受けていた。

いや正確に言うならば、ジュリエットの腹の中にいる赤ん坊に……


「イコリス王、ジュリエット様、落ち着いて聞いて頂きたい。じつはたった今……」


アルトが何かを告げようとしたその時、国王の側近が部屋に駆け込んできた。


「申し上げますっ、へ、陛下っ……妃殿下の侍女長が至急主寝室へおいで頂きたいとっ……主寝室の壁に焼き印のような文字が刻まれているとっ……」


「なにっ!?」


知らせ受け、とりあえず身重のジュリエットを残し国王とアルトは突如文字が現れたという主寝室へと向かった。


するとそこには壁にでかでかと、焼き切れたような文字が刻まれていた。


壁には呪いを掛けた女の、ジュリエットに対する恨みの言葉が延々と刻まれていた。


お前の所為で国王との愛が踏み躙られた。

お前が私から愛する者を奪った。

だから私もお前の愛する者を奪う、と。

腹の子は生まれ落ちた瞬間に異界の魔物の供物となる。

即ち、生を受けた瞬間に死ぬのだと、魔術により刻まれていたのだった。


「だっ……誰が一体っ……誰がこんな悪戯をっ!?」


国王は声を荒げて激怒した。

妻を、子を呪うなど常軌を逸した悪ふざけだ。


アルトは国王に残念ながらこれは悪戯ではなく、先ほどジュリエットの腹の子に呪いが掛けられた事を告げる。


そしてアルトは魔力の残滓を辿り、女と金で雇われた魔術師が呪詛を行った場所へと転移した。


そこには見るも悍ましき、魔物により無惨にも食い殺されていた女と魔術師の遺体が残されていた。


「……愚かな事を。力量に釣り合わぬ術を用いるからこうなるのだ」


アルトはその場を魔術により保全し、再び王宮へと戻った。


そしてアルトが仮定ではあるが状況と僅かに残った女の残留思念から推測して、国王とジュリエットに報告をした。


そしてジュリエットはその場に泣き崩れた……


「どうしてこんなっ……どうして、酷いっ……!」


「頼むコルベール卿っ……なんとか解呪の方法はっ……お腹の子を救う方法はないのかっ……!?」


アルトは少し考え、答えた。


「バカは時としてもの凄い事を成し遂げてしまう事がある……愚か者が偶然にも複雑で強大な大魔術を作り上げたのです。今の段階では何もお答え出来ません。一度持ち帰り、我が師と相談してみましょう」


我が師と聞き、ジュリエットは涙を流しながらアルトを見上げた。


「……イグリードのおじさまと……?」


「はい。今ちょっと精霊界に行ってるんですが呼び戻します。ジュリエット様の祖国ハイラムの顧問魔術師などと大層な肩書きを拝しているわりには、そうやって遊んでばかりいるのです。ここぞとばかりに働かせましょう」


「っ……はい、お願いいたします……」


ジュリエットと国王はお腹の子を守るように腹部に手を当てて、アルトに頭を下げた。



ジュリエットは懸命に祈りながら出産までの日々を過ごす。


どうか解呪出来ますように。

どうかこの子を失わずに済みますように。

どうかこの子に光を……どうか、どうか……



そしてとうとうジュリエットの出産が始まった。

イコリスの魔術師により直ぐ様ジェスロへと知らせを出す。


いよいよ陣痛の間隔が狭まってきた…というその時に、突如青い髪の青年が転移して来た。


「遅くなってゴメンね!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんだよっ☆」


「……おじさま……っ!」


「ジュリエットぉぉ~大変だったねぇ~」


「この方が……もしや……?」


国王が突然現れたチャラそうな…いや軽そうな…いや、とても賢者と呼ばれるような風貌ではない青年を見て呟くように言った。


国王の予想は当たっていた。

このチャラめの若造にしか見えない青年が、大賢者と呼ばれるバルク=イグリードその人であった。



そしてお産はどんどん進んでゆく。


その中でイグリードは国王に告げた。


「残念ながら腹の子の呪いの解呪は出来ないね。無理に術を掛けて、それこそ胎児の命が危険に晒されるのは本末転倒でしょ?術者は召喚した魔物に喰われるという最悪な事になってるし、あとは魔物を殺すしかないけど、これはかなりリスクが高い。最後の望みとしては……」


「の、望みとしては?」


「呪いを掛けられた本人、お腹の子が自分で呪詛を解くかだね」


「バカなっ……!赤ん坊に何が出来ると言うのかっ!?」


「大きくなって魔術の勉強をして自分で解呪するんだ。不幸中の幸いか、胎内で呪いを下附された所為でお腹の子はこの世界で唯一、この呪詛に同調出来る魔力を持って生まれてくる。そしてその魔力こそが呪いに打ち勝つ力なのさ」


「で、でもこの子は生まれ落ちた瞬間に供物にされると……」


「それを防ぐのは簡単さ。見た目は少々アレだけど鉄壁な防御でお腹の子を守るよ」


「ど、どうやって……?」


「まぁ見てて。生まれた瞬間が勝負だから」


ややあって産室から「もう生まれます!」という知らせが入る。


その瞬間イグリードは産室へと転移した。


そして産室全体に結界を張る。


分娩中のジュリエットからは少し離れてイグリードは産術師に言った。


「産術師さーん!僕まだそっちに行けないから赤ん坊が出てきたら臍の緒を切る前に教えてね!そして直ぐにジュリエットにシーツを被せて☆」


「は、はいっ」


事前に国王から指示に従うようにと言われていた産術師が素直に返事をした。


やがてその瞬間がやってくる。


ジュリエットが最後に渾身の力を込めた。


そして赤ん坊が産術師によって取り上げられる。


その途端に産術師がイグリードに告げた。


「生まれました!」


「ほいほーい!」


そう言ってイグリードは赤ん坊の元へと転移した。


イグリードが赤ん坊を受け取った瞬間に光に包まれる。


夥しい数の帯状の術式が赤ん坊を覆ってゆく。


やがて鎖のように赤ん坊に絡みついた帯状の術式が一斉に光を放った。


そして………



隣室で待機するように言われていた国王の耳に、元気な産声が届く。


国王は慌てて産室に飛び込んだ。


そこには何やら鉄の塊のような物を抱いたジュリエットがいた。


ジュリエットが横たわるベッドの側にはイグリードの姿がある。


「こ、これは……?赤ん坊はどうなった?無事に生まれたのかっ……?」


「陛下……私達の赤ちゃんは無事ですっ…!無事に生まれましたっ……生きていますっ!」


ジュリエットは感涙し、腕の中の赤ん坊に目を落とす。


国王はジュリエットの視線を辿った。


するとそこには………


「よ、鎧……?鎧の赤ん坊……?」


赤ん坊サイズの小さな鎧をまとっている我が子がそこにいた。


「ただの鎧じゃないよ☆精霊界特注の生きた鎧だよ☆凄いよ、姫の成長に合わせて臨機応変に大きくなるんだ。無茶苦茶デカくなるけど、デカい分だけ防御力も上がるからさ♪」


そしてイグリードは言った。


鎧の材質は鉄のようだが鉄ではないと。


どんな物質よりも硬く、その鎧のプレート一枚一枚に大賢者謹製防御魔法が施されていると。


「鎧姿なのはちょっとかわいそうだけど、これしか全身を包み隠す方法が思い付かなかったんだ。物理的な衝撃にも耐えられる物質でないと万が一魔物が直接襲ってきたら防げないからね。これで姫が大きくなるまで身を守って、後に姫が解呪方法を見出すまで頑張るしかないよ。あ、姫に魔術を教えるのはアルトのお嫁さんに頼んどいたからね~」


「しょ、承知した……え?待ってくれ、姫……今、姫と言ったか?」


国王がイグリードに尋ねた。


イグリードが満面の笑みを浮かべて答える。


「うんそう!生まれた赤ん坊は女の子だったよ。銀髪のすんごい可愛い子だった。ごめんね?僕だけが見れちゃって。あ、産術師さんもバッチリ見たか☆」


「姫……銀の髪の姫………」


「そ。大きくなって、姫の呪いが解けてお顔を見るのが楽しみだね♪それまでお預けになるけど、我慢するしかないね、我慢できるよね☆」


国王とジュリエットは鎧姿の娘を見つめた。


「それでもいい……生きていてくれるだけでいい……」


「そうだな。どんな姿だろうが私たちの大切な、可愛い娘だ。イコリスの王女だ」


国王は王女にチェルシーと名付けた。


かつてイコリス騎士団で常に陣頭に立って指揮をした勇猛果敢な女王からその名を貰ったのだ。


呪われた運命に負けず、強く生きて欲しいと。


そして必ずや呪いに打ち勝って欲しいという願いを込めて……



こうして生まれながらにして鎧姿となったチェルシー姫は、乳母ではなく女性魔術師に世話をされた。


授乳もオムツ交換も身を清めるのも全て魔術で行う。


普通の鎧でない為かチェルシーは鎧姿で元気にゴロンゴロンと寝返りをうち、やがてハイハイも鎧を着ているとは思えない速さとスムーズさを見せつけた。


チェルシー姫が3歳になった時に父王は国民にチェルシー姫が呪いを受けて生まれた事を公表した。

自分達の国の王家を敬愛するイコリスの民たちは王女の誕生を心から喜び、また呪いに負けずに無事に成長する事を祈ったのだった。


そして9歳年上の異母兄をはじめとする城の皆に可愛がられ、チェルシー姫はすくすくと育つ。


アルトの妻ツェリシアに魔術や魔力コントロールを習い、精霊魔術の勉強も始めた。


そんな中、本当は誕生前に同年に生まれる王子と王女の婚約を結ぼうという話は出ていたものの、呪いにより有耶無耶になっていたオリオル国の第二王子との縁談が何故か正式に結ばれた。


チェルシー姫に会ってみたいと言った当時六歳のジオルドが、チェルシーを見初めたのだ。


オリオル国側は誰もがこう思った。

美貌の王子を巡って争いが絶えない事を憂いた王子が敢えてあの姫を婚約者に据えたのだと。

そして無駄な争いが起きるのを防いだのだろう、と。


年頃になればきっと婚約は解消される。


無理に反対して王子や王子に甘い国王の反感を食らう事もないと、家臣や上位貴族たちは王子と鎧姫との婚約を黙認した。


しかしジオルドはチェルシーの為人を好きになったのだ。


自分の身の上を嘆くよりも明るく精一杯楽しく生きたいというチェルシーの心の強さに惹かれたのだ。


だがジオルドは思った。

そんな自分の中の大切な想いを他の者に教えてやる義理はないと。


他の者などどうでもいい。

チェルシーを、婚約者を大切にするのだと、ジオルドは思った。


こうしてジオルドとチェルシーはマメに交流をはかり、共に成長してきた。


ジオルドが通う魔術学園に一年だけでも通いたいとチェルシーが強く希望し、渋っていた父王がそれに折れた。 



イグリードが考え、チェルシー自身もそう捉えるターニングポイントである十八歳まであと少し。



呪いが解けるかどうか、どちらにせよいずれチェルシーは多くの選択を求められる。


その内の一つがジオルドとの婚約を解消するかどうかの選択だ。


チェルシーはいつだって大好きなジオルドの幸せを望んできた。


自分がジオルドの側にいれるのはもう僅かな日々しか残されていないのかもしれない。


だからチェルシーは一日一日を大切にすごす。


この後どんな結果になろうとも、悔いがないように。





つづくったらつづくんだい☆




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