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【書籍発売記念】お花見パーティー(前編)

 ルディと出かけた帰り道。

 馬車の中から窓の外を眺めると、白い小さな花が満開に咲いた木が立ち並ぶ道に差し掛かった。


「ブランシュの花が満開の季節ね」


 この世界には桜はないが、桜のように一定の時期にだけ花を咲かせる木があるのだ。

 毎年この木を見ると日本の桜を思い出す。

 桜と言えばそう…。


 花見だ!!


 桜の下にシートを敷いて、その上でご馳走を食べまくる。

 花より団子とはよく言ったものだ。


「レア?どうしたのですか?」


 おっと…意識がご馳走の方に行ってしまっていたようだ。


「ブランシュの木の下で、使用人のみんなとも一緒にご飯を食べたら美味しいだろうな~と思って」

「そうなのですか?」


 経験のないルディには想像がつかないのか、首を傾げた。

 これは一度体験させてあげなくては!



 侯爵邸に戻ると部屋で、花見の相談をルディにしてみた。


「立食ではなく、地面に座って食事をするということですか…」

「ダメかな?」


 提案はしてみたが、考え込むルディに不安が増した。

 私やルディは乗馬の時も地面に座って食事をしたから抵抗はないが、それを他の人達にも強要するのは難しいかもしれない。

 なんせこの世界では、地面に座って食べるなど行儀が悪いと思われかねないからだ。


「でしたら…百本くらいブランシュの木を用意した方がいいですね」

「…一本で十分です」


 一の白と書いて百…白い花だけに…ダジャレか?

 漢字を知らないルディの偶然過ぎるボケに、心の中でツッコんだ。

 そんなルディは私の不安など余所に、乗り気過ぎるくらい乗り気だった。


「それで木の下で食事をするだけですか?」

「チッチッチッ…舐めてもらっちゃ困るよ。花見は宴会!それぞれ一発芸を披露してもらわなければ!」

「一発芸…ですか?」

「そう。例えば…」


 目の前のテーブルに視線を落とした。

 テーブルの上に敷かれたクロス。その上には私とルディの飲み終えたティーカップ。

 私は立ち上がるとテーブルクロスを両手で掴み一気に引き抜いた。


 ガチャーン!!

 ……。


「なるほど。食器を豪快に割るという芸ですね」

「ちっがーう!!」


 半べその私にルディは首を傾げた。


「今のは失敗したの!!本当はクロスだけ抜きたかったの!!」

「なるほど。失敗例を見せてそこから学べということですね。さすがレアです」


 これは褒められているのか?バカにされているのか?

 食器の割れる音に慌てて駆け付けた使用人に、割れた破片を片付けてもらった。

 本当に申し訳ない…。


「食器と布の接地面。レアの動きの角度と布の状態を考えると…」


 ルディが何やらブツブツと分析しながらテーブルの横に立った。


「こうですね」


 君はデキスギ君か?

 食器をわずかに動かしただけで、あっという間に目の前にテーブルの木目が出現した。


「なかなか興味深い芸ですね」


 私からしてみたらただ布を引く芸なのだが、頭の良い人間からしたら物理の勉強のように見えるのだろうか?

 気を取り直して咳払いをした。


「とにかく!ブランシュの木の下で、使用人達と食事をしながらこういう芸を披露して楽しむ会なのよ」

「面白そうですね。早速執事と…」

「話は聞かせてもらったぜ」


 部屋の入口から声がして顔を向けると、腕を組みながら扉の縦枠に寄りかかっているテネーブルがいた。


「勝手に入って来るな、役立たず」


 ルディが睨むも、いつもの軽い調子でテネーブルは部屋に入ってきた。


「おいおい。陶器が激しく割れる音がしたから、強盗にでも侵入されたのかと思って駆け付けてやったんだろ?到着した時には夫人が半泣きしてたから、そのまま様子を見させてもらってたけどな」


 強盗の犯人は私です…。


「それより面白そうな話をしてたじゃねえか。俺もここの使用人だからもちろん参加してもいいんだろ?」


 ルディは嫌そうに眉をひそめるも、雇用している以上は仕方がないといった様子で溜息を吐いた。


「参加するにしてもまずは執事とも相談して…」

「ご心配には及びません」


 扉の陰から聞こえてきた声に、部屋にいた一同は再び扉に注視した。


「私が皆を率いて、奥様のお望みを全力で叶えましょう!!」


 執事、お前もか。

 気合を入れながら姿を現した執事にあきれ顔を向けると、視線に気付いた執事は咳払いをした。


「夫婦喧嘩でもされているのかと思い、心配で様子を窺っていた次第です…」


 誰も一発芸を披露していたとは思ってくれなかった。


「そのわりには聞き耳立てながら一生懸命、食事会に必要な項目を紙に書き込んでいたよな」


 テネーブルが執事の持っていた紙に目をやり、執事はその紙を咄嗟に後ろ手に隠した。

 執事とテネーブルのやり取りに、ルディが溜息を吐いた。


「反対ではないなら話が早い。レアが望むように準備をしてやってくれ」

「かしこまりました」


 よーし!張り切って準備するぞ!!



 部屋で紙を細かく切っていると、ルディが隣に座り私の肩に頭を乗せてきた。


「何をしているのですか?」


 私の行動を不思議そうに尋ねてきた。


「主催者だからね。みんなに楽しんでもらうための催し物の準備だよ」


 ルディが正方形に切られた紙を持ち上げて見ている。

 やはり宴会といえば催し物だよね。

 景品も用意しないと!


「ルディは私と一緒に主催側で手伝ってね」

「レアと一緒なら喜んでなんでも手伝わせて頂きますよ」

「ほんと?なんでも手伝ってくれるの?」


 目を輝かせながらルディの頭頂部に視線を落とすと、視線に気付いたルディが顔を上げた。


「ええ。レアが望むなら」

「私が何をお願いしてもルディの権限でなんとかしてくれる?」

「俺の権限で出来る範囲でしたら…いえ。権限がなくてもなんとかしましょう」


 ルディが協力してくれるなら一位の景品は決まりね!


「ルディ、約束だよ!」


 ルディに迫ると、ルディは口元をわずかに緩めた。


「俺が約束を破ったことがありますか?」

「ない!」


 これできっと催し物も盛り上がるだろう!

 喜ぶ使用人達の顔を想像してわくわくしていると、ルディが突然私を抱き上げた。


「俺の権限を使う前金は頂きますね」


 え?これは…もしかして…。


 このあと寝室に直行させられたのは言うまでもない…。





百のくだりは『ルディなら千か百というだろう』と考えた作者が百にした結果、『そういえば白い花に一付けたら百になる!』と気付き書いた偶然のボケです。

あまりにも偶然過ぎたので、入れてみました。


読んで頂きありがとうございます。

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