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【書籍2巻とコミックス1巻発売記念】子煩悩の予兆(ルディウス視点)

 新婚旅行前の事。

 王宮にある図書室の一角で本を片手に読んでいると、ひそひそと話す女性達の声が聞こえてきた。


「見て。ランドール侯爵様よ」

「窓辺で本を読まれるお姿も素敵ね」

「一体どんな本を読んでいらっしゃるのかしら?」


 どうやら本を片付けにやってきた、王宮勤めの侍女達のようだ。

 侍女達は俺の傍に積んである、本の題名に目を移す。

 『いい父親になるには』『子どもの教育方法』『これで君も育児名人』


「さ……さすがランドール侯爵様ね……」

「いいお父様になりそうですわ……」

「愛妻家ですものね……」


 騒がしかった女性達の声が心なしか下がる。

 こちらは静かになってありがたい。

 そんな中、肩を落としながら図書室を出て行く侍女の一人が不思議そうに呟く。


「ランドール侯爵夫人……ご懐妊されたのかしら?」


 再び静けさを取り戻した図書室で続きに目を落とす。

 俺は幼少の頃から両親の愛情というものを受けたことがない。

 だから子どもが生まれてもどう接していいのか分からず、子育てというものに自信がないのだ。

 だが、俺の子どもには自分と同じ、人形のような日々は味わわせたくない。

 なぜなら俺の子どもは、レアの子どもでもあるのだから。

 レアの子どもならきっとレアと同じく愛らしいはず。

 愛せないわけがない。

 口元を緩ませていると、図書室の扉が大雑把に開けられた。


「こんなところにいたのか。腹黒から外に出る仕事の依頼が入ったぞ」

「お前が片付けておけ」

「いやいや。俺じゃあ捕らえる権限ないし。ってさっきから何読んでんだ?」


 傍に積んである本の一冊を、役立たずが手に取る。


「育児書? まだ妊娠もしていないのに? 気が早すぎないか?」

「いつ子どもが産まれてもいいように、何事も準備しておくに越したことはない」

「準備なら、まずは育児書より妊娠中の知識を勉強した方がいいんじゃねぇの? どのみち妊娠してから十ヶ月経たないと子どもは外に出て来ないんだからさ」


 驚愕の事実に目を見開く。妊娠とはそんなに長い期間あるのか⁉


「え? まさか侯爵様、妊娠したらすぐに子どもが出てくるとか思ってたのか?」


 俺の反応を読んだのだろう。

 役立たずが意外そうに目を瞬かせた。

 そういえば人間にしても動物にしても、今まで妊娠をしている者と接してきたことなどなかった……。

 考え込んでいると、役立たずが口を挟んできた。


「と言っても妊娠中の子どもは母親の腹ん中だから、侯爵様ができることはほとんどないだろうけど」


 そこでふと疑問が芽生える。先程読んだ育児書に生まれたての赤子は首の骨も固まっておらず、立つ事さえできないと書かれていた。


「腹の中で子どもはどうやって過ごすのだ?」

「確か母親と栄養を渡す管で繋がれていて、腹の中の水で浮いてるって話だけど?」


 水の中だと? そんな危険な状態で子どもは大丈夫なのか?


「それでは溺れ死んでしまうだろ」

「俺達が生きてるんだから溺れないんだろ」


 知らなかった。

 人間は生まれながら泳げるものだったのか……。

 それにしても子どもは十ヶ月も、レアの腹の中で過ごすのか?

 レアはその間、一人で子どもと自分の世話をするというのか?

 そんな負担をレアだけにかけさせられない!

 大股で書棚に向かい、片っ端から本を取り出す。

 『動物の生態』『子どもが誕生するまで』『生命の神秘』


「いやいやいや。侯爵様、仕事だって!」


 慌てて止める役立たずを無視して、机に置いた数々の本に手をかける。


「いいのかよ。帰るのが遅くなれば夫人に会える時間が減るぞ」


 困ったように頭を無造作に掻きながら溜息を吐く役立たず。

 その言葉に瞬時に全身の筋肉が動き出す。


「何をもたついている。早くしろ」


 一瞬で入口に移動した俺に、役立たずが頬を引くつかせる。


「もたついてたのは、あんたの方だろ!」


 とりあえず新婚旅行から帰ったら、妊娠について勉強しないとな。



「で? なんでここでやっているんだ?」


 新婚旅行から帰った俺は、早速妊娠に詳しい講師の先生を呼んだ。


「余所の貴族夫人と二人だとあらぬ誤解を招きかねません。ここならば殿下も一緒ですし、訪ねて来た者達も仕事だと思ってもらえるでしょう」

「ならばランドール侯爵夫人も交ぜて、侯爵邸で勉強すればいいだろ!」

「レアの前では完璧な夫でありたいのです」

「お前も苦労してるんだな……とはならないからな」

「殿下にどう思われようが構いません。俺は妊娠の知識を知りたいだけですから。それに殿下も勉強された方がいいのではないですか? 王太子ともあろうお方が、王太子妃になる女性を労われないようでは問題ですよ」


 さすがの殿下も言い返す言葉が見つからないようだ。

 この日からしばらくの間、俺と殿下は貴族夫人から事細かに妊娠について勉強したのだった。


 □■□■□■


「レア。酸っぱい物など欲しくないですか?」


 ルディと食後のお茶を楽しんでいると、唐突に尋ねられた。


「えっと……今はいいかな?」

「食の好みが変わったり、気分が悪くなったりしたらすぐに言って下さいね」


 これは……妊娠の兆候を探っているのかな?

 さすがのルディでも妊娠の知識までは知らないと思っていたのに……。


「それとレアにお願いがあるのですが……」

「何? なんでも言って」


 珍しく恥じらうように尋ねるルディに、ティーカップを持ち上げながら快く聞き返す。


「出産の時は立ち会ってもいいですか?」


 これには飲んでいたお茶も噴くしかない。


「ゲホゲホッ! 出産の立ち合いって……!?」


 前世では珍しくない光景だが、この世界ではどうなんだ? ありなのか?


「レアが一人で苦しんでいる時に、俺だけ廊下で待っているなど出来ません。背中を擦ったり、汗を拭ってあげたりなんでもしますから、俺も立ち会わせて下さい」


 まるで出産に立ち会ったことがあるようなルディの知識に、噴いたお茶が口から垂れ流れる。

 この子、やけに妊娠について詳しくない!?

 ルディは持っていたハンカチで、甲斐甲斐しく私の口元を拭きとる。


「あと、お腹を蹴るようになったら、俺にもお腹を触らせて下さい。毎日声もかけさせて下さい」


 これは完全に私よりも妊娠について詳しくなってる!


「う……うん……妊娠……したらね……」


 これはマズい!

 ルディに唯一勝てそうだった、私のお株まで奪われる!


 翌日。


「執事長……」

「はい、奥様」

「あなたに重要な任務を言い渡します」


 ルディが仕事に行ったのを確認して、神妙な顔で執事を呼び出す。


「今すぐに、全ての書店からあらゆる種類の育児書や妊娠本を買ってきてちょうだい! 今日から私、猛勉強するわ!!」


 この命令により、ある噂が立つようになる。

 『ランドール侯爵夫人ご懐妊。憧れた令嬢達が、妊娠本を買い占める』

 このデマにより、この国に第一次ベビーブームが到来したとかしないとか……。





サブタイトルにも書きました通り、本日書籍の二巻、明日コミックス一巻が発売となりました。

続編って……一体何を書いたんだ? って感じですよね。

作者も思ってます。

詳しくは活動報告に書いてありますので、興味のある方はご確認下さい。


実は今回の後日談は、二巻のSS用に書いた後日談でして、二巻の中にあるレリアのプチ心の疑問に答えている内容となっています。

ボツにした理由は、紙書籍にSSをいれられなかったから……です……。

なのでこちらを読んで二巻を読むと、『これか!』という場面が出てくると思います。

もちろん逆でも大丈夫です。

二巻をご購入下さった読者様は、そういう点でも楽しんで頂けたら幸いです。


読んで頂きありがとうございます。

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