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失恋…からの(見知らぬ伯爵令嬢視点)

 今日も素敵です…ルディウス様!


 初めてルディウス様に出会ったのは王太子殿下18歳の生誕祭の時だった。

 同じ16歳で初めての社交界。

 見知らぬ方々ばかりで緊張していた私とは違い、王太子殿下にも臆せず堂々と挨拶をなさるお姿に私の心は奪われた。

 同じ16歳で同じ初社交界…運命を感じた。


 あれ以来、ルディウス様に振り向いて欲しくてあらゆる努力を続けた。

 しかし結果は…ギリッと柱が音を立てた。

 参加した夜会会場の柱からルディウス様の様子を観察しながら思わず柱に爪を立ててしまった。


 レリア・アメール・ランドール!!


 ただの姉だと思って、ルディウス様と唯一踊った他人のセルトン伯爵令嬢だけを警戒していたら思わぬ伏兵だった。

 まさか弟であるルディウス様と結婚するなんて!!

 ギリギリと柱に爪を立ててルディウス様とレリアの様子を観察していると、レリアが化粧室へと姿を消した。

 するとルディウス様がこちらを振り返り、思わず柱の陰に隠れた。

 今、一瞬目が合ったわよね。もしかしてルディウス様は私に気がある…とか?

 ドキドキと胸が高鳴った。

 そうよね。もしかしたら犯罪者の娘になった姉を可哀相に思って結婚しただけかもしれない。

 本当はルディウス様の本命は私?

 こっそり柱から顔を出してルディウス様の様子を窺うと、今度はばっちり目が合った。

 やっぱりこちらを見ていらっしゃるわ!

 再び柱の陰に隠れた。

 ルディウス様は私の事が好きなのだわ!だってあんなに熱い視線を私に送って下さっているのだもの!間違いないわ!

 心臓が激しく高鳴る。

 ど…ど…ど…どうしましょう…。まだ心の準備が…。

 再びルディウス様の様子を窺おうと柱から顔を出すと、そこにはもう誰もいなかった。

 え!?ルディウス様はどこに行ってしまわれたの!?

 ルディウス様を探すためあちこち歩き回るも見つからず。

 ルディウス様が帰ったことを知ったのはその少し後のことだった。



 翌日。

 もう!どうしてルディウス様は私を置いて帰ったのかしら!

 きっとレリアが邪魔をしたのだわ。

 本当に二人の恋の障害ね、あの女は!

 グサリと目の前のウィンナーをフォークで突き刺した。

 行儀が悪いと言いたいのか、お父様が不自然に咳払いをした。

 それもこれも全て、お父様が婚約申込書をルディウス様に送って下さらないのがいけないのよ!

 父の咳払いに苛立ちを感じて父を睨んだ。

 バツが悪そうに私から視線を逸らす父を凝視していると、父に助け舟を求められた母が話題を振った。


「そういえば昨日の夜会は楽しかったわね!」

「そ…そうだな!心躍るような踊りも踊れたからな!」

「…私もルディウス様と踊りたかった…」


 ポツリと呟いた言葉に父と母が固まった。


「そういえばワインも美味しかったな!」

「そうですわね!さすが名家のワイン…」


 母が言いかけたところでテーブルを叩き立ち上がると、全身を震わせた。


「どうしてルディウス様に婚約申込書を送っては駄目なのですか!?お父様は私が嫌いなのですか!?」

「お…お前、ランドール侯爵は既婚者だぞ?既婚者に婚約申込書を送るなど失礼極まりない行為ではないか…」


 私の迫力に視線を泳がせる父を再び睨んだ。


「ルディウス様は私の事が好きなんです!!」


 私が怒鳴り声を上げると父と母の目が点になった。


「えっと…ランドール侯爵がお前に何か仰ったのか?」

「話はしていませんが、ルディウス様が私を見つめる目は熱く情熱的でしたので間違いありません」


 うっとりとルディウス様に見つめられた昨夜の事を思い出していると、父が慌てたように私に詰め寄った。


「その熱く情熱的な眼差しはきっと違う意味のものだ!!」

「あらお父様。私の話を信じてくださらないのね」

「信じる信じないではない!見つめていたかもしれないが、それは恐ろしい方の…」


 父が声を荒げようとした瞬間、天井から黄色い札が付いたナイフが飛んできてテーブルを突き刺した。

 驚いて天井を見上げるもそこには誰もいない。

 だが、父と母は突然現れたナイフが怖かったのか抱き合いながら震え上がった。


「警告の黄色い札が来た!!」

「赤い札を出されたら貴族生活から退場させられるわ!!」


 父と母がナイフについた札を見ながら叫んでいるが、たかがナイフと札でしょ?大袈裟ね。

 あ、でもそういえば一緒にレリアの事を悪く言っていた令嬢も、赤い札のついたナイフがどこからともなく飛んで来て気味が悪いとか言っていたわね。

 そのあと令嬢の家の不正が見つかって没落したんだけど。

 不正していたのだから自業自得よね。


「いいか!これは最終警告だ!これ以上、ランドール侯爵夫妻の事は一切口に出すな!!」


 父が怖い形相で私の両肩を強く掴んできた。


「でも、私はルディウス様と…」

「わぁーーーーーーーー!!何も言うな!!そういえばお前宛に公爵家から婚約の申し込みが来ていた!!今から会いに行ってきなさい!!」


 えぇ…公爵夫人になるのには惹かれるけど、あの人かなり年上だし顔が今一つなのよね…。

 半強制的に父に馬車に乗せられ、公爵家に向かって出発した。



 馬車の中で溜息を吐いた。

 ルディウス様だって権力にもならないレリアと結婚しているより、私の家のように伯爵家の力を持った家と結婚した方が絶対お得なのに…どうしてお父様は反対なさるのかしら?

 思い切って私から直接ルディウス様に懇願してみようかしら?

 女性からの求婚ははしたないけど、あれだけ熱く情熱的に見つめて下さったのだから脈ありよね!

 それにルディウス様は既婚者だからきっとご自分からは言い出せないんだわ!

 自分から動こうと決意し窓の外に目を向けると、憎い青紫色の髪が目の端に映った。

 あれは…レリア!?

 菓子店のテラス席で誰かとケーキを食べているようだ。

 すぐに馬車を止めさせると、私は菓子店に向かった。



 店の中に入り、レリアが見えるテラス席に一番近い窓際の席に座り耳を澄ませた。


「う~ん!ここのケーキ本当に美味しい!!」


 ケーキを頬張りながら喜ぶレリアにほくそ笑んだ。

 笑っていられるのも今のうちよ。

 私がルディウス様に求婚すれば、あなたはお払い箱なのだから。


「レアに喜んでもらえるなら、探した甲斐がありました」


 次に聞こえてきた声に心臓が大きく跳ね上がった。

 今の声は…ルディウス様!?

 注文表で顔を隠しながら二人が見える位置に移動すると、普段着でティーカップ片手に優雅にお茶を啜るルディウス様のお姿が!

 普段着姿でも素敵だなんて、さすがルディウス様!!

 興奮する私を余所に、レリアは一口大に切ったケーキを自分のフォークに乗せた。


「美味しいからルディも食べてみてよ」


 そう言うとレリアはルディウス様の口元にフォークを近付けた。

 自分が食べていたフォークを使うなんて、なんて行儀が悪いの!!

 新しいフォークを使いなさいよ!!

 憤慨する私を余所に、ルディウス様は差し出されたケーキをフォークごと口に含んだ。

 使用済みのフォークごと食べた!?

 夫婦でもなかなか見られない行動に何故か私の方が恥ずかしくなり、全身の血液が一気に駆け巡った。


「レアの言う通り、本当に美味しいですね」


 恥ずかしがっている私を余所に、二人は何事もないように普通に楽しんでいる。

 すると突然、ルディウス様がレリアの口元に手を伸ばした。


「口元に付いていますよ」


 レリアの口元を指で拭うと、その指をそのまま…。

 食べた!?

 立て続けに衝撃的な行動を見せられた私は恥ずかしくて目を逸らす…こともなく、むしろ興味津々にガン見した。

 指を咥えたルディウス様は間接的に口付けをしているかのようにレリアを見つめ、レリアは…ケーキ食ってる場合じゃねえでしょ!?

 お嬢さまであることを忘れるくらい突っ込んでしまった。

 レリアはルディウス様の妖艶な視線にも全く動じることなく、美味しそうにケーキを頬張っている。

 そこで気付いてしまった。

 レリアにとってこれがルディウス様の()()なのだと。

 レリアの為に美味しい菓子店を探し、レリアの為に休日に出かけ、レリアの為に甲斐甲斐しく世話をする…。

 私が見つめていてもルディウス様は一度だってあのような視線を私に向けてくれたことはなかった。

 ルディウス様は本当にレリアを愛している…。

 失恋した事を悟ったと同時に、ルディウス様にあれだけ愛されているレリアが羨ましくなった。

 政略結婚がほとんどの貴族の結婚で、果たしてこのような結婚生活を送れるのだろうか…。

 いやきっと夫にこれだけ愛されることはないだろう。

 私の憧れの眼差しは誰にもなびかないルディウス様を、ここまで手懐けたレリアに向けられた。

 私は心の中で叫んだ。


『お姉様と呼ばせて下さい!!』


 こうしてレリアの知らないところでレリアは姉になっていく。



〈黄色い札の真相 (ルディウス視点)〉


「昨日の夜会でレアに敵意の眼差しを向けている伯爵令嬢がいた。処理しておけ」


 俺は朝一でテネーブルを呼び出し、仕事を言いつけた。


「大分粛正したと思ったけど、まだそんな命知らずな奴がいるのか?」


 あの令嬢は以前から警戒はしていた。だが、昨日のあの視線…これ以上は見逃せない。

 レアに危害を加える前に処理しておかなければ。

 俺は以前から調べておいた令嬢の父である伯爵の不正記録をテネーブルに渡した。


「警告で聞かなければこれを使え」


 大抵の貴族は何かしらの不正を行っているため、調べることなど造作もない。

 だがほとんどがグレーの不正だから見逃している…この時のために。


「それが済んだら今日は帰っていいぞ。今日はレアと出掛ける大事な日だからな」


 そう、今日はレアと美味しいと評判の菓子店に二人で出掛ける予定なのだ。誰にも邪魔はさせない。


「腹黒に仕事で呼び出されないといいけどな」


 軽い調子で不吉な事を発言する役立たずを睨んだ。


「今日は大人しく真っ直ぐ帰って家の鍵をかけておけ。誰かが訪ねて来ても絶対に出るなよ」

「お留守番している子供に言い聞かせるような顔と態度じゃねえな…。しかも相手を思いやる心一切無しときたもんだ」


 俺の圧に役立たずが苦笑いを浮かべた。

 当たり前だ。今日という日を邪魔されたら壁に磔だけで済むと思うなよ。





これを書いている時にちょうどサッカーワールドカップが開催されていたのでサッカーネタにしてみましたが、WBCで盛り上がる今は野球ネタの方がよかったですね。

野球ネタも考えてみたのですが…退場の仕方が難しいと断念しました。


発売日に購入して下さる神読者様へお知らせします。

紙書籍、電子書籍、他サイトの特典で全て違う話の未公開後日談が載ります。

状況によって公開日は変わるかもしれませんが、24日以降にそれぞれの後日談のタイトルと軽いあらすじを活動報告に載せようと思いますので、そちらを確認されてからの購入をおすすめします。


ちなみにご存じかもしれませんが、活動報告に表紙イラストを投稿させて頂きましたので、興味のある方は見てやってください。


読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黄色い札笑いました。でもまたそんな危険な子も取り込んでしまうレアの凄さも笑いました。
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