二人のイケメン
「えっ!?」
ルディの買ってくれたドレスを身に着け、ルディのエスコートにて夜会会場に馬車で移動中、衝撃的な発言を耳にした。
「ですから今日は王太子殿下18歳の誕生祭の夜会ですよ」
「王太子って今年17歳じゃないの!?」
「敬称が抜けていますよ。殿下は俺より2つ年上ですから今年18歳になります」
なんてこった!!
自分と同じ歳だとばかり思っていたからまだ来年あると油断していたではないか!
こんなに慌てているのには理由がある。
それは王太子18歳の誕生パーティー会場が物語のスタートになるからだ。
誰だよそんなややこしい年齢設定にした奴は!私だよ!!
えっと確かルディとヒロインの出会いは中庭で令嬢達にいじめられたヒロインの泣いている姿にルディが高揚するんだっけ。
自分で書いていてなんだけど…安定のサディストだな…。
ところでヒロインはなんでいじめられたんだっけ?
そうそう。王太子がファーストダンスに誘ったんだった。
それで嫉妬した令嬢達の標的になったんだよね。
王太子も考えてあげないと。
いくら町で人攫いから助けてあげた子が気に入ったからと言ってファーストダンスに誘うとか…うん?
「しまった!!」
ゴンッ!
「姉上。馬車で立ち上がるのは危険ですよ」
打った頭を押さえつつ、頭を抱えた。
そうだ。王太子とヒロインの出会いって町でヒロインが連れ去られようとしているところをお忍びで来ていた王太子が助けるって設定だった。
私は数日前に人攫いに連れていかれそうになっていた可愛い女性を思い出した。
あれか!!
全然モブじゃなかった!
どおりで私好みの女の子だと思ったわ!
両手に拳を作り、太ももをバシバシ叩いた。
「姉上?」
私の挙動に不安を感じたのかルディが顔を覗きこんできた。
そういえばルディはあの女性は好みじゃないって言ってたよね。
「ルディ。この前町で助けた女性を見てこう…ときめいたりしなかったの?」
「?ええ…全く…」
おかしい。
監禁する場所欲しさに私達を惨殺して、その屋敷でヒロインを誘拐・監禁するくらい執着していたのに…。
ヒロインを見ても反応なし?
えっと確かルディはヒロインの泣き顔を見て…。
泣いてないからか!!
そうだ。原作ではルディウスがヒロインと出会った時、ヒロインは泣いていた。
涙を流す姿に興奮したんだった!
同じ流れるでも血じゃダメなのかな?
私が泣かせるか?
いやいや。それで好きにでもなったらまずいでしょ。
むしろこれで良かったんじゃない?
このままルディがヒロインに興味を示さなければ、少なくとも監禁場所確保のために殺されることはなくなるってことだ。
あとは物語が内容通りに進むかどうかを見守れば。
とりあえず…。
「ルディ…」
「はい?」
「泣いている女性を見ても興奮しちゃダメだからね」
私の言葉にさすがのルディも眉間に皺を寄せた。
「…俺にそんな趣味はありませんよ」
どの口が言う。
パーティー会場に着くとエスコートしてくれているルディの顔をチラリと窺った。
この斜め下からのアングルが絶妙なんだよね。
ルディが私の背を超した時に発見した私一押しの絶景スポットだ。
設定をイケメンにしておいて良かった。
「姉上。顔が崩れていますよ」
どうやらにやけ顔になってしまっていたらしく、顔を引き締め直し会場へと向かった。
さすが王太子の誕生祭。
集まっている顔ぶれは要人ばかり。
「姉上。次ですよ」
ルディに囁かれ前を見ると王太子に挨拶している公爵と母の姿が。
いくつかある公爵家の中でも我が家が挨拶のトップになるのには理由があった。
それはルディがいるからだ。
関係的には王太子とルディは従兄にあたり、王太子に兄弟がいないためルディが王位継承権第二位となる。
その一位、二位で一人の女性を取り合うとか…ある意味似た者同士なのかもしれない。
まあそういう設定にしたのは私だけど。
順番が回ってきて王太子に挨拶をすると顔を上げるよう促された。
おぉ!!
想像以上のイケメンに思わず頬が緩みそうになりそのまま笑顔を作った。
去年は両親の後ろで頭を下げたままだったからこんなに真正面から拝むのは初めてだ。
「あなたがルディウスの姉上か。噂には聞いていたが美しい方だ」
えっ!?
噂ってルディが言ったの?
ルディが私を綺麗だとか言っている姿が想像できなくて隣に立つルディの顔を窺うと微妙な皺が眉間に寄っていた。
それだけで察したさ。
王太子のリップサービスってことを。
「王太子殿下は女性を褒めるのがお上手ですね。今日、この会場に集まられた女性達の中には私などよりも殿下の目を引く方がいらっしゃるでしょうに…」
リップサービスを真に受けるほどお子ちゃまではありませんから。
それにしてもルディといい、王太子といい、イケメン設定万歳だな。
この二人に取り合いをされると思うと…にやけちゃうかも。
ダンスの時間になり手を差し出された。
「俺と踊って頂けますか」
ついにこの時間がやってきてしまった。
「私…すごく下手だよ」
そう。公爵令嬢になってからダンスの練習が本格的に始まったのだが、下手くそ過ぎて先生が匙を投げてしまうレベルなのだ。
一緒にダンスの練習をしていたルディが一番よく分かっていると思うのだが…。
「知っています」
そんなことは百も承知だと言わんばかりに即答された。
足踏んでも恨まないでよ。
ダンスが始まると体が自然に動き出した。
この私が…踊れてる!?
困惑しているとルディに話しかけられた。
「何年姉上に付き合わされたと思っているのですか。姉上の独特な癖に合わせて踊る踊り方を身に付けました」
さすが妥協しない男!
こんなところまで妥協しないとは!
「おかげで姉上以外の方と踊るのが難しくなりましたけど」
え?恨み言?
「なので姉上も俺以外の男と踊るのは控えた方がいいですよ」
それは言われなくても重々承知していますから。
ルディのおかげで恥をかかなくて済んでホッとしていると、拍手をしながら私達に近付いてくる人物がいた。
「とても素敵でしたよ。是非、私とも踊って頂けませんか?」
微笑みながら手を差し伸べてくる王太子に焦った。
ルディのリードが上手いから踊れただけです!
ルディに助けを求め視線を送ると無表情でこちらを見ていた。
無関心を決め込まないで助けてよ!
首を小刻みに振り無理だとジェスチャーで伝えるとルディは王太子と向き合った。
「殿下が姉上と踊るのは無理だと思います」
言い方!
人付き合い下手か!
どちらに対しても失礼だからな!
「嫉妬しているのか?」
王太子の揶揄いにルディから不機嫌オーラが。
長年ルディを観察してきた私だからわかる程度に顔が引きつっている。
お姉ちゃんは分かっているから!君が嫉妬していないという事を!
「殿下!踊りましょう!」
これ以上は危険だと王太子と避難することにしたのだが…果たしてこの判断が吉と出るか凶と出るか…。
踊ってみないとわからないよね。
読んで頂きありがとうございます。