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手柄のためなら

 ルディの部屋で頬の傷の手当てをしていると不意にルディが呟いた。


「姉上。この家を出ませんか?」


 えっと…それは私が邪魔ってことかな?


「今のような生活は出来ませんが、男爵位くらいなら買えるお金は持っているので二人でこの家を出て一緒に暮らしませんか?」


 爵位を…買う…。


「そうだわ!その手があったじゃない!!」


 突然興奮気味に立ち上がるとルディの両手を掴んだ。


「そうよ!爵位を手に入れればいいんだわ!」

「え…ええ…ですから爵位を買おうと…」

「どうして気付かなかったのよ!私のバカ!」


 今度は壁に頭を打ち付け始めた私をルディが止めに入った。

 原作では特に使うこともなく設定していなかったのだが、公爵令嬢としての教育を受けている時に授業でさらりと聞いた覚えがある。

 爵位は一般人でもある方法を使えば手に入れられると。

 その方法はお金で買うことと功績を立てること!


「授業で聞いたことあるでしょ!爵位を貰う方法!」

「ええ。ですからお金で買おうと…」

「お金で買う必要なんかない!」

「しかし爵位を貰えるほどの功績などそうそう見つかりませんよ?」

「それがあるのよ!」


 これは原作者の私だから知っている情報。

 しかも王家を揺るがす一大事件。

 これを解決すれば男爵位どころじゃなく、上流貴族だって夢じゃない!

 ヒロインと王太子のラブロマンスはまたまたお預けになるけどね。


「エドワール侯爵を調べるのよ」

「エドワール侯爵…ですか?」

「そう。彼は他国から武器を密輸入して反乱を起こそうと企てているの」


 何度も言うがこれはヒロインと王太子の距離を縮めるために適当に考えた事件だ。


「侯爵が反乱…」


 腑に落ちなさそうに呟くルディが気になった。


「何か問題でもあるの?」

「王族派の侯爵が反乱を起こす理由が分からなくて…」


 …そんなの私も知りませんけど?

 侯爵が王族派ってのも今初めて知ったし。

 私はただただヒロインと王太子の二人を盛り上げたかっただけですから。


「…それを調べるのがあなたの仕事よ」


 ルディに背を向けてそれらしく丸投げしてみた。


「それもそうですね」


 受け止めてくれた!?

 君、素直過ぎません!?


「しかし姉上はどこでその情報を?」


 原作で私が適当に作りました。


「…どこか遠い所から来た風の噂で…」


 お告げって言った方がそれらしかったかな?

 めちゃくちゃ見つめてくるルディから視線を逸らすも内心は汗だくだ。

 これは絶対怪しんでる。

 しかしルディは追求することなく小さく溜息を吐くとソファに腰をかけた。


「姉上の話が本当なら爵位を貰う以前に防がなければいけない問題ですね」


 内乱は他国に付け入る隙を与えてしまうから避けたいところですからね。


「わかりました。一度調べてみましょう」

「信じてくれるの?」


 だってどこから来たかもわからない風の噂だよ?


「姉上を信じていますから」


 先程まで胸の奥につっかえていたモヤモヤが綺麗に消え去ったのを感じた。

 と同時に懺悔の気持ちが芽生えた。

 エドワール侯爵一家、今回も捨て駒にしてごめんなさい…と。



 反乱を防ぐため事件の流れを書き留めていた時に一つ気付いた事があった。

 これ、ルディに提案していなかったら内乱起きてたんじゃね?ということである。

 本来はヒロインをいじめたエドワール侯爵令嬢を王太子が調べたことで発覚する事件なのだが、いじめも起こっていなければヒロインと王太子の恋の予感も始まっていない。

 ということは、エドワール侯爵は何の邪魔も無く粛々と実行に移せたというわけだ…させねえからな!


 とりあえず動機や証拠はルディに任せて、私にしか出来ないことをやろう。

 それは武器取引に使われている小屋の存在だ。

 偶然ヒロインが見つけてピンチに陥ったところを王太子が助け…ってそこはもういいんだけど、小屋がどこにあるかということだ。

 ヒロインはお世話になっていた施設の施設長が亡くなったという知らせを聞き、手向ける花を取りに山に入るのだが、道に迷って偶然小屋を発見する。

 となると小屋がある場所はヒロインが必要としている花がある山になるのだが…山、多くね?

 王都周辺は平地だが、少し外れると周囲は山ばかり。

 この広大な土地からポツンと一軒家を見つけろって?

 ドローンでも開発しておけばよかった。


 嘆いていても仕方がない。

 葬式で手向ける花と言えば生前好きだった花を使用するはず。

 まずはヒロインの施設がどこかを突き止めることから始めれば…。


 部屋の扉が叩かれ入室を促すと騎士の制服姿のままのルディが入ってきた。

 お…おお…騎士服姿…いい…。


「姉上?」


 見惚れていると手をひらひらと目の前でかざされた。


「騎士の制服着ているところを初めて見たからなんだか新鮮ね」

「そうですか?いつもと変わりませんが?」


 あんたはね。


「それより何か分かったの?」


 ルディをソファに促すとお茶を運んできた使用人を下がらせた。

 お茶を一口啜ったあとルディが口を開いた。


「ええ。姉上の聞いたという噂通り、最近になり他国との交易が頻繁に行われていることが分かりました。買った物を調べましたが明らかに不審な点がいくつか見受けられます」


 やはり密かに動いていたか。

 王太子が動かなくてもこれは原作通りに進むんだ。


「動機についてはまだはっきりとしたことがわかっていないので分かり次第報告します」


 退室しようとするルディに声をかけた。


「ねぇ。セルトン伯爵令嬢の育った施設ってどこか知ってる?」

「…光の家です」


 一応聞いてみただけのつもりがまさか知っているとは思わず目を見開いた。

 やっぱりルディはヒロインのこと…。


「以前、殿下が調べろと命令してきたので仕方なく調べて知っているだけですから」


 調べたのあんただったんかい!

 そりゃあ夜会の時には名前知ってたわけだわ!


 それにしても光の家って確か…。


「光の家ってことは施設長は教会から派遣された修道女?」

「そうなりますね」


 光の家は普通の施設とは少し違い複雑な事情がある施設だ。

 この施設の子供達は全員、犯罪者によって親を殺された子供達になる。

 つまりヒロインも…。

 施設育ちとしか設定していなかったのに色々複雑になってきたな。

 でもこれで花については絞れたかも。

 この世界の葬式の常識として貴族には色とりどりの豪華な花、平民には生前好きだった花。

 そして教会関係者には…白い百合の花。

 この辺りに生息する白い百合の花がある場所を突き止めれば。

 考え込んでいるとルディに手を握られた。


「一つだけ約束して下さい。無謀なことはしないと。もし何かをするなら必ず俺に相談して下さい」


 無謀なこと…ですか。

 私にとって一番無謀なことは、無策であなたに突っ込むことですから。





この事件の動機や証拠ですが、ルディ視点で出す予定ですので視点までお待ち頂けると幸いです。


読んで頂きありがとうございます。

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