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夫婦にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  作者: キムラましゅろう


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番外編 未婚の男女にまつわるすれ違い、または溺愛を描く短編集  薬師の恋

リルは魔法薬剤師だ。


この辺境の町では魔法薬剤師の事を“薬師”と呼ぶが。


この町に医療魔術師(医師)はいない。


隣町に一人、初老の医師が居るだけだ。


何か大きな怪我や病気をすれば隣町まで運ぶかその医師に往診を頼まなければならない。


なんでもない事のように思えて、そう気軽に出来る事ではないのだ。


だからこの町の人は普段は魔法薬に頼っている。

ちょっとした怪我や病気は魔法薬により治癒出来るからだ。


魔法薬は魔法律により国家資格を持った魔法薬剤師しか作れない、そう定められている。


そしてこの町に二人だけいる魔法薬剤師のうちの一人、それがリル(21)だ。


もう一人はリルの叔母で、早くに両親を亡くしたリルを育ててくれた。


猛勉強の末に国家試験を一発でクリアしたリルは、叔母の営む魔法薬剤店に勤めている。


その間、色んな事があった。


国中で蔓延した流行病の時は薬を作り続けて簡単な治療を施したし、


辺境地ゆえの魔物の出没で怪我をした人達を魔法薬を用いて治療した事もあった。


リルは薬師となってまだ三年しか経っていないが、町のために懸命に尽力する姿を見て、町の人たちはリルに信頼を寄せていた。


その人達の中で一際リルに懐いている者がいた。


辺境地を有する領主が自警や魔物討伐の為に配備している私設騎士団の所属騎士、ジュアン(21)だ。


ジュアンはこの町の出身でリルとは幼馴染同士の間柄である。

まぁ小さな町なので同世代なら誰も彼もが幼馴染だが。


ジュアンもそんな幼馴染の一人であったがそれが変わったのは一年前からだ。


町に近接した中量級(10トンクラス)の魔物の迎撃時に大怪我を負った彼を助けてから、リルはジュアンにやたらと構われるようになった。


毎日何か理由をつけては…いや理由が無くても店に顔を出すし、食事に誘って来る。


彼なりに恩義を感じているのだろうか。


べつに仕事だし、幼馴染だし、たかだか三日三晩、寝ずに治療しただけだし、それに……初恋の人だっただけだし。


だからまぁそんな初恋の人に構い倒されて、嬉しくないはずはない。

はずはないのだが、


リルは知っているのだ。


本当はジュアンはまだ、初恋の女性の事を想っているという事を。


その女性が領主の親戚の男性に見染められて嫁いで行った後も、彼は一途にその人の事が忘れられないでいる事を。


だってジュアンがその後付き合った二人の女の子はどちらも、どこかその初恋の女性(ひと)に雰囲気が良く似ていたから。


オシャレで花があって可愛らしいタイプ。


リルが異色なだけで、彼の好みはそんな初恋の人と同じタイプの女の子だ。


それが未だにあの人を想っている何よりの証だ、リルはそう思っていた。


だからリルはジュアンの求愛を本気にはしない。


それはヒナの刷り込みのようなもので、一過性でリルに傾倒しているだけだと分かるから。


だからリルは、


「リル~いい加減食事くらい付き合ってくれよ~」とか


「生死を彷徨って目が覚めた時、最初に目に飛び込んできたリルが聖女に見えたんだ」とか


「よし分かった。リル、付き合うなんてまどろっこしい事はすっ飛ばして結婚しよう」


とか言われても、全く相手にしなかった。


「……交際をまどろっこしいなんて思ってる当りから、本気でないと分かるのよね」


「なんでだよ、言葉の“あや”だろ?すぐに結婚してもいいと思えるほどリルの事が好きだって事だよ」


「好きってアレでしょ?命の恩人に対する敬愛って事でしょ?」


「いや。普通にメスとして。もうすぐに挿入(いれ)たいくらいに」


「最低か。単にヤリたいだけでしょ」


「それだけ好きって事だよ!リルに惚れて初めて、俺は人を本気に好きになるという気持ちを知ったんだぜ?」


「ふむふむ。それを歴代の元カノ達にも言っていると……」


「言ってねぇよぉ、リルだけだよぉ」


「うるさいモテ男。いつも女の子に追いかけ回されてるくせに。私じゃなくても引く手数多じゃない」


「好きな子にモテなきゃ意味ねぇよ」


リルとジュアンはこの一年、そんな会話をほぼ毎日繰り返している。


まぁそろそろ、流石にジュアンの方が飽きてくるだろう。

ていうかもうそんな気まぐれで構うのはホントやめて欲しい。


ジュアンにぞっこんの女の子達から睨まれるのも嫌味を言われるのも面倒なのだ。


もういい加減放っといて欲しい。

早くその日が来て欲しい。


と、思っていたらその日は案外早くにやって来た。



ジュアンの初恋の相手が…領主の親戚に嫁いだ女性が、離縁してこの町に戻って来たのだ。


彼女の名はカリーヌ。

リルやジュアンの四つ年上の美しい人だ。


このカリーヌの美貌に惹かれて求婚したはずなのに……夫となった男は若い愛人を作り、その愛人に子が出来たからとあっさりカリーヌを捨てたのだ。


傷心の内に実家に戻ってきたカリーヌに、町の者は皆同情して親切だった。


皆知り合いばかりだという小さい町だ。


皆が優しく、そして温かく、出戻ったカリーヌを迎え入れた。


そしてそれはもちろんジュアンも例外ではなく、今度は足繁くカリーヌの元へと通っているという。


「………………………ま、いいけどね」


リルはそうひとり言ちた。


こうなる事を望んでいたのは自分だ。


これ以上どんどんジュアンの事を好きになるのが怖かったから。


いずれこんな日が来ると分かっていたから、一日も早くこの日が来て欲しかった。


それなのに……


「遅いのよバカ……」


もう手遅れだったみたいだ。

ジュアンの心がリルから離れた事がこんなにも辛いと思うほど、リルはジュアンの事を好きになっていた。


同じ人に同じ失恋を二度も食らうとは……


なんとも情けない話だなぁとリルは思った。


しかもリルを目の敵にしていたジュアンの取り巻きの女の子の一人が、ご丁寧にジュアンとカリーヌの様子を教えてくれる。


「ジュアンったら、やっぱりカリーヌさんは別格なのね。どこに行くのも彼女にべったり付き添ってるわ。アナタもかわいそうよね、あっさり見向きもされなくなっちゃってさ~。ジュアンとカリーヌさん、結婚するって噂もあるのよ」


それって貴女の心も抉られているのでは?

と思いながらも、余計な事を言って来た女の子には丁重に足で追い払ってお帰り頂いた。


くだらない。関係ない。

そう、リルには関係ない事だ。


そう思っているのに、ジュアンがカリーヌと一緒にいる姿がやたらと目に付く。


二人で仲良く買い物をしている姿や、

一緒に散歩をしている姿。

そして当たり前のようにカリーヌの家にジュアンが送って行く姿をリルはよく見かけていた。


まぁいずれも離れた所から見かけただけなので向こうはリルに気付いてもいないが。


久々に見るジュアンの顔は少し疲れているようにも見えた。


カリーヌが帰って以来二週間、まともにジュアンと顔を合わせていない。


その間二度ほどジュアンが店の方にリルを訪ねて来たそうだが、そのどちらもリルは配達に行っていて留守だった。


叔母は「残念がっていたわよ~」と言うが、

それはリルにカリーヌとの事を伝えられなくて残念がっていたのだろう。


カリーヌと結婚するのでもう会いに来ない、今まで俺が言った事は忘れてくれ、とでも言いたいのだろうか。


そんな事、わざわざ言う必要はないのに。


『アレか?モテない女を憐れんでいるとでもいうのか?私が結婚すればジュアンも安心出来るのか?』



……いずれにせよもうそろそろ自分も身を固める事を考えた方がいいのかもしれない。


いつまでも独り身でいて、叔母に心配を掛けるのも忍びないし。


そうと決まればと、リルはさっそく近所の世話焼きオバさんに誰か適当な結婚相手は居ないかと相談した。


条件としては他の町の人でもいいがこの町に住んでくれる人。


数少ない薬師のリルがこの町を出る訳にはいかないからだ。


そして将来的には独り身の叔母との同居を認めてくれる人。


酒量はほどほど。決してギャンブルや女遊びをしない、そんな真面目な人なら年齢も容姿も何も気にしないという言葉も添えた。


そして相手が決まるまでは誰にも言わないで欲しいと頼んだ。

もちろん叔母にだ。


世話焼きオバさんはリルが急に結婚する気になった事に驚いていたが、幼い頃から知るリルに、とっておきの男性を紹介すると言ってくれた。


これでいい。


リルもとっとと結婚すれば、ジュアンも気兼ねなく(もともと気兼ねされるような関係ではないが)カリーヌと結ばれる事が出来るだろう。


リルも寂しい思いをせずに済む。


それを思い、リルは初めて気付く。


『そうか……私は寂しいと感じていたんだ』


あれだけ毎日構い倒されたのだ。


それが突然来なくなって、何とも思わない筈はない。


リルは魔法薬の調剤をしながら思う。


乳鉢で薬剤をすり潰しながら、自分のこの何とも言えない宙ぶらりんな気持ちもすり潰してしまえればいいのにと。


調剤した薬剤に術式を唱えて別の物に作り変えてしまえる、魔法薬のように扱えればいいのにと。


そんな事を日々悶々鬱々と考えながら過ごす。


カリーヌが町に戻ってから、そしてジュアンと顔を合わせなくなってから三週間が過ぎようとしていた。


結婚相手の紹介を頼んでいたオバさんから、

とっておきの人物が見つかったと知らせを受ける。


会ってみるかと訊かれたのでリルは二つ返事で返しておいた。


そして見合いのような席は三日後に設ける、という事になった。


相手はこの町の人間でリルを大切にしてくれそうな人だという。


もうその人でいいのでは?と思ったが、人生に関わる事だから一度ちゃんと会って、自分の目で為人を確かめねば……と考え直した。


リルは国家試験を受ける為に王都に行った時以来、久しぶりに服を新調した。


生涯の伴侶となるかもしれない人との初対面だ。

リルだって少しくらい可愛いと思われたいじゃないか。


リルはその日の為に、淡いレモンクリームイエローのワンピースを選んだ。


そして当日。

リルは薄く化粧をし、いつもは簡単に結うだけの髪をふんわりと女性らしく結い上げる。


レモンクリームイエローのワンピースはリルにとても良く似合っていて、姿見の中には町でよく見かける華やかな女の子と同じイキモノが映っていた。

ジュアンが見たら驚くだろうか。


「……よし」


最後にいつもの編み上げブーツではなく華奢なローヒールパンプスを履く。


リルが見合いに行くなどとは知らない叔母が、「まぁリル!綺麗だわ~!ジュアンとデート?ようやく付き合ってあげる気になったの?」と冷やかしてくる。


リルはドアを出る時にひと言、


「今日は別の人に会いに行くのよ」


とだけ告げて家を出た。


後ろで叔母の「え?」という声が聞こえたが、

まだその相手と結婚するかどうかもわからないのだ。

要らぬ心配を掛けるより、全て決まってからちゃんと紹介する方がいいだろう。



町の中心にある老舗のカフェを待ち合わせ場所に指定してあるとオバさんに教えられた。


相手の目印は濃紺の上衣に黒のスラックスを着用していると聞いている。


リルの服装は予め伝えて貰っているので、向こうもリルが相手だとすぐに分かる筈だ。


やがてカフェに着いたリルは、忙しなく動く心臓を落ち着くように宥めながら相手を探す。


すると入り口近くのテラス席に立つ濃紺の上衣姿の男性を見つけた。


『うっ……緊張してきた……』


今まで誰とも付き合った事がなく、あまり男性に免疫のないリルが緊張するのは当然の事だろう。


リルはゆっくり歩みを進め、相手の側まで行く。


「あの……」


そして濃紺の上衣の男性に後ろからそっと声を掛けた。


男性が振り向く。


しかしその男性の顔を見て、リルは思わず大声を出してしまった。


「はぁっ!?ジュアンっ!?」


何とリルの見合いの相手はジュアンだったのだ。


『………という事になるのよね?オバさんが言っていた場所、時間、そして服装……間違いないのよね?』


しかし冷静に考えるとリルの相手がジュアンな訳がない。


だってジュアンはカリーヌと……


瞬きばかりを繰り返して何も言えなくなったリルに、

ジュアンは拗ねた様子で言った。


「リル……お前……俺という者がありながら、勝手に見合いをして結婚しようなんて酷いんじゃないか?」


その言葉を耳にして、いや、ジュアンの声自体を久しぶりに聞いて、リルはハッと我に返って答えた。


「俺という者がありながらとは何よ、人聞きの悪い事言わないでっ。第一あなたにはカリーヌさんが居るでしょう?聞いたわよ、結婚するそうじゃない」


「はあっ?俺がカリーヌとっ?何言ってるんだ?」


「惚けるの?みんな知ってるわよ。私も何度も見てるし、あなたがいつもカリーヌさんと仲睦まじく寄り添って一緒にいる姿を」


「寄り添ってという表現は正しくないが、仕事でカリーヌの護衛を命じられてるんだから、そりゃあ一緒にいるわな」


「…………え?」


「ん?」


「護衛?」


「そう護衛。警護。ボディガードだな」


「ど、どうしてっ……?」


「まぁ座って話そうぜ」とジュアンに促され、落ち着く為にお茶を飲みながら話を聞いた。


ジュアンの話によると、カリーヌは離縁されて家を追い出される時に元夫が税金を不正に着服していた証拠を持って出て来たそうなのだ。


そして離縁の報復としてその証拠を領主に差し出した。


そして裁判の時には証人になる事も承諾したらしい。


裁判までの身柄の安全の為に、昔からよく知り合いでカリーヌも弟のように思っているジュアンに護衛の任が下ったのだそうだ。


「じゃあ……カリーヌさんとずっと一緒にいたのは護衛のため?」


「俺は外出時の護衛ね。家の中ではまた別の女性騎士が護衛に当たってたよ」


そりゃあ道理で市場など行く先々で見かけたはずだわ。


「今日いよいよ裁判で、今頃カリーヌは証言台に立っていると思う」


「ジュアンは行かなくていいの?護衛対象だったとはいえ、未だに想い続けている人なんでしょ?」


「何年前の話をしてるんだよ。そんなの子ども(ガキ)の頃の話だろう」


「だって、ずーーっと、カリーヌさんに似た人とばかり付き合って来たじゃない。まだ彼女が好きだからそういう子ばかりを選んだんじゃないの?」


「違うよ。過去に付き合った子達はみんな向こうから告白されて、それじゃあって感じで付き合い始めたんだ。何故か二人とも俺の好みがそんな感じだと思い込んでカリーヌ風にしていたみたいだけど」


「まぁ……ジュアンの初恋の相手がカリーヌさんというのは知る人ぞ知るって感じだったものね」


口元に手を当てて考えながら納得しているリルを見て、ジュアンは話を続けた。


「カリーヌは裁判の後は王都で暮らすらしい。領主様の口利きで大きな商人の家で働くみたいだよ」


「そう……ジュアン、あなたはそれでいいの?」


「いいも何もそれがカリーヌが選んだ人生だし、ガキの頃の初恋の人だからといって俺には関係ない話だ。


「でも……」


リルが言い澱むのを見て、ジュアンはとうとうシビレをきらしたように立ち上がった。


「あーーっ、もうっ!」


そしてリルの所にズカズカと来て、リルのきちんと揃えた表膝をぐりんと動かして自分の方へと向かせた。


「俺があれだけリルに想いを伝えていたというのに、リルには全然伝わってなかったんだな」


「ご、ごめん……だってジュアンはずっとカリーヌさんが好きなんだと思い込んでいたし、モテ男のジュアンがわざわざこんな地味でなんの面白味もない女を本気で相手するわけないと思っていたの……」


「リルは素晴らしい女性だ。思いやりがあって仕事熱心で頼もしくて、そして誰にでも優しく接する事が出来る聖女みたいな人だ」


「……それ、大怪我をした時も言ってたわね」


「だって本当にリルは聖女のように美しかったんだよ。死の淵から生還して、最初に見た顔が、リルの優しい笑顔だったんだ。“生きてくれて、頑張ってくれてありがとう”って言ってくれたんだぞ?そんなの、惚れない訳がないだろう」


「…………」


「回復したら絶対にリルを口説くって、俺のものにするって、それを励みにキツいリハビリにも耐えたんだ。それに改めて異性として意識して見るリルの破壊力は半端なかった……可愛くて性格もよくて、誠実で……そりゃあますます好きになるだろう」


「………………モウヤメテ……」


「え?」


リルは真っ赤に染め上げた顔を両手で隠し、ジュアンの告白にギブアップした。

そして消え入りそうな小声で訴える。


「……モウダメ、コレイジョウハ…ハズカシヌ……」


「ぶはっ!なんだよ!可愛いなぁっ!」


そう言ってジュアンはリルを抱きしめた。


リルはジュアンの腕の中で小さくなりながらも大人しく抱かれている。


その様子が愛しくて、ジュアンはリルのこめかみにキスをした。


「なぁリル。カリーヌの護衛と警邏の仕事が忙しい所為でなかなか会えなくて、俺は本当に寂しかったんだぞ?やっとの思いで隙間時間を作って店に行ってもお前は配達でいないし……リルに会えないと心も体も疲弊していって、本当に辛かった……」


「ジュアン……」


「それなのにお前は見合いして結婚しようとするし、世話焼きオバさんが教えてくれたから良かったけど、やっと全て終わってお前が別の男と結婚が決まってた…なんて事になったら俺は死ねるぞ?自暴自棄になって大型クラスの魔物に喧嘩売って死ねるぞ?」


「ごめんなさい……」


「いや……俺もリルが誤解してるなんて知らなかったから、何も伝えなかったのが悪かったけど……」


気が付けばいつの間にかリルはジュアンの膝の上に座らされていた。


「その反応を見るからには、リルも俺と同じ気持ちでいてくれてると思っていいんだよな?だから結婚相手は俺でいいんだよな?」


「へ?」


「この町に住んで、将来的には…なんなら結婚当初からでも叔母さんとの同居がオッケーで、酒量はそこそこギャンブルも女遊びもしない。俺、提示された条件にピッタリだろ?」


「そ、そうだけど……本気?」


「本当じゃなかったらここには居ない」


「……それもそうね……」


「リル、返事は?あ、ちなみに“ハイ”しか受け付けてないから」


「…………ぷっ、ふふ」


「それで?返事は?」


「……………」


「リ……


リルはジュアンの言葉を唇で封じこめた。

テラスに差し込む陽の光が作る影が一つに重なる。



リルは言葉ではないものでプロポーズの返事をした。



その瞬間、カフェにいた他の客たちから拍手が起こる。


小さな町だ。


明日にはもう町中の人間が、カリーヌによる元夫の告発とリルとジュアンの婚約を知っている事だろう。



薬師のリルが恋をして嫁に行く。


相手はこの町の青年で薬師のリルをとても愛している。


きっと町中の人がそれを祝福してくれる事だろう。




            おしまい




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