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夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  作者: キムラましゅろう


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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  鎧の姫②

イヴェット=チャザーレ公爵令嬢は転生者だ。


しかも異世界転生者という分類の。


どうやら前世では40代半ばで死んだらしい。


死んだ()()()と憶測で語るのは、前世の最後の記憶が階段から落ちる瞬間だったし、もの心ついて前世の記憶を取り戻した時には既に今世のイヴェットだったからだ。


前世の記憶を全て引き継いでいるわけではないが、イヴェットには鮮明に覚えている事がある。


それは前世の自分が大好きだったマンガやアニメなど物語の記憶である。


そう、イヴェットはO・TA・KU☆という種族の生き物だったのだ。


数々のアニメを視聴し、マンガや小説などを読み漁ってきた前世のイヴェット。


その中で特に好きだった物語に出てきた登場人物に

もの凄い既視感を持つ少女が、ある日突然イヴェットの目の前に現れた。


それは学園の入学式で一目惚れして以来、大好きで大好きで堪らないオリオル王国第二王子ジラルドの幼馴染だというイコリスの末王女チェルシーだ。


全身を厳つい鎧で覆われた体長2メートルのチェルシー姫。


彼女の姿を見た瞬間、前世で読んだマンガの記憶が鮮明に蘇り、イヴェットはその鎧の中身を知りたくて知りたくてたまらなくなった。

前世で読んだ物語の鎧キャラの中身は意味深なものが多かったのだ。


鎧の中は魂を定着させた錬成陣だけがあり、実は中身は空っぽとか……


あるいは男性恐怖症を拗らせた怪力美少女が入っているとか……


も、もしかしてチェルシー姫はそのどちらかなのかもしれない!


そう思うといてもたってもいられなかった。


イヴェットの好奇心が疼き出す。


しかしどうやったら中身を確かめる事が出来るのだろうか……


チェルシーが平民もしくは下位貴族であったなら、

公爵家の権力を笠に着て「ちょっと中身を見せなさいよ~」と言えるのだが、何せ相手は一国の王女……そういうわけにはいかない。


イヴェットは前世の記憶をフル活用して、チェルシー姫に鎧を脱がせる方法を考える。


ごく自然で無理やり感のないシチュエーションを……


そしてイヴェットが思いついた策がこうだ。


ステップ1

チェルシーを運動に誘う


ステップ2 

汗を沢山かかせる


ステップ3

汗を拭いてあげると言って鎧を脱がせる


「これよっ!!完璧だわっ!!このスリーステップでいきますわよっ!待っていなさいイコリス王女チェルシー!おーほっほっほ!」


ナイスなアイデアがひらめき、

イヴェットは上機嫌で声高らかに笑う。


その笑い声を聞き、チャザーレ公爵邸の使用人たちは皆「またお嬢様の悪巧みが始まった……」と嘆息したそうな。




◇◇◇◇◇



次の日、イヴェットは放課後を利用して早速チェルシーに声をかけた。


「お聞きしましてよ王女殿下。なんでも殿下は剣術がお得意なのだとか。実は私も剣術を少々嗜んでおりまして……宜しければ是非とも王女殿下にお手合わせをお願いしとうございます」


それに対してチェルシーが入学以来、彼女にべったりのジオルドが言った。


言うまでもなくイヴェットの想い人である。


「手合わせなんて大丈夫かな。チェルシーの剣技はイコリス騎士団仕込みの相当なものだよ?私も三本中一本は必ずチェルシーに取られるんだ。イヴェット嬢、それを知った上で声をかけているのか?」


「もちろんですわジオルド殿下。私とてオリオル騎士団団長の娘、伊達に鍛錬を積んできたわけではございませんわ」


「うーん……どうする?チェルシー」


ジオルドが隣に立っていたチェルシーに尋ねた。


チェルシーはガシャリと鎧の音を立てて大きく頷いた。


「もちろんお受けいたしますわっ!学園でお友達と手合わせ……青春ですわね!夢がまた一つ叶ってワクワクしますっ♪」


チェルシーのその言葉にジオルドはふっと柔らかい微笑みを浮かべた。


「分かったよ。じゃあ審判は私が務めよう」


「ジオルド殿下がっ!?こ、光栄ですわっ……!」


イヴェットが感嘆の声を上げる。


鎧を剥いたチェルシーを見るのが目的だったのだが、思いがけない王子の申し出にイヴェットは喜んだ。


「し、審判ジオ殿下……!これはまたレアなシチュ……♡ラッキーですわっ」


そうしてチェルシー達は体育館へと場所を移した。

もちろん練習としての手合わせの許可を学園に得てだ。

その許可はジオルドの護衛の一人が取って来てくれた。


イヴェットはオリオル騎士団の団服に似せた騎士服を着ている。


何事も形から入るイヴェット。

剣を握る時はもちろん騎士の格好をするのだ。


そういえばイヴェットは前世でコスプレも嗜んでいた……。


練習としての手合わせなので当然得物は木剣である。

材質こそ木だがサイズは普通の剣とまったく同じである。


巨躯を誇るチェルシーが持つとまるで短剣のように見えるが。


チェルシーとイヴェット、二人が中央で向かい合う。


その間に立つジオルドが手を上げて告げた。


「はじめっ!」


先制したのはイヴェットだった。


チェルシーの実力は把握していないが、あの見た目だ、おそらくパワーでは勝てない(ような気がする)。


『スピードとフットワークの軽さで勝負よ』


試合開始初っ端の隙を突いて間合いに飛び込み、剣を奪ってしまおうとの算段だった。


しかし、チェルシーはいとも簡単に重そうな鎧姿でそれを躱す。


俊敏さに定評のあるイヴェットの動きに軽々と付いてきた。


しかもやはり剣はパワータイプだった。


(すんで)で避ける時に耳を掠める風切り音が凄まじい。


一撃一撃が重く、しかも切り返しが早い。

チェルシーの身のこなしと剣を扱う手捌きに翻弄される。


イヴェットはいつの間にか追い詰められていた。


気付けば壁の方へと追いやられている。


『っく……このままではっ……!』


イヴェットは最後の反撃に出た。


捨て身でチェルシーの間合いに飛び込む。

木剣をチェルシーの首元と兜の隙間に差し入れようとした。


剣を奪ったり兜を取っても試合終了だ。


イヴェットはこの攻撃で最後の賭けに出たのだ。


チェルシーの懐に飛び込み剣を立てて上に突き上げる。


『いけるっ……!』


と思った瞬間、

チェルシーがふいに身を翻し、バク転をした。


『あの巨体でっ!?』


バク転によりイヴェットの剣を躱したチェルシーが着地の瞬間に体勢を変えて片足を伸ばしてイヴェットの足を引っ掛けた。


「キャッ!」


イヴェットは地面に倒されて尻餅をつく。

その瞬間にチェルシーの木剣がイヴェットの首筋に当てられた。


「!」


「そこまで!!」


勝負あったとジオルドが声高らかに告げた。


練習試合はチェルシーの勝利となった。


イヴェットもチェルシーも肩で息をする。


「両者とも良い動きだった。イヴェット嬢、惜しかったな。しかしナイスファイトだ」


ジオルドがそう言うと、王子の護衛達が拍手した。


「お、おそれいります……」


イヴェットは恐縮しながらも嬉しそうに微笑んだ。


チェルシーがイヴェットに手を差し出す。


「素晴らしい剣技でしたわイヴェット様っ!是非ウチの騎士団にスカウトしたいくらいです。本当に楽しいひと時でしたわ♪ありがとうございます!」


イヴェットはチェルシーの手を取り、立ち上がらせて貰いながら返事をした。


「こちらこそ感服いたしました。

さすがはイコリスの王女にあらせられます。畏れ多くもとてもよい学びとなりました。お礼を申し上げます、ありがとうございました」



そしてイヴェットは護衛からタオルを受け取り、汗を拭く。


本当にいい試合だったと我ながら思う。


剣を交えるとその人の為人が分かる。


チェルシー姫はなかなかに豪胆で、そして実直なお人柄らしい……

ますます素顔が気になる。


それを思ったその瞬間、イヴェットは大切な事を思い出した。


「あ!」


チェルシーとの試合が思いの外楽しくて夢中になり、本来の目的を忘れてしまうところだった。


イヴェットは慌ててチェルシーの元へと駆け寄る。


「チェルシー殿下っ、宜しければ鎧をお脱ぎになり汗をお拭きになられませんか?私、お手伝いいたしますわっ」


当初の計画通り、イヴェットはチェルシーに声掛けをした。


それをジオルドが軽く制した。


「あぁ、それには及ばない。チェルシーは今、自動洗浄中だから」


「……自動…洗浄中?」


チェルシーを見遣ると彼女は微動だにせず、静かに立ったままだ。


でもよく見れば小刻みに振動している?


前世でよく聞いたモーター音みたいな音も聞こえてくる。

そして鎧の中から水音も……


『これは……聞いた事がある生活音ですわ……これは……この音はっ……』


「洗濯機っ!?」


イヴェットは思わず大声で叫んだ。


「センタクキ?なんだそれは。チェルシーは訳あって鎧が脱げなくてね。それでああやって魔法を用いて中で自動洗浄するんだ。凄いだろう?私のチェルシーは」


「は、はぁ……」


イヴェットはまじまじとチェルシーを見た。


どうやら今は脱水中のようだ。

そしてその後は風による乾燥までしている。


『乾燥機能付き全自動洗濯機かよっ!』


イヴェットは前世の言葉使いでツッコまずにはいられなかった。


『くそう、異世界め……

魔法ってなんて便利なんだ……』


イヴェットは心の中でハンカチを歯噛みする。



こうして転生公爵令嬢イヴェットによる、チェルシーの中身を確かめちゃおう作戦は失敗に終わった。


しかし訳あって鎧が脱げないとは……


ますますチェルシーに興味をそそられるイヴェット。


それからというものイヴェットはチェルシーの

一挙一動を(つぶさ)に観察し、

[チェルシー王女殿下の生態観察、または中身の考察日記]なるものを付け始めたのだとか。


おい、ジオルドはもういいのか。


彼の最愛になりたいのではないのか。


今ではすっかりジオルドよりチェルシーに夢中な転生公爵令嬢イヴェット。



興味のある事、好きなものにのめり込む。


ある意味これもO・TA・KU☆属性と言えるのかもしれない………




          

         まだまだつづく☆



いつもお読みいただき、そして誤字脱字報告もありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉男性恐怖症を拗らせた怪力美少女 うる星やつらの飛鳥ちゃんですね。 ハガレンはともかく、そっちの発想はなかったです。 なんかこの公爵令嬢好きです♡
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